葉子ちゃんの弟は似ても似つかない。   作:バナハロ

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初期のボーダーのトリガーに射手も銃手もないことを初めて知りましたが、まぁ主人公は怪我の影響で入隊が三ヶ月くらい遅れているので「その三ヶ月の間にアステロイドくらい作られてそう」ということにしといてください。
すみません、にわかで。


頭より身体を動かせ。

 ボーダーでの訓練生活も一週間続いた。その一週間で、大体の隊員の顔を覚えることができた。

 

「よう、草太!」

「おーっす、ザキさん! ……と、嵐山さん!」

 

 顔を合わせるなりハイタッチしたのは、茶髪で髪の短い先輩だ。名前は、柿崎国治。自分と同じ訓練生だ。その隣には嵐山准の姿もある。

 

「おっす、元気だな今日も」

「そうですか?」

 

 ボーダーの何が良いって、実力主義な所だ。こちらがわざわざ他人に好かれるような態度を選択せずとも、特に困ることはない。それが、かなり楽だ。他人の感情は相変わらず入ってくるが、それが変に歪んでいたりやたらと過剰に激しかったりすることはない。

 それ故か、リラックスしていられるものだ。

 

「お二人はこれから何か用事ですか?」

「ああ、広報も兼ねてるからな。根付さんと打ち合わせだ」

 

 そういえば、入隊した時にこの二人は記者会見に出ていた。テレビで見ていただけなので感情とかはわからなかったが、嵐山は随分と上手く記者の質問を避けていたのを覚えている。

 

「そうですか。お疲れ様です」

「いや、そんな疲れるようなことはしてねーよ。まだ俺らも訓練生だし、顔を出す機会もそんなないからな」

「でもすごいですよ。訓練と広報両方やるって、主にメンタル的に疲れそうで」

「ははっ、まぁな。でも、これでボーダー隊員が増えるなら、それに越したことはないだろ?」

 

 それはその通りだ。……が、イケメン目的とか浮ついた理由で来られても困るというのが本音でもあったりなかったり。

 

「じゃ、またな」

「草太も頑張れよ」

「あ、はい」

 

 そのまま二人と別れた。

 さて、のんびりと草太はランク戦会場に向かう。C級隊員の合同訓練でポイントを稼いだりするが、やはりもっとも早く正隊員に上がるにはランク戦だろう。

 もっとも、草太は正隊員になる事をあまり急いでいないが。何せ、ちゃんと実力をつけないまま上がっても意味はない。ちゃんと強くなってからが良いだろう。それは、戦闘面だけでなく、合同訓練にある「追跡」「地形踏破」「隠密行動」などにおいても同様だ。

 特に、スナイパーならそれら全て使うこともあるだろうし、きちんと実力をつけてから次に上がるべきだ。

 そんな風に考えながらも……まぁ、対人戦の経験は必要になるだろうし、今はランク戦である。

 

「よし、やるか〜」

 

 適当な部屋に入って、軽く伸びをする。さて、ポイントを稼ぐには、やはりランク戦が早い。

 早速、適当な相手を選んで戦闘を開始する。ステージは市街地。まぁランダムなので割とどこでも良いが。

 割と目の前に現れるので、本当に腕を磨く用の戦闘だ。

 

「あら、草太くん」

「加古さん」

 

 口元にほくろがある綺麗な女性の先輩だ。しかも強い。どうしたものかな、と冷や汗を流してしまうが……まぁ仕方ない。やってやるしかないんだから。

 すぐにホルスターから銃を抜いて構え、2〜3発射撃。それを横に避けながら、アステロイドを放ってくる。

 それを横に飛び退きながら避けつつ、銃を抜いて射撃。それも避けられてしまうので、とりあえず走って距離を置いた。

 

「あら、逃げちゃうの?」

「逃げます」

 

 そのまま走って建物の路地に入る。

 無理だ。前までは早撃ち勝負なら射手より銃手の方が分があると思っていた。

 だが、銃も所詮は「銃を抜く→構える→狙う→引き金を引く」の4アクションが必要になる。

 そして、射手は「トリオンを設定する→トリオンを出す→放つ」の3アクション。どう考えても勝てない。

 そうでなくても、相手は一度に放つ弾速、弾量、飛ばす方向全てをコントロール出来るのだ。最初の「よーいドンっ」で外したら負けなのだ。

 

「もう少し、射撃の精度上げないとなぁ……」

 

