【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.22 翔んでないカップル

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は秋。

 

 どっと疲れた。

 東京から帰った俺は気を失うように寝てしまう。

 

 で、今起きたところだ。

 障子。

 畳。

 襖。

 懐かしさを感じる……って自分の部屋じゃない!

 

 誰かに添い寝されてる。

 瑛子じゃないか!

 待てよおい。

 

 ……思い出した。俺の身辺が危ないってことで、瑛子の作り出したこの謎部屋で寝泊まりすることになったんだ……。

 

 朝早くから佐藤優子とアンネさんの謎移動で東京へ行った俺たち。

 よくわからない場所へ連れられて行き、そこにいた偉いさん達に俺は圧倒されっぱなしだった。

 

 柔和な笑みを浮かべてはいるが、その眼光は鋭く俺を見ている。怖い。

 

 簡単な挨拶から俺が今までの経緯を全て漏らさず話した。とにかく話した。

 一介の高校生に過ぎない俺の荒唐無稽な話を、強面の偉いさん達がメモを取りつつ真剣に聴いてくれる。俺が立てた仮説すら。

 わかるだろう? 俺のプレッシャーが。

 

 客観的に見たらーー映画や漫画だとーー『何を非科学的なこと言ってるんだ! 高校生風情が!』となる場面だよ。ほんと。 

 

 現実は違った。

 エリートって人種は頭が柔らかく出来てるんだな、と。

 

 そして今後のことになった時、そのお偉いさん達に頭を下げられる俺。

 理由は以下の通り。

 事件の内容精査や様々な関係各所への手回しなどをを終わらせた後、地下校舎への機動隊が突入をするそうだ。

 

 その際、俺に同行してほしい旨を伝えられ、本来は保護対象なのに囮にするような形になってしまう。それが大変申し訳ないと、真摯に謝罪された。さらに恐縮する俺。

 

 鈴木瑠美子の狙いは俺一人。俺が出て行かなきゃ話は始まらないだろう。その覚悟はしている。

 

 そして俺の身辺には公安って人達が警護につくことを説明され、佐藤優子とアンネさんも共同でやると。

 アンネさんによると吸血鬼側からの強い要請らしい。ナチスドイツがやらかしたことと関係ありそうだ。

 

 ちなみにアンネさんのお父さんは映画俳優みたいなおじさん。関西弁が違和感凄かったけど、優しく俺を励ましてくれた。

 

 普通に暮らしていたら絶対会うことないであろう人達ーー国会議員とか警察庁長官とかーーと同じ部屋でずっと話をするのは、田舎の高校生である俺にはこの上なくきつい。

 

 飯田に『大丈夫?』と心配されたが、俺は情けないことに強がることすら出来なかった。女子達の方が肝が座ってるので俺のプライドは砕け散る。

 

 で、冒頭に戻るわけだ。

 

 当然のように添い寝していた瑛子も起き上がる。着物姿。謎の和風。

 

「なんで添い寝してるのかね、瑛子くん」

「お兄ちゃんが疲れ切ってたから?」

「理由になってないやんけ……」

「お兄ちゃん、お風呂と食事、どっちを先にする?」

 

 ここで『それとも わ・た・し?』って言わないところが大変よろしい。言われても困るが。

 

「風呂があるのが驚きだ」

「だって今はここで暮らしてるんだよ?」

「神力って凄いな……って着替えは?」

「おばさまから預かってるよ、生活用品全部」

「お……ど、同棲みたいな……」

「みたいじゃなく、同棲だよ」

「ラブコメに抗議する!」

 

 親は避難済み。場所は俺も知らない。

 

「いいか? よく聞け。俺はな元々漫画をよく読む方だったんだ。親戚のおじさんにもらった全四十五巻の名作は宝物だし、自分で描き始めたぐらい好きだったのに最近はご無沙汰だ。なぜかわかるか?」

「なんで?」

「大ヒットしたラブコメ漫画のおかげで雨後の筍みたいに出るわ出るわラブコメ漫画! 俺は恋だの愛だの心底どうでもいい」

「その語り長くなりそうだから、先にお風呂入ろ?」

 

