【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.23 夢で会えたら

 昭和のいつか。どこかの街。季節は秋。

 

 気がつくと砂漠だった。

 あの赤錆びた砂漠。

 命の気配が全くない大地。

 薄青色の空。

 激しく照りつける太陽。 

 

 あの景色だ。 

 

 いつの間にか隣に鈴木瑠美子が制服姿で立っていた。

 

「味気ない眺めでしょう?」

「そうですね」

「私は好きになれなかった」

「故郷ってそんなもんでしょう」

「あら、わかるの」 

「親がそう言ってました。パッとしないとこだったと」

「ふふ」

「笑うとこですか?」

「私が美しいと思える星の人もそうなのかなって」

「毎日見ていたらそうなるんでしょう」

「訊かないの?」

「教えてくれるんですか?」

 

 景色が夕陽の射す教室へと変わる。

 

「事情を話しておいた方がいいでしょう?」

「最初からそうすればいいのに」

「そうしたら素直に身体を開け渡してくれた?」

「絶対ないですね」

「ふふ」

「何か笑えること言いました?」

「いいえ。魂を移そうとした時、君の記憶も一部見えたから」

「ならわかるでしょう? 侵略者の親玉さん」 

「侵略者ねぇ」

「事情は様々。でも侵略者のやることは一つ」

「そうね」

「どの生物を見てもそれは同じですよ」

「あなた達も?」

「一緒ですよ。何もせず滅びを受け入れません」

「見たからでしょう?」

「同胞全てに自害を命じて、なんらかの方法で女王であるあんたの魂を飛ばした」

「古代遺跡で見つけた方法よ」

「多分あの恒星は終わりに近づいてる」

「そうよ」

 

 彼女は語った。

 あのウサギもどきはあの星で最後に繁栄を謳歌した知的生命体。

 

 脳波でコミュニケーションを取り、各自の脳を同期してコンピューター並の情報処理をしていたそうだ(俺はこの辺がよくわからない)。

 

 彼女たちが栄える時代よりずっと前には、二足歩行の人型生物が高度な文明を築いていた。

 

 あちこちに残っていた先史文明の遺跡。

 生物の精神を無機物有機物問わず転写する技術。

 それらの研究を進め、宇宙探索まで実現していた。精神を同期させた宇宙船を使って。

 

 そしてわかってしまった。

 自分達の住む惑星を含む恒星系が終わりを迎えていることに。

 

 年々平均気温が上がり続け、生き物が住めない環境になるのは遠い未来ではないことに。

 

 周りは移住に全く向かない星ばかり。

 

 彼らは呪った。

 

 その運命を。

 

 深く深く呪った。

 

 長い間、ただただ捕食されるだけの、小さく脆弱な齧歯類に過ぎなかった彼らが、長い時をかけて進化して、ようやく星の支配者になって知ることになった滅び。

 

 そして彼らは見つけた。魂だけを転送する方法を。

 

 先史文明の人々もそうやって他の星へ移住したのだ。他の星に住む生物へ魂を転写する方法で。

 

 有機体を宇宙へ運ぶよりずっとコストがかからない手段。

 

 ただウサギもどき達は、その手段に必要とされる莫大なエネルギーを賄う生産施設を持ってなかった。

 

 切羽詰まった末の決断。生物の、つまり自分たちの生命力を使うこと。

 

 行き先は指定出来ない。一回限り。

 

 女王たる彼女のため、彼らは身を捧げる。

 

 彼女は全ての知識を蓄えている。

 

 何でも実現出来るだけの力を持っている。

 

 彼女さえいれば、転送先の星で技術を発展させ、彷徨う彼らの魂を呼び寄せる。

 

 再び繁栄するのだ。

 

 そう信じて。

 

「別にそれを責める気はありません」

「……意外ね」

「自分の種を残したいのは生物の本能だから」

「選択科目は生物?」

「習わなくてもSFではお馴染みですよ」

「◯◯君は好きだものね」

「ただお断りってだけです」

「……」

「他の星か別の次元か、どこから来たのか知りませんが」

「それは私にもわからないの」

「話し合ってどうこうなることじゃないです」

 

鈴木瑠美子は遠くを見る。

 

「私たちの肉体を再構築することも試したのよ」

「……」

「かなり近いものが出来上がったわ」

「……」

「でもダメだった。私達の身体では生きていけない」

「……」

「あなた達が太陽と呼ぶあの恒星が私たちを殺すのよ。何かが違うのね」

「……」  

「あなたの彼女三人のうち、妙な力を使う子がいるでしょ?」

「瑛子ですね」

「あの子の力も私たちの魂には致命的。世界中にあるのよ、あの力と同種のものが」

「……」 

「拒絶されてるのね、この星に」

「……」

「だからあなた達の身体が欲しいの」

「あげませんよ」

「当然ね」

「日本という国が全力で阻止します」

「出来るなら、ね?」

「日本が出来なかったら他の国々が」

「でしょうね」

 

 何か奥の手があるのだろうか。

彼女は笑顔を絶やさない。あるんだろう。

 

「余裕そうに見えて、実はそうでもないですね。鈴木先輩」

「そう見える?」

「とても」

「もう後がないから」

「やっぱりですか」

「知ってたの?」

「理由は知りませんよ。焦ってると思ったから」 

「そうね、急ぎすぎた」

「人類の本気も相当ですよ」

「知ってるわ。ずっと見てきたもの」

「ナチスの次はソ連かアメリカあたりで研究ですか」

「ええ。両方いたわ。研究者として」

「……」

「ドイツでの研究成果。狙った胎児に入る方法を確立したから。優秀な遺伝子を持つ科学者夫妻の娘となることもできた」

「それで、なんで俺なんです?」

「他の適合候補に比べて、頭ひとつ抜け出てるのよ、◯◯君は」

「私の能力を余すことなく使える身体、それが君なの」

「……」

「やっと見つけたんだから。あの時は私も浮かれちゃったわ」

「ちんちんついてますよ?」

「……え?……あははは……どうでもいいわよ、そんなもの」

「……」

「男の子ね」

「何がです?」

「さっきから視線が私の胸に何度も」

「この前モロ見ましたから」

「そうだったわね」

「仕返しとしてバッチリ目に焼き付けてやりましたよ」

「また見せてあげようか?」

「見せられても一番嬉しくないおっぱいです」 

「魅力ない?」

「羞恥心の欠片もないでしょ? そもそも生物として違いすぎるし」

「まぁひどい」

「中身があのウサギもどき、しかも地球に来てからかなり経ってますよね、お婆さん。百年の恋だって冷めます」

「まぁひどい。同情はしてくれないのね」

「御冗談。そんなのわからないよ、わかるわけない」

「……」

「俺はただの高校生。滅びを迎えた種のことなんて、わかるわけない」

「……」

「わからないけど、非難する気はないですよ」

「……」

「同情も理解も出来ないけど、あんたが払った犠牲の大きさ。それだけはわかるから」

「◯◯君は優しい……違うわね、公平ってことかしら」

「?」

「もっと憎悪や敵意を持つものよ。私のような存在に対して」

「……」

「私に恋してたからかな?」

「俺の性分らしいです。最近指摘されました」

「そうなの」

「単純な話です。どちらの種が生き残るか」

「そう捉えるのね」

 

 教室が何もない空間へと変貌する。

 鈴木瑠美子の姿は掻き消え暗闇だけが残る。

 

「待ってるわ」

 

 最後にそう言い残した彼女の声はとても悲しげで。

 それは俺の心を深く沈め、掻きむしった。




後で改稿するかもしれません。
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