【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.16 鈴木瑠美子 前編

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初秋。

 

「それにしてもすごく人が多いな。よりどりみどりだぜ。◯◯、可愛い子いた?」

「ステージの部で見つけた」

「ほうほう。どこで?どんな子?」

「女子バンドなんだけどヘビーメタルやってて、ボーカルの三年生がすごく可愛かった」

「その子がヘビーメタルを演ってなかったとしたら?」

「まぁ普通だな」

「定義が違う!」

 

 ヘビーメタル要素が入るだけで五割増し。

 

「◯◯、腹減らないか?」

「そうだな。飯田が手伝ってる屋台へ行こう。オオタの孫娘がお好み焼きを作るってよ」

「あの爺さんの孫か。それは興味あるな!行くぞ」

 

 見つけた。大繁盛じゃないか。並ぶのを諦める。

 酒巻はぐずったが、次に行く場所を言ったら手のひら返しで賛成してきた。現金な奴め。

 飯田にジェスチャーで『後で来る』と合図し、瑛子がいる喫茶店へ。

 

「いらっしゃいませ」

「よっ!黒瀬ちゃん、来たよ。それ似合ってるね」

 

『黒瀬ちゃん』呼びになってるが、いつからなのか?まぁいいけど。

 瑛子はウェイトレス風の可愛らしい服を着ていた。うん。本職みたい。まぁまぁだ。

 

「二名様ご案内します」

 

 ここも大繁盛だ。男子の客が多すぎ。

 

「黒瀬ちゃん可愛すぎないか」

「その調子で崇め奉れよ」

「お前、よくそれ言うよな」

「酒巻の信仰心が瑛子の力になるんだよ。そしたら御利益が増えるんだぜ」

「?よくわからんが、言われなくても」

 

 面倒だからありのままの事実を伝える。ん?待てよ。エロ妄想も信仰なのか?

 少し不安になるけど日本神話も大らかなエロ要素あるからOK?

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 アイスコーヒーとホットケーキを頼んだ。スカートが少し短すぎるのではないだろうか。

 

「飯田の妹もいるな」

「らしいな」

「◯◯、本当に興味無さそう」

「俺は年上が好きだって言ってるだろう?」

「三年になったらどうするんだ?」

「対象が女子大生のお姉様か働くお姉様になるだけだ」

「校内で会えねぇじゃねぇか。その点年下なら言うこと聞かせられるし、俺色に染めたり出来るのに」

「それ本気で言ってるのか?年下を舐めすぎだぞ」

 

 支配欲も男の本能か。俺はとんと興味ないけどな。

 

「お待たせしました」

 

 代金を渡しつつ酒巻を見る。確かにやつの視線は瑛子のあちこちを這うように動いてる。これがエロおっさん目線か。近所にもこんなおっさんがいたな、確か。俺も気をつけよう。

 

「すみません、相席をお願いしてもいいですか?」

 

 瑛子がすまなさそうに訊いてきた。見ると他も満席状態。

 

「いいよー」

 

 酒巻の機嫌が良すぎて心配になるぐらい。

 向かいに女子二人が座る。私服だから卒業生や父兄などの一般客だ。

 

 時が止まる。

 

「やっぱ◯◯君だ。久しぶり」

 

 何故?

 

「どうしたの?あ!もしかして……忘れられたのかな?」

 

 そんなわけないだろう。忘れるものか。上目遣いやめてくれ。

 

「あ、いえ、もちろん覚えてますよ、鈴木先輩」

 

 酒巻も固まってる。高校生から女子大生になった鈴木瑠美子は大人の色香が漂い、大輪の花が咲いたように綺麗になっていた。

 

「“先輩”?違うでしょ」

 

 少し頬を膨らませる鈴木瑠美子。それやめろ。

 

「それが普通ですよ。あの頃はすみませんでした」

「えー私がいいよって言ったし。鈴木くんと呼んでほしいな」

「……あの頃は失礼なガキでしたから」

「◯◯君、どうしたの?」

「瑠美子、◯◯君が困ってるよ」

 

 鈴木瑠美子の隣にいるのは八重島先輩。二人は常に一緒に行動していた。この人も立派な共犯の一人。

 

「そうそう。学校、ニュースで見たけど大変だったね?巻き込まれたんでしょ?」

「まぁそうですね」

「怪我とかしなかった?」

「別にしてません」

 

 瑛子、それに飯田妹が見てる。二人とも見るのは初めてだろう。瑛子、視線が怖くなってるぞ。見られたくないな、こんなとこ。

 

