【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.41 仁科亜矢子 後編

 昭和のいつか。どこかにある高校。 季節は冬。

 

 喫茶店。

 俺の向かいに不敵な表情の仁科亜矢子。

 俺の右隣にはアンネさんのパパ、トーマスさん。

 左隣にはアンネさん。

 隣のテーブルには佐藤優子と瑛子が仁科を睨みつけている。

 

 場の空気が険悪すぎて俺は窒息しそうになりながらも、一時間前のことを思い返す。

 

 仁科亜矢子から手紙による呼び出し。

 悪い予感しかない。

 楽器店前の喫茶店か。

 指定時間には余裕があるし先に書店へ向かったんだ。

 

 目当てのコミックを買って良い気分になった。作者はナンバーワン少年誌の大賞に選ばれデビュー。受賞作はSFだったがその後の連載は考古学者が主人公の伝奇ロマンだ。

 

 書店を出たところに仁科亜矢子が待っていた。

 

「◯◯君、男の子って待ち合わせ場所には先に行くものじゃないのかな」

「はあ」

 

 びっくりして気の抜けた返事しか出来なかった。

 すっと俺に近寄り耳うちする仁科亜矢子。

 

「お前さん好みの美少女だろう? やけに落ち着いてるじゃねぇか」

「!!」

 

 思わず距離を取る。 

 何だこの女!?

 

「喫茶店で待ってるぜ」

 

 ニヤニヤ笑いながらそう告げ、自転車で走り去る仁科亜矢子。

 

 あれ、見た目通りのお嬢さまじゃないな。 

 喫茶店へ急ぐことにした。

 

 喫茶店のドアを開けると笑顔で手を振る仁科がそこにいた。

 店内には他の客、いやマスターや店員さえもいない。

 

「ここは貸切だ。コーヒーひとつ出てこねぇが、話し合いにはいらんだろう」

「お前、何者だ?」

「まぁ座れよ。慌てることはない」

 

 仕方ない。仁科亜矢子の向かいに座る。

 

「まあそんなに警戒すんなって。お前さんに危害は加える気はないから」

「答えろよ。何者だ?」

「やれやれ。せっかちな男はモテねぇぜ?」

「さっき買った漫画を早く読みたいんでね」

「くくっ。高校生にもなって。女の誘いより漫画かよ。小学生だな」

「ほっとけ!」

 

 イライラしてくる。

 

「俺はお前さん達が悪魔と呼ぶ者だよ」

 

 デアソードを呼び出す。

 

「おおっと! その物騒なエモノはしまってくれよ。怖い怖い」

 

 口調とは裏腹に落ち着いている。悔しいが俺なんて敵にすらならないのだろう。

 

「悪魔祓い出来そうな気がするので、やらせてもらう」

「もう一度言うぜ? お前さんに敵対する気はねぇよ」

「なら何の用だ」

「なぁに、ちと挨拶しておこうと思ってな」

「なんで挨拶」

「お前さんに近づきゃ、現れると思ってな」

「誰がだ?」

「◯◯君に悪魔が何の用かな」

「おわっ! アンネさん!」

「◯◯君、驚きすぎやで、うちのアンネが可愛すぎるのがあかんのかな?」

 

 アンネさんのパパも一緒だ。

 どう見ても映画俳優にしか見えない渋いおじさん。ハンサムってのは年取ってもかっこいいんだな。戦争映画でもSF映画でも主役を張れるカッコ良さ。

 なのに喋ると関西弁なのがひどい。

 

「お兄ちゃん、また危なそうなやつに釣られて!」

 

 瑛子が怒り顔で立っていた。

 隣には佐藤優子。

 

「それだけ◯◯君は瑛子ちゃんを信じてるんじゃない?」

「だからって……」

 

 佐藤優子の不意打ちに瑛子の顔が紅くなる。照れた顔は破壊力抜群だなあ。

 

「な?俺の言った通りだろ?関係者勢揃いだ」

「私たちに用があるのか。あるなら早く言え」

 

 トーマスさんの関西弁が消える。

 

「まずは挨拶と思ってな」

「私の妻にしたことは忘れてないが?」

「俺は関係ない。俺たちには同族意識はないんでな。お気の毒だとは思うが、その話は関係ないぜ?」

 

 トーマスさんの気迫がすごい。

 

