【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.18 前夜

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初秋。

 

「封鎖区域になった校舎の中で待つ、つまり鈴木瑠美子はあちら側の奴だということだ」

「でも血の匂いは普通だったわよ」

「発する匂いも変じゃない」

「魂は歪だけど……変ってわけじゃないよ」

 

 学校が終わった後、俺たち四人は勉強会の名目でまた佐藤優子の家に集まった。

 緊急会議だ。佐藤のお母さん、すみません。お構いなく。

 

「そして今は繋がってる」

 

 佐藤優子が学校の方向を見てつぶやくように言った。

 

「デートに誘われてるわけだ。嬉しくなさ過ぎて泣ける」

「◯◯君、本当に大丈夫なの?」

「何が言いたい、飯田?」

「その……鈴木先輩のこと」

「もう大丈夫。敵だとわかったらスッキリした。嘘じゃないぞ。匂いでわかるだろ」 

「うん……良かった」

 

「はい、お待たせ」

 

 佐藤優子がカツ丼を持ってくる。え?

 

「お母さん……」

「食べていきなさいって。遠慮はいらないわよ。お母さん、キッチンで張り切ってたから」

 

 プロの味だった。さすが佐藤さんのお母さん!

ご馳走様でした。

 

「一番の謎。なんで俺なんだろう?」

「ねぇ、あの女との間に何もなかったの?」

「佐藤さん、ストレート過ぎる質問は勘弁してくれ。一般的な高校生カップル以上のことはしてない。誓ってもいい……いや待てよ」

 

 あの半ば強引なキスを思い出す。

 よくよく考えたら少し変じゃないか? 恋愛経験ほぼないから何とも判断つかないけど……あんな風に強引な女子もいるものか……それはそれですごいけど……立場的に優位に立ってるからこそ、あんな風に出来るのか?

もしかしてあれ、何か仕掛けられた?

 

 佐藤優子が吸血の際、鎮静作用のある唾液を注入することから連想するに、何かしたのだろうか。

 

「粘膜に接触して体液を浸透させる……ってとこかしらね」

「……佐藤さん、その身も蓋もない言い方……」

「美化しても仕方ないじゃない。それとも何? 鈴木瑠美子と濃厚な……」

「はいストップ! やめやめ」

「照れると可愛いのよね?」

 

 この手の話題になると佐藤はおばちゃんだと思い知った俺。とてもかなわねぇ。

 

「お兄ちゃん、あの女とキスしたんだ……」

「無理やりだ! 無理やり!」

「私だってまだなのに」

「予定はないから。な?」

 

 いかん。一瞬だけ想像してしまった。

 

「◯◯君……噂は本当だったんだ」

「え? 飯田その辺は知ってたんじゃ?」

「バスケ部の先輩が教えてくれたけど、キスは尾ひれがついたんだと思ってた」

 

 この手の話題を同年代女子に囲まれてされるのは、公開処刑並みにきつい。

 

 改めて噂流した鈴木瑠美子一味に怒りが湧く。許さんぞ。お前らのせいで俺はこんな目に遭ってるじゃねぇか!恥ずかしさを怒りパワーに変える。

 

 高校へ入学した年から同級生、下級生の男子にちょっかいかけてた鈴木瑠美子。俺を選んだ理由。

 言っておくが俺はハンサムでもないし、女子を惹きつける要素は皆無だぞ。自分で言ってて情けなくもあるが。

 

「もしかして俺に何か秘密があるのか……。例えば前世は古代帝国の皇子。ある年齢に達すると能力に目覚める。その力は古代の超兵器を起動させ、世界をも滅ぼせるのだ。それを手に入れんと俺を狙う鈴木瑠美子」

「お兄ちゃんの魂は普通のヒトのものだよ?」

「一瞬で否定された」

「◯◯君のそれ、面白いわねー」

「言いながら佐藤さん、その蔑むような目はやめてください……」

「会ったらわかるんじゃないかな……」

「それなんだよ、飯田。一人で来いとは書いてなかった。飯田達も一緒に来る、そのつもりで待ち構えてるわけだ。飯田や佐藤さんの力、瑛子の権能、それを知った上で誘ってる」

「うん。◯◯君のことは守るよ」

「お兄ちゃんに手出しさせない」

「◯◯君の血は極上だからね?わけのわからない女には渡せないかな」

「あー佐藤さんの理由がちょっとあれだけど、みんなありがとう。俺、悲しいぐらい普通の人間だから。木刀で頑張るけど」

 

 女子達からの戦力外通告は地味にプライドが削られる。けど『下手なプライドはゴミ箱へ捨てろ』という俺の主義に則り、彼女達を頼ることにする。

 

「危害を加える気はないんじゃないかな」

「飯田くん、根拠を述べたまえ」

「え、うん、その気ならどこでも出来ると思うから」

「それもそうか……だな。不意打ちが一番効果的だし。俺非力で軟弱なただの高校生だもんな」

 

 結局情報が少な過ぎてわからないことだらけだ。何がしたいんだ、何を狙ってるんだ、鈴木瑠美子達は。

 

「あらあら、皆さん遅くまで熱心ね」

「夜分までお邪魔してすみません! カツ丼美味しかったです。ご馳走様でした」

「まあまあ、お粗末でした。これからも優子さんをお願いしますね」

「はい。では失礼します」

 

 お母さんの熱烈な見送りを受けて帰路に着く。

 

「お兄ちゃん、ひとつだけ気になることがあるの」

「何?」

「あの女の魂の感触、あれね、凄く年寄りだよ。街に住んでるお年寄りの比較にならないぐらい」

「だから今言ったのか。佐藤さんに気を使うとは、瑛子もやるな」

「そんなわけない」

「素直になりたまえよ、瑛子くん」

 

 つい頭を撫でてしまう。

 

「ズバリ訊くぞ。佐藤さんと比べてどうだ?」

「血吸い女よりもずっと」

 

 なにぃ! 数百年生きてる佐藤優子より長く生きてる魂だと!

 

「そんな長生きの存在ってなんなんだよ……」

「でも人間の魂だよ」

「ますますわけわからんな。いっそ正体は宇宙人だと言われた方がすっきりするわ。あのシャーペンの芯がウネウネ動くみたいな寄生虫も人工物だと考えたら、スーパーウルトラ科学技術だし」

「出してる匂いは、人間と同じものだから宇宙人とかじゃないと思うよ」

「飯田は本当にすごいな。匂いで身体構造がわかるって」

 

 鈴木瑠美子が何を仕掛けてくるかは不明だが、頼もしい味方がいることを思えば恐怖はない。

 むしろ心のどこかで楽観的にとらえて、肝試しのようなイベントに臨む油断があったと思う。

 

 現実は非常なのに。

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