【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.49 商店街の決闘 控えめな悪夢

 昭和のいつか。どこかにある街。 季節は冬。

 

 佐藤優子と飯田奈美。

 河野涼子の傀儡と化した二人。

 

 二人の姿がブレて消えたかと思うと、すぐ横で衝突音。

 次に浮遊感。

 

「吸血鬼の嬢ちゃん、愛する彼氏を自分の手で殺めでもしたら……後で後悔するぜ」

 

 仁科亜矢子が佐藤優子を止めていた。

 

「まつろわぬ民って硬いんだね」

 

 飯田は本田紗代子さんが弾き飛ばしていた。

 猫パワー恐るべし。

 俺はと言えば柚木に抱えらたまま空中だ。

 

 目にも止まらぬ格闘が始まる。

 瑛子と王戸ちゃんは倒れたまま。

 

「柚木! あれどうにか出来ないか?」

「すみません。私はあの方面には全く無力です」

 

 もしかしてデアソードなら?

 

「仁科! 本田さん! 俺が一太刀当てられるように頼みます! 柚木、俺を降ろしてくれ」

「危険です」

「やらなきゃ同士討ちだ」

「……仕方ないです」

 

 四人が早送り映像のように組み合っては離れてを繰り返している。

 デアソードを握る手に力と想いをありったけ込めると、強く光が増した!

 

「そらよ!」

 

 仁科亜矢子が佐藤優子を組み伏せたと同時に彼女の脇腹へ。

 デアソードが触れた瞬間に痙攣し、眠るようにおとなしくなった。

 よし! いける!

 

「ちょっと! こっち手伝って!」

 

 本田さんは飯田の槍のように変化した腕と打ち合ってた。

 近寄ろうとした俺の鼻先をそれが通り過ぎる。

 あぶねえ!

 

 何かが飛んできた。

 飯田はそれを払う。

 石か?!

 次には数十個が飛んでくる。

 その隙に俺は飯田の脛あたりめがけてスライディング。

 カウンターで蹴られる、痛え!

 が、デアソードを当てる!

 飛ばされ、痛む腹を押さえて見れば、飯田も倒れたところだった。

 やった!

 また(あばら)が折れたな。 

 

「瑛子! 王戸ちゃん!」

 

 柚木が色々診ている。

 

「さっきは原始的ではありますが、投石が功を奏して良かったです。黒瀬さんには輸血が必要ですね、血液型は……ふむB型。先輩は?」

「俺AB型……」

「私はB型だよ」

「では本田先輩、ほんの少しだけ血液を分けてください」

 

 本田紗代子の腕の傷。そこへ柚木が手を触れると傷がみるみる癒えていく。

 

「あれ? 血は採らないの?」

「サンプルはいただきました。あとは私の体内で培養します」

「へぇー。便利だね、君は」

「それと皆さん、後ろを向いていてください」

「なんでだよ?」

 

 仁科がつっかかる。

 

「乙女の秘密です」

 

 あ、前にもあったな。

 

「仁科、本田さん、ちょっと」

 

 二人に声をかけその場から距離を取る。

 

「先にあそこで演奏してる奴らを止めましょう。あれも術の一部。さっきからそれをさせまいと妨害ばかりされてますね」

「いいよ。いい加減うるさいし」

「仁科、空間に穴を開けるのってまた出来る?」

「あと一回がやっとだ。ここ、かなり面倒くさいぜ」

「合図したら頼む。本田さんはドラムのやつを。俺と仁科はアンプの電源を落とす。コンセント引っこ抜くだけだ」

「あいよ」

「わかった」

 

 三人でゆっくりと距離を詰めていく。

『感情警察』の面々は目を瞑ったまま、ひたすら演奏中だ。

 

 ステージまであと少し。

 

「がっ」

 

 頭を殴られたような痛み。 

 全身にのしかかる見えない力。

 意識は暗転する。

 

 

 

 ここは……どこだ。

 お、そうそう教室だ。

 今日から二年になったんだ。

 

「おー◯◯、また同じか」

 酒巻と同じクラスかー。

 

「◯◯君、おはよ」

「おはよ飯田。すまん、数学のノート見せてくれ」

「いいよ」

 

 数学は保健室に行くに限る。

 ん? 飯田、机をくっつけてどうした?

 おい近いぞ。

 

「◯◯君にノート見せるのに、この方がいいかと思って」

「あー確かに」

 

 俺の腕を取り、頭を預けてくる飯田。甘えん坊め。

 

「◯◯君、寝坊して朝ごはんまだなの。いい?」

「佐藤さんまたかよ。へいへい。いいよ」

 

 彼女の唇が俺の首筋に。 

 この瞬間がたまらない。身も心も溶けていく。

 

「ご馳走様」

 

 すぐに顔をぐるりと横へ回される。

 

「お兄ちゃん、朝のキスがまだよ」

「は? 何言ってんだ……あ、そうだったな。今朝は慌ててたもんな」

「んっ」

 

 いつもの習慣。

 

 担任が入ってきた。

 河野涼子先生だ。

 

「はいはい静かに! もう二年生でしょ」

 

 ざわついてた教室は一瞬で静かになり、河野先生が出欠を取り始める。

 

「◯◯君……あ、君かぁ。鈴木留美子を殺したのは」

「え?」

「外、見てごらん」

 

 促されるまま廊下へ。

 手すりの向こう、中庭に鈴木留美子が横たわっていた。

 身長は、車四台分以上はありそうな巨人だ。

 一糸纏わぬ姿。

 左乳房の下あたりから血が流れ出て、中庭を赤黒く染めている。

 

 鈴木留美子は目を開けると、上半身を起こす。

 

「◯◯君に心臓貫かれて痛かったなぁ」

 

 口からