葉子ちゃんの弟は似ても似つかない。   作:バナハロ

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長くいれば薄々勘づく。

 季節は、冬か秋かよく分からない季節。そこで、葉子は炬燵に入って寝転んだままコントローラーをいじってテレビに集中していた。

 その様子を眺めていた草太が、本を読んでいた華に声を掛けた。

 

「華、なんかステ上げられるらしいんだけど、どう思うよ?」

 

 言われた華は本から顔を上げて、テレビの画面を見る。それを見るなり、華は思った事をそのまま答える。

 

「防御力10%UPより体力10%UPのほうがいい」

 

 何の話かと言えば、今まさに葉子がプレイしているゲームのことだ。軽そうなアーマーに身を包んだキャラクターのステータスUPを選択する画面が出ている。

 

「葉子は防具にお金かけないから、防御UPは効果が薄いよ」

「防具なんか揃えなくてもセンスで勝てるもんね〜」

「でも回復アイテムの消費はエグそうだよね」

「そうでもないし。避ければ回復なんていらないから」

 

 三人でゲームの話をする中、ふと華は近くに座っていた草太が立ち上がったのが目に入る。

 パタパタと歩いて何処かに行ったと思ったら、台所でこんな声が聞こえてきた。

 

「母さん、それ俺持ってく」

「あら、ありがとう。でも、そんなに気を遣わなくて良いのよ? 葉子は気にもかけずにゲームしてるって言うのに……」

「葉子と一緒にされても困る」

「聞こえてんぞ草太ァッ!」

 

 葉子がリアクションをしても無視。その後から、お茶が乗ったトレーを草太が運んで来る。

 

「ほい、華」

「……ありがとう」

「葉子。睡眠薬入りのお茶」

「へいへいどうも……なんでそんな意味のない嘘ついたの!?」

「良いから飲め。せっかく持ってきてやったんだから」

 

 そう言うと、葉子は「仕方ないな……」と言いながら画面をポーズして起き上がった。その葉子に、香取家の母親がお菓子が入った皿を机の上に乗せながら、呆れ気味に声を掛ける。

 

「やっと起きたわね、葉子。せっかく華ちゃんが遊びに来てるのに……」

「いえ、おかまいなく。草太くんが相手をしてくれていましたし、勉強の息抜きに来ているだけなので」

「ここに来れば、お菓子もお茶も出て来るからな?」

「……そんな目的で来てるわけじゃない」

「良いのよ、そんな目的で来ても。華ちゃん、勉強頑張ってるものね?」

 

 本当にこの家の人は優しい人ばかりだ。甘えてばかりいたいわけではないが、お菓子のことを抜きにしても休憩には最適な場所とも言える。

 

「葉子はずーっと息抜きばかりしてるものね?」

「なんでアタシだけ!? 草太だってそうじゃん!」

「俺は勉強してる」

「宿題早めに終わらせてるだけでしょそれ!」

「言っておくけど、草太もよ。もう直ぐ中学生なのに、親の目を盗んでゲームしてるでしょ」

「え、バレてる」

「あんたの方が余程、タチ悪い成長の仕方してるからね」

 

 そんな会話が少し面白く感じる。なんだか羨ましい。自分にも兄弟とかいたらこんな感じになっていたのだろうか? いや、いるけど勉強ばかりであまりこういうバカ話は出来ないし……なんて羨ましく思えてしまったり。

 その華の顔の前に、ずいっと何かが差し出される。顔を向けると、草太からチョコレートが向けられていた。

 

「ほれ。お前も本ばっかり読んでないで食え」

「じゃないとアタシが全部食べちゃうよ〜」

 

 そんな事を言いながら葉子が更に手を伸ばしたが、それを皿ごと避けた草太がお皿ごと華に差し出してきた。

 

「ていうか全部持っていく?」

「……そんなにいらない」

「ていうか避けんなしあんた!?」

「ほら、二人とも騒ぐのやめなさい」

 

