闇人と追放少女 作:寿司とお寿司に祝福を
ある日、森の中、人間に、出会った。
ろくでもない環境がウリの森の中。
もちろんろくでもない熊さんもいる森。
ある日、食事の為に獲物を探して散歩する俺は、森の中に嗅ぎなれないにおいがすることに気が付いた。
森で生まれた物は森のにおいがするので、違和感はすぐに分かる。
においの元へと向かい、辿り着いたのがこの毒沼である。
この毒沼は、ドクヌマンドラゴラと呼んでいる、引っこ抜くとえげつない酸の霧を吹きだすキモい根菜が、落ち葉や迂闊な獲物を溶かして栄養にするために生み出す、魔法混じりの毒沼だ。
ちなみに森の生物の正式な名前など知らない。これもその場の気分でつけたものだ。
昔、巨大なドクヌマンドラゴラの毒沼を見つけたと同時に、木々の狭間を器用にホバー移動する猪、ホバシシの群れに襲われ、全部突き落としたことがある。
勢いで身体の半分が沼に浸かったホバシシたちは、全て同じ様に粘度の高い毒液の中で暴れるも、ほんの数秒で電池が切れたように動きが大人しくなり、ゆっくりじわじわと沼の中心に向かいながら沈んでいるようだった。
帰り際の数十分経過後、5割沈んだのが、7割になった程度のホバシシを一匹引き上げたら、そいつは顔が完全に毒沼に埋まっていたのにも関わらず、引き上げてすぐに塊のような毒液を吐き出して呼吸を再開して、驚いた記憶がある。
ぐちゃぐちゃに溶けた顔で、か細く呼吸する以外に動かなかったから意識があったのかはわからないが、生きていることは確かだった。
だからこそ、この脱げた靴と、足裏らしきものだけが沼の水面に出ていたこれも、まだ一応生きている可能性がある。
足首の辺りを掴んで引き抜こうとすると、沼の中央辺りでブクブクと大きな泡が立ち始め、沼に波とも言えないような動きが出たが、近くで休眠中の巨木、ムサボリツリーを引っこ抜いて沼に刺したら、一瞬だけ更に激しく泡が噴出、ピリッとした味の空気が漂ったがすぐに大人しくなった。
そしてちょうどよく、木を刺した体積分で沼が溢れ、浅瀬に毒沼漬け人間が出てくる。
毒にまみれて、かろうじて服だったであろう崩れかけの何かを身体に張り付けたそれは、髪も溶けて、表皮も溶けて、顔も分からないが、身体つきは若い細身の女のようだった。
それも、体型だけ見るのであれば大人と呼ぶか呼ばないか、そんな年齢の印象を受ける。
水を使ってへばりついた毒を落とすと、出来の悪い人体模型とマネキンの中間のような身体が出て来た。
顔にへばりついた毒液が無くなったからか、ゴボッ、と小さく毒液を唇のない口から吐き出し、細い呼吸を始めた。
どういう仕組みの毒だろう、場合によっては調べる必要があるが……しまったな。
木の皮の隙間から脈動を感じさせるように赤い光を洩らすムサボリツリーを見て、面倒臭がって早まったことを少し後悔した。
とりあえず、この女を家に運んで、治療することにした。
───処置完了。
普段解剖台として使っている大きめの台は、ベタベタに薬液に漬けた布でくるまった人体模型マネキン姿の少女が眠る。
治療中に全身くまなく調べたので、しっかり生物学的に人間のメスであることは確認出来た。
どこもかしこも溶けかけていたので、男でもこうなる可能性は否定できないが。
男にしろ女にしろ、今は顔しか見えず、その顔も瞼が無く、唇も無いので、歯をむき出しに溶けて濁った目をかっぴらいた髪の無い怪物が寝ているだけにしか見えない。
医者は、こういうのを見慣れている奴も多いかもしれんな、解剖とか。
うーん。
こっちは少しつるつるで綺麗すぎるが、腐りかけたゾンビに顔が似ている。
……彼女の仮の名は、ゾンビニとしよう。
毛を損なってるからモーソン、いや、沼で息が止まってたからイキストップ……
ゾンビニは、とりあえず毒が入り込んでそうな所を洗浄した後、溶けた部位の治療や浸透した毒の除去、栄養補給を兼ねてスーパーな薬液を塗りたくった。
顔もテカテカで潤っている。乾きづらく粘度も高い、デリケートすぎる今の皮膚……は無いから表面?が乾燥でどうこうなる恐れはない。
