【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.36 柚木由香里

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初冬。

 

 どこまでも暗い空。

 照りつける黒い太陽。

 地平線まで広がる赤黒い大地。

 生命溢れる地上への渇望。

 

 突然にそこへ降り注ぐ光。

 本当の光。

 それはやがて人、少女へと姿を変える。

 

「先輩はここで死んではいけません」

 

 ……誰だ。

 

 

 

「……ここは」

 

 起き上がると病院だった。

 ベッド横にソファーに佐藤、飯田、瑛子の三人が互いに寄りかかるように寝ている。

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。

 

「目が覚めた?」

 

 最初に起きたのは佐藤優子。

 

「あれからどうなったの?」

「あの黒いモノは消た後に◯◯君と瑛子ちゃんは気を失ったの」

「消えたのかぁ。良かった」   

 

 痛い思いをしただけのことはあったわけだ。

 

「すぐに柚木由香里という子がやってきてね」

「柚木が?」

「そこで私が説明します」

「!」

 

 俺のベッドに柚木が寝ていた。

 

「何故俺と一緒に寝てる……」

「ソファーはお三方に譲りました」

「柚木さん、瑛子ちゃんが目を覚ます前にそこ退いた方が賢明よ?」

「いえ。先輩の命を救ったのは私ですから、黒瀬さんも許してくれると思います」

「柚木、お前が……」

 

 彼女の漆黒の瞳。

 宇宙空間を思わせる。

 

「説明は長くなります。途中質問受け付けますのでいつでもどうぞ」

「お、おう」

「私はここより数百光年先にある星団ネットワークで恒点探査体として創造され、数千億単位の同僚と一緒にこの銀河へ散布されました」

「全部わからんぞ。星団ネットワーク?」

「複数の銀河団に住む生命体が意思疎通を行い、活動するコミュニティです」

 

 いきなり話のスケールがデカくなった。

 

「恒点探査と観測をする目的の為に私は数十億年前にこの惑星に落ちました」

「落ちてきたんだ」

 

 イメージとして種、いや胞子?

 

「はい。生命がいないうちは割と暇でした。お昼寝することが多かったです」

「その頃はどんな姿だったんだ?」

「近いのは……ウミウシですかね?」

 

 原初の地球で昼寝するウミウシ。

 

「今はあなた方人類のおかげで様々な情報が得られます。観測と探査は楽ちん。それに比べて火星に落ちた同僚は難儀してます。生物がいない不毛の惑星。移動手段が無いんですよね」

「ウミウシのままか」

「そうです。火星時間の一日に数メートルしか動けなくて。私は幸いでした。生命溢れるここへ落ちたので」

「何のために来たんだ?」

「探査ですよ? この広い宇宙を隅々まで調べて記録する。私の造物主はその担当です」

「博物館的な?」

「そう、それです」

 

 フィクションによくある宇宙からの侵略なんてナンセンスだと俺は思ってる。物語作るにはそれの方が盛り上がるから仕方ないけどな。

 

「柚木パパとママは子宝を強く望んでいましたが、ママは子どもを作れない身体だったのです。なので私がママのお腹に入ってちょちょいのちょいと。柚木由香里の誕生です」

 

 宇宙から飛来した探査機械みたいなやつが変化したもの……それが柚木の正体というわけか。

 

「一年前ぐらいからですかねぇ。私に少しだけ似た構成を持つ小さなモノが、商店街やショッピングセンター、校内をウロチョロしてたのでお掃除してました」

「それってシャーペンの芯ぐらいでウネウネ動くやつか?」

「はい。あれは自律式受信装置ですね。鈴木留美子さんとその関係者が仕掛けていました」

 

 乗っ取りが柚木に妨害されてたので、強硬手段に出たってとこか。

 

『私の身体は分子レベルのサイズ、有機と無機の中間物質で構成されてます。それを使えば様々な物の構成を弄れます。だから治療が得意です」

「すごいテクノロジーだな」

「それほどでも。で、一番重症だった◯◯先輩の傷を治療したんです。その前に佐藤先輩が応急処置を施してくれてたのスムーズに出来ました。素晴らしい体液をお持ちです。さすが憧れの佐藤先輩!」

 

 あの時か。

 

「ねぇ、なんで人間と同じ魂なの?」

 

 瑛子も起きたようだ。

 

「この身体は人そのものですよ。その動力源もまた人のものになるのは当たり前では?」

 

 それはそう……なのか?

