葉子ちゃんの弟は似ても似つかない。   作:バナハロ

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護身の術はあって損はない。

 ピッ、ピッ、ピッ、という一定のリズムで鳴る電子音が聞こえる。こんなのドラマや映画でしか聞いたことがなかったが、自分が聞くハメになるとは。

 いや、問題はなんでそれが自分に聞こえてくるか、と言うことだろう。うっすらと目を開けると、なんか白い天井だった。

 横を見ると、窓から差し込まれる日光が見える。というか……ベッドの上だろうか? ここは。

 この電子音、ふかふかのベッド、そしてこの日当たりの良い部屋……分かった。

 

「あ、ここ病院か」

「っ!?」

 

 そんな呟きを漏らした直後、何かに驚いたような感情が急に入ってきて、こっちも驚いてしまった。

 横を見ると……そこにいたのは、葉子と華。こっちをぼんやりと眺めたまま、ぼーっとこっちを見ている。

 が、少しずつその涙腺が緩み始めた。あ、これ……と、すぐに理解。というか、感情がメキメキ入ってきているので、最初から分かっていることだ。

 逃げよう、と思ったのだが、ベッドの上で逃げられない。そうこうしているうちに、葉子が飛び付いてきた。

 

「草太ぁぁああああ!! 良かったああああああ!!!!」

「やめろ葉子! お前は加減ってものを知らないんだから痛たたたたッッ!?!?」

「ていうかあんたなんでいつの間にか後ろいなくなってたわけ!? ほんと意味わかんない! ああいう時、大体すぐ逃げろって言うのあんたなのにしかも足を怪我してくるとかどういう了見!? あんたホントいっつもいっつも……いやいつもはあんま心配かけさせてないけどこう言う時だけいっつもいっつも!」

「苦しい! ほんとに苦しい! 病み上がりにこの圧迫感は死んじゃう……てか華! コイツなんとかして……!」

 

 と、言いかけたのだが、華は華で草太の手をギュッと強く握り締めている。その手は震えていて、目尻から涙を流していた。

 

「……バカ」

「いや、バカで良い。バカで良いからこいつをなんとか……」

「草太ー! 目は覚めたか!?」

「大丈夫草太!?」

「起きてるー?」

「うるせーのが来たよ!」

 

 しばらくそのまま家族に撫でくりまわされた。

 

 ×××

 

「つまり、女の人を助けるために私達に黙って化け物の群れに戻ったの?」

「いやー、本当に危なかったわ。そういえばあの女の人どうなったんかな」

 

 華に問い詰められ、そんな答えを出したら葉子の感情が跳ね上がるのを感じた。

 

「アホかー!」

「あぶね」

 

 飛んできたビンタを、今度は避けた。

 

「避けんな!」

「嫌だよ。避けるよ。痛いし。てか何怒ってんの?」

「一発殴らせなさい!」

「だから嫌だよ」

 

 葉子からのビンタを回避し続けていると、華から冷静な声が聞こえて来る。

 

「なんで私達に黙って行ったの?」

「いや、そりゃそうでしょ。二人には逃げてほしいし」

「自分を逃したいとは思わなかったの?」

「え、いや思うけど見捨てられなかったんだって。ほら、俺基本良い人だし……」

「黙って。お説教の最中にぐだぐだ言うのやめて。イラついてくるから」

「え、これ説教だったの? ……ていうか、なんで逆に説教されてんの俺?」

「……あなたが黙ってそう言うことしたのが気に食わないからでしょ」

 

 あれ、となんか華から入って来る感情を読み取る。割とキレている。いやかなりキレている。

 

「……次、こう言うことしたらほんとに許さないから」

「あ、うん。分かった」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい」

 

 華のマジギレ、割と怖かった。自分も同じくらい怒ることになったわけだが、このはち切れんばかりの怒りが自分に向けられていると思うと、やはり怖かった。

 すると、後ろから母親が口を挟む。

 

「まぁまぁ……落ち着いて、二人とも。草太も悪気があったわけじゃないんだから。二人のことを思ってたわけでしょ? 生きて戻って来れたんだから良いじゃない」

「……それは、そうですが……」

 

 生きて、と聞いて、そういえば、と思い出した。華の両親のことを。華も同じことを思ったのか、少し悲しみが華と草太のことを満たす。

 

「そういえば、華。悪かったな。お前の両親、助けらんなくて」

「ううん……それは、あなたの所為じゃないから」

「……」

 

 だが……やはり気にしてしまう。こうなるなら、華に両親を助けさせた方が良かったのではないか? 最期に母親と話したのが草太で、本当に良かったのか? などと考え込んでしまう。

 そんな中、父親が大声を上げた。

 

「ま、積もる話もあるだろうが、とりあえず今日の所は帰ろう。華ちゃんも、何かあったら、うちは何でも協力するからな!」

「ありがとうございます」

「じゃあ、解散! あ、母さん、みんなを連れて行ってくれ」

「うん、分かった」

 

