悪役令嬢に転生したけど、異世界情勢は複雑怪奇で!?~神聖でもアインスでも帝国でもない世界~   作:yuurin

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マティアス・ヴォルフスブルク④

 さて、とはいったものの、私はついていいても良いのだろうか?

 しかし今更分かれることもできず、ついていくことになった。

 向かった先は別室。マティアス様のお父様、フェルディナント様が休んでいるところだ。

 部屋に入ると、フェルディナント様はマティアス様を見て言った。

 

「ほう。どうしたのだ息子よ。っと、おや! これはこれはヴァルトシュタイン家の御息女! なにかごようかな?」

 

 とこっちに気がついてぱあっと顔を明るくする。が、その前の態度を見ているだけに薄ら寒さを感じてしまう。よく見るとクシャッとした顔つきになって入るが、目は閉じきっておらず、こちらをしっかり見据えている。

 マティアス様は意を決して前に出る。宣戦布告とは一体どういうことか。

 

「こちらは学友のエリザベート殿だ。今回はいわゆる決闘立会人のようなものとして来てもらった」

 

 マティアス様はそう言い切った。もう後戻りはできない。

 

「決闘ショーかね? 時代錯誤感は否めないよ。それにここでは観客もいないではないか?」

 

「見世物じゃねぇ。俺とアンタの決闘なら武力じゃなく言説でつけるべきだろう」

 

 そう言われた瞬間、フェルディナント様の雰囲気が変わる。普段の温和そうな雰囲気の中にこんな剣呑なものを隠していたのかと思うほどだ。

 

「若造が。何の話だ? 聞こうじゃないか」

 

 そう言って続きを促す。

 一瞬怯んだマティアス様は、こっちを一瞬振り返ると更に前に出る。

 

「親父、これからの時代、無能が本当に役に立つと思うのか?」

 

「何が言いたい」

 

「宗教改革以降の流れは見ているはずだ。デルタール地方の反乱政府を討伐するためイベリナから兵を出すつもりだろう? それを呼び水に大規模な内乱が起きる可能性がある。そうしたらどうだ? 外国の干渉だって予想できるんじゃないか?」

 

「おこらんよ。杞憂というものだ。それに……」

 

 遮るようにマティアス様は言う。

 

「杞憂かな? お膝元のボエモンディアの動乱、あれに新教側が介入したら?サンシースはイベリナからデルタールへ向かう進軍路の側面にある。あのヨハン・ウィトゲンシュタインが手をこまねいてみているとでも思っているわけじゃあるまい。我が家に対抗するために選審官領であるボエモンディアを奪いに来たら? そしたらボエモンディアの継承権と同じく世襲同様にしてきた議長職を失うことになるかもしれない」

 

「あの若造がそうするかね?」

 

 「可能性の話だ。そんなときに事なかれ主義で、旧教連合の盟主でもない我が家にどれだけの助けが入ると思う? ヴァイセンの自由を叫ぶ諸侯の中で」

 

「リーダーが必要だと?」

 

「違うね。必要なのは『聡明な』リーダーだ。教会におもねることなく辛い決断をもできる存在」

 

「警戒されておしまいだぞ?」

 

「そうはならねぇ。なぜなら俺は……無能を装うからな」

 

「ほう……」

 

「アンタは長くそれをやりすぎた。本物の無能だよ。だが俺ならできる。バカ息子ならば侮られる。決断も若さゆえのやらかしだと流されてくれるさ。それに何より……」

 

 意を決してそれを言う。はっきりと。前を見据えて。

 

「俺には友人がいる。新教でも関係ない。真の友人が」

 

 と言われると、フェルディナント様は嘆息して

 

「ああ。バカ息子よ。つまりお前はこの地位を望むと?」

 

 そういった。マティアス様はそうだ、と答える。するとフェルディナント様は天を見上げ、ため息を付く。そしてふたたびこちらを見るが、その顔はさっきまでとは違い本心からの人の良さそうな顔であった。

 

「ならん。まだ学生であろう。その時くらいは楽しめ。ヨハンのように楽しむ余裕すらなくせばそれこそ終わりだぞ?」

 

「親父……?」

 

「お前がそこまでわかっているのならば良い。卒業後、お前に家督を明け渡そう。だが、そのときに嫌になっても遅いからな?」

 

「ああ。わかったよ親父!」

 

「それにしても……ウィトゲンシュタインのせがれめが。良い嫁を引き当てたものよ。……お前のおかげだ。ありがとうヴァルトシュタイン家の御息女よ。息子をどうかよろしく頼むぞ」

 

 こっちを見ながらフェルディナント様はそういった。しかし何を言ってるのだろう。立ち向かったのはマティアスさまで、私は何もしていない。

 

「親父……!? 何を……」

 

「言わずとも良い。はあ。我が余燼、その成就にかけさせてもらおうかのぉ」

 

 そう言いながら部屋を去っていってしまった。……勝ったのかしら?

 そう思っているとマティアス様がこっちに飛び込んできて抱きしめてきた。

 興奮しているようだ。嬉しいのだろう。

 

「お前のおかげだ! ありがとう! そういえばさっき友人だと言ってしまったが、問題なかったか?」

 

「ええ! 問題ないです! 良かったですね!」

 

 そう言って抱きしめ返す。それに、これでエリナちゃんの頼みは成功ってことかしら!

 マティアス様と私はそのまましばらく抱き合って笑っていたのだった。

 

 

 翌日、大学で私はマティアス様を見かけた。そばにはエリナちゃんもいた。

 前のように自暴自棄になっているわけではなく、いつものような感じに、しかしどことなく自信アリ気な感じに戻っていた。

 私は二人から声を掛けられた。

 

「おはようございます!エリザベート様!」

 

「おはようエリザ殿」

 

「おはようふたりとも! エリザでいいわ! 友達だもの!」

 

「友達、ですってよ? マティアス様」

 

「わかっていたことだ。やつの許嫁だしな。だが気持ちだけでも貰ってみせるさ」

 

 ……? なにか二人で話しているが、何なのだろう。聞こえない。気になるが、二人がいい雰囲気に見えるので邪魔も良くないかな、と思っていると、ヨハンが来て

 

「君はまた誰かたぶらかしたのですか? しかもマティアスなどを……」

 

「そのなどを、なマティアスと抱き合ったのがお前の婚約者だが?」

 

「そ、それは……言わないでくださいマティアス!」

 

 なにしろこっぴどく怒られたのだ。母上に。未婚の女性が軽々しい真似を! と。抱き合ってはしゃいでたとまで知られては更に怒られることになってしまう! 大変すぎる!

 

「だ、だき……?」

 

 ヨハン様! と、倒れそうになったヨハンをマリアちゃんが支える。やっぱり良い関係に見えるのだが。

 

「と、いうわけだ。これから宜しく頼むよ? エリザ? そしてヨハンど・の?」

 

 へなへなと力なく倒れていくヨハン。支えるマリア。勝ち誇るマティアスと誇らしそうに胸を張るエリナ。何かわからないがマティアスが勝ったようだ。おめでとう! 何かわからないけど!

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