ペルソナの世界に『銀狼』の姿で転生してしまったんだが…… 作:クラウディ
――この物語は「フィクション」である。
――作中の如何なる人物、思想、事象も、全て紛れもなく、あなた達の現実に存在する人物、思想、事象とは無関係。
――以上のことに同意した者だけが、このゲームに参加する権利がある……。
――……へぇ? 参加するんだ?
――まぁいいよ。だけど今の世界は本当の姿じゃない。バグりまくってて、もう『ゲームオーバー』は免れられない。
――でもあなたはそんな定めに抗って、この『ゲーム』をクリアしようとするんでしょ?
――なら手伝ってあげるよ。
――『□□□□』さん?
「……なんなんだ今の夢……なんだよフィクションとかゲームとかトリックスターとか、しかもどっかで聞いた覚えのある声だったし……」
……なんか変な夢を見ていたようだ、昨日死ぬほど酒飲んで寝落ちしたからか?
しかもベッドから落下していたのか、背中に伝わる硬い床の感触と共に、ちゃんと休めなかった全身がバキバキ言ってるし、正直何もやりたくないレベルで億劫な気分になってくる。
「はぁ……今日も仕事だっていうのに……いっそ休んでやろうかな……? ……ん?」
どうせ今日も社会の荒波に揉まれてボドボドになるんだろうなぁ……と、思っていたのだが、ここで一つ違和感に気づき、体を起こしてそれを確かめることにした。
「……あー、あー。あー? え、俺ってこんな声高かったっけ……?」
そう、なーんかやたら自分の声がおかしくなっていたのである。
それも、寝ている間に喉を傷めて声がかすれているというわけではなく、それなりにカッコいいと思ってた渋い声から、それはもう可愛らしい女声に変わっていたのだ。
「寝ている間にヘリウムでも吸わされたか?」という頓珍漢な考えが頭に浮かぶかいくらなんでも現実味がなさ過ぎるので、この例はなかったことにしておく。
「んんっ……ん? 俺の腕こんな白くて細かったか……? あとなんか視線の高さにも違和感が……」
大きく伸びをした時、チラリと映った俺の腕にも違和感があった。
俺の記憶が確かなら俺の腕はもっと太かったはずだ。
ジムに通って体型維持とか気にしてたから、丸太……とまではいかなくともそれなりに太かったはずだ。
そして、視線の高さも低いことに気づく。
身長180以上はあった俺の肉体が、今は大体150も行かないくらいに低く感じる。
そう思って自分の体を確認すると……
「……な、なんだこの格好……?」
俺が纏っていたのはなんかやたら際どいパンク系の衣装だった。
色白の腹が丸見えのファー付きジャケットに、これまた丈が短いホットパンツ。
指貫きグローブを付け、そしてブーツを履いている様はものの見事にコスプレチックな服装である。
頭に手をやれば、お嬢様的なドリルになった綺麗な銀のポニーテールと、鮮やかな色合いのゴーグルがあるのも確認できた。
普段なら「コスプレでもさせられたのか……?」という考えが脳を過っただろう。
――だが、今この瞬間だけは違った。
「……!? は、え、う、嘘だろ……?」
サイバーパンク的な服装、銀髪ドリルポニーテール、特徴的な要素が全部脳内でつなぎ合わせられて……俺は気づいてしまったのである。
「お、俺『銀狼』になっとるぅううううううううううううう!!??」
そう、俺はとあるゲームに登場するキャラクター――『銀狼』になってしまったようである。
――「崩壊:スターレイル」。
海外のとあるゲーム会社が製作、運営をしている人気ゲームの一つであり、個人的にも大好きなゲームだ。
ターン性でありながらド派手な演出のバトルを楽しんだり、宇宙という広大な世界を舞台にした重厚なストーリー、様々な経歴を持つキャラクターが登場するといったこのゲームは、多くの人を楽しませているだろう。
そんなゲームの登場キャラクターの一人に、『銀狼』と言われるハッカーがいる。
彼女は宇宙を一つのゲームとみなすほどのゲーム好きな人物で、作中でも様々なゲームを遊んでいることが確認されていた。
「星核ハンター」と呼ばれる、世間的には凶悪犯罪者集団の一人でもある彼女だが、その実、仲間のことをよく気にかけてくれるほどに優しい心の持ち主である。
そんな彼女と同じ姿に、俺はなっていたのだ。
ハッキリ言って意味が分からない。
