悪役令嬢に転生したけど、異世界情勢は複雑怪奇で!?~神聖でもアインスでも帝国でもない世界~ 作:yuurin
それから、何度かパーティで一緒になっても、マティアス様のあの仮面をはぐことができなかった。
のらりくらりとかわされ、こちらの声は届かない。どうしたらいいのだろう。
ヨハンは私にこういった。
「やめておきなさい。君の心がけは立派だけど、彼を追い詰めるだけだ」
なぜ? 私は仲良くなりたいだけなのに。それにあんな無理している人を見過ごせない。そう言うとヨハンはさらにいう。
「あれこそがヴォルフスブルク家の生存戦略なのですから。取るに足らない無能を装うというね?」
しかし私には装うのではなく本当にそうなろうと言う努力をしているように感じてしまう。
「まあ、止めはしませんよ。そういう君の優しさが救うものもある。現に僕は君に救われたのだから……」
と応援? してくれた。
マリアは私のことを信頼してくれているようで、
「エリザ様ならなんとかなります!」
と励ましてくれる。ありがとう主人公。
とりあえずもっとマティアス様のことを知らなくては。まずは図書室に向かった。
いつもの場所にあの教師がいた。私は事情を話してみる。
「今度はヴォルフスブルク家のことかい?わかった。講義をしよう」
そうして講義が始まった。テーマはヴォルフスブルク家だ。
「まず、ヴォルフスブルク家は帝国の古い名家ではなかった、ということだ」
「ヴォルフスブルク家は小さな貴族でね? 歴史自体は長いが、あまりパッとしないしがない諸侯の1つだった。ルドルフ1世の時代、この国境沿いの小さな貴族が突如議長職に推薦され、通った。そして対立候補だったオスカル3世を破り広大な領地を得た。これが始まりだ」
「なんで皇帝に押されたんですか?」
「オスカル3世というよそ者に帝国の最高位を渡したがらなかったから、というのが定説かな? それともう1つは、彼が有能じゃなかったからでもある」
「前も言ってましたよね。無能だからって。大事なんですか?」
「無能ゆえに、警戒と嫉妬をくぐり抜けることができる。無能ゆえに容易く御しやすいと思わせる。そうしているうちに大陸最大の領地を一族で握るまでになった。無能ゆえにそこまで大きくなってもなお、軽く見てもらえるのだよ」
でも、マティアス様は無能そうには見えなかった。今の振る舞いだった無理してやってそうで。
「彼のことは見ているけど、たしかにそうだね。あれでは無能ではなくただのだらしないだけの人だ。彼には才能があるし、それが無能を装えたら凄まじいとは思うけどね。今も彼は無能ゆえ魅力的に見せる彼の父親の才能には遠く及ばない」
先生もやっぱりそう思ってたんだ!
「先生としてあまりいうべきじゃないかもしれないが、彼のことを頼めるかい? エリザベート様」
もちろん! まずは二人っきりになれるような場所を作らなくちゃ! そう思って去っていったのだった。
機会はまたしてもすぐできた。
今度は私達の共通の親戚、バイエル公のパーティだった。
吝嗇家というのは確かなようで、庭園も最小限、館も最小限ならパーティに呼ぶメンツも最小限と言った感じだった。私の家、マティアス様の家のほかあと数個の家しかいない。これは絶好のチャンス!
その日もマティアス様はいつものように芝居がかった喋り方をしていた。でもここにいるのは昔から知っている人たちばかりで、いつもより疲れていそうだった。
実際疲れていたのかすぐ別室に戻ってしまおうとしていたので、後をつける。
するとマティアス様に気が付かれてしまった。
「お前は……どうして俺に構うんだ……?」
「クラスメイトで、親戚で、それで友達からの頼みなので」
「やはりお前は……どうして」
マティアス様はさらに話し出す。だいぶ無理をしていたようだ。
「俺は……俺は認められたかった! 誰かに! あのクソ親父に!なれない事をしてでも……それでも俺は……認められないのか!?」
それは……多分……。
「自分のことを認めていないからです。いつだって心の持ちようで、変わることができます」
「どう変われって!? 俺は努力してた! でもそんなのなんの意味も……」
「なかったのですか?」
私に教えてくれた時、将来のことを話す時、マティアス様はいつも笑顔だった。それはなんの意味もないわけがない。
「俺のやり方じゃ無理なんだ。クソ親父が正しいんだ。わかっているのになんで俺は……」
「私だって変わりたいから変わったわけじゃありません。変わらないといけないから変わったのです」
このままだと破滅する。そう思えなければ私の意識が出てくることはなかったかもしれない。
「大事なのは外聞ですか? それとも心?」
「お前も……いや、お前は変わったんだな。そう決めて。俺は親父に押し付けた。だから変わることさえできなかった」
「変われますよ。心なら。そしてそれを持っていれば……」
「変化は恐れることではない、か。まさかお前にそんなのとを言われるとはな」
彼の声は、少しだけ和らいでいた。
私がこの世界で誰かを助けるなんて、思ってもみなかったけれど、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
「いやでした?」
「嫌じゃない。済まないが、ちょっと付き合ってくれるか?」
何をするつもりだろう。そう思っているとマティアス様はいたずらっ子のような笑顔で。
「親父に宣戦布告する」
そう言ったのだった。