 ……やはり、と少し華は嬉しく思うより冷や汗を流した。草太の気遣い……それは嬉しいのだが、タイミングが良すぎる。

 前々からそう言う節はあった。この子、ちょっとタイミング良く他人が喜ぶ行動出来過ぎじゃない? みたいな。今だって、親が茶菓子の準備ができたタイミングで立ち上がっていたし、過去を遡るとキリがない。

 

「そもそも、アタシは勉強なんかしなくても良いの! 体育も音楽も図工も華より成績良いし!」

「バッキバキの芸術科目じゃん。将来の夢はアーティストか?」

「……いや知らないけど! ていうか、あんただって体育以外の成績大して良くない癖に!」

「大丈夫大丈夫。中学から本気出すから」

「それ出さないパターンじゃん」

 

 まぁ……華の気にしすぎかもしれないが。なんかいつも通りに見えなくもないし。

 そんな話をしていると、葉子がふと思ったように口を開いた。

 

「そういえば、お母さん。そろそろアタシと草太の部屋わけてよ」

「あら、どうして?」

「もう中学生になんのに、弟と同じ部屋とか恥ずかしいんだけど!」

 

 それを聞いて、華は少し羨ましく思えてしまう。草太と同じ部屋で寝れるとか、なんだか楽しそうだ。

 

「良いじゃない、双子なんだし」

「俺は別に良いよ」

「なんであんたはそう受け入れられ……」

 

 言いかけた葉子が、なにかハッとして察した様子を見せる。何かと思ったら、今度はゴミを見る目で草太を睨みつける。

 

「まさかあんた……最近、大きくなってきたアタシの胸が狙いじゃないでしょうね……?」

「母さん、このアホに往復ビンタする許可が欲しい」

「ダメに決まってるでしょ」

 

 ピクッ、とまた華は思わず反応してしまった。そうか、と少し思ってしまう。草太はこう見えて男の子。つまり……やはり異性に興味があったりすることもあるのだろうか? 

 

「まぁでも、葉子が別の部屋が良いって言うなら別でも良いし、母さんがダメだって言うなら一緒でも良いし、俺はどっちでも良いよ」

「出たーそういうあんたのいい子ちゃんムーブ。本当は草太だって一人部屋が良い癖に」

「いや別に。俺はほんと何でも良い。あんま部屋に物置かないし、姉に裸とか見られても別に良いし」

「アタシだけ意識してるみたいな言い方すんなー!」

 

 なんて姉弟でコントみたいなノリが始まった。やっぱり、少しだけ羨ましい。当たり前だがこの二人は、今後も姉弟という関係が続く。各々、結婚して子供が出来ても血の繋がりという関係は崩れない。

 しかし、友達はそう長く続くかは分からない。環境の変化やほんの少しのすれ違いから疎遠になることだってあり得る。

 

「じゃあ葉子と華交換しようよ。葉子が華の部屋で寝て、華がオレ達の部屋で寝んの」

「ぶっ……!」

 

 とんでもないセリフが飛来してきて、思わずお茶を吹き出してしまった。らしくない、と自分でも思うリアクションなのだ。他の人から見たら尚更だろう。

 

「は、華ちゃん。大丈夫?」

「あんた華を動揺させてんじゃないわよ!」

 

 母親が背中をさすってくれて、葉子が草太に怒鳴り散らす。いや、ほんと勘弁して欲しい。意味わかっていて言っているのだろうか? いや、分かっていないんだろうな、なんて思う。

 実際、華だって男女が同じ部屋で過ごすのはマズイ、と聞いたことはあるけれど、何が具体的にマズイのかはよく分かっていない。

 だからだろうか? ちょっと悪くないかも、なんて思ってしまっている自分がやっぱり憎たらしい。

 一方、怒られた草太は、真顔で答えた。

 

「なんでさ。もう長いこと隣に住んでんじゃん。こいつも俺と葉子の妹みたいなもんでしょ」

「それは……そうだけど!」

「ーっ」

 

 まただ。少し自分が自虐的に思った直後にこのセリフ……あまりにもタイミングが良すぎる。本当に心の中でも読める能力があるんじゃないかと疑いたくなる。

 だが……まぁ、持っていても良いか、なんて少し目を逸らしてしまったり。だって、それが出来る上でこう言う事を話してくれているのなら、それはとても優しいことだと思うから。