「まぁ座ったらどうだ?」

 

 それに全く動じてない仁科亜矢子。さすが悪魔。

 

「最近ここらで同族がウロチョロしてるのを突き止めてな。俺は上司から命令されて調査に来たわけよ」

「悪魔が他の悪魔に干渉するか」

「普通はしない。関心もないし。ただ見過ごせないことを企んでるのがいるんだよ」

「何のことだ」

「この前のことだ。俺たちに似た方法で魂を乗っ取り、やらかした連中だよ」

 

 鈴木留美子の件か。

 

「そいつらに俺達のやり方を教えたのがいる。しかも同族以外とつるんで」

「悪魔だけじゃない?」

「ああそうだ。そこからして俺たち悪魔らしくないが」

「調査だけではないだろう」

「ああ。見つけたら粛正もだ。あれを同族以外に漏らすのは最大の禁忌だからな。やり方を解析されでもしたら、俺たちは遊べなくなる」

「……」 

「おいおい、だからあんたの奥さんに取り憑いたのは俺じゃないんだから。殺意を向けるのはやめてくれよ」

 

 怒りオーラがたち上るトーマスさんと対照的に軽い調子の仁科亜矢子。

 俺はあんな風にトーマスさんに睨まれただけで失禁する。

 

「まぁそんなわけでな、俺がこの辺りをうろつくのは見逃してほしい。ちゃんと見返りも用意してきたからよ」

「それは何だ」

「河野涼子の居場所だ」

 

 な、何だと?

 

「見当はついてる。俺たちのやり方を参考にして術を使ったら必ず痕跡が残るんだよ。俺たちにしかわからない、な」

 

 悪魔のやり方は悪魔にだけわかる証拠を残すってことか?

 

 

「交換条件としちゃ充分だろ? この世界にあんなもん呼ばれても困るしな、俺らとしても」

 

 そして薄笑いを浮かべる仁科亜矢子。

 

「ここは貴重な遊び場……」

 

 と言った瞬間、彼女の首が宙に舞う。

 血は噴き出てない。

 その首と目が合う。

 笑ってる。

 物理法則に従って落下を始めた首を仁科は受け止め、元に戻す。

 何事もなかったように。

 世紀の大奇術ショー。

 

「無駄だぜ?」

 

 また笑う。

 トーマスさんがやったのか? 何も見えなかった。

 空気すら動いてない。

 

「安心しろ。少なくとも俺はあんたら吸血鬼には興味ない。楽しむなら人間だ」

 

 と言って俺を見る。

 

「まぁ◯◯君に何かしたら、おっかないお嬢さん達に付き纏われそうだ」

 

 今度は佐藤優子と瑛子からすごい何かが溢れ出ている。怖い。

 

「ジョークだよ。カリカリすんなって。河野涼子はこの街にまだいるぜ。お前さん達が違和感に気づけばすぐ見つかるさ」

 

 そう言うと仁科亜矢子は立ち去った。

 いるのか! まだこの街に! そっちの方が驚きだ!

 逃げたと思わせて、いや、奴は逃げるとは言ってなかった。ミスリード誘ったわけか。

 

 喫茶店内に喧騒が戻る。

 クラシックのBGM、マスターが調理する音、他の客の話し声、店員の挨拶。

 

「いらっしゃいませ! 五名様ですよね? すみません、すぐ注文を」

 

 店員が慌てたようにやって来た。

 佐藤優子と瑛子も俺たちと同じテーブルに座ってる。これまた謎の力だな。

 

「つ、疲れた……」

 

 思わず漏らしてしまう。

 

「◯◯君、怖がらせてしまって申し訳ない。悪魔とは昔ちょっとあってね」

 

 会話の端々で察した。トーマスさんの奥さん、そしてアンネさんにとってはお母さんに悪魔が何かしたんだろう。ロクでもないことを。

 さっきからアンネさんが無口なのも怖い。

 

「あいつが言ってた『違和感に気づけばすぐ見つかる』というのが、よくわからないですね」

「そればっかりはこの街に住む君たちに頼るしかないな。私とアンネはここの住人じゃないからね」

「わかりました。見落とさないよう注意してみます」

 

 今になって気づく。

 転校の挨拶。その時に見せた仁科亜矢子の視線。

 あれは俺のそばにいる瑛子の使い魔童女(瑛子によると神使と言うらしい)が見えていたんだと。

 

