覚醒羽沼マコト概念   作:低レベ

1 / 2
万魔殿議長は楽園成就の夢を見るか

 

 

 

「羽沼……マコトッ…!!」

 

 

 祈りが、意志が、哀れみが。

 

 

「マコト先輩……」

 

 

 信頼が、悲しみが、怨嗟が。

 

 

 ただ今この時に収束されていく。

 章は終わらず、青春の物語(ブルーアーカイブ)は続いていく。

 

 だが、これは紛れもない一つの終着点でもあるのだ。

 

 瓦礫で当たりは埋もれ、倒れている生徒は血を流している。

 複製によって発生した聖徒会や、ヒエロニムスの姿はない。

 

 

「先生、準備は良いか?」

「“うん、勿論だよ“」

 

 

 ただ、一人の少女が強い意志を持った瞳で瓦礫の上に立っていた。

 その少女の行動を一人の大人が肯定する。

 

 

 

 

「ゲヘナ万魔殿議長、羽沼マコトがここに宣言しよう」

 

 

 

 

 

 時は訪れた。

 

 途切れることのない憎しみを。

 深くから残り続けた恨みを。

 

 その全てを肯定し、否定してみせよう。

 

 

 

 

 

「──エデン条約はここに締結され、新たなエデン(E)条約(T)機構(O)は成立した」

 

 

 

 

 

 

 この場にいる全ての者へ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──万魔の願いを込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキキッ! これで風紀委員の評判は落ち、我ら万魔殿(パンデモニウム・ソサイティ)が全てを握るだろう…!」

 

 

 ゲヘナ学園の中でも際立って荘厳な一室で、悪どい笑みを浮かべる少女。

 その周りにはモップかと思うほどの毛量の少女と、見た目は悪でありながらも何処か不安を抱かせる少女、まだ小学生の幼女、カメラを構えている少女。

 

 ──そしてそれらを楽しげに見つめる男がいた。

 

 キヴォトスにおいて唯一と言ってもいい男子生徒。

 その知名度は活動範囲や行動などからも非常に高く、今や”万魔殿にその人あり”と一部では言われるほどである。万魔殿の重要なポジションであることは間違いない。 

 

 勿論、政治的意図もあるのかもしれない。

 唯一の男子生徒がゲヘナの万魔殿にいる、ということは大きな宣伝となるからだ。

 

 だが、万魔殿のメンバーの表情を見ればそうは見えない。 

 そこには確かに信頼があったからだ。

 

 

「はぁ………またですか、マコト先輩の暴走」

 

 

 アカモップ、もとい棗イロハは溜息を漏らす。

 

 万魔殿議長羽沼マコトの暴走は今に始まったことではなく、今まで幾度となく繰り返しては様々な状況を作り出し、仕事を増やされてきた。正直サボりたい。

 今回はゲヘナ風紀委員会という羽沼マコトにとっての不倶戴天の敵に対しての行動。

 面倒事にならないわけがない。

 

 

「ククク……」

「先輩も笑ってるだけじゃなくて止めてくださいよ」

 

 

 クツクツと笑っている男にイロハは頼むが、それが意味がないことは分かっている。

 

 

「いや、面白そうだから良いだろ」

「はぁ………」

「イロハ、こういう時は楽しむのが一番だ。事後処理は終わった後だから事後処理なんだよ」

「それなら先に対処してくださいよ。仕事増えるじゃないですか」

 

 

 棗イロハにとって男は先輩に当たる人物だった。

 自身が万魔殿に所属した際には既に所属しており、その名を聞いたこともあった。

 

 実質的な議長、羽沼マコトの保護者、羽沼マコトの飼い主…

 

 所属してみて分かったことだが、これは事実であり、事実ではない。

 確かに羽沼マコトの手綱を握っているといっても良いのだろうが、彼自身が羽沼マコトの行動を楽しみ、止めようとしていない。坂道をハンドルを握らずに自転車で爆走しているようなものだ。

 

 だが、それでいて事故まではすることがない。

 風紀委員会との決定的な決別や、万魔殿の権威の完全な失墜は必ず阻止している。

 そういう意味では手綱を握っているのかもしれない。

 

 

 

 そんな時、万魔殿の外で爆発が発生した。

 

 

 

「──ん、春の季節か」

 

 

 

