葉子ちゃんの弟は似ても似つかない。   作:バナハロ

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誤字修正してくれる方、ありがとうございます。
誤字しまくる私のゴミさ加減にも呆れずに読んでくれる方もありがとうございます。


自分の人生までリスナーの気でいるな。

 数日後には、本当にボーダーと言う組織が発表された。入隊希望者を募っていた。

 で、草太はどちらにせよ足が治るまでの間は入隊できないので、その間にのんびり過ごした。

 ちなみに両親に説明し、入隊の許可は得た。その際、忍田に来てもらって改めて説明などをしてもらった。その時に、本当にトリガーで草太の足が走れるようになるのかを試したのだが……これが一番驚いた。本当に走れるようになっていた。

 その姿を見るなり両親には泣かれてしまい、それはもう宥めるのが大変だった。ていうか「いやトリオン体解除したら元通り走れんし」と言ったら怒られた。

 で、あれから数ヶ月経過し、今日は中学の入学式だ。華は親がいなくなり、従兄弟の家で暮らすことになったので、中学受験はせず普通校に来た。

 さて、そんなわけで、葉子と華と草太は体育館でぼんやりしている。

 

「眠い……」

「まったくだわ……ふわぁああ……」

「二人とも静かに」

 

 呑気に欠伸をする草太と葉子を、華が諌める。しかし、暇なものは暇なのだ。先生から嫌われるわけにはいかないので目立つ真似は避けたいが、なんかやたらと眠い。

 

「そういえば、草太くん」

「何?」

「ボーダーに入るってほんと?」」

「……え、なんで知ってんの?」

「あなたのお父さんに聞いた」

 

 あのクソ親父、と心の中で悪態をつく。簡単に言ってんじゃねえよ、と思いつつも、まぁ仕方ない。

 

「まぁ、スカウトされたからな」

「スカウト?」

「え、嘘!? なんであんたが!?」

 

 大きな声を出したのは葉子。おかげで周囲の人達がみんな注目して来る。その直後に草太も華も前を向いて他人のフリをした。

 視線に気付き、葉子は黙って顔を赤くしながら俯いた。

 

「あんたら……覚えてなさいよ……!」

「いや自爆じゃん」

「人の所為にしないで」

 

 しれっと黙らせつつ、華はさらに草太に声を掛ける。

 

「……また私達に相談しないで入隊を決めたの」

「え? ああ、まぁ……別に相談の必要もないと思ったから。なんて言われても入ってたし」

「……そうだけど」

 

 スカウトされたのは自分だけだし、言う必要性は感じなかった。いや、まぁなんかそういう話題の流れになったら言えば良いかな、みたいなそんなつもりだった。

 

「別に隠してたわけじゃないって。頃合い見て話すつもりだったっての」

「それなら、誘ってくれても良かったんじゃない?」

「いや、お前まだ従兄弟の家で過ごし始めたばっかじゃん。暮らしが落ち着くまでは、新しい事は始めない方が良いっしょ」

「……」

 

 一応、思っていたことだ。どうせ華のことだから、ボーダーの存在が公表されれば入りたがると思っていた。そして、それを話せば葉子もついてくる。

 ちょうどスカウトされたのだから、草太は先にボーダーに潜り込んで腕を磨いておけば二人を守ることができるようになる。

 

「まぁ……そうだけど」

「黙ってたのは悪かったよ。華がボーダーに入ったら、その時に組もう」

「うん」

 

 まぁ、そもそも組むというシステムがあるのかはわからないが……まぁ、あるだろう。人間は手を組むことで強くなる。ゲームでさえそうなのだから、本当に戦う仕事ならば尚更だろう。

 

「アタシも忘れないでよね」

 

 そんな中、葉子が口を挟んできた。

 

「えっ、お前も入んの?」

「なんで入らないのよ」

「いや、だってバカじゃん」

「誰がバカ!?」

 

 また大声を出す。当然、周囲の視線は葉子に集まり、そして当然、華と草太は無視して前を向く。

 二度目なだけあって、流石にスピーチ中の校長から注意が入る。

 