このシハンバナの蜜を使った薬液は、手足が無くなったくらいなら直すことが出来る。
ただ、そのまま使うと匂いを辿ってシハンバナがやってきてバトルが始まるため、匂い消し加工をしている。
シハンバナを欺く代わりに治療期間が数倍に伸びているが、治療効果はソギネコに前脚と下半身奪われて死にかけていたキゴリで実験済みだ。
ちなみに健康になったキゴリとは、彼らの家族ぐるみで今でも付き合いがある。
処置を終えて様子を見る事10分。
薬のおかげか、ゾンビニの容態は安定しており、鼻先の無い鼻で静かな寝息のようなものをたてている。
急ぎやるべきことを終え、この家にも、いつもの自然のもたらす穏やかな時間が戻ってきたというわけだ。
さて、ゾンビニは何者だろうか。
この森に長く住んでいるが、まともな姿の人間を見たことは無い。
背の高く葉の多い大きな木、デカスギの葉が空をも隠してしまうこの森では、デカスギが何故か仄かに光る性質が無ければ、間違いなく真っ暗闇の薄暗い森だ。
おまけに怪物たちがお互いを虎視眈々と狙っている。
森の上位者層のシハンバナがにらみを利かせているからか、怪物だらけでも森がいつも騒がしいということはない。
代わりにシハンバナから逃れながら獲物を狩るために、器用で陰湿な手口で狩りをする動植物も多いので、集団ならまだしも少数の人間など、ゾンビニのように数日と生きられないだろう。
中身の無い金属鎧が、眠るように横たわっていたのを見たことがある。
つまり、武装出来る人型生物が森に迷いこむことはあるようだが、どこから来るのかは分からない。
自分の事ですら、どこから森へ入ったのか分からないし、どこまで歩いても続く森から出られたことが無いのだ。
他人が入ってくる場所も勿論分からない。
この森ではどんな痕跡をつけても、数日経てばで消え去ってしまう。
これで数ヶ月かけて建てた家を失ったことが一度あるが、その時は少し心が折れかけた。
とにかく、ゾンビニは森で初めて見る、生きた人間である。
俺は、長い孤独生活にひょんなことで訪れた、新たな出会いに胸を躍らせた。
どうしよう、この皮剥げゾンビ姿がデフォルトの生物だったら……
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「───何!?国軍が?反逆者を討つ?バカを言え、この領のどこにそんな余裕があると!?」
──……お父、様……。
「───シア、逃げるのよ。ラスヴァと一緒に。貴女だけが最後の希望なの、この首飾りを絶対に手放さず、生き残りなさい。」
───お母様……。
「お嬢様、私が奴らを引き付けます。私の実家があるロットアを目指してください。私も後から必ず。リアファの導きのあらんことを。」
──ラス……。
「ゾルンヴィエニス辺境伯……いや、元辺境伯家の小娘が、どこぞへ逃げられるとでも思ったのか。だが、ここまで逃げおおせた褒美として、神の元へと送ってやろう。帳の神の庭へな。」
私は─────………!?
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獲れたて半死半生を彷徨うのプロペラビットの首を掴みながら、うっかりうたたねをするように半分意識を飛ばしていた俺は、聴きなれない音を聴いて意識を覚醒させた。
やや!!
ゾンビニが、呼吸を荒くしている!!
喉にもシハン薬を塗っておいたが、声帯も無事ではなかったので、呼吸とともに地獄の亡者の嘆きのような声がか細く聴こえている。
舌も半分溶けて唇もないので、どちらにせよ言葉を話すことは出来なかっただろうが、無事な歯をカタカタ鳴らしながら、ざらついた呻きを洩らし、未だ満足に動かない身体で首だけを動かす姿は、背骨を折られたゾンビのようだ。
ゾンビニは本当にゾンビかもしれない!
どちらかと言うと、爆破されたタイマン性癖殺戮変態ピエロとか、爆発に巻き込まれたライオン船のサイボーグ船大工の顔のイメージ。
誰も読んでないだろうけど。
見切り発車注意。