 そんなことを思っている間に、追ってきた加古からトリオンキューブを出される。

 狭い路地に逃げて来た理由はこれだ。狭い場所なら弾を散らせる意味がない。故に相手は速度に振るしかないわけだが、射手ならトリオンキューブを出した時点で攻撃のタイミングがわかる。

 

「よっと!」

 

 なので、地形踏破訓練を活かすところだ。壁を蹴ってジャンプして上に逃げた。

 

「!」

 

 そのまま加古を飛び越えつつ、銃口を向けて発砲。中に入ってくる感情的にも、完全に虚をついた。……しかし、まだこんなアクロバティックな動きをしながら弾を当てる技術は身についていなくて。

 

「危なっ……!」

 

 加古の頬を掠めただけで致命傷には至らなかった。そして、正気に戻った加古は再び射撃。草太は屋根の上に登って次の作戦に入る。

 日本の家の屋根は基本的に平べったい三角形になっているので、その高低差を利用して寝転がって隠れる。

 そして……追いかけてきたところを……。

 

「見つけた!」

「こっちもね」

 

 攻撃体勢のまま跳ね上がった加古が、キューブを一斉に放って来る前にこちらも射撃を行った。撃ったのは5発。

 が、加古が分散して後から放った弾に2発相殺された。それでも残り3発が加古のボディと肩に直撃する。

 そして……加古から放たれたその他の弾丸が降り注がれた。

 

「!」

 

 何発かは屋根の角に当たるも、他の数発は確実に直撃コース。転がって立ち上がって回避するが、片腕と脇腹に穴が空く。

 

「っ……!」

「やったわね?」

「いやお互い様じゃね」

 

 適当に返しながら、後ろに身を預けて屋根から転がり降りる。射手を相手に上を取られた時点で負けだが、それでもこのままやるよりマシだ。

 そのまま、今度は向かい側の家の窓に銃で穴を開けてから、身体ごと突っ込んで潜り込んだ。

 そして、民家の中で身を隠す。狭い家の中なら何とかなるだろう。遮蔽物になる壁とかを壊され続けたらやばいが、それをさせないように立ち回れば良い。

 ……問題は、片手がないこと。草太は今まで両手で銃を握って撃っていた。何となく、そうした方が撃つ時に手が震えない気がしたから。

 それに、こういう室内戦闘では壁に身を寄せて移動する際、撃たない方の手が邪魔になったりする事もあるのだが、こうして両手で撃つとそれを感じなかったりする。

 だが、肘から下がない。これ、割と邪魔だ。

 

「……」

 

 まぁ、やるしかない。覚悟を決めて、そのまま正面衝突は避けて戦闘を行なった。

 

 ×××

 

 翌日、学校にて。昼休みになり、食事を摂ろうと華は草太と葉子を誘うことにする。

 そう思い、その席の方に歩いたのだが……なんか、揉めていた。

 

「ちょっと、草太! お昼くらい食べなさいよ!」

「大丈夫。ダイエット中だから」

「どこにその必要が!? あんたアタシより軽いでしょ!」

「数値がどうこうという問題じゃない。大切なのは、自己で自己を顧みた時、どうあるべきかと考え、行動することだ」

「いや意味わかんないこと言ってないでご飯!」

 

 適当に小難しいことを言って誤魔化そうとしているのが目で見てわかるようなあしらい方をしていた。当然、葉子は怒っている。で、まぁ話の中身も大体わかったので、流石に草太が悪いから声を掛ける。

 

「草太くん、お昼食べないの?」

「あ、華! 言ってやって言ってやって! こいつバカだから超バカ!」

「黙れウルトラバカ」

 

 なんか小学生みたいなやりとりに、思わず華は違和感を覚える。草太は前から葉子を馬鹿にして楽しんでいたが、割と直球でバカにすることが多かった。

 だが、さっきの中途半端に丸め込もうとしている言い方は、何だか馬鹿にしているにしては遠回しで、丸め込もうとするにしては弱い言い分で中途半端。いつも以上によく分からなかった。

 と、思っていると、草太の手元が目に入った。スマホで動画を見ている。

 

「何見てるの?」

「動画」

 

 ……大丈夫、事実を言われただけ。冷静に考えればそれほどイラつくことでもない。

 グッと堪えて改めて聞いた。

 

「だから、何の動画?」

「スマホの動画」

 

 ……大丈夫、それも事実は事実。こちらの聞き方が悪かった、そう思えばイラっとしない。

 さらに堪えて、今度こそ簡潔に聞いた。

 