『そこの生徒、静かにしなさい』

「んなっ……な、なんでアタシだけ……!」

 

 奥歯を噛み締めながら、渋々俯く。そして、じろりとコチラを見る。

 

「あんた達ほんと……」

「いや学べよ」

「まったくよ」

「……」

 

 とはいえ、次に同じことがあったら流石に草太も華もバレる。これ以上は余計なことは話さず、華は真面目に聞いて、草太は眠る事にした。

 

 ×××

 

 クラスは大変都合が良いことに、華と葉子と同じクラス。今年から中学生なわけだが、まだまだ制服のサイズが合わないので似合っていない。

 もう慣れたものだが、草太と葉子は隣の席。苗字が同じなんだから当然と言えば当然だろう。

 その席は、ラッキーなことに廊下側最後尾である。窓際ほどではないが、これで好きなときに寝れる。

 

「またあんたが隣かー……もういい加減、飽きたわ」

「俺もだわ」

「ちょっとあんた何姉に生意気な態度取ってんの?」

「姉が先に言いだしたんじゃん……」

 

 なんというか、本当に勝手な姉である。まぁ、今に始まった事ではないし、特に何か思うこともないが。

 

「しっかし、制服って慣れないわ。特にブレザーっての? 肩凝りそうでしんどい」

「それは分かる。もっと動きやすい服のが良いよね」

「ていうか意味あんの? この服装」

「中学の頃からこういう服に慣れておけってことなんじゃね。社会に出たら基本みんなスーツだし」

「うっげー……なんで肩凝る服を制服にすんの社会は……」

「人の肩凝りより形式が大事ってことなんじゃね」

 

 まぁ、気持ちは分からんでもないが。何事もまずは形から入るもので、ある程度は服装をきちんと整えておけば、周りからは「あ、ちゃんとしてる所だな」と見られる。

 それは髪型も同じことで「ある程度は整えるのが当たり前」という風に常識とされる面ではしっかり整えなければ非常識の烙印を押されるのだ。

 人の第一印象は基本的に外見で決まるから、それを身につける為のものだろう……なんてところまで思った直後、ふと気が付いてしまった。

 

「なぁ、葉子」

「? 何?」

「制服が社会に慣れるための第一歩なんだとしたら、なんで中学から女子は化粧解禁になったりしないんだろうな?」

「は? 知らないけど。てか何急に?」

 

 もしかして、若いうちから化粧すると肌に良くないとかあるのだろうか? 正直、よく分からないが……まぁ、間違いなくどうでも良いので忘れることにしようとした時だった。

 

「え、まさかあんた……化粧に興味あんの? 男のくせに……」

「黙り禿げろバカ姉貴」

「黙り禿げろ!? 何言ってんの!?」

 

 なんて騒ぎ始めた時だった。ふと、前の席の男子がこちらに振り向いてくる。

 

「二人とも仲良いな?」

 

 そんな風に聞いてきたのは、髪型を短く揃えた目つきの鋭い相手だった。

 だが、その割に感情は穏やかなものだ。

 

「あ、急にすまん。静かな教室でつい会話が耳に入ってきたもんだから。……二人とも姉弟なのか?」

「そうだよ。双子」

「あんた誰?」

 

 葉子がやたらと警戒した様子の声音で聞き返す。別にナンパのつもりはなさそうなのだが、小6のプールでは胸を見られたりとかして男子に対する警戒心は上がっているのだろう。

 

「俺は歌川遼。よろしく」

「俺は兄貴の香取草太。で、こっちが妹の葉子」

「なんであんただから意味のない嘘をつくの!? アタシが姉だから!」

「いや、落ち着き具合から分かりづらいかなって思って」

「どういう意味!?」

「ははは、分かってるよ。さっきの話、聞こえてたし」

 

 そういえば、確かに「ちょっとあんた何姉に生意気な態度取ってんの?」「姉が先に言いだしたんじゃん……」という会話をした。しかし、よく覚えていたものだ。

 

