The hunters story―狩人の奏でる旋律―   作:真っ黒セキセイインコ

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第四話 彩鳥の呼び声―3

 エリア7。

 そこは背の高い草が生い茂っており、すぐ近くを通る大きな川の水の影響で地面はぬかるんでいてエリア内は独特な土の匂いが充満しているエリアである。

 

 アイン達がエリア6を経由してエリア7に辿り着いた時、さっき逃げたクルペッコは水の中を覗き込んでいた。川の中にはサシミウオなどが泳いでいるため、どうやらそれを狙って覗き込んでいたらしい。

 だからこそ魚を獲るのに夢中なクルペッコは、アイン達には気付かなかった。

 それをチャンスと見たアインはこっそりとクルペッコに気付かれない様に背後へと近くと、大剣を思い切り振り下ろす。

 

――ッ…グェエェェェッ

 

 突然の痛みによりクルペッコは悲鳴を上げる。

 外敵が来たことに気がついたクルペッコが後ろを向くと、アインはそこにはもういない。

 振りかえって反撃をくらうと予想していたアインはクルペッコが振り返ると同時に腹の下に潜り込んでいたのだ。案の定、クルペッコの振り向きざまの突き攻撃がさっきまでアインがいたところを通過する。

 アインはそのまま腹の下で、攻撃が外れ無防備となったクルペッコの腹部目掛けて大剣を振りかぶった。極彩色の羽毛と鱗が荒くれの大剣の切っ先でガリガリと削る音がアインの鼓膜を叩く。クルペッコに手傷を加えることに成功したアインはその場にとどまることなく、すぐさま腹の下から離れた。足を止めたら反撃される。それがわかっているからだ。

 そして、またもや反撃を避けられたクルペッコの様子が変わった。鼻息が荒くなり、荒々しく踊っているようにも見えた。

 どうやら怒り状態になったようである。

 アインが離れた所から様子をうあかがっていると、クルペッコは予想外の行動に出た。

 唐突に翼に付いている黒い石のような爪を胸元の前で打ち始めたのである。

 

―――カッカッカ! カッカッカ! カッカッカ!

 

 さっきは見なかった行動にアインが戸惑っていると、打ち合わせ続けられる爪から火花が零れ始めた。

 そして次の瞬間、クルペッコはアインの目の前まで跳躍し、石を打ち合わせる。

 瞬間、アインの目の前で火花が踊った。

 それは酸素を一気に喰らい爆炎となってアインへと襲いかかっていく。

 突然の火炎に驚いたアインはとっさに大剣を構え、盾のようにすることでなんとか直撃は免れた。

 しかし燃え広がった炎は笠の端っこはじりじりと焼き、黒く長いアインの髪の毛の先が少し焼いた。さらにはガードした荒くれの大剣のジャギィの皮の部分が少し焼け焦げてしまっている。

 もしも直撃してしまったら、いくら硬い木で作られたユクモノ装備でもひとたまりもないのは間違いない。

 

(あの技には気をつけないと……)

 

 クルペッコは続けざまにクチバシで突いてきたが、アインはクルペッコの腹の下をくぐり抜ける。さらに追撃とクルペッコが身体を反転。クルペッコの尻尾がアインをとらえ吹っ飛ばした。

 アインが何とか体勢を整えると同時に襲いかかっていくクルペッコに、今度はトトがクルペッコに爆弾を投げつけ注意を引きつける。

 

(まずは動きを完全に読み切らないと捌き切れない……)

 

 そう考え、アインはクルペッコの動きを見て隙をうかがう。しかし、突然クルペッコの動きが止まった。

 ――今だ! と攻撃をしかけようとしたところで、クルペッコの様子がおかしいことに気付いた。

 クルペッコがアイン達を見ていないのだ。ただ森の方をじっと見ている。

 

「……何かいる……?」

 