 あ、父親は残るんだ、と思ったけれど、とりあえず黙っておく。つまりそれは、草太に対して何か大事な話があるのだろう。

 何があったのかを知っているのか、全員少し沈鬱な表情になる。

 そのまま父親以外の人が出て行く。残された父親の気まずさと申し訳なさの感情が自分の中に入ってくる。

 

「……さて、草太」

「ん?」

「お前に、言わないといけない話がある」

「……」

 

 ……覚悟を決めたような顔だ。まぁ、なんとなく察してはいるが。あの時、足首を切られていた。自重を全て支える箇所が切られた時点で、こちらは命を失う覚悟だってしていた。今更、何を聞いても驚かない。

 

「お前の、その足な?」

「うん?」

「安静にしていれば歩けるようにはなるかもしれない。……でも、走れるようになるかは微妙な所だってさ」

「……」

 

 ……そうか、と理解する。サッカー、やってみても良いかもなぁ、なんて思った矢先にこれである。

 ま、人生そうなんでも得られるってわけではないのだろう。あの訳のわからない状況下で、姉と華だけでなく見知らぬお姉さんを助けようとして、五体満足で済むはずもない。

 ある意味、受け入れていると、父親が肩を落として頭を下げてくる。

 

「悪かったなぁ、草太。父さん達、近くにいてやれなくて……」

「いやいや、父さんの所為じゃないじゃん。俺がバカな真似したからだよ」

「そういう事じゃない。親は子供を見る責任がある。お前が今後、事故に遭おうと悪さをしようと、責任を負うべきは俺なんだ。……だから、お前の今後の人生で走れなくなる身体にしてしまったのも、俺の責任だ。何が起こっても良いように、お前と葉子を近くに置いておくべきだった」

「……」

「悪かったな」

 

 ……なるほど、と理解する。今回の事も「息子が自身の身の危険を顧みないようになるよう育てたのも親」ということになるのだろう。そういう意味で、草太が怪我をしたのは父親の所為と思われてしまうわけだ。

 だが……良い見方もして欲しいものだ。

 

「親父、謝ることはないよ。逆に考えりゃ、葉子と俺を家に置いて行ったから、あの女の人は助かったんだ。いや、もしかしたら華だって一人でいたらあそこまで冷静じゃなかったかもしれない。葉子が近くにいたから、華も冷静にいられたんだ。つまり、親父が二人の命を救ったと言っても過言じゃない。むしろ誇って良いっしょ」

「……」

 

 言うと、父親は小さく肩をすくめて、ため息をついた。親父なら、こう言えば元気が出る。元々、ポジティブな人だからだ。

 

「お前って奴は……ホント、出来た息子だよ。出来過ぎなくらいだ」

「いやだからそれを育てたのは親父だから」

「そういうことにしといてやる」

 

 そう言うと、父親は立ち上がって草太の頭を軽く撫でた。

 

「じゃあ、ちゃんと大人しくしとけよ」

「分かってる」

「あと、何か欲しいものあったら言ってくれな。なんでも持ってくるから」

「じゃあ、バッテラが食べたい」

「なんでだよ」

 

 そんな話をしながら、父親と別れた。

 天井を見上げながら、草太は少し考え込む。少し、今まで考えが足りなかった。自分が何をしても親の責任……という言葉が草太の中で引っ掛かる。

 もし、自分が死んでいたら親の責任、と言うことだろう。あの時、もし自分が死んでいたら。戻った草太に気がついて華や葉子が戻って来て、それで殺されてしまったら。考えれば考えるほど、親の責任というのは広がるものだ。

 

「……」

 

 今後、もう少し行動を改めないと、不要な心配をかけることになることを戒めつつ、瞳を閉じた。

 

 ×××

 

 それは、その日の面会時間ギリギリの事だった。あれからあまりにも暇だったのでテレビを眺めていた草太の病室に、ノックの音が響き渡った。

 

「はーい?」

 

 誰だ? と思って顔を向けると、部屋に入って来たのはどこで見覚えがある男の人だった。頭にサングラスをかけ、何処か胡散臭い飄々とした人物……そうだ、草太を助けてくれた超人だ。

 

「よう、少年。今良いか?」

「……良くなくても、話すつもりでしょ?」

 

 良いか? と聞いている割に、その彼の感情は話をする気満々と言った様子だ。警戒心を利かせたまま聞くと、その男は口笛を吹きながら答えた。

 

「おっと……副作用持ちか。益々有望だな、お前」

「?」

 

 サイドエフェクト、と聞きなれない言葉が聞こえる。どう言う意味か知らないが、あり得る可能性として、この人達の不思議な力の事だろう。人間がありえない速度で武器を握って化け物相手に暴れていた。

 その男の後ろから、さらにもう一人男の人が顔を出す。華の父親とは違った厳格そうな空気を持つ男だ。

 

「迅、彼が?」

「そうそう、忍田さん。こいつはかなりの戦力になる。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 そんな話の後、忍田と言われた男の人は自分のベッドの隣に腰をかけた。

 

