【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.10 地中の校舎にて

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は夏。

「お兄ちゃん、加藤先輩が!」

「どうした?」

「目を覚ましたけど、きゃっ」

 

 瑛子が横へ飛び、そのまま壁に叩きつけられる。

 そこにいたのは加藤。

 無表情。

 俺に迫る。

 辛うじて反応出来た、かわすとそのまま酒巻へ。

 

「うおっ」

 

 加藤は酒巻の首を掴むと乱暴に投げ飛ばす。

 女の力じゃない!

 振り向く加藤。狙うはアゴだ。

 俺は竹刀を野球のスイングみたいに振り抜く!

 ジャストミート!

 確かな手応え。

 加藤はふらふらと歩いたかと思うと、そのまま倒れ伏す。

 

「瑛子!酒巻!」

「私は大丈夫」

「痛ててて。俺もちょっと痛いだけだ」

 

 陸上部とサッカー部だもんな。

 

「とにかく加藤を拘束しとこう」

「◯◯、助かった……」

「前にな、ボクシングやってるやつに教えてもらった。アゴを狙うと脳震盪起こすって」

「よく出来たな」 

「百二十キロの野球ボールよりは狙いやすい」

 

 たまたまだけど。

 カーテンを引き裂いた布で縛り上げる。加藤、すまんな。また暴れられちゃかなわん。

 

「加藤はどうなったんだ」

「正気じゃなかった。酒巻、首は何ともないか?」

「あ、ああ。凄い力だった」

「人間って普段は身体がぶっ壊れないようにリミッターかけてる、無意識にな。それが外れたら“火事場の馬鹿力”が出せる」

「じゃ加藤は」

「何もないのにリミッター外れることはないよ。普通の状態ではないと思う」

 

 気の毒だが加藤を縛ったまま一階の教室へ寝かせておくことにした。佐藤優子が言わなくても監視するだろう。

 

「ねぇお兄ちゃん、ちょっといい?」

 

 瑛子に招かれ三階の教室へ。

 

「これ見て」

 

 手のひらを見せてくる。すると細くて小さな紐が出てきた。三センチぐらい。黒い。動いてる。

 

「私の身体に入ろうとしてた」

「なんじゃこれは」

「加藤先輩に投げられた時に。それと……魂の形と色が変わってる」

「……加藤じゃなくなったということか?」

「もう別人だと思う」

 

 嫌な想像が頭をよぎる。 

 

「なら酒巻も!」

 

 慌てて二階へ。そこには倒れて意識がない酒巻がいた。

 そして佐藤優子がそばに立つ。

 

「加藤も沈下直後から気を失ってたな。……瑛子、さっきみたいに虫を追い出せないか?」

「私の身体なら出来るけど……」

「佐藤さん、吸い出すのは可能?」

「無理ね。どこに潜り込んでるかわからないし、大量に吸えば酒巻君は失血死」

「……打つ手がない……」

 

 酒巻も加藤みたいにな別人になってしまうのか……。くそっ。

 

「拘束しておくしかないでしょう?」

「……そうだな」

 

 佐藤優子は片手で酒巻を担ぐと行ってしまった。彼女も大した力持ちだ。

 

「飯田!もう出てきてもかまわんぞ」

「うん」

「早いな!」

「ちょっと身体洗ってくるね」

 

 手も足も泥だらけだ。ずっと土の中だったもんな。

 

「あら飯田さんも来たのね?」

「知ってたろ?」

「彼女の血の匂いはしてたから。そう、土の中にね……」

「加藤は……」

「彼女からはあの変な血の匂いがする。前に話したでしょう?」

「あの状態の人間が街の中にいるのか……。あの虫なんなんだよ」

 

 前からいたわけだ、あれに何かされた人々が。

 

「血吸い女、お兄ちゃんから離れて」

「瑛子、今はそれ無しで頼む」

「え……う、うん」

「人類に勝ち目はないっていう一番まずいパターンだ」

「それは困るわね。あれの血は身体に悪そうだし」

「私はお兄ちゃんとここで暮らせたらそれでいい……かな」

「佐藤さんはまぁいいとして、瑛子、それダメだろ」

「ふふふ。昔から男を縛る女は嫌われるわよ?」

「黙れ。血吸い女!」

 

「お待たせ」

 飯田が着替えてやって来た。濡れた髪が艶っぽい。

 

「揃ったところで今わかってること整理しておくか」

 

 板書していく。

 

 ・あの細い虫みたいなのは『寄生虫』と呼ぶ。体内へ侵入する。

 

 ・侵入されると半日ぐらい意識を失う。

 

 ・目覚めた時点で魂は別人になっている。

 

 ・周りにいる人間に寄生虫を付着させる。

 

 ・俺たちを襲ったのはその行為をカモフラージュ、同時に寄生虫が侵入するのを気付かれないようにするためと推測される。

 

「次に狙われたらまずいのは、俺と飯田か。佐藤さんは大丈夫なんじゃないか?」  

「あら何故?」

「いやほら、吸血鬼って血を操ったりするもんだろう?」

「そんなこと出来ないわ。◯◯君、漫画や小説の読み過ぎ」

「自分の血で武器を作ったり出来ないのか……」

「それこそどんな化け物よ、それ」

「なら佐藤さんも狙われたらまずいな。あんな力で暴れられたら」

「その時は私が殺すわよ」

「瑛子、物騒なこと言うなよ」

「私も……止めることは出来ると思う……」

「そうならないようにしないと、飯田」

「う、うん」

 

 あの寄生虫、小さ過ぎるから見つけるのも苦労するし、痛みも何もなく体内へ侵入するってのも最悪だ。

 

「それにここから出るにはどうすればいいのか……」

 

 三人の話をまとめるとこうだ。

 佐藤優子。彼女は空間移動を使えるが、今現在ここからは移動できない。

 飯田奈美。身体を変形させて地中を進めるが(どんな姿になるかは乙女の秘密だと断られた)、いくら掘って進んでも地上へは行けない。

 黒瀬瑛子。テレポートというか空間転移が出来るが(佐藤のとは違うそうだ)、やはり移動出来ない。また寄せられる信仰(好意)が届きにくくなってるとのこと。

 

 佐藤の話だと、昔妖怪の作った空間に入ったことがあるが、それに似ているらしい。

 

 結論。別どこか別の空間に校舎がある。電気と水道は使えるのにな。

 

 こういう時は寝るに限ると、俺は寝ることにした。瑛子は体内に入らない限りは寄生虫がわかるらしい。すまないけど見張りをしてもらうことになった。

 

「瑛子すまん」

「ううん。私は寝なくても平気。それよりお兄ちゃんの寝顔見ることができるから……」

「……まぁ見張りしてもらう報酬だと割り切る」

「な、なんかドキドキするね……」

「飯田、その余裕が羨ましいぞ」

「ふふっ。女子に囲まれて寝るなんて、◯◯君、幸せじゃない?」

「こんな状況じゃなければな!佐藤さん、一応訊くけど、棺桶で寝なくていいのか?」

「あら?意趣返し?」

 

 こうして俺はいつまでここに閉じ込められるのかという不安でなかなか寝付けなかった。

 

 ああ彼女が欲しい。

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