葉子ちゃんの弟は似ても似つかない。   作:バナハロ

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主人公が「手が震えない気がした」と言ったのは、撃った時の反動ではなく、引き金を引いた時に狙った照準が少し震えてしまう事です。彼は割と不器用なので、練習しないと狙いを定めるのも下手くそなのに、そのまま引き金を引くとかしたらそれだけで少し手が震えます。まぁ今回の話ではもう治ってますが。
すみません。わかりにくくて。


練習は裏切らないけど結果が出せるかは別。

 それから、およそ一ヶ月ほど経過した。B級隊員に上がった風間蒼也は、防衛任務を終えて一人、廊下を歩いていた。その風間の元に、後ろから声を掛けてくる男が一人。

 

「おーい、風間さん」

「……太刀川、何か用か?」

 

 声を掛けてきたのは、太刀川慶。飄々としている癖に自分よりアタッカーランクが高い男で、割と気に入らないけど認めざるを得ない男だ。

 

「今帰り? 一緒に帰んない?」

「……もう本部を出るぞ。荷物があるなら早く持って来い」

「大丈夫、俺今日手ぶらだから」

 

 よく手ぶらで出掛けられるな、と思ったが、まぁこの男のズボラさは今に始まった事ではない。

 そのまま二人で出口に向かった。

 

「そういや風間さん、知ってる? 最近、訓練室にお化けが出るらしいよ」

「いや、知らん。というか興味もない」

 

 何だお化けって、と呆れてしまう。ボーダーには学生が多いが、やはりその手の下らない噂はここでも広がるものなのか。

 

「俺も小南から聞いたばっかなんだけどさ、なんか訓練室のとある一室に、人が朝から晩までずっと引きこもったまま出て来ない開かずの間があるらしいよ」

「早いな、開かずの間が出来るの」

 

 この本部が出来てまだ半年にもならないうちに開かなくなるとか、立て付けが悪いにも程がある。

 

「あ、因みに朝から晩まで開かないのは土日限定ね。平日は夕方から夜まで」

「確実に誰か学生が訓練してるだけだろうそれは」

「や、でもさ、一日出てこないなんて事ある?」

「……」

 

 そう言われると確かに気になる。風間も鍛錬はする方だが、丸一日は無理だ。途中で休憩を入れたり、食事にしたりはする。

 

「しかも、その部屋から声は一つも聞こえて来ないんだって。銃声となんかジタバタしてるような激しい足音ばかり聞こえてくるらしい」

「……ふんっ、まぁどうでも良いが」

 

 気にはなる……が、まぁそれが誰か訓練しているという話なら、やはり気にしなくても良いだろう。ランク戦もせずに訓練をする隊員は珍しいが、悪いことではない。

 

「てか、今の時間ならまだやってそうだし、見に行かない?」

「何故そうなる。もう帰ると言っただろう」

「一瞬だけ。ほら行こう」

「離せ」

 

 腕を掴まれたので抗議したが、まるで無視である。そのままその例の訓練室に連行された。

 ボーダー本部は人が増えた時にはいくつかの小隊を作るつもりのようで、その小隊ごとの作戦室になる部屋がいくつか用意されている。

 が、まだ使われていない部屋もあるわけで、今はそこがフリーで使える訓練室となっている。

 風間は太刀川に連行され、その開かずの間とやらの前に来た。

 

「……ここか」

「お邪魔しまーす」

「緊張感無しか」

 

 その作戦室の中に入ると、当然だが部屋には何もない。机と椅子があるくらいだ。あと、その机の上にスマホが置いてある。

 

「そういえば風間さん、将来は自分の部隊作んの?」

「当たり前だ。既にある程度、どういう部隊にするかの構想もある」

「へぇー、すげ〜な。俺なんも考えてねーや。……でも、俺もなんか部隊作りたいかな」

「お前が隊長? わらわせるな。お前に部下の面倒が見れるものか」

「面倒は見ない。勝手に戦わせる」

「それ隊長か?」

 

 なんて話しながら奥へ進むと、確かに銃声が聞こえて来る。二人ともすぐに誰かいることを理解し、訓練室の方を見た。

 

「……やっぱ誰かいるじゃん」

「……何者だ?」

「ボーダー隊員」

「いやそれはわかってるが」

 

 誰が訓練をしているのか……よくよく音を聞けば、確かに足音も聞こえる。しかも、かなり激しい音だ。

 そのままゆっくりと訓練室の方へ歩いている時だ。突如、二人の後ろから「ヴーッヴーッ」というバイブ音が鳴り響く。

 