「文化祭楽しみにしてたんだ。また◯◯君に会えるって。でも母校があんなことになるなんてね」

「すみません、俺たちもう出ますんで。ごゆっくり。酒巻、行くぞ」

「お、おう」

 

 さすがの酒巻でも軽口は言えないみたいだ。身体が硬直していくのと頭の中に思い出の映像や音声、感触が渦を巻いているのとで、何も聞こえないし目に入らない。帰りたい。家に帰りたい。すぐに帰りたい。今すぐ帰りたい。帰る。そうだ帰ろう。

 

「悪い、酒巻。俺帰るわ」

「そりゃまずいだろ」

「体調不良で早退だって言っといてくれ」

「届けはどうすんだよ?」 

「代筆」

「まあ待てよ!◯◯。そこで休もう」

 

 体育館の裏。植木とベンチがある。

 

「お前、顔が真っ青だぜ」

「本人目の前にするとな……」

 

 自分でもここまで動揺するとは思わなかった。

 

「すまん、一人にしてくれ……」

「あ、あぁ。本当に大丈夫か?」

「大丈夫ではない」

「そうか。早退届けは任せとけ」

「ありがとう。すまんな」

 

 酒巻と入れ替わりに佐藤優子。

 

「見られたくなかったな……」

「ごめんなさい。あんな◯◯君初めて見たから」

「去年はお互い離れたクラスにいたから」

「本当に帰るの?」

「ああ、帰って部屋に閉じこもりたい」

 

 首筋に触れる柔らかい唇。

 

「!」

 

 俺はされるがままに佐藤優子に身を預けた。甘い香り。

 

「ごちそうさま。どう?これで落ち着いた?」

 

 そうか、そうだったな。彼女の唾液は鎮静効果があるって。

 

「あ、うん。少しマシになった。佐藤さん、ありがとう」

「飯田さんも瑛子ちゃんも心配してるわよ。男の子でしょ?しっかりしなさい」

 

 そっと抱きしめられた。ここで年上ぶるんですかい。

 

「誰かに見られる前に、ね?」

 

 姿が消えた。残る甘い香り。助けられたな……。

 

「あれ?さっき女の子がいたよね?」

 

 またか!

 が、動揺は随分と抑えられた。佐藤さん、ほんま助かる!

 

「暇なんですね、鈴木先輩」

「鈴木くんって呼んでよ」

「嫌です」

「つれないなぁもう。私と◯◯君の仲なのに」

「もう俺はあなたのペットじゃないんで」

「……」

 

 図星か。もう少し取り繕ったらどうですか?先輩。

 

「変なこと言うなぁ」

 

 ベンチの隣に座る鈴木瑠美子。

 

「あ、俺、用事ありますんで」

「また手紙書くね」

「……」

 

 俺は足早にその場を去る。体育館の角を曲がったところに瑛子がいた。

 

「お兄ちゃん、具合がすごく悪そうなんだけど」

「もう平気だ」

「そんな顔色じゃないよ」

「あーそうかもしれんが、あそこにいた時より大分マシ。これは本当」

「あの女が鈴木瑠美子ね」

「……そう。もう会うこともない過去の亡霊かな」

「歪な魂の持ち主ね、あの女」

「見えるか」  

「うん。たまにいるタイプだけど。私は嫌い」

「俺も魂が見えていたら……とは思うが、人間にゃ普通見えないから仕方ない」

「飯田さんに聞いた通りの女だった」

「お、名前で呼んでる」

「校内じゃそうしてるわよ。加藤先輩にも聞いたけど」

「あーそうだな、加藤も知ってるな」

「加藤先輩は『あの人苦手』って」

「好ましく思う奴が少数派だろう」

「お兄ちゃんをまだ何とか出来ると思ってるみたいな態度が気に入らない」

「関わらないのが一番。瑛子は喫茶店、もういいのか?」

「うん。休憩時間。それと飯田由美がね、私のこと避けてるのに耳打ちしてきたのよ『あの女から嗜虐の匂いがすごい』って。お兄ちゃんに伝えて欲しかったのね」

「嗜虐って難しい言葉よく知ってたな」 

「国語は得意だもん」

「心配かけたな、瑛子」

 

 頭を撫でておく。

 

「これ以上ここにいたくない気持ちも本当だ。部屋で寝転がりたい」

「じゃ送るね」

 

 景色が一変した。自宅の庭だ。

 

「瑛子サンキュ」  

 

 自室へ戻りベッドへ倒れ込む。

 次の日、文化祭二日目とその次の体育祭もサボってひたすら惰眠を貪った俺。

 いいんだ。寝たら回復するから。

 

 こんな時話を聞いてくれる彼女が欲しい。

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