「双子ってことは……そうか。そりゃ隣同士になるか」

「ならなくても、1席ズレるかズレないかの差しかないんだよね。だから、毎回セットで覚えられる」

「なんか楽しそうで良いな」

「何も良くないから。こいつ、人前でアタシのことイジるから周りの奴も調子に乗り始めんのよねー」

「面白」

「あんたが面白がんな!」

 

 なんていうやりとりを見ても、歌川は微笑ましそうな笑みを絶やさない。こいつ、本当に中学生だろうか? いや、草太の言えることではないが。

 

「まぁ、とにかくよろしくな」

「ん」

「気が向いたら」

 

 それだけ話して、とりあえず話題は切れた。そろそろ先生が来る頃合いと踏んだのだろう。

 なんていうか……本当に落ち着いた奴だな、なんて思ってしまったり。自身の「副作用」と呼ばれる能力を使うまでもないくらい、会話を誘導する必要とか無かった。

 

「葉子、良かったな。お前に友達ができて」

「だぁから、どういう意味で言ってんの!?」

 

 なんて引き続き姉をイジりながら、先生が来るまで騒ぎ続けた。

 さて、その日には当然、授業などはなく、部活動の見学もガイダンスで部活動紹介というものを行われてから。

 つまり、早くも放課後。そして、ボーダーとして活動する最初の一日目だ。

 

「華ー、帰るよー」

「うん」

 

 二人で華のお迎えに行って声を掛ける。三人でカバンを背負って廊下に出たタイミングで、草太の目に入ったのは華の手袋。

 そういえば、葉子を救出する際、華は手を怪我してその跡が残ってしまったのか今でも手袋をしている。

 

「そういえば華、その手袋は中学でもしてて良いって?」

「うん。大規模侵攻の爪痕はまだまだ残ってるから、先生も深くは聞いてこなかった」

「どうせならさ、可愛いやつとかにしちゃえば? 猫の柄とか」

「ううん、可愛い奴はペンとか握りづらいから」

 

 葉子がアホな提案をしているが、普通に拒否られる。草太も「でしょうね」って感じ。

 しかし、ボーダーが発表した「近界民」とやらも余計な真似をしてくれたものだ。これが地震とかの災害なら受け入れられるが、ほぼ人害と言っても過言ではないことなのだから、多くの人が憤っている事だろう。

 それは、遺族だけではない。こういう怪我とかも同じだ。

 ま、そういう手助けは今後もしてあげた方が良いだろう。昇降口で下駄箱の靴を華が取る前に草太が取って床に置いてあげながら、声をかけてやった。

 

「華、お前の手袋の生活、慣れるまで頑張って。俺らも出来る限りの事するから」

「ありがとう。……でもそれはあなたに言われたくない」

「え?」

 

 どういう意味だろうか? こちらは別に支障とか特に出ていないが……あ、制服の裾とかのことだろうか? 

 靴を履き替えて学校を出ながら、片眉を上げて聞いた。

 

「いや別にブカブカだけどそんなに不具合ないよ制服」

「そっちじゃない。足」

「足……ああ、これ?」

「それ以外何があるの」

 

 もう忘れていた。特にここ最近は走るイベントもない。まぁ強いて言うなら華と走りに行くイベントがなくなってしまったが……あれはそもそも、華が従兄弟の家に行ってしまった時点でもうおしまいである。

 

「これは別に平気。もう走れない生活にも慣れたし」

「……そんなに早く?」

「? だって走んなきゃ良いだけじゃん」

 

 走るという行為も、体育を除けば特に発生しない。朝も早めに起きれば良いだけだ。そんなに辛いことでもない。なんだかあの大規模侵攻以来、随分と気が落ち着くようになってきている。

 また「やらなきゃ良いことはやらない」という当たり前のことを言い聞かせるだけだ。

 

「でも草太くん、サッカー部に入ること考えてたでしょ?」

「あれはもう諦めたわ。無理だし。まぁ、仕方ない」

「……」

 

 なんて話をしていると、葉子が横から口を挟んだ。半眼になったまま、軽く引いた様子で言ってくる。

 

