【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.17 鈴木瑠美子 後編

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初秋。

 

「文化祭実行委員会を始めます。委員長の田中です」

「副委員長の鈴木です」

 

 【ああ……去年の夢を見てる】

 

 陸上部員は体育祭へ出場禁止。暗黙のルール(その一)らしい。

 俺は『陸上部員は体育祭実行委員に』という暗黙のルール(その二)へ反発し文化祭実行委員に立候補した。

 

 球技大会の日。

 俺達のクラスは一回戦敗退で暇してたが、酒巻が教室に飛び込んできた。

 

「おい◯◯、ナイスな三年女子見つけたんだ」

 

 きっかけは酒巻のこの一言だった。

 

「見に行こうぜ」

「へいへい」

 

 ついていったら三年女子がバレーボールをしているグランドだった。

 

「あそこ、今ブロックした前衛の人、可愛くてスタイルが最高! たまらん」

「あの人、文化祭実行委員会の副委員長。確かに可愛いけど」

「既に会ってるのか?!」

「俺も文化祭実行委員だし。あの人は鈴木さん」

「おいおい代われー」

「いいけど、立て看やらたくさん作るものあるぞ」

「それはいい。遠慮しとく。っておい! 鈴木さんがこっち見てる!」

「酒巻、それ錯覚」

 

 しかし酒巻の言う通り、鈴木瑠美子はじっとこちらを見つめ、すぐに踵を返した。

 まぁ同じ委員だしな。

 

【あの時俺は特に何も感じなかった。……そうか……この辺から……】

 

 その後、文化祭実行委員の三年生達と打ち解けていった俺。向こうからやたら話しかけてきてたんだ。

 

「小学校の時から田中グループって周りから言われててね、僕、書記の山本、副委員長の鈴木、会見の八重島」

 

 ……生徒数が極端に少ないあの地域か……。いるんだな、こんな幼馴染グループって。

 やがて鈴木瑠美子と八重島が俺の教室に来るようになる。

 

「おい◯◯、いつも来るあの美人さん二人は誰だ?」

 

 やたらクラスの男子に訊かれる。

 三年女子二人が俺に会いに来るのはかなり目立つことだった。

 

「三年の鈴木さんと八重島さん。文化祭実行委員会の書類やら伝達とか、まぁ色々と用事がな」

 

 八重島の方も結構な美人さんだったから、鈴木瑠美子と同様に目立つ。

 

 しかし鈴木瑠美子の美貌は単なる『可愛い』とか『綺麗』では到底足りず、俺に言わせると『生まれてこのかた見たこともない美しさ』だった。彼女が教室に現れるのが常態化すると、彼女に惹かれていく男子が増えていった……そう……俺も。

 

 放課後。文化祭実行委員の仕事として立て看板や校門の装飾などの大工仕事がある。大体男子の担当だが、何故か鈴木瑠美子も参加した。常に。

 

 で、最後の片付けは一年生である俺の仕事。それに鈴木瑠美子も付き合う。

 時に書記の山本もその場にいた。

 彼ら『田中グループ』の面々は鈴木瑠美子を『鈴木くん』と呼ぶ。田舎の高校だ。女子をくん呼びするなんて気取った真似は誰もしない。大抵は呼び捨てかさん付け。

 

「おーい、◯◯、仕事を丁寧にしろよ〜」

「へいへい」

「返事ははいだろー」

「はいはい」

「一回だぞー」

 

 【俺は田中グループの三年生達とかなり気安い関係になっていた】

 

「出来ました、山本さん」

「もうちょっと丁寧にしろよー」

「はぁ」

「鈴木くんの塗ってるとこ見てみな」

「確かに……」

 

 彼女の仕事は几帳面で丁寧だ。

 

「じゃ俺は帰るから片付け頼むなー」

 

 作業は大抵空き教室か格技場の一角を借りて行われてたな。俺と鈴木瑠美子は二人で後片付けをする。

 

「◯◯君、一緒に頑張ろう」

「はいはい」

「もう! 返事は一回だよ」

 