「初めまして。香取草太くん、だね?」

「そうですけど」

「私はボーダー本部長、忍田真史」

「俺は実力派エリート、迅悠一」

 

 自己紹介されたものの、気になる点が多過ぎる。

 

「……ボーダー?」

「まだ公には発表していない組織だ。今日、この三門市を襲った白い化け物……彼らを対処していく」

「あの化け物のこと知ってんの?」

「勿論だ。もっとも、その事を話すには、話を進めてからになるが」

 

 気にはなっていた。非常時だったとはいえ、助けた女性にはかなり適当なことを言ってしまったから。ああ言った以上、もし実は本当に喰われていただけだったら、あの女性に刺殺されるかもしれない。

 

「それで、そのボーダーさんが俺に何の用ですか?」

「単刀直入に言う。君をボーダーにスカウトしたい」

「……俺を?」

 

 本気で言っている。少なくとも感情はそんな感じだ。だが、残念ながら無理だ。

 

「俺はその人ほどのフィジカルありませんよ。ちょうど、しばらく安静にしていないと、今後歩けなくなるかもって言われた身体です」

「……ここから先は、君の親御さん以外に話して良い内容ではない。他言しないと約束出来るなら話そう」

 

 言われて、草太は小さく頷いた。なんとなく事情は察している。あの化け物を一発で切断出来る武器だ。法的に言えば「銃刀法違反」に該当するだろう。故に、機密性を重要視している。

 その後で、迅という男と目を合わせ、頷き合っていた。

 

「君にも私達にも、身体の中に『トリオン』という見えない器官があり、それを表に出す事で戦う。その表に出すものを『トリガー』と呼ぶ。そのトリガーが、剣などの武器に変化する」

「へぇ……」

「そしてまず変化させるのは、武器ではなく君の身体だ。トリオン体、と呼ばれる仮の体に変換することで、普通の人間以上の身体能力で戦える。おそらくだが、君の足もトリオン体であれば走れるようになるだろう」

 

 それは少し驚いた。仮想の体だから理論上はそれも可能、と言うことなのだろうが、それでも少し心が弾む。

 その自分に、忍田はさらに説明を続ける。

 

「また、仮の身体だから、トリオン体で腕や手足を切られたとしても、本来の肉体にダメージはない」

「安全に戦える……ってこと?」

「まぁ……そうだな」

 

 あ、嘘だ。少なくともトリオン体の安全性も万能ではない、と感情が言っている。

 だが、すぐその後に補足情報が入った。

 

「だが、トリオン体はトリオンを使って構成している。ダメージを受けてそのトリオンが切れた時、トリオン体は普通の身体に戻る。そこで、我々は『緊急脱出』というトリガーを開発しているところだ」

「べ、べい……?」

「トリオン体を構築出来ないほどのダメージを負った時、本部基地に戻れる仕組みのことだ」

 

 なるほど、と理解する。それは便利そうだ。本当に安全に戦えるらしい。もっとも、まだ完成はしていない様子ではあるが。

 が、まだ疑問は残る。

 

「それで、なんで俺をスカウトに? 当たり前ですけど、俺トリガーなんて使ったことありませんよ」

「それは、こちらの彼の副作用によるものだ」

「?」

 

 そう言われたのは迅悠一。にひっと笑みを浮かべて続きを言う。

 

「俺には、お前の未来が見えるんだ」

「俺の……未来?」

 

 鼻で笑い飛ばしたいところだが、ここまであり得ない話を聞かされるとそうもいかない。どう言う意味だろうか? 

 

「まず、その副作用ってのは?」

「優れたトリオン能力を持つ者が、稀に持って生まれる特殊能力のようなものだ。そして、それは君にもある」

「!」

「心当たりがあるんじゃないか?」

 

 もしかして……あの、相手の感情が自分の中に入ってくる力の事だろうか? それなら確かに持っている。

 ……ということは、草太のトリオン能力とやらも優れている、と言うことになる。

 

「俺が君を助けて未来を見た時、実力のあるトリガー使いになっている未来が見えた。俺達の仲間は他にもいるが、流石に人手が足りなくてね。今日だって総出で戦ったがこの有様だ。……だから、仲間になってくれると助かる」

 

 そう言われると少し悩んでしまう。確かに、街を守る為……それも緊急脱出とか言う機能があるなら親に心配をかけさせることもない。よく出来た計画だ。

 だが……それは自分の一存ではきめられない。

 

「悪いけど、親に相談させてもらえませんか?」

「もちろん、構わない。決心が決まったら、私に連絡をくれ」

「分かりました」

「では、我々は失礼する」

 

 それだけ話して、忍田と迅は病室から出て行った。

 まぁ……特に断る理由もない話だ。感情を読んでいた感じ、こちらを騙そうと言う意思も感じられなかったし。何より、あの化け物達が今後も現れるかもしれないのなら、戦えるようになっておいて損はない。

 そういうことなら……まぁ、親に相談してみよう。そう決めて、ひとまず今は眠ることにした。

 

 

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