The hunters story―狩人の奏でる旋律― 作:真っ黒セキセイインコ
あれから荷車を走らせてからしばらく経っていた。
日は暮れていて雨も止み、今はゆっくりと荷車を進めている。最初の方こそエンは周りを警戒していたが、今は睡魔と格闘しているところだった。しかし、メラルーであるポップが起きたまま荷車を動かしているのに、自分が寝るわけにはいかず、起きたままなのであった。
そして、ポップはというとガーグァに、「もう少しの辛抱だから頑張るのニャ」と偉そうなことを言っておきながら、かくいう自分もコックリコックリと首を揺らしている。
本当なら休むべきなのだが、先ほどのことで眠っているわけにいかず、朝には村に着きたいエンは考えていた。
そしてエンの頭は寝ぼけながらもこれからを考えていた。
あの街から逃げ出し、G級ハンターのエンは死んで、これからは、ただのハンターのエンとして生きて行く、そう決めたはずだ。
しかし、彼のとって最も忘れたい事件はどうやっても忘れることができず、得も言われぬ不安感が彼を支配している。
そうやって悶々と考えているうち、夜も更け朝が近づいてきていた。
◇ ◆ ◇
それから夜が明けて約3時間後、一行は村にたどり着いた。
村の名は【ユクモ村】。
山間にある村というと『小さい』というイメージがあるが、この村は違っていて、結構な大きさだ。最も大きな建物からは、温泉のものなのだろうか湯気が漏れており、どういう訳か家の屋根や村人の服には、赤いアクセントがあしらわれていて、少々目新しい。
ユクモ村は温泉が一番の名物で、それに浸かるためにたくさんの人が訪れているからか、人も多く活気のある村だということが窺うことができた。
一人と一匹は借りていたガーグァを返し、村長とギルドの責任者に挨拶をするべく階段を上って行く。すると、
「オウオウオウ! テメエ誰に断って入ろうとしてんだ。このオイラ、ユクモの鬼門番の目が黒いうちは、怪しいヤツは通しやしないぜい!」
いきなり(自称)鬼門番が話しかけてきた。
エンは「何こいつ面倒癖ー」というような顔をしたができる限り作り笑いを浮かべる。
彼の性格上、こういう人間はあまり好きではないのだ。
「まずは名前ぐらい答えやがれ!あっオイラの名前は○○○ってんだ」
どうやら勝手に話を進められているらしかった。よく聞こえなかったがいいだろう。
どうにも、名を名乗らねばさらに面倒臭いことになりそうだと、エンはため息をつく。
「……俺の名前は【エン】。流れのハンターだ。それでこいつは【ポップ】」
「へーそうか。うん待てよ……もしかするとお前、新しく来るっていうハンターってお前なのか? それなら話は早いぜ。さっさと村長に挨拶してこいよ」
はぁ? と全く見当違いな言葉にエンは間抜けな声をもらした。
当然ながら街から逃げたエン達を知る者はいないはずだ。確かにこの村の辺りに住もうとはは考えていたが、ギルドからの要請など欠片も受けていなかったはず。
「ちょっと待て。俺はそんなの知らね――――」
「おーい!みんなー! 新しいハンターが来たぞー」
なにか嫌な予感がしたエンが、誤解をとこうとした時には遅かった。
よく響き渡る門番の声が道行く村人を止めていく。
『本当か!本当にハンターが来たのか!』
凄まじい音量だった。思わずエンですら耳を塞ぐ中、ポップですら耳を押さえているのが横目で見える。
やはり面倒なこと巻き込まれるのか、そんな自分の声が脳裏で聞こえた。
◇ ◆ ◇
その後、やっとのことで解放されたエンは村長に出会うことに成功する。
一発文句の一つでもつけてやろうかと考えていたエンだったが、物腰の柔らかい女性村長に村人がすみませんと謝られ、言うにも言えなくなった。
兎にも角にも村長に村人が何故あんな反応をしたのか説明を仰ぐと、村長から意外な答えが返ってくきた。
曰く、村に来るはずのハンターは二人いて、その片方は間違いなくエンのことらしい
曰く、エンが来ること伝えたのは、ロックラックのギルドマスターであったらしい
曰く、もう一人は今日来る予定だったらしい
一つ目と二つ目を聞いた時、エンは「あのジジイめ」と毒を吐き、そして隣に居るマスターに言いつけたであろう
睨みつけられた
せっかく、こっそりと街から出たのにこれでは意味が無かった。一応、身分は隠されているようだが。
そして三つ目を聞いた時、不意にさっきの嵐のときの焼死体を思い出した。もしかすると、アレがそのハンターだったのかもしれない。よく考えると武器を持っているようにも見えた。
そう思い村長にそのことを話すと、竜人という種族で比較的若く、白粉のように白い顔が、みるみると青ざめていく。
「そんな! 『ジンオウガ』がそんな近くに! それに新しいハンター様がお亡くなりなっているだなんて……」
無理もないだろう。村に来るはずだった新しいハンターはすでに死んでいると言われたら誰でもショックなのは当たり前だ。
そして、またハッとした顔で「あの子が危ない」と言うと、さらに顔を青ざめる。さすがにエンも心配になり、何があったのか聞くと、厄介な答えが返ってきた。
「さっきこの村出身のハンター様が渓流へ『彩鳥』を狩りに行ったんです」
彩鳥。その名を聞いた瞬間、エンが顔を思い切りしかめた。
彩鳥――又の名をクルペッコというのは力も戦闘力も高いわけではないが、とても厄介な特性を持っている。それは近くに生息しているモンスターを呼び寄せてしまうという鳴き声を発するからだ。
つまり今近くにいるという〈ジンオウガ〉を呼び寄せてしまうかもしれないのである。
「一体どうすれば……?」
村長という仕事には多くの責任がある。沢山の村人を守る為の仕事は、たった一つの判断ミスで最悪の結果が起きてしまう。
そして、エンの知る由もなかったが、ここ最近この村にはジンオウガのせいで旅のハンターが少なくなっていた。すなわち、彼女を助けるハンターがいないということなのだ。
だからこそ村長は悩んでいた。そして、次にエンが放った言葉に驚きを見せる。
「ハンターズギルドはどこだ。渓流の採集クエストを受けたい」
すぐに村長はその意図に気付いた。
通常、ハンターはもめごとを避けるために、クエストを受けて参加人数を決めた後は失敗でもしない限り、他のハンターがそのクエストを受けることはできない。つまり早い者勝ちなのであった。
しかしこれには穴があり、同じエリアをでクエストを受けていて、もしも他のクエストのモンスターが乱入してきたうえ、襲われ逃げることも不可能の場合、そのモンスターを討伐してしまっても仕方がないという暗黙のルールがあるのである。
エンはそのルールを逆に利用しようということなのだ。
そして出来る限り迅速にギルドへの登録を済ませ、十分後エンとポップは支度を終えて【渓流の採集ツアー】に向かった。
すぴばるのモノを少し直して投稿しています。