「!」

「電話?」

 

 スマホの主に電話が来たのだろう。まぁ何にしても出るつもりはないが。

 無視して訓練室の中に入ると……そこは、市街地Aだった。そして、その市街地から銃声と人が走る音が聞こえる。

 ここから見える範囲で建物の屋根やベランダなどから人型の的が出現するが、それらは全て頭を射抜かれている。

 とりあえず、訓練中なら事故があり得るので、二人ともトリガーを起動した。

 

「……見事な腕だな。正隊員か?」

「さぁ?」

 

 銃弾が的に向かって飛んでいっている方向から逆算し、そっちへ歩いていくと……そこでは、見覚えのあるC級隊員が走りながら転がりつつも銃を握らせた右腕を伸ばして、目に映る的を撃ち落としていた。

 そのままさらにジャンプし、見事な身のこなしでジャンプ、屋根の上に跳ね上がりながら的を撃ち抜き、着地して転がりながらまた別の的を射抜く……という訓練を繰り返していた。

 

「あんな姿勢からよく当たるな」

「相当やり込んでるらしい」

 

 そのまま次の的、さらに次の的……と、破壊し終えたところで、ようやく足を止める。

 

「ふぅ……疲れた」

「おーい。香取」

「太刀川さんと風間さん。お疲れ様です」

 

 頃合いと思ったのか、太刀川が声をかけにいった。こちらに気付いていたようなリアクションで軽く手をふり返してくる。

 

「すみません、訓練中だったんで挨拶してなくて」

「いや、構わない。練習中に邪魔して悪かったな」

「やるなぁ、お前。結構良い腕してんな」

 

 太刀川がそう言うも、草太は変わった様子なく笑顔で答える。

 

「ありがとうございます。でも、まだまだです。タイム落ちてますし」

「落ちてたのかよ」

「お前、ずっとこんなことを続けてたのか?」

「ああ、はい。もう一ヶ月くらい」

 

 一ヶ月、と風間は息を呑む。普通、ランク戦などで腕を磨きたくなるものだと思うのだが……そういえば、最近ランク戦でもあまり姿を見かけない。

 

「ランク戦はしないのか?」

「俺のレベルじゃまだまだなんで……もう少し自信ついてからにします」

「いや……もう訓練生のレベルではないだろう」

「そんな事ないですよ。あんな程度じゃ。今、ランダムで敵を100体出現させて戦ってたんですけど、朝やってた時とタイム比べると10秒も落ちてますし」

「え、朝ってお前何時からやってんの?」

「今日は日曜なんで7時くらいですね」

「……」

 

 こいつ……もしかして、集中すると止まらなくなるタイプだろうか? というか、噂を思い出した。朝から晩までって……もしかして、昼も食べていないのだろうか? 

 

「飯は食べたのか?」

「飯? ……あー、そういやまだかも。そろそろ食いに行かないと。でも昼間って食堂混んでるからなぁ」

「昼? 何を言ってる。もう夜だぞ」

「あら、もうそんな時間……またやっちゃったよ……」

 

 決まりだ。こいつ、バカだ。のめり込むと周りが見えなくなって、自分のコンディションも把握できなくなるタイプ。

 流石に見かねたので、風間は小さくため息をついた。

 

「……この後、少し時間はあるか?」

「ありますけど……なんですか?」

「奢ってやる。飯いくぞ」

「マジか! サンキュー風間さん!」

「太刀川、お前には言ってない」

 

 あまりぶっ通しでやっても意味ないだろうに、こいつは分かっていなさそうだ。

 鍛錬をする奴は嫌いじゃないので、たまには先輩らしくしてやるのも良いだろう……と、思ったのだが、草太は真顔で答えた。

 

「え、いやいいっすよ別に。もう帰りの時間ならあともう少しで親から電話来るんで、それまではギリギリセーフなんで」

「電話ならさっき来てたぞ。というか、親から電話来てる時点でアウトだろ」

「……」

 

 すると、草太は少し黙り込んでから、すぐに笑顔になった。その笑顔は、少なくとも風間の目から見たらどう見ても胡散臭いもので……そして、13歳の子供が平気で作れて良いような笑顔でもない。

 

「分かりました。じゃあ……今日の所はもう帰ります。すみません、ご心配をおかけして」

 

 ……急に物分かりが良くなったように感じたのは気の所為だろうか? いや、でもそんなにゴネられていたわけでもないし、気の所為かもしれないが……。

 何にしても、そう言われたらこちらはこう答えるしかない。

 