「私とアンネはやることが出来たから、一旦向こうへ戻る。◯◯君、河野涼子は未知の術師だ。危ないことはしないで、周りを頼りなさい」

 

 一切関西弁を使わないトーマスさんはカッコ良すぎるなと思いながら「はい。俺は非力な高校生ですから」と正直に答える。本心だ。

 一応デアソードを貰ったけど、俺自身に力があるわけではない。

 トーマスさんが仁科亜矢子の首を跳ね飛ばした攻撃、あれを喰らったら、俺は何も気づかないまま絶命するのは目に見えてる。

 

 そして解散。

 

「お兄ちゃん、これからどうするの?」

「むしゃくしゃするんで気分転換にドラム叩いてから帰るわ」

「今夜、お風呂入りに来てよ」

「え? お前の家の?」

「うん。清めておきたいから」

 

 何かするのだろう。

 

「わかった」

「アンネ達に何も訊かないのね」

「佐藤さん、アホな俺にだってわかるよ。他人が触れちゃいけないことだ」

「そうね。私たち種族全体が悪魔と敵対するきっかけになった出来事だから」

「そこまで」

 

 やはり悪魔は悪魔だ。

 瑛子達と別れ楽器店へ。

 

「◯◯君、久しぶり!」

 

 看板娘の紀子さんが笑顔で迎えてくれた。あの店長と似ても似つかない可愛い娘さんだ。

 

「スタジオ空いてます?」

「今から一時間なら大丈夫だよ?」

「じゃお願いします」

 

 スタジオに入ると柚木がいた。またも体操服。

 

「先輩、探したんですよ」

「なんで?」

「放課後からいなくなってたじゃないですか!」

「あー」

 

 仁科亜矢子も何かの術を使ってたからな。

 

「用件は後でいいです。先輩が叩く姿を見学させてください」

「何か表現がおかしいような……」

 

 俺は柚木に見つめられながら汗だくになるまで叩き続けた。

 

「何か気がかりがあるんですね?」

「あるっちゃあるが……」

 

 柚木由香里の肉体は俺たちと同じだ。その点は瑛子と同じ。危ない橋は渡らせたくない。

 

「それで用件とは?」

「水星にいる同僚がですね、調査が一段落したのでこっちに遊びに来てるんです」

「なんて?」

「同僚は私よりずっと楽に探査できたんですよ。水星の知的生命体のおかげです」

「い、いるのか水星人が!?」

「はい。鉱物生命体です」

 

 水星は太陽系の惑星で一番太陽に近い灼熱と極寒の星だ。大気もほぼ無い。

 

「水星に知的生命体がいること教えてくれてアリガトウ」

「褒められて光栄です」

「褒めてない! そのうち人類が探査船を送ってだな、苦難の末にコンタクトするのがロマンであって。あっさり知りたくなかったぞ」

「まぁ今の開発スピードならありえないことではないですが……」

「だよな? それにしても水星か。金星は……いやいい。ロマンがなくなる。言うなよ?」

「はい」

「で、どこにいるんだ?」

「ここに」

 

 柚木が体操服のポケットに手を入れ何かを取り出す。 

 なるほどウミウシっぽい。

 蒼い体に黄色いツノらしきものが四本。

 なんか可愛いな。

 

 消えた。

 柚木の手に載っていたウミウシはモヤのように空気へ溶け、跡形もなくなった。

 

「同化完了です。しばらくこの星で活動する身体の培養と文化や習慣を学んでいきます」

「柚木がもう一人増えるのか?」

「それどんなホラーですか。色んな遺伝子を採取していきますよ。私は飯田先輩のような身体変形機能を彼女に勧めています。私は脆弱ですから」

「いや別に戦闘しなくても」

「生命体が溢れている星、不穏な存在もまた少なからずいますので」

 

 そうだな。

 

「いつの日か人類も柚木たちの技術を実現出来るのかな……」

「可能ですよ。途中で滅びさえしなければ」

「あーそれな」

「地球は近くで超新星爆発の可能性が低めなので期待は持てます」

 

 柚木は同僚を内包し、卵を温める鶏と同じ状態になった。

 なおさら危険からは遠ざけたいので、仁科亜矢子の件は伏せておくことにした。

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