「うわー……あんた、ロボットか何かなの?」

「誰がロボットだよ」

「普通、走れないってわかっててもつい走ろうとしちゃうことあるでしょ」

「ないよ。だからお前はアホなんだぞ葉子」

「表出ろー!」

「ここ表」

 

 なんて話しながら帰宅していると、ふと何か心配しているような感情が入ってくる。華からのものだ。

 顔を見るといつものポーカーフェイスでありながらも、冷や汗を流してコチラを見ていた。

 

「華……どうかした?」

「……ねぇ、草太くん」

「何?」

「前々から思っていたんだけど、聞いても良い?」

「や、だから何?」

「……あなた、何かメンタリスト系の勉強とかしてる?」

「……え、急に何?」

 

 と、返しつつも、すぐに刷り込まれた感情を理解した。心配半分、探り半分というところか。何か、気になっていることがあるらしい。

 本当はメンタリストの勉強とか思ってもいないのは分かっている。心理学系の名前を出すことで、こちらが本当は何かしら特別な力を持っているのかと揺さぶって来ているのだ。

 まぁ、副作用のことは言わなくてもいずれバレることなのかもしれないが……いや、そもそも入隊前の人に副作用の存在を言ってはならない。入隊まで黙っていた方が良いだろう。

 

「ちょっと華、何言ってんの? こいつにそんな能力あったらアタシをあんなに怒らせるわけないじゃん?」

「いや、それは葉子だから『まぁいっか』って思ってるだけ」

「どういう意味!?」

「で、どうなの? 草太くん」

 

 強引に話をねじ込んできた。おそらく、何かしらのヒントを得ようとするつもりだ。勿論、それを聞かれればこちらの答えは決まっている。

 

「うん、してる。動画とかで」

「…………えっ?」

「え、してんの!?」

「してるよー。割と数年前から。心理学に前から興味あってさー。これさえあれば、色々と得できそうだし」

 

 勿論、していない。でも、その「うんと言われると思ってなかった質問」を肯定しておけば、向こうの考えは思い過ごしということになる。そして、それ以上の質問は不自然だから聞いてこない。

 

「……そ、そうなの」

「え、じゃあまさか……あんたがアタシを怒らせてるのも、もしかしてアタシはマインドコントロール的なことをされて……」

「いや、葉子は適当に遊んでるだけ」

「あんた姉をなんだと思ってんの!?」

 

 葉子のこういう所、本当に助かる。このオーバーリアクション、話を逸らすのに最適過ぎる。いつかは葉子も落ち着く日が来るのだろうか? 

 そんな中、華がボソッと呟いた。

 

「そうなの……てっきり、人の心でもわかるのかと思ってた」

「いや、そんなわけないっしょ」

 

 なんて話しながら、そろそろ分岐点に到着した。ここを草太はまっすぐ行かなければ基地に繋がる地下通路に着かないし、葉子と華は左右に別れる。

 

「じゃあ、俺こっちだから」

「は? あ、そっか。ボーダーか」

「……じゃあ、葉子。草太くん、またね」

「じゃ、また明日ね」

「うぃー」

 

 それだけ話して、草太はのんびり歩いて基地に向かった。

 しかし、人の心か……と、ため息が漏れる。そんなの、嫌と言うほどわかる。だって勝手に入ってくるんだから。どいつがどういう奴でこういうリアクションをしたらどうするのか、とかそういうのまで予測出来るようになって来た。

 むしろ、分からないのは自分の気持ちである。大規模侵攻の時も、走れないと分かった時も、忍田と親の前でトリガーを使って走れた時も、ずっと平常心過ぎた。それこそ葉子が言うように、本当にロボットかのように。

 

「……」

 

 ま、別にどうでも良い。どの道、進路はもう決めている。ボーダーでは給料も出るし、ここの正社員になって過ごしていく。

 自分のせこい力を「副作用」と能力のうちと認めてくれる就職先はここだけだろう。ならば、自分はここで働いていくべきだ。

 むしろロボットくらい感情を失った方が出世出来るのかもしれない。

 ボーダー本部につながる地下通路の前に到着したので、中へ入る。さて、今日はその第一歩だ。

 気合を入れて、通路を通った。

 

 

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