「……いや、分かれば良い」

「それで、飯はどうする?」

「ご馳走になります」

 

 ちゃっかり笑顔で奢られにきた。適当にあしらわれていたのだとしたら断られるはずなので、やはり気の所為だろうか? 何にしても、あまり勘繰っても良いことはないだろう。

 そんな事を考えている時だった。自分の隣にいたはずの太刀川が声を掛ける。いつの間にか、腰に孤月を顕現させて。

 

「待った、風間さん」

「……おい」

 

 なんの用事かすぐに分かった。これだから血の気の多い奴は良くない。

 

「一勝負どうだ? 香取」

「え……俺と?」

「そうだ。せっかくたくさん練習したんだ。少しは成果を見せる場面があっても良いだろ?」

 

 どうやらさっきの訓練を見て興味を持ったらしい。相変わらず強敵に対する嗅覚が強い。

 さて、売られた側の草太はどうするのか? 1秒も考えることなく、指を指した。その先にあるのは部屋の中の机だ。

 

「親に連絡だけさせてください」

「どうぞ」

 

 との事で、なんか戦うことになった。

 

 ×××

 

 場所は市街地。風間は試合の全貌が見られるように制御室で声を掛ける。一応、草太に合わせてルールはお互いに武器一つのみ。開始位置は、お互いの距離15メートルほどからだ。

 太刀川は、ウキウキしていた。戦うのは好きだが、まさかこんな面白い奴がまだいたとは。アタッカー以外にはあまり目を向けていなかったが、それだからこそ少し楽しみだった。

 

『じゃあ、一本勝負。スタートだ』

 

 風間の掛け声の直後、太刀川は孤月を振りかぶって突撃し、そして草太は軽くバックステップしながらホルスターの銃を抜き、抜いた箇所から銃口を太刀川に向けて撃った。

 

「!」

 

 早撃ち、とすぐに太刀川は理解。振りかぶった孤月でボディに来た2発の弾を弾きつつ突貫しようとしたが、ドシュッと嫌な感覚が脚に入る。太ももに一発もらった。

 

「……」

 

 あの早撃ちで、すでに3発以上の弾丸を撃っていたらしい。中々、やってくれるものだ。

 だが、足が吹っ飛ぶほどの威力ではない。弾丸のトリガーはボーダーに出来てまだ間もない。故に、威力不足なのだろう。にしても初撃で足を狙いに来る性格の悪さは本当に面白い。

 草太はそのまま横の民家の屋根に跳ね上がりながら太刀川に銃を向けて射撃。これ以上はもらえない太刀川は……一時引くような事はせずに距離を詰めた。

 銃撃を回避しながら、同じように屋根の上に上がる。

 それが、先に分かっていたのか、草太は屋根の上から別の民家に下がりながら銃を撃ち続ける。

 頭かと思ったら脚、真ん中に来たと思ったら剣を握る手首を狙うなど、狙いに緩急を付けて撃ってくるので中々、追い付けない。

 

「はっはっはっ、イラついてきた」

 

 だが……それでも負けるつもりはない。少しずつ銃撃も目が慣れてきた。孤月で弾を斬り払いながら、草太が十字路の先に行ったのでその後を追い掛けようとする……時だった。

 足場にしようとした信号機に乗ろうとした直後、その信号機と電柱を繋ぐ部位に弾丸が直撃した。

 

「やべっ」

 

 直後、崩れて太刀川はそのまま地面に落下……する前に、電柱を足場にして蹴り、さらに接近する。

 が、草太を見失った。

 

「……逃げたか」

 

 まぁ、ずっと弾丸とか弾いてたし、当然と言えば当然だ。正面から崩せないから、搦手に回るつもりだろう。

 というか、分かっていたことだが足がかなり速く、割と追いつかなかったのもしんどい。あれがフル装備になったら尚更、面倒な隊員になりそうだ。

 

「さて、どうするかな」

 

 足は削られ、何発か掠めてトリオンは漏れているが、まぁ問題ない。あまり良い状況とは言えない状況にも関わらず、太刀川はニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

 ×××

 

「あの人何で死なないの?」

 

 そんな事を呟いたのは草太。割と頭の中では逃げながら緩急つけて撃った射撃で手足のどれかが死んでトリオン漏出で仕留めている予定だったのに、最初の太もも以外、ろくに当たった弾丸がない。

 やはり訓練と対人戦とでは違うということか。それなら、やはりそろそろ明日からランク戦に参加した方が良いか。

 何にしても、これ以上時間をかければ母親にキレられる。本当なら射程を保ってじっくりやりたいが、そんな時間は取れないので近距離戦を挑むしかない。

 