 チッ。後でたっぷり聞かせてやるからな。

 

「くあーっ! 生き返るぅ」

 

 檜風呂なんて三年前の家族旅行以来だ。何もなくてもとりあえず温泉に行く両親。

 

『お兄ちゃん、湯加減はどう?』

「ちょうどいいぞ。どうやって湯を沸かしてるか気になるがな」

 

『簡単よ。だってここ私の体内だもん』

「なんだとぅ!?」

 

 おいおいおいおい。怪奇現象大特集か!

 

『変な想像しないでよ。みたいなものってだけだから』

 

 子どもの頃に見たホラー映画を思い出した。

 主人公の若い女性。彼女の叔母が所有する別荘へ友達六人と避暑に行く。

 

 ところが彼女たちは次々と家に喰われていく。叔母の正体は長い時を生きる魔女であり、その別荘は叔母の身体でもであった。

 若い娘を食べて長生きするためだったかな?

 とにかく怖かった。

 

 それを瑛子に話すと『お兄ちゃんは私を何だと思ってるの……』と心底呆れたような声で怒られた。すまん。

 

 風呂から上がると大きめのちゃぶ台に見た目からして美味しそうな料理が並べられていた。

 

「これ、瑛子が?」

「もう。他に誰が作るのよ」

「あー例えば、使い魔的なのがいて、そいつらが……」

「ひどい」

「すまん冗談だ」

「それにあの子たちは料理なんて出来ないよ」

「いるんかい使い魔」

「たくさんいるよ。姿は滅多に見せないけどね、ほら」

 

 部屋の片隅に幼稚園児ぐらいの女の子が出現した。

 座敷童みたいに見えるその女児はお辞儀する。小さい頃の瑛子に似てる。なんか可愛い。

 

「この子はお兄ちゃんのそばで守護してる子」

「え? いつもか?」

「うん」

「うんじゃねぇよ!」

「お兄ちゃんが数学の授業中に居眠りしてるのも、休み時間に酒巻さんとエッチな話をしてるのも知ってるし」

「監視カメラやめろ」

「私はお兄ちゃんのすること全く気にしないから」

「盲目的やめろ」

「……こっち向いて?」

「わかった。わかったから。いただきます」

 

 俺は瑛子の手料理をかきこんだ。美味いぞこの野郎。

 

「美味しい?」

「……俺は不味かったら必ずそう言う。何も言わないで食べてるってことは美味いという証拠なのだ」

「それお兄ちゃんらしいよね」

「ふう!ごちそうさん!冗談抜きで美味かった」

「お粗末さま」

「テレビはないのか?」

「無いよ。電子機器はまだ作れないかな」

「買えよ」

「父親がいないので買えません」

 

 ……そうだったな。

 

「よし、今夜のロードショーは諦める。宇宙モンスターを楽しみにしてたけどな」

「またあれ? お兄ちゃんほんと好きだね」

「あのな瑛子。あの作品、映画としても一級品だけどな、あのモンスターの造形が革命的なんだよ」

「?」

「これまでのモンスターやら怪獣の類いって、要は軟体動物や爬虫類ベースのものが主流だったんだ」

「へえ」

 

 瑛子くん、その興味なさそうな顔をやめろ。

 

「それがだ! あのモンスターは硬質な皮膚を持つわけでな、今までと全く違うモンスター像を創造した!」

「ふんふん」

「ここが素晴らしいポイント。この前読んだ映画評論で『あのモンスターはアメリカ人がどんどん移住してくるラテンアメリカンへの潜在的恐怖を反映していると」

「そろそろ寝よう?」

 

 おのれ瑛子。もっと語らせろ。

 

 不意に抱きしめられる。

 

「心配いらないよ、お兄ちゃん。今度は私が絶対守るから。もう前のように不覚はとらないので安心してね?」

「……」

 

 反則だ。俺は倒れ込むように眠りに落ちた。

 そろそろ限界だったのだ。

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