【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.38 異次元からの

 昭和のいつか。どこかにある町。季節は冬。

 

 ここどこだろう。

 外国だろうか。

 

 石造りの建物、それらが隙間なく並ぶ街が眼下に広がる。

 その向こうには巨大な、多分だが城が見える。

 多分と思ったのは見慣れた城とは程遠いものだったから。

 真四角、正立方体で全体的に黒っぽい。

 

「やっと先輩に通じました」 

 

 隣には河野涼子が立っている。

 見たこともない服を着てる。

 スクール水着に箒やハタキ、モップを縫い付けたデザイン。ヨーロッパの女性シンガーがプロモーションビデオで着ていたヘンテコ衣装みたいだ。

 

「では先輩を起点にっと」

 

 奇抜な服に何も言えない俺をよそに、河野涼子は何かをしているようだ。

 まるでオーケストラの指揮者みたいな動き。

 

「関係の深さで言えば妥当かしらね」

 

 佐藤優子、飯田奈美、黒瀬瑛子、柚木由香里、そして王戸めぐみ。

 

 彼女達も驚いた様子だ。

 

「これで全員」

「やってくれたわね」

 

 瑛子が河野涼子を睨みつける。

 

「だって先輩に対する悪意も害意も一切ないから。あなたの結界は無意味よ」

 

 瑛子に微笑む河野涼子。

 

「量子通信に似てますね、なるほど。それにしても河野さん、すごい衣装です。◯◯先輩にアピールですか?」

 

 柚木が河野に質問を投げかける。

 

「柚木さん、あなたがただの人間じゃないのはわかるけど、何者かしらねぇ」

 

 河野は柚木に訝しむ視線を向ける。

 

「何か用があるんでしょう?」

 

 佐藤優子がいつもの調子で言い放つ横で、飯田と王戸ちゃんは落ち着きがない様子で俺の方を見ている。

 

「お別れする前に、邪魔してくれた皆さんにだけ伝えておこうと思って」

 

 そう言った河野涼子。俺たちを見下していることだけは読み取れる。

 

「それはありがたいな。わからんことだらけなんで、お前に訊こうと今日家迄行ったんだぞ」

「それはそれは。縁を辿られて追跡されても面倒なので、両親の記憶は消しておきました」

「お前……何者だ?」

 

 河野はそれには答えず、街の方へ視線を向け呟くように言う。

 

「今ここで皆さんが見ている風景の世界で神の声を臣民に伝える姫巫女でした」

「あれはどこなんだ?」

「神の都です。ゴジュテス大陸の中央に位置します」

 

 謎のワードの連続だ。

 

「どこか遠くの星か」

「◯◯先輩、この次元ではないんですよ」

「どういう……」

「順を追って説明しますね。私は河野家の長女として生まれました。特に何もなく育ってましたが、十一歳、小学六年生の時に思い出したのです」

 

 彼女は遠くに見える黒っぽい城を指差す。

 

「あの大神殿で神に仕えていた姫巫女ナラバス、それが私だと。大きな神事を済ませたあの日、私は命を落としたのです」

「前世を思い出したってわけか」

 

 実際、ある日突然子どもが『自分は別人である』と言い出した事例はある。

 単なる妄言でなく、供述通りの人物の記録が確認されたりもしている。

 与太話として切り捨てるには、説明がつかない物証があるなら認めないわけにはいかないだろう。

 

「ええ。それに気がついた私は歓喜に震えたのです。また神にお仕え出来ると。それと同時にひどく落胆しました」

 

 芝居がかった表情を作り、俺の方を見る。

 

「この地球、いえこの次元には神の力を全く感じ取れなかったからです。私は神の力を授かり、それを行使してきましたから」

「だから別次元ってことか」

「はい。落胆はしましたが、私はこの次元に神をお招きすることが最善だと悟りました。我らの神の威光でこの次元を照らすのです」

 

 こいつ、その為に生徒を生贄にしたのか。

 

「それであの胸糞悪い儀式をやりやがったのか」

「はい、何せ今の私はなんの力も持たない小娘にすぎません。ずっと調べました。この星の様々な宗教儀式や呪いを」

 

 河野は俯く。

 

「しかし小娘の私には力が及ばないことも多く、難航したのです。大掛かりな招聘儀式を行うには足りないものが多すぎました。でも!」

 

 顔をあげた河野の顔は歓喜に満ちている。

 

「あの事件! 鈴木留美子、でしたか。彼女が使ったあらゆる秘術が私に素晴らしい恩恵を齎したのです。空間と空間を繋いだり、魂を入れ替えたり」

 

 どういうことだ。

 

「学校跡が封鎖された時、この世界の何者かが私に語りかけてくださいました。『残された術の残滓、お前に授けよう』と。気がついたらあの洞穴に転移され、私はそこで数々の秘術を手に入れたのです」 

 

河野涼子を唆した存在。

 俺は瑛子の方に思わず振り返るが、彼女は首を横に振る。

 

「この地球、特にここ日本には多くの神がいます。我が神とはかなり違うものですが、その一部が私に力を貸してくれたのです。『この世を掻き乱せ』と」

 

 なんだそりゃ。それ悪魔とかだろ。

 

「あとは前々から少しづつ進めていた、この国で言う縁結びを粛々とこなしていきました。私がちょっと手を加えて、少し囁くだけで子ども達は大いに勘違いを起こし、情念を滾らせてくれました」

 

 恍惚とした顔になった河野涼子は、次に俺たちを睨み付ける。

 

「◯◯先輩、あなたを起点にした縁、特に黒瀬さんが目障りでした。バットに当たっていればよかったのに」

 

 こいつがあれを意図的に仕組んだのか!

 

「私の言うことなら何でも聞いてくれる野球部の彼が熱心に練習までしたのに」

「王戸ちゃんがいなかったら、お前の狙い通りだったな」

「◯◯様を傷つけようとしたな! お前!」 

 

 怒り顔の王戸ちゃん。初めて見た。

 

「先輩が黒瀬さんに渡された妙な刀も、生贄を増やす邪魔をした佐藤先輩や飯田さん、もっとも忌々しいのは我が神の妨害をしていた柚木さん」

「あなたが神と呼ぶあれは高次元に住む侵食型生命体。上層部からも追い返せと指令が来ましたし。あれの同種がこの宇宙で色々とトラブル起こしまくって同僚もてんやわんやなんです」

 

 てんやわんやって言うやつ初めてだぞ。

 

「結局失敗に終わりましたが、あの時に神力を授かりましたので、私は別の場所でやり直します」

「……世界中の警察や国の機関がお前を追うぞ」

「ええどうぞ。ご自由に」

 

 不敵に笑う河野。

 

「神がいらっしゃればこの星に住む生き物の半分を供物として捧げます。人の数だけはとてつもなく多いこの星は良き神の星となるでしょう」

 

 

 見慣れた部屋。

 朝だ。

 自室で目覚めた俺は河野涼子の話を忘れないうちにノートへ書き込む。

 一言一句漏らさないようにだ。

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