 何言っているんだ、と思いたいが棗イロハは理解出来てしまった。

 春になると新入生の入学などにより、ゲヘナ内での問題行動が活発化するのだ。

 

 

「報告! 美食研究会が2つの店舗の爆発、及び愛清フウカの誘拐!」

「報告! 温泉開発部が表側道路を爆破!」

 

 

 なだれ込むように報告が入り込んでくる。

 これがゲヘナの日常である。

 

 

「……どうするんですか、マコト先輩」

「クッ、風紀委員会の奴らは何をしているんだ!」

 

 

 貴女が擦り付けた仕事に追われています。

 

 

「──マコト、俺が出てこよう」

 

 

 男は現状を変えるために口を出す。

 その考えはきっと羽沼マコトの面白い様を見たいからだろうが。

 

 だが、男は万魔殿どころかゲヘナにおいて信頼の厚い人物であった。

 それは人柄しかり、仕事しかり、戦闘能力しかり。

 頼っても問題はないのだと、そう思わせるほどのカリスマも確かに存在した。

 

 

「ククク…俺が仕事をなせば『騒動を鎮圧したのは万魔殿』『風紀委員会は動かず』という事実で風紀委員会の権威を落とすことが出来る。どうだ?」

「キキキッ! 素晴らしいじゃァないか…!」

 

「……先輩、悪ノリはやめてくださいよ」

 

 

 男が楽しみにしているものは羽沼マコトの行動だ。

 曰く『予想が出来ない方向に転がっていく様を近くで見るのが楽しい』だとか。

 

 それ故に悪ノリをすることもある。

 今回は風紀委員会の仕事を楽にするために名乗り出たのだろうが、羽沼マコトには風紀委員会を攻撃することが出来るという嘘の理由を吹き込んだ。

 羽沼マコトがこの嘘の理由に踊らされ、より行動が過激化していく様子すらも計算しており、楽しんでいるのだろうと思う。棗イロハからすると仕事が増えるので勘弁してほしい。

 

 

「チアキ、次の新聞の見出しは『羽沼議長、騒動を見越していた!?』で頼むぞ」

「はい、わかりました!!」

「マコト様の慧眼が理解出来る素晴らしい題材だ…!」

 

 

 それは風紀委員会への嫌がらせは注意喚起だ、という捏造だろうか。

 より関係性が悪くなりそうで胃が痛くなる。

 

 愛銃を片手に部屋から男は出ていく。

 その姿はまさしく万魔殿を象徴するものといっても過言ではないものの、些か先ほどまでのやり取りを見ているとジト目を向けたくなる。

 

 風紀委員会へのサポートという善意、羽沼マコトの行動を見たいという個人の愉悦。

 

 

 

 そんな時だった、

 

 

 

 

「先輩、いっちゃうの……?」

 

 

 

 

 丹花イブキが涙目で聞いた瞬間、男の歩みは止まる。それどころか体が硬直している。

 

 男も漏れなく万魔殿の一員であるということだ。

 男の脳内では羽沼マコトの面白い行動を見たいという欲求と、丹花イブキを泣かせるわけにはいかないという理性が対立している。決してロリコンではない、そう決して。

 

 ──男の体は痙攣を始めている。

 ──羽沼マコトは人を殺せそうな瞳で男を睨んでいる。

 ──元宮チアキはそんな様子を嬉々とした表情で写真に収めている。

 ──京極サツキは哀れみの視線を男に向けている。

 ──丹花イブキは泣きそうな瞳で男を見ている。

 

 万魔殿の今後の人員が一人減るか否かの瀬戸際である。

 この状態を元宮チアキが新聞として載せれば、恐らく購買数は一気にトップに躍り出るだろう。

 丹花イブキ、恐るべし。

 

 

「はぁ………」

 

 

 棗イロハは再び溜息を吐いた。

 

 羽沼マコトだけでなく、男すらも厄介事を持ってきてくれるのだ。

 サボりたい、という気持ちが段々と強くなっていることを認識する。

 だが、その前にこの場を収めなければならない。

 

 

「イブキ、私と遊びませんか?」

 

「──ッ、イロハ!」

 

 

 男は救世主を見るかのような瞳で棗イロハを見る。

 きっと、新聞には「彼女は俺の救世主ですよ」と受け答えるのだろう。

 

 

「先輩も仕事で忙しいんですよ。後で遊んでくれますからね」

「……うん、わかった。イブキ、イロハ先輩と遊ぶ〜!!」

 