 こんな調子で放課後は鈴木瑠美子と二人きりで作業する日が多くなった。冷静に考えると不自然なのだが、これが仕掛けだったのだ。

 

 三年の綺麗なお姉さんと二人きりで作業。嬉しい反面、どうにも落ち着かない。そこで色々な話題を無理やり振って場を何とか誤魔化した。

 

 彼女と過ごすことに慣れてきたそんなある日。

 

「鈴木先輩、俺も『鈴木くん』って呼んでいいですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます。やったー」

 

 彼女の笑顔。そこで俺は恋に落ちた気がする。それからも毎日彼女と色々な話をした。

 

「今日、片付け済んだら一緒に帰ろう?」

「え? 方向全然違いますよね?」

「あのね、親戚の家が◯◯君の家がある町内にあってね。そこに用事があるんだ」

「そうですか。じゃ」

 

 女子と二人並んで下校という夢が叶った。

 

 別の日。これまた例によって休み時間に教室の外での逢瀬。

 

「はい、これあげる」

「何ですか? 写真が二枚?」

「そう。去年の体育祭のだよ」

 

 チアガールの格好をした鈴木瑠美子の写真。まるでアイドル歌手みたいだった。

 

 しかし違和感。何故写真を急にくれるんだろう……欲しいって言ったことないのに。

 そりゃあ貰えるものはありがたいけど。女子ってそんなもん?

 恋愛経験の乏しさが判断をとことん鈍らせる。

 この後一枚は酒巻に見せた途端に強奪された。

 

「あーあの子、酒巻くんね。もぅ!あれは◯◯君にあげたのに」

 

 と鈴木瑠美子はやや不機嫌になったが、酒巻の喜びようがすごかったので、俺はそれでもいいやと思った。

 

 そして文化祭実行委員会の作業は、俺と鈴木瑠美子の二人がデフォルト、それに田中グループの誰かが時々加わるのが定番になっていた。

 

 浮かれていた俺はその不自然さに気付かない。恋をするとバカになる……後に自分でそう思った。

 足がふわふわと地につかない毎日。

 

 体育祭のリハーサル。全校生徒によるフォークダンス。俺のクラスの男子が十数名、鈴木瑠美子へ殺到した。ちょっとしたアイドルだ。

 

 俺は鈴木瑠美子と親しいことにアドバンテージを感じていたので、その光景を眺めるだけ。

 

 そして俺はそこにある不自然さを見過ごした。

 

 文化祭と体育祭は無事終了。

 

 文化祭実行委員会の打ち上げ。委員長の田中の提案でアイススケートに行くことになった。詳しくは語りたくないが、甘いひとときだったのはよく覚えている。

 

 アイススケートなんてしたことないが、そのうちどうにか転ばす滑ることが出来た後は、鈴木瑠美子と手を繋いでたりした。

 

 この段階で俺はもう鈴木瑠美子の術中に完全に嵌っていたのだ。まさにアリジゴクの巣に落ちたアリそのまんま。

 

 そんな夢見心地の日々に終わりが来た。中学の時仲良かったやつが俺に話した内容。彼の兄が三年。

 

『鈴木瑠美子には一つ上の彼氏がいる』

 

 信じられなかった。

 

『入学時は他中学から進学してきた同級生男子数名、去年は一つ下の男子を色々つまみ食いしていた。有名な話』

 

 嘘だと思った。

 

『やり方はいつも同じ。田中グループで囲い込む。鈴木瑠美子が何をするのか知っていて、連係している』

 

 冗談だろう?