 

「……そうね、草太くんが良いなら、私もそれで良い」

「華まで何言ってんの!?」

「じゃあ葉子、お前は外でダンボールハウスを作って寝ろ」

「交換って話でしょうがー!」

「ところで草太くん、どうして私が妹の前提?」

「華ちゃん、そこ?」

 

 そんな風に、本当にわちゃわちゃしながら、華はホッと一息つく。本当の兄妹ではないけれど、それでも本当にそんな関係を今後も続けられるのなら、それに越したことはないから。

 

 ×××

 

 それから、数日が経過した頃だった。

 

「申し訳ないが、今後うちの娘はこちらには寄越しません」

 

 そんな事を突然、言いにきたのは、染井華の父親だった。後ろに華と華の母親も控えているが、厳格な雰囲気を漂わせていた父親だけ要件があったようで、一歩前に出ている。

 それを眺めながら、草太はその男の感情を読み取ってしまう。重々しい雰囲気を作ってはいるが、その中身はほとんど「お前達の所為か」という底知れない怒りが孕まれていた。

 何があったのかを考えればすぐにわかる。華の両親……特に父親が娘の教育に熱心なのは知っている。塾の試験で満点を取れなかったか、それとも一位ではなかったのか、もしくはクラスのランクが落ちたとか……そんな所だろう。

 この感情を、草太は抑えなくてはならない。何せ、抑えないとこちらも何かあの父親に言いたくなってしまうから。

 

「えっと……それは、どういう……?」

 

 こちらの父親が困惑した様子で尋ねるが、それ以上説明をするつもりはないらしい。華の父親は、背中を向けながら話す。

 

「大事な時期に遊ばせるのは、お互いのためにならないと思いますので。……では、失礼」

 

 お互いのため、と言ってはいるが、自分の娘のことしか頭にないのは明白だ。これで配慮しているつもりなのだろう。

 玄関に残ったのは、華の母親と華自身。父親が草太の部屋から少しずつ離れていって、自身に入ってくる感情が入れ替わる。次に感じさせられたのは、華のものだ。

 

「突然ごめんなさい。うちの主人が……」

「急にどうされたんですか?」

「華が、塾の試験で1位を取れなかったみたいで……」

「わぉ、ビンゴ」

 

 黙ってろ、と言わんばかりに母親から尻を抓られた。まったくである。今のは我ながらない。

 

「次の試験でまた1位を取れば主人の機嫌も直ると思いますので、どうかお気になさらないでくださいね」

 

 それはないだろう。少なくとも華は中学受験でもするのだろうが、それが終わるまでこの家に来ることはない。つい最近まで姉弟だ兄妹だ話していたのに、それが早くも絶たれてしまったわけだ。

 そんな話の中、草太の中に入って来る華の感情は、それはもうとても重たいものだ。寂しさと諦め。父親の事を草太達以上に知っているから、どうしようもないと感じている。

 

「……何それ、ムカつく」

 

 直後、また感情が割り込んできた。今度は、葉子からの底知れない怒りだった。拗ね、と置き換えても良いが、かなり頭に来ているのか、普段おちゃらけて怒る時と違い、かなり静かに燃やしている。

 とはいえ……まぁ、葉子のことは自分の親父に任せておけば良いだろう。行動力とおおらかさの化身のような父親なら、葉子の機嫌を一発で取れる。

 

「では、失礼します……」

 

 そのまま華と華の母親は出て行った。静かになった家の中で……まず目に入ったのは、じわっ……という葉子の涙だった。

 

「もぎゃああああ!! ムカつくー!」

「葉子、落ち着いて。泣かないで」

「泣いてないぃぃぃぃ!!」

 

 母親が慌てて宥めるが、葉子は止まらない。近所の目もあるから止めないわけにいかないとはいえ、葉子にそれは逆効果だ。

 

「いやー、前々から硬い人だと思ってたけど、超弩級だったね」

「草太、お前は落ち着いてるな?」

「や、まぁ他所の家のことだし仕方ないでしょ。実際、華の将来がこれで断たれたら、その責任取れんし」

「……お前ほんとに小学生?」

 

