昭和のいつか。どこかにある街。 季節は冬。
「えっ? 誰?」
「三年の本田紗代子だよ」
毛に覆われ爪が伸びた手。
その持ち主は、瞳が縦に細長い目の持ち主。
猫だ。
どこからどう見ても猫にしか見えない。
王戸ちゃんの顔は強張ったままだ。この人がよほど怖いのだろう。
「私もさ、傍観したかったけど、この街に閉じ込められちゃったから」
「は、はぁ」
どうにも彼女の猫みたいな目から視線を外せない。
「死体を操ってるのは一人……同時に何人も手足のように操ってる。相手は凄腕だよ」
「えっとですね、相手にしてるのは異次元からこっちに生まれ変わった巫女、多分女王みたいなやつです。こっち来てからも色々と術やら何やらを手に入れたみたいで。本人が言ってました」
「なるほどねぇ。そりゃ納得だよ」
くるくる動く目。
「私があちこちで傀儡になってる子たちは静かにさせたけど、そこに転がってる化け物がいたら私一人じゃ無理だから」
と言って周りを見渡す。
「悪魔憑き、吸血鬼、イタチ、まつろわぬ民、新米の神様と……その子は何者かな?」
柚木を指差す。
「アンドロメダの方から来た……まぁ可愛い後輩になります」
「あはははっ! 何それ。宇宙人なのかな」
「その定義には当てはまりません。私は恒点観測体です」
「ふうん?」
「鈴木留美子が起こした事件、あの時は静観してました。この星で完結する事象でしたから」
ん?
「柚木、それどういうことだ」
「先輩、種の存続をかけて他の星に移住するって珍しいことじゃないんです。意識を別の生物に転写する技術はそこの悪魔さんも使ってますね。もっと高度ですけど。まぁ目的は娯楽みたいですが」
淡々と語る柚木。
「あの齧歯類から進化した彼女たちと地球に住む先輩たちとの生存競争です。そこに私達は介入出来ません。正当な覇権争いなので」
なるほど。
「例えば、本田先輩。猫さん達が先輩たち人類の座を奪うために殺戮を始めたところで干渉はしません」
「恐ろしいこと言うね。私らはそんなことしないよ」
口をへの字に曲げる本田紗代子。
「一方で河野涼子さんは別次元の
生き残りをかけての争いは自然の摂理。違う世界の神を呼ぶのはそれに反すると。
そういうことか。
「河野涼子が呼び出そうとしてるもの、彼女が神と呼ぶアレは地球上の生き物を全て飲み込む化け物なんです。本田さん、手を貸してもらえますか?」
「それまた怖い話だね。もちろんだよ。それと狐にも今の話は伝わったと思うよ」
「いるんですか?」
「あの子は一族で動いてる。勝手には動けないんだよ」
味方は一人でも多い方がいい。
ここにきて俺は身体中の関節が悲鳴を上げてるのに気づく。
「痛てて……」
「お兄ちゃん、すぐ手当てするよ」
立ちあがろうとする瑛子。
その時。
瑛子に抱きついたかと思うと、首筋に吸い付く佐藤優子。
「きゃっ」
王戸ちゃんを拘束し、締め上げる飯田奈美。
意識をなくした二人を乱暴に投げ捨て、同時に立ち上がる二人。
「すんなり消えてくれませんね、先輩。あなたが起点になって邪魔者が増えていくばかり」
二人同時に同じ表情で喋る。
あの黒い羽か!
「これでお終いにしましょう。彼女達の手で死んでくださいね?」