「いや、えぇ……? マジで何があったんだ……? と、とりあえず状況を整理しよう……」
いくらなんでも混乱続きの現状を少しでも打破しようとして、俺は自分の置かれた状況を整理しようとする。
「まず、俺の名前だな。俺の名前は……」
真っ先に整理しようとしたのは自分のことについて。
自分の名前くらいすぐにわかるだろうと軽い気持ちで思い出そうとしたのだが……
「名前、は……? お、俺の名前、な、なんだったっけ……?」
――そう、
どれだけ頭を捻っても、そこだけページを破り取られたかのように、きっかけになりそうなことすら思い出せない。
自分が気を失う前にしていたことは薄っすらと思い出せるというのに、名前に関わりのありそうなことはごっそりと無くなっている。
自分が誰かに名前を呼ばれていたシーンも、家族の名前も……まるで『俺』というものを証明する要素が消されてしまったかのように。
「え、俺、まさか……記憶、喪失……!?」
ブワッと全身に鳥肌が立つような感覚と共に、足に力が入らなくなってへたり込んでしまう。
何かを忘れるだけなら今までに何回もあった。
それこそ、宿題を忘れるとか、昔の些細なことを忘れるとか、その程度のことは何度もあった。
だけど『自分の名前』を忘れたことは今まで一度もない。
まるで、自分という存在が神様にでも消されてしまったみたいで……。
そう思うと、俺の心にはある感情が湧き上がり――
「……ふざけんなよ」
――
そうだ、まず俺がここにいる状況が何の理由もなしに放り出されたわけじゃない。
『何らかの存在』によって俺はこんな状況に立たされているはずだ。
無難に行くなら「実験」とかそこら辺だろう。こんな明らかに普通じゃない場所まで用意できるやつ……それこそ『神様』でもなきゃ不可能。
まぁ、そんな神気取りのやつに願ってやる気なんてサラサラねぇけどな。
まぁこんな状況、
「だけどな、勝手に遊び道具にされてるのは腹が立つんだよなぁ……!」
震える膝に喝を入れて立ち上がった俺は、今も見ているかもしれないクソ野郎に向けて大声で叫んだ。
「首洗って待ってろよクソ野郎! 何時かぶちのめしてやるからな!!」
こうして、何もない俺の物語はスタートしたのである。
「……っつっても、これからどうするべきか……」
ひとしきり叫んだあと、俺は改めて状況を確認する。
まず今いる場所……自分の姿が『銀狼』と同じになっているだろうということから正直考えたくなかったが、ここまでくると受け入れるしかない。
「ここ、明らかに『メメントス』だよな……」
周囲は「赤黒く染められた地下鉄」と言った方がいい場所であり、俺はその事からここを『メメントス』と認識した。
――『メメントス』。
俺の前世には『ペルソナ5』というゲームがあった。
某ゲーム会社が製作した『ペルソナシリーズ』の最新ナンバリングであり、悪党を改心させる怪盗となって世界を救うというなんとも心が踊る設定のゲームである。
俺自身、このゲームはとても好きで、噂によると俺の今の体の元となっている『銀狼』の登場する『崩壊:スターレイル』が、このペルソナシリーズに大きく影響を受けたとかなんとか。
そんなゲームの世界の一際危険な地帯に、俺は転生してしまったようである。
「それにしてはリスポーン地点が頭おかしい気がするんだが……」
メメントスから脱出できる地点を手探りで探しながら、俺はそう呟いてしまう。
なにせ、メメントスというところは『ペルソナ』に覚醒してないとロクに戦うことすらできない場所だからだ。
「ペルソナの世界にある場所で? 神様転生されたみたいな状況で? 俺の名前はすっぱりなくなってる……どう考えても、『アイツ』なんだろうなぁ……うへぇ、先が思いやられる……」
冷静になって考えると、こんな状況にできそうな存在がいることに気づいてしまい、昂っていた気分が落ち込みかける。
今の俺がどこまでできるかは知らないが、ハッキリ言って俺一人でアイツに立ち向かうのは「無理ゲー」に等しい。
そんな欝々とした気分になってたからなのか……
『ム! オマエ! ココデハミナイカオヒホ!』
『ココガオレサマタチノナワバリダトシラナイヒホネ!』
「うわっ、面倒なのに絡まれた」
明らかに敵対する気満々のカボチャお化け――『ジャックランタン』に絡まれてしまったのだ。
こうして、人生初のシャドウとの戦闘が始まったのである。