「よし、覚悟を決めよう」

 

 そう決めて、深呼吸をして建物から出た。当たり前だが、近づけば近づくほど射撃の精度は上がる。それで仕留められるなら万々歳だ。

 まず最初の一撃……まだ目視されていない間に、奇襲を仕掛ける。

 

「!」

 

 銃撃を2〜3発撃ちながら立ち上がり、屋根の上を移動しつつ接近。

 

「ははっ、良いなお前。そういうこともすんのか」

 

 弾丸を全て捌いた後、太刀川も距離を詰めてきた。入って来る太刀川の感情。どう読み取っても「ぶった斬る」である。

 だが、その感情にも緩急がある。斬るタイミングなどを押さえておけば、回避出来る。

 太刀川の斬撃を回避しながら、銃撃を放つ。その銃撃を太刀川は横に避けながら孤月で斬り払う。闘牛でもしているかのようなジャンプで回避して上を通り抜けながら、銃を放つ。

 その弾丸が太刀川の背中を掠めるが、気にする様子なく振り向きながら孤月を振り回す。草太は後ろの攻撃をノールックで前転しながら回避しつつ受け身を取り、銃撃を放つ。

 それを刀で弾きながら、太刀川はまた斬り掛かってきた。

 

「ははっ、躱すなぁオイ!」

「いやあんたに言われたくない」

 

 この人の感情、戦いが長引くほど高くなっていくのでこちらもつい憎まれ口が漏れる。相手のテンションに当てられてこちらも上がってしまうのは良くない傾向な気がする。抑えなければ。

 とりあえず、射撃を続けながら屋根の上から降る。当然、太刀川は降りて来るが、空中なら足場はない。ここで当てる。

 そう思ったのだが、落下中にあった電柱に刀を突き刺して身体を止めつつ弾丸を回避し、その電柱を斬り倒してこちらに倒してきた。

 

「!」

 

 その電柱を避けた直後、その避けた先に刀。回避したつもりだったが、左腕を取られた。

 簡単には負けない。右手の銃で脇腹を掠めた。それも気にする様子を見せずに孤月で斬りつけてきた。

 避けながら撃つが、躱される。この人、ほんとに超躱す。サイドエフェクトでも持っているのかと思うほど。

 こうなったら、もう仕方ない。身体を押さえてでも確実に当てに行くべきだろう。

 

「っ……!」

 

 斬撃を回避しながら後ろに下がりつつ、軽く後方に下がり……そして、後ろに跳んだ直後だった。

 食い付いてきた太刀川は、一気に刀を振り抜く。草太の足は飛んだが、何とか生きている。そして草太が後ろに飛んだ理由は、電柱を使うためだ。

 通り過ぎざまに電柱を掴んでクルリと周囲を回らせながら遠心力を使い、一気に太刀川へ接近する。

 

「!」

 

 1発撃って牽制をすると、その弾丸は横に斬り払われるがボディは開いた。タックルして押し倒し、マウントポジションを取る。

 そして、完全に動かなくしてから銃を突き付けた。これで終わり……と、思って引き金を引こうとしたときだ。握っていた銃口の先端がない。

 

「っ」

 

 どうやら、最初の斬り払いの時点で斬り裂かれていたらしい。すぐに新しい銃を切り替えて出したが、遅かった。マウントポジションということは、相手の孤月の圏内にいることになる。

 綺麗に押し倒した状態のまま身体を斬り裂かれ、敗北した。

 

 ×××

 

 夕食を終えて、風間は太刀川と別れて帰宅していた。草太を家の近くまで送ってから、自分の家に向かう。

 しかし……あの香取という少年、銃手でありながら太刀川とあそこまで近距離でやり合うとは。

 というより、まるで太刀川がいつ刀を振るうのか分かっているように避けていた。おそらく……サイドエフェクト。

 あれだけ近距離で戦える奴が、銃を持って中距離から襲ってくるのはかなり恐ろしいかもしれない。

 何にしても、面白い。ああいう戦い方が出来るやつもいるのか、と少し楽しみになって来た。

 本人は「負けは負け」とか言ってあまり喜んでいなかったが、太刀川を相手にあそこまで戦える奴がなかなかいない事を分かっていない。

 

「……ふっ」

 

 変わった奴がいるもんだ、と改めて思った。スナイパーになるつもりらしいが、これから先、どんなボーダー隊員になるのか楽しみにしながら、ひとまず帰宅した。

 

 

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