 

 トテトテと棗イロハへと駆けていく丹花イブキ。

 もしかして:天使

 おやおや、イブキは可愛いですね。

 

 

「……イブキの誘いを断ったんだから仕事はしっかりと果たせよ?」

「流石に言われなくても分かってるさ」

「キキキッ、ならいいが」

「マコトもイブキと遊んだらどうだ? 人数は多いに越したことはないだろ」

「ああ、勿論だ」

 

 

 最早慣れ親しんだかのような会話。

 

 男と羽沼マコトの付き合いの長さを表しているのかもしれない。

 棗イロハは詳しいことまでは知らないが、男と羽沼マコトは同級生であり、昔からずっと同じような関係性であるということは知っている。

 雷帝に関しての一悶着で両者とも留年したようだが。

 

 一種の恒例行事であるかのように会話は進められ、羽沼マコトは丹花イブキと遊ぶことにする。

 男と羽沼マコトの会話は羽沼マコトが話題を提供し、男がそれに答える形で基本的に進行する。勿論、その中で男は羽沼マコトを誘導し、面白おかしい方向へと進めるの。

 

 夫婦漫才のように見えないことはない。

 

 

「先輩、後で何か奢ってくださいね」

「ククク…後で奢らせてもらおう。これからもこういった事態はあるだろうからな」

 

 

「はぁ……怨みますよ、先輩」

 

 

 男はサボりについて教えてくれた。

 それ以来サボりが少し楽しく思っているのだが、男はそう簡単にはサボらせてくれないらしい。

 それだけ必要とされていることは、少しだけ嬉しく感じた。

 

 

「それじゃあ行ってくるか」

 

 

 風紀委員会も到着したらしく、外で発砲音が鳴り響く。

 愛銃を背に背負い、男は片手を挙げながら部屋を後にする。

 

 

 

 

「あの、マコトちゃん………」

「どうした?」

 

 

 

「彼が鎮圧したら、風紀委員の手助けになって、万魔殿が友好的だと思われるのだけど……」

 

 

 

 

 

「な、なっな、なっ、何だと────!?!?」 

 

 

 

 

 

 はぁ……と棗イロハは溜息を吐く。

 

 男が羽沼マコトを誘導し、羽沼マコトがそれに乗っかり、羽沼マコトが失敗する。

 万魔殿に所属してから何度も見たいつもの流れだ。

 結局その事後処理をするのは、自分と男だと言うのに。

 

 だが、そんな日常でも何処か楽しいと感じていた。

 

 暗くて、悲惨で、救いがないような。そんなものよりは良いに決まっている。

 男は『羽沼マコトの行動は面白い』と言っていたが、それは男もいるからこそより面白く感じることが出来ているのかもしれない。

 

 

 

 

 ──そんな風に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、だからこそ。

 

 

 

 

 

 

 

 こんな展開は許容することが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 棗イロハの眼の前に広がるのは、体中に銃創があり、ヘイローは粉々に割れてしまい、もう目を覚ますことがない男の姿。かつての万魔殿はもう取り戻せない。

 

 もっと貴方と──後悔

 何故なのか──疑問

 あの時私が──懺悔

 

 黒いような感情が身を蝕みそうになって、苦しくて、泣きそうで。

 助けを求めても、いつも助けてくれた貴方はいなくて。

 嘗ての思い出に浸るため、サボろうとしても体が動かなくて。

 

 

「先、輩………」

 

 

 どれだけ願おうと、どれだけ祈ろうと、男が再び息を取り戻すことは二度とない。

 ただただ残酷な”死”という事実が目の前に広がっている。

 

 辛い、苦しい、悲しい、憎い。

 感情が湧き出て、湧き出て、抑えられなくて、決壊して。

 体に触れても、冷たさだけが伝わってくる。

 

 それが、貴方はもういないのだと突きつけられたように感じて。

 

 

 ──貴方はいなくなってしまった。多くの置物と、願いを残して。

 ──マコト先輩は変わってしまった。貴方の願いを果たすために。

 

 

 もう、かつての万魔殿は取り戻せない。

 

 

 嗚呼、もう、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

「──怨みますよ、先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 この怨みの先が、あれば良かったのに。

 

 

 

 

 

 





初めはイロハから。マコトは大トリ。

需要があれば続きます。別で連載中のものがあるので更新は遅いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。