 親が息子になんてこと言うのか。純然たる小学生である。その草太の頭に、父親がポンっと手を置いた。

 

「怒りたかったら怒っても良いんだぞ?」

「……は? 怒ってねーし」

 

 そう、別に怒っていない。理不尽なんてよくあることだし、しかたのないことだ。例え、良い年した大人に自分の姉と幼馴染を泣かされたとしても、自分の感情くらいコントロール出来ないと他人の感情が割り込んできた時、抑えることができない……。

 ……。

 …………。

 …………。

 

「っ……」

「唇から血を流すほど噛み締めるなら素直に怒れ」

「だから、怒ってないっつーの!」

 

 このクソ親父しつけぇ、と思ったのだが、その父親は軽く手を叩いた。

 

「うしっ、じゃあ二人に提案がある」

「は? なに!?」

「……」

「かなり大掛かりな作業になるから、やるなら二人とも手伝うこと。良いな?」

 

 大掛かり、と言われて顎に手を当てる。父親の「提案」と言う言葉を聞いて、葉子の感情が落ち着いたことで、父親の得意げな感情が入って来る。それと同時にある程度、覚悟を決めたような、そんな決意とも取れる感情。

 大掛かりであって、覚悟を決める必要があって、それでいて葉子の機嫌が治ると確信しているアイデア……分かった。

 父親ならば、部屋の改造を行うとか言い出す。華の部屋の位置は知っているから、そこと向かい合っている部屋を葉子の部屋にして壁に穴を開けて窓を作るとか、そんな作戦だろう。

 

「どうする? 二人とも」

「それするとどうなるのよ」

「家にいても華ちゃんに会えるようになるぞ」

「やる!」

 

 葉子は乗った。というか、予想通りだった。母親も察したようで、少し呆れたような笑みを浮かべている。

 だが……その作戦には一つ、穴がある。

 

「草太はどうする?」

「俺はいいよ」

「は!? なんでよ!」

 

 葉子が大きくリアクションをするが、草太は当たり前のことを言い返した。

 

「もうすぐ中一になるのに、華といつでも顔を合わせられる寝室にしたら大変でしょ。葉子も一人部屋が良いって言ってたし、部屋を変える良い機会なんじゃないの?」

「いやいや、まだ13歳なら平気だろ?」

「あなた、何言ってるの。多感な時期にそれはまずいわよ」

 

 母親もそこは理解したようで止める。葉子も「むぐっ」と押し黙るが……それでも、とぐあっと声を掛けた。

 

「でも……そしたら本当にあんただけ会えなくなるじゃん」

「華がうちに来れなくなったら会えなくなるわけじゃないでしょ。俺が葉子の部屋に入るんでも、学校で普通に会うんでもどっちでも行けるだろ」

「あー……ま、まぁそれは……」

 

 納得したのか、葉子も小さく頷く。父親が、少し心配そうな顔で草太に声を掛けた。

 

「でも……良いのか?」

「大丈夫。じゃあ俺、ちょっと出掛けてくるから」

「お、おう? 気を付けてな?」

 

 葉子はこれで大丈夫だ。後は、華である。……あと、少し腹たったし、華の父親にも少し仕返ししてやる。

 

 ×××

 

「……ふぅ」

 

 少し、華からため息が漏れる。こうならないようにトップを目指していたつもりだったが、少し気が抜けたのかもしれない。

 まぁ、放課後に会えなくなるだけなので、別にそんなに気にすることはない、することはない……のだが、寂しさがやはりある。自分は思っていた以上に、あの家族の空気をどこか宛にしていたのかもしれない。

 

「……」

 

 ……少し、気が重いかも、そんな風に思った時だった。ピンポーン、とインターホンの音が鳴る。誰かと思ったが、父親が応答するだろうと思って無視。案の定、扉が開く音がした。

 なんとなく気になったので、部屋から出て会話に聞き耳を立てる。

 

「……草太くん」

「っ……!」

 

 本日二度目の吹き出しを必死で我慢した。まさか、家に行かせないと言われたからって、今度は家に来るとは。

 案の定、父親から発された声は苛立ったような声音になっている。

 