 

『お前は完全に遊ばれている。先月も大学生である彼氏と会っているところを見たのが何人もいる』

 

 認めたくなかった。

 

 文化祭実行委員会の放課後作業。あれに二年生がいなかったのは何故か。

 

 フォークダンスの時のバカ騒ぎ。二年生は加わってない。

 

 文化祭実行委員会の打ち上げ。二年生は一人も参加していない。

 そう。二年生達は鈴木瑠美子含む田中グループを避けていたのだ。

 

 俺は毎日、校内外で鈴木瑠美子に会いながら、彼女に問いただすのを恐れた。質問したら最後、全てはそこで終わるような気がしたから。

 

 ろくに女子と付き合ったこともないウブな高校生。何も出来ない。怯えてるだけ。

 

 奪い取る?発想すらしたことない。

 弱虫だよ、俺は。

 

 徐々に鈴木瑠美子との距離を開けていった。誘いを断ることも増えて電話をかける頻度も減らした。これが俺の精一杯。

 

 ある日、教室にいるところに彼女がやって来て手紙を渡される。

 内容は要約すると『最近◯◯君が冷たい気がする。どうしてかなぁ?私に何か至らないことあった?』。

 

 これに対しては無難な返事を書いた。

 

 冬休みを目前に控えた週末。呼び出しを受ける。放課後、体育館裏で待つと。流石に断れず、行ってみた。

 

 それから俺のクラスの教室へ二人で移動。

 雑談をしていたら不意打ちで唇を奪われる。

 キスだ。

 長い。

 甘くない。

 押し付けられる胸。

 背中に回される腕。

 茫然自失となった俺。

 耳元で囁く甘い声。

 見つめる瞳。

 唇の端が僅かに上がる。

 

「◯◯君、好きよ」

 

 何も言えず硬直する俺。いつものようにに明るく挨拶して帰っていく鈴木瑠美子。何事もなかったように。

 俺はしばらく動けなかった。

 

 冬休みが明けると校内に噂が広がっていた。俺と鈴木瑠美子が付き合っていて、校内でキスしていた、と。

 

 誰も見てない場所だった。死角はない。噂の出所は想像がつく。やられた。ニヤニヤしながら聞いてくる同級生男子達。時には他のクラスの女子も。

 俺は自暴自棄となり、開き直るしかなかった。

 

「そうだよ、その通り。俺は鈴木くんが大好きさ」 

「年上最高!」

 

 黄色い声を上げる女子達。いい見せ物だろう?お前らこういうの好きだよな?

 

 鈴木瑠美子の本当の姿を知ってる一部の生徒からは同情する目線、嫉妬の目線、羨望の目線、様々だって。

 無関心な態度のクラスメイトはありがたい。

 酒巻には真実を話してある。あいつは鈴木瑠美子に直談判まで持ちかけた。

 

「◯◯のこと、本気なんですか?」

 

 鈴木瑠美子の返事は『◯◯君は私のだから』だったそうだ。その言い方おかしいだろうよ。笑えるぜ。

 

 つまり俺のポジションはペットだ。学校では色々と冷やかされ、心の中で泣き笑い状態となった俺。女子に対する拭えそうにない不信感を心の中で育てていった。

 

 女子全員が鈴木瑠美子と同じではない、それはわかってる。頭ではわかってる。わかってるんだ。

 でもどうしようもない。こうして俺の『高校へ入ったら彼女作る』目論みは霧散した。

 

 その後呼び出しも手紙も無視。卒業式の日はズル休み。さらばだ。その後も手紙が来たが封も切らずにゴミ箱へダンクシュート。

 

 人の噂も七十五日。

 そう全て忘れていくのだ……全て……。

 

 

 ……目が覚めた。朝か。学校行きたくねぇ。けど行くしかない。

 教室へ入る。いつも通りか。席へ座ってすぐ飯田が話しかけてきた。

 

「◯◯君、大丈夫……?」

「おぅ。快調だよ」

「……嘘ついてる」

「まぁ去年よりはずっと大丈夫ってことさ」

 

 飯田も真実を知る一人。バスケ部の三年から聞いたのだろう。

 

「由美から聞いたよ。その……あの人がどういう意図か」

「まぁな。それに動揺して情けない姿を見られたもんだ」

「そんなことない」

「心配かけたな。すまん」

「う、うん」

「過去にビビってる暇なんてない……ん?」

 

 おいおい誰だ?俺の机の中に手紙入れたのは。

 見覚えある字。

 誰が情報を売った?

 手紙にはこう書かれていた。

 

『明日22時、◯◯君とキスした場所で待ってます』

 

 差出人は鈴木瑠美子だ。

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