覚醒羽沼マコト概念 作:低レベ
ヒナ視点
血が、流れている。
体が、生暖かい。
私が、駄目だったせいで。
どうして、助けて、頼って、悲しい。
何が失敗だったのか、どうして失敗だったのか。
思い浮かんで、思い浮かんで、思い浮かんで、
先生の体温が、失われていくような気がして。
自分の顔が真っ青になっていることが嫌でもわかる。
「先生、あなたを死なせはしません」
セナが治療に当たる。
先生は既に目を開けておらず、意識を失っていることがわかる。
私が近くにいたはずなのに。
守ることが出来なかった。
「──私は救急医学部なので」
嗚呼、結局、私は何も出来ない。
頼ってくれた人、守りたかった人、構ってくれた人。
そんな人を失ってしまう。
あの時よりも、近くにいたはずなのに。
また、私は失ってしまう。
◇
『やあ、君が白崎ヒ………シロモップ?』
失礼な人だった。
情報部で静かに過ごしていた時に、突然現れた万魔殿の上層部。
名前は学園内でも有名であり、周りからの評価は高い。
それくらいしか知らない人だった。
『わかるマン、正直仕事をサボっての昼寝が一番気持ちがいい』
変な人だった。
仕事に対する取り組みは非常に高く、優秀も優秀。
だがそれでいて、サボりなどは許容するどころか自分も行う。
風紀委員長に任命され、関わることが増えた。
当然といえば当然だが、少しだけ嬉しく思った。
『ククク…実は俺は美食研究部から目を掛けられるほど料理が上手なんだ』
爆発を見ながらそう言い放ったり、
『全身に爆弾巻き付けて特攻って……頭ゲヘナかよ』
一緒に不良を制圧したり。
万魔殿に比べると関わりは少ないが、ゲヘナ内では多く関わっていたという自負がある。
時にはご飯に誘ってもらったり、一緒に遊びに行ったり……気が楽になるような時間だった。
彼は周りをよく見る人だった。
『なんだこの仕事の量、完全にブラック企業のそれだろ』
「………………」
『ククク……万魔殿の権力を使って働き方改革をしてやろう』
人の機敏に聡く、すぐに行動する決断力があった。
仕事も優秀、戦闘能力もあり、人当たりもいい。
まさしく、人の上に立つに相応しい人だったのだろう。
だがしかし、
『──いや、議長はマコトだからこそ意味がある』
そこだけは絶対に譲ることがなかった。
マコトの何が彼をそこまで惹きつけたのかは分かることはなかったが、それが彼の選択ならばと周りは尊重していた。
これまでの行動で、それだけの説得力があったからだ。
何しも、全て最適解を選ぶわけではない。
時には遠回りをし、自分の愉悦のために様々なことに手を出す。
時にはわざと悪手を選び、物事を大きく発展させていく。
だが、結果的に最適解よりも良い結果へと繋がっていくのだ。
連邦生徒会長のような超人ではない。ミレニアムの全知のような天才でもない。
だが、そこには確かに信頼があった。
『うおっ、しなしなヒナか…』
だからこそ、見られたくない姿も見られてしまった。
雷帝関連の処理や、風紀委員会としての仕事が重なり、辛くなった頃。
少しだけ弱った姿を彼に見られてしまった。
恥ずかしいなどではなく、ただただ後悔だけが湧き上がって来る。
『ククク……まぁ最近は仕事ばかりだからな。仕方がない部分もある』
「………怒らないの?」
『そうだな、怒るとすれば、まともに休息を取らなかったことだ』
『だが、それは気付けなかった俺の責任でもある』
彼はそう言い切って、少しだけバツの悪そうな顔をした。
なんで、彼が自分を責めるのか。
なんで、私を責めないのか。
仕事をちゃんと遂行出来なかったのは、私だというのに。
『いいか、ヒナ。自分一人で全てを抱え込もうと思うなよ』
まるで、子供に物を教えるかのような口調でそう言った。
『マコトならばこんな状態にならない。なぜだか分かるか?』
「……マコトは強いから」
そうだ、マコトは強い。
万魔殿議長という立場で、ずっと続けられているのはその強さがあるからだろう。
精神的にマコトがダメージを受けている様子など想像することが出来ない。
『そうだな、それも間違いなくあるだろう。だが、俺が今言っているのは別の強さだ』
『………?』