「君、娘には会わせないと言ったはずだ」

「理解しています。ですが、どうやら俺が華さんの勉強を邪魔してしまったみたいなので、おじさんにお詫びをと思いまして」

「……」

 

 違う、草太は悪くない。そういうの、お願いだからやめてほしい。罪悪感が華の中にまで刷り込まれていく。

 

「この度は、俺がお宅の娘さんの学力を下げるような真似をしてしまい、大変申し訳ありませんでした」

 

 ……いや、違う、と華はすぐに理解した。この声音……よく怒られないように立ち回っている時と同じような顔をして言っているような気がする。謝罪文は勿論、申し訳なさそうに話しているが、どこか楽しそうにしているようにも聞こえる。

 だが……その素直な謝罪文と未成年の声音は、大人には効くものだ。

 

「……分かれば良い。君が娘と仲良くしてくれていることは知っている。何も、学校でまで関係を断てというつもりもない」

「ありがとうございます」

 

 しかも、いつの間にか自分だけの責任にしている。葉子や家族の責任ではないことをしれっと刷り込ませて。大人を相手にそんな駆け引きができる子供は、本当に子供なのだろうか? 

 

「だから、もう帰りたまえ」

「あ、待って。最後にこれ、せめてものお詫びと思い、ご用意しました」

 

 まだ何かあるらしい。何かを渡しているらしいが、ここからは見えない。

 その正体は、父親が答えてくれた。

 

「……チョコレート?」

「勉強して疲れた脳には甘いものが良いと聞いたので。華ちゃんの勉強を、今後は俺も応援させていただきたく思いますので、それだけ渡してあげてくれませんか?」

 

 子供ながらの気遣い、それが効かない子持ちの大人はいなかった。あの堅物の父親ですら、仕方なさそうにため息をつく。

 

「……分かった。渡しておこう」

「お願いします」

「後……私もすまなかった。さっきは急に行き、非礼だった」

 

 しかも謝らせた! ともはや驚愕は隠せなかった。すごい、と素直に感心する反面……やはり、どこか末恐ろしい。とても、同い年の男の子とは思えない。

 

「では、失礼します」

「ああ」

 

 そこで、草太は帰ってしまった。華に会いには来れなかったが……まぁそれは流石に無理だろう。

 と、そこで正気に戻る。草太が帰ったと言うことは、父親が上に来るかもしれないのだ。

 

「っ」

 

 慌てて部屋に戻って教科書を広げ、勉強するフリをする。その僅か数十秒後、部屋に父親が入ってきた。

 

「華、いるか?」

「何? 父さん」

「草太くんからだ」

 

 そう言うと、父親はチョコレートを手渡してくる。有名なMe○jiの板チョコだが、これがまた上手い。ちょっと洒落たチョコではなくシンプルな板チョコにすることで、本当に娘を応援していると思わせたのかもしれない。

 

「お詫びだそうだ。これまで勉強の邪魔をしてきた、な」

「……そう」

「疲れた時に食べても良い。けど、食べたらちゃんと歯を磨きなさい」

 

 それだけ言って、父親は部屋を出て行った。

 ……まさか、まだ自分が好成績を残す前に、機嫌を直させるとは……と、子供ながらの手腕に畏怖を抱く。本当にすごいと思う……が、やはり何処か恐ろしい。彼は、本当に何かそう言う力を持っているのではないか、と思ってしまうほどだ。

 

「っ……」

 

 とはいえ……まぁ、とりあえずチョコを、と思ったら、銀の包みと紙の間に何か白い紙が挟まっているのが見えた。するりと抜いてみると、手紙が入っていた。

 

『さっさと一位とってまたうちにおいで。義兄より』

「……」

 

 ……ほんと、小憎たらしい。もう、なんか心読める力とかあるんでも良いや、と思ってしまうほど、嬉しかった。一気に頑張ろうと思わされた。

 

「もう……なんで、あなたが兄なんだか……」

 

 そんな憎まれ口をぼそっと漏らしながら、改めて気合いを入れ直し、勉強に臨んだ。

 

 

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