 何か嫌な気配。それを感じた瞬間、呟きと共に暗い森の方から、小さくて黒いナニカが飛び出してきた。

 それはクルペッコの胸元に突き刺さり、クルペッコは痛みにより絶叫を上げる。

 クルペッコに刺さっていたのは、黒い棘のようなモノだった。

 大きさは遠目だと小さく見えたが、20cm位ぐらいはあるだろう。

 アインはもう一度、棘の飛んできた森を見る。

 すると、ヒュンヒュンと風を切る音と共に暗い森の中から黒い巨体が飛び出してきた。

 

 それの第一印象は黒だった。

 

 大きさはクルペッコより大きく、全身が艶やかな真っ黒な毛に覆われていて、鞭を連想させる長くて先の細い尻尾は黒い鱗と棘に覆われている。頭は身体の大きさに比べ小さく、ノコギリのような歯を覗かせていた。

 

 だが特に異質なのは、それの前足に付いている翼だ。

 

 同じように翼を持つクルペッコのようなモノでは無く、鋭い刃のように鈍く光るブレード状の翼。まるで太刀のような印象だ。しかし、どう考えても飛ぶことには適さない翼で、どうやら高いところからグライダーのように滑空するためのモノのなのだろう。

 

 アインはこのモンスターを知っていた。知っていると言っても本で見ただけだが、少し前にモンスター図鑑を眺めた時に見たモンスターと完全に特徴が一致しているのだ。

 

 ただし、そのモンスターは下位のクルペッコの狩猟などでは絶対に現れることのないモンスターのはずだ。

 だが目の前に居るのは間違いなく。

 

「迅竜……、ナルガクルガ……」

 

――――グギャオォォォォォォォォゥッ

 

 ありえない事態で硬直するアインに、ナルガクルガはそうだと応えるかのように咆哮を上げた。そして、次の瞬間、恐るべき速さでアインに近づいてそのムチのような尻尾を横に薙いだ。

 尻尾はアインの横腹に直撃した。アインの身体はくの字に曲がり、ノーバウンドで湿った土の上を転がっていく。

 

「――ッ……カハッ……」

 

 唾液と共に肺の酸素を吐き出さされる。身体が酸素を求めるが痛みで上手く呼吸が行えず、吹っ飛ばされた時に頭を打ってしまい意識が朦朧とした。

 

 ナルガクルガは更に追撃のために飛び掛かりの姿勢をとる。

 アインは動けなかった。動こうと身体に力を入れても身体中に軋むような痛みが走るだけだ。

 目の前から明確な死の危険が近づいてきていても、体は動かなかった。

 

「――――、―――」

 

 トトが必死に叫びながら近づいてくるが、間に合わない。

 

(……ヤバい、死ぬ……かも)

 

 ハンターはいつだって死と隣り合わせ。アインだってちゃんと理解していてる。

だが、誰だって死ぬのが怖くないわけがなかった。

 

(まだ……、死にたくない……)

 

 その思いを裏切るようにアインの意識は闇の中に沈んでいく。

 そしてナルガクルガはアインに向かってブレード状の翼で斬り裂こうと飛び掛かって――――

 

 

キィィィーーーーーーーーーーーン

 

 

 と、突如甲高い音が鳴り響いた。

 ただしトトが音爆弾を投げたりした音ではない。そもそもオトモアイルーである彼女(?)が持っているわけがないのだ。

 

 そして、最もその音に反応したのはナルガクルガだった。

 

 暗闇での狩猟に慣れ、視覚より聴覚が発達した彼らは、大きな音などには過剰に反応してしまう。特に飛び掛かり攻撃をするための溜め姿勢の時は、吃驚して体制を大きく崩してしまうのだ。

 このナルガクルガも例外なく体制を崩してしまっていた。

 アインは朦朧とする状態でぼんやりと見た。

自分の前に誰かが立っていた。それは両手で巨大な何かを持っている。

 

(だ…だれ……?)

 

 だが朦朧とする頭ではそれが何なのかを理解できず、彼女の意識は完全に闇に沈んでいった。

 

 

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