「そのスマートフォンの画面にはどういう内容の、どういった類の動画が流れているの?」

「カッコ良い動画」

 

 イラッ、とする以上に、泣きそうになった。昔の草太は、華をこういう適当なあしらい方をする人ではなかったのに。

 というか、ボーダーに入ってからずっとだ。たまに上の空だし、目の前で話しているようで別のこと考えてそうだったし、一人で何か動画見てることも多いし。

 そもそも、環境も大きく変わった。住む所も隣ではなくなって、放課後に過ごす場所も変わってきて……中学になると異性の幼馴染って関係は継続が難しくなるとは思っていたけれど、こんなに早くダメになるなんて……こんな事になるならいっそ、別のクラスになった方が楽だったかも……。

 なんて事まで考えたところでじわっと目尻に涙が浮かび、そのタイミングで草太が顔を上げてギョッとした。

 

「ちょっ、は、華?」

「っ!? あ、あんた何華泣かせてんのよ!」

「あ、あー……ごめんごめん! 嘘だよ華、飯食うし何の動画見てたか教えるし……あー、あと今日の放課後は久々に一緒に遊びに行こう! 俺の奢りで! だから泣くなって!」

「……うるさい。泣いてない。でも言ったからには守って」

「分かった!」

「あとほんとに泣いてない」

「分かった!!」

 

 そんなわけで、お昼を食べに行った。

 この中学には購買部があるので、そこで三人でパンを購入して教室で食べる。改めて草太がスマホの画面を見せてきた。

 

「これだよ。銃の撃ち方の動画」

「「銃?」」

「ボーダーでちょっとな……」

 

 何処までが機密で何処までが機密ではないのかイマイチ判断が難しいのだろう。ぼんやりした言い方しかしなかったので、それ以上は追求しなかった。

 それより気になるのは、その銃の撃ち方で何か悩みがあるという点だ。

 

「どんな悩み?」

「色々と詳細は省くけど、要約するとこの三つ。まず『最初の一撃がどうしても遅くなる』」

 

 言いながら、まずは人差し指を立て、次は中指を伸ばす。

 

「『姿勢を保っていないと相手に弾が当てられない』」

 

 それはどういう意味? と思ったがとりあえず今は三つ目に耳を傾けた。

 

「『片手で撃てない』」

 

 そう言って、最後の薬指を立てる。その三つが課題らしい。いまいちピンと来ない内容が多いのは葉子も同じみたいなので、とりあえず聞いてみることにした。

 

「どういうこと?」

「一つ目のやつからな」

 

 こちらがピンときていないことを理解していたのか、説明してくれた。

 

「例えば、俺と葉子が今から撃ち合いを始めるとするだろ?」

「絶対勝つわ」

「頑張って。そしたら、銃を撃つにはまず」

「何弟らしからぬ流し方してんのよ! あんたいい加減にしなさいよ!?」

「頼むから少し黄昏ててくれ」

「黙れって言われた方がいらっとしないんだけど!」

 

 いや、でも基本的には喧しい葉子が悪いので、ここは華も何も言えない。それよりも、続きだ。

 

「それで?」

「その場合、銃を撃つには銃を抜いて構えて狙って撃つ、の4工程が必要っしょ? これを何とか短くしたいってのが一つ目」

「……なるほど」

 

 それは確かに難しい。その4工程の精度を上げて速度を早めるくらいしか思いつかない……のだが、それは今すぐに出来ることでもないだろう。

 

「そんなの、全部早くやれば良いだけじゃん」

「うんありがとー。で、二つ目なんだけど……」

「アタシはWeb会議の邪魔をする社長の子供か!?」

「葉子、静かに」

「華まで!?」

 

 しれっと黙らせてから、次の話に耳を傾けた。

 

「二つ目は……まぁ言い方が悪かったかもだけどジャンプしながらとか、爆風に吹っ飛ばされながらとか、受け身を取りながらとか、そういう姿勢で撃ちたいって話」

「ゲームなら楽勝じゃん」

「真面目な話をしている時にそういうことを言うから、お前は赤ちゃん扱いされるんだぞ?」

「赤ちゃん!?」

「分かったから草太、三つ目を話して」

 

 とにかく、先の話を促した。昼休みには限りがあるので、さっさと話を聞かないと聞ききれない。

 