 

「◯◯君、何ともない?」

 

 飯田が心配そうな顔してる。

 

「大丈夫だ。痛みも全くないし傷も残ってない」

「良かった……」

「俺、飯田も瑛子も佐藤さんもごく普通の、ちょっと個性がある普通の女子だと思えてきた。柚木がぶっ飛びすぎてる存在だから」

「褒め言葉でしょうか?」

「ああ。助けてくれてありがとうな。皆んなも助かった」

 

 他の生徒に伸ばしていた触手と違って、俺を突き刺したのは殺意満々なものだった。

 

 あの黒い球体の奥にいたモノのおぞましさ。

 全身の細胞ひとつひとつが拒絶反応を見せた存在。

 

「あの黒い球体の奥にいたのは何だろう」

 

 瑛子は『良くないもの』と言ってた。

 

「お兄ちゃん、あれはね、ずっと昔に一度だけこの星に来たこともある存在。それだけは知ってる、というかわかるの」

 

「こことは異なる次元に通じてましたね、あれ。我々が住むこの宇宙ではないところです」

 

 柚木の補足。

 

「体育館全体と中にいた人達の命を使ってあの門を作り上げてます。仕掛けは大したものですが、ローコストでやったので不完全で小さなものになってました」

 

 柚木の説明がわからない。

 

「人為的なものだと言うのか? あれが」

「そうですよ。私はその手の秘術に関しては詳しくありません。大体が秘匿されてますから。黒瀬さんの方が詳しいと思います」

「私も全部知ってるわけじゃないから」

 

 怪我じゃすまなかった生徒がいるのだろう。

 

「私、全然守れなかった」

「飯田さん、自分を責めるのはダメよ。寧ろ思い上がりね。アレを相手に全員を守るなんて誰にも出来ないわ」

「佐藤先輩の言う通りです。あれは、そうですね、練度の高い米軍でもかなりの犠牲者が出たと思います」

 

 俺も柚木の言う通りだと思う。

 

「そう言えばここ、どこの病院?」

「アンネのコネが効く病院。マスコミは近づけもしないし、日本の関係機関もシャットアウト。◯◯君は私たちの保護対象だから」

「アンネさんにまた世話になるんだ。佐藤さん、保護対象とは?」

「鈴木留美子の件で私たちが保護するって決めたのよ。各国の政府とも調整済み」

 

 複雑な気分だけど。

 

「新聞にはテロリストによる凶行として載ってます。ただ警察も何者の仕業なのかは、特定出来てないようです」

「……鈴木留美子たちの残党ってことはないかな」

「ないわね。◯◯君は知らないことだけど、各国の政府や私たちの関係者が一掃したわ。一人も残さず」

「国家と吸血鬼が。そうか」

 

 それこそ世界中の草の根をわけるように手が伸びたのかな。

 

「私たち以外にもいるからね」

「そうなんだ。世界の裏側は小説より奇なり……か」

「ほら、ここにイタチの子もいるでしょ」

「王戸ちゃんにも助けられたなー」

「いえっ! 当然のことかと!」

 

 いきなりそこに現れた王戸ちゃん。

 

「ずっといたの?」

「はいっ!」

「あの時はありがとう。助かった」

「いえいえ! 恐縮です!」

 

 事件そのものは全く解決してない。

 アレを仕掛けたのは誰なのか、目的も何もかも不明のまま。

 俺らの高校どうなるの?

 

 こんな時隣に彼女が欲しい。

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