『今のマコトは戦闘でも、政治でも決して優れているわけではない』
『まぁ、目的遂行能力だけはやけに高いが』と彼は付け加える。
マコトがまともに動くことは雷帝絡みでしかない。
万魔殿議長ではあるものの、そもそもの投票率が一桁であるため、参考にはならない。
『──マコトは誰かに頼ることが出来る。誰かと分かち合うことが出来るんだよ』
思い出されるのは、マコトの暴走に万魔殿が付き合っている姿。
一見振り回されているだけのようにも見えるが、所々自らの意志でマコトに協力している。
それは、マコトとの関係性が故なのだろう。
マコトは決して優れているわけではないため、一人で出来ることには限界がある。
だからこそ、誰かを頼るのだ。
『イロハ、虎丸の準備を開始しろ!』
『サツキ、仕事はもう終わったか?』
『チアキ、マコト様の勇姿を撮り逃がすなよ』
いつも、マコトの側には誰かがいた。
頼り、頼られる。そんな当たり前でありながら、難しい関係性を難なく持つものが。
『別に今すぐじゃなくてもいい。自分を変えるのは難しいからな』
「………………」
『いつかきっと、お前を頼りにして、お前が頼りにするような人物が現れるはずだ』
自分には思い付かない。
だが、彼が言うならばと納得している自分がいた。
「……それは貴方でもいいの?」
口が勝手に動いていた。
自分の弱さを目の当たりにし、少しだけ客観的に見て驚く自分と情けなさを感じる自分がいた。
だが、彼は優しく微笑むと、
『ああ、勿論。いつでも頼ってくれいいし、俺もお前を頼ろう』
「…………そう」
少しだけ、心が暖かくなったような気がした。
『ヒナ、この仕事を頼んでもいいか?』
『飯を食べに行こう』
『温泉開発部は俺じゃなくてヒナのほうがいいだろう』
『ククク…マコトを止めるのは俺では無理な話だ』
『ゲヘナは少し荒れているくらいが最も活発なんだろうな』
彼とはそれから距離がより縮まったような気がしていた。
彼から頼りにされているということはよく分かったし、私も彼を頼っていた。
それは間違いがなかった。
だからこそ、信頼を築けたと思っていた。
『──トリニティには俺一人で行く。これは絶対だ』
彼はエデン条約に強い興味を示していた。
乗り気ではないマコトを引っ張るように、珍しく彼から行動していたのだ。
トリニティとゲヘナの平和条約。
何が彼を惹きつけたのかはわからない。だが、彼には信頼があった。
恐らく私では分からないような理由なのだと結論付け、彼の指示に従ってきた。
ゲヘナ内での治安維持や、正義実現委員会との関係性。様々なことを調整した。
そうして、ようやく最終調整だと思った矢先にこれだ。
『………なんで?』
聞きたいことは沢山あった。
──なんで、一人でトリニティへと向かうのか。
──なんで、私を頼ってくれないのか。
──マコトはその決断をどう思ったのか。
様々な疑問が、たった一言に集約される。
『……俺にはこの条約を引っ張ってきたが故の責任と義務がある』
「……詳しくは言ってくれないのね」
『ああ、こればっかりはな……まあ、条約を締結させるための行動であることは本当だ』
少しだけ困ったように笑う彼。
自然と入っていた肩の力を抜き、ふっと笑う。
「そう、わかったわ」
『ククク……そうか、それはありがたい』
『──ゲヘナは任せたぞ』
「ッ……」
その言葉が遺言のように聞こえ、再び肩に力が入る。
これから死にに行くわけではなく、トリニティで条約について行動するだけであるのに。
止めたほうが良いのではないか、その考えが脳裏にこびり付く。
だが、根拠はあくまで勘でしかなく、それだけを理由に彼の行動を否定は出来ない。
ただ、トリニティに行くだけなのだと自分を納得させる。
──それに、彼ならば大丈夫だろうという”信頼”がそこにあった。
震えそうになる体を抑えながら、一言だけは言っておきたかった。
「……いってらっしゃい」
「ククク……嗚呼、いってくるよ」
──嗚呼、なんて傲慢で緩慢で、取り返しのつかない。
後悔は得てして後からやってくるものだ。
「──あいつは死んだ。このことは極秘情報として箝口令を敷く」
マコトが何事も無かったかのように、そう言い切った。
──彼が死んだ?
──たった数日前に会ったばかりだというのに?
──なんで?
頭の中に情報が流れてきては、答えが導き出される。
──それは事実だ。
──私が背中を押したせいで。
──私が彼を引き止めなかったから。
私の決断によっては、彼を助けることが出来たというのに。
私が、彼を守ることが出来たというのに。
私が、もっと信頼されていれば、彼についていくことも出来たというのに。
後悔は後からやってくる。
「空崎ヒナ、お前がそこまで気を病む必要はない」
「ッ……!!」
「お前はいつも通りゲヘナの治安を守っていれば、それでいい」
マコトの言葉に過剰に反応しそうになってしまう。
ただ、お前にはそれくらいしか出来ないと言われているような気がして。
マコトは悪くないというのに。
本当に? 本当にそう思うのか?
マコトならば彼を止められたのではないか、マコトが積極的にエデン条約に向けて動いていればこんなことにはならなかったのではないか。
そんな気持ちの悪い思考が脳内に木霊する。
「……マコト、貴女が──」
「なあ、空崎ヒナ」
口に出かかってしまっていた醜い言葉はマコトによって遮られる。
「ッ……」
初めて、マコトの顔を見た。
そこにあったのは、いつものように愉しげに笑う姿や、自身の計画が失敗して呆然とする姿ではなく、何処までも強く、何処までも危ういマコトの素顔だった。
「──お前に、何がわかるんだ?」
ただ、純然とした疑問。
だがそれが嫌なほど冷たく、体中に響き渡る。
何がわかるのか──何もわからない。
彼の人となりや、趣味嗜好は知っている。
だが、エデン条約へ何故動いたのか。トリニティで何があったのか、何故死んでしまったのか。
何も知らないのだと、突きつけられる。
「私には私の成さなければならないことがある」
羽沼マコトは何処までも強い声でそう言い切る。
私には持っていない強さ。失ってなお、前を見ようとしている。
ここで、ようやく気がついた。
前を見ようとしているということは、嫌なほど現状を受け止めてしまっているのだ。
“彼の死“という重すぎるほどの重しを。
だからこその、危うい強さ。ただ目的へ向かって突き進むようなもの。
「お前もあいつから何かを言われ、託されたはずだ」
「……………」
ああ、そうだ。託されたのだ。
『ゲヘナは任せたぞ』と、そう託されたのだ。
「
「……ええ」
そして、彼が言っていたいつか現れるであろう『私が頼りにされて、私が頼りにするような人物』が現れた際に、二度と同じ過ちは繰り返さないと胸に誓って。
それが、彼に対する償いであり、私の義務なのだと、そう理解した。
◇
血が流れる。腹部からの流血。
ヘイローが無い先生にとっては、致命傷となりうるほどの怪我。
今度は守って見せると誓ったのに。
また、同じ過ちを繰り返す。
「あ、ぁぁあ、せ、先生」
まただ。また守れなかったせいで。
繰り返す、繰り返した、同じ過ちを、同じ過ちで、守れなかった。
彼に償うことも、先生を守ることも。
何もかも出来はしなかったのだ。
空崎ヒナの意識は深く沈んでいく。
結局、彼女は何も守れなかったのだ。
信頼したが故に、守ることが出来ない。
そんな同じ過ちを彼女は繰り返した。
過ちが、夢であれば良かったのに。
(ストーリーは考えて)ないです。
思いついたものを、気分で書いて投稿しています。
ただカッコいいマコトが書きたいんです。
次回はようやくオリ主が死ぬシーンが書けるかもしれません
安直な曇らせですが、書きたいのは覚醒マコトなんですよね。