「三つ目は……まぁ言った通り。片手で撃つ練習をすれば良いんだけど……それが難しいんだよね」

「とにかく、それで動画を見てたと?」

「そういうこと。俺別に銃の天才じゃないし。撃てるようになるには、まず参考動画とか欲しいなって」

 

 なるほど、と思いつつも……やはり、華は少しむすっとしてしまう。別に隠すことでもないのに、何であんな会話自体を拒否するような言い方をしたのか。

 それは一つしかない。説明するのが面倒だったからだ。そんな時間があるなら、少しでも動画を見て動きを頭に叩き込みたいと思ったのだろう。それが気に入らない。

 だって……こいつ小学生の時、華に勉強を休ませようとしていた奴だからだ。息抜きがある方が勉強が捗る事を教えてくれたのは自分の癖に。

 

「……学校にいるのに、ボーダーのことばっかりなんだ。草太くんは」

「え?」

「とても、小5の時に人が勉強中の部屋に乗り込んできて葉子から強奪したココアを飲ませてきた人とは思えない」

「ちょっ、お前何いきなり暴露して……」

「は? 待って。アタシのココア強奪って何? 小5って……あ、そういえば無くなってたことあった! あれ兄貴が勝手に飲んだんじゃないの!?」

 

 どうやら葉子には嘘をずっと貫き通していたらしい。ちょっと悪いことをしたが、そんなの知ったことではない。元は草太が蒔いた種である。

 

「いや、あれはその……てか華、お前何いきなり……」

「私はただ、人がお昼に誘ってるのにあんな言い方であしらわれてムカついてるの」

「あ、あー……いや、だから今日の放課後付き合うから……」

「そんなのいい。ボーダーの仕事も大事だから。……でも、だからこそメリハリつけて、私や葉子と過ごせる時くらいはもう少し付き合い良くしてほしいって言ってるだけ」

「……」

「……」

 

 なんか……言ってから恥ずかしくなってきた。言い分が、テレワーク中の父親が構ってくれないから駄々を捏ねている子供と同じな気がする。その言い分を同級生に向けているのだから、恥ずかしくて当然かもしれない。

 ……いやでも、怒っているんだからやっぱり恥ずかしくない。意地でも反省させてやる。

 

「わ、悪かったよ……ごめんね、華。葉子も」

「ん」

「いや、いいからココア返して」

「お前はそっちかよ」

「あの時、お兄ちゃんにココア奢ってもらっちゃったんだけど!?」

「なら良いじゃん別に」

「あんたからも返せー!」

「何少し得しようとしちゃってんの?」

 

 なんて話を眺めながら、まぁ今回は許すことにした。別にボーダーの活動に熱心なのは良い。どうせ後から華や葉子も入るし、先に入って視察しておいてもらえるのはありがたい。

 でも、やはり少し寂しいから学校にいる時くらい構って欲しい。それも本音だった。

 少し、我ながら子供っぽいな、と思いながら、とりあえず華はさっきの悩みの件も頭に入れておくことにする。草太には何度も助けられてきたし、こういう機会くらいは助け返してやりたい。

 

「ていうか草太、あんたそもそもアタシに対しては大雑把なのに他のことはゴチャゴチャ考え過ぎなんじゃないの?」

「あ?」

 

 すると、葉子が急に何か思ったのか、そんなことを言いはじめる。

 

「さっきの銃の話だってそうでしょ。なんか色々悩んでたけど、結局銃なんて銃口が相手に向いてれば後は銃弾がその方向に飛ぶだけなんでしょ。それで良いじゃん」

「いや、それが割と難しいから調べて……」

「そんなの細かく調べたって調べなくったって、要は当たればそれで良いんだから、もっと感覚で適当に考えなさいよ」

「……」

 

 ……そういうダイナミックなアドバイスは、葉子らしいなと思った。でも、的を射ている。確かに、色々勉強して正しいフォームとか覚えて理屈を叩き込むのも大事だが、戦いの場だったら結局は相手に弾が当たるか否か、それだけな気もする。

 だとしたら……それは葉子の言い分が正しい。

 それは、草太も同じことを思ったのかもしれない。

 

「……それは確かにそうかもな」

「でしょ?」

「葉子、お前実は俺の姉だったのか?」

「そうよ! 新事実でも何でもないけどね!」

「サンキュ。少しなんか考えがまとまった気がする」

 

 ……とはいえ、それは天才型の葉子だから出来ることなのかもしれない。

 やはり必要な知識があるのだとしたら、それは華から教えようと思い、とりあえず今度、図書館で銃の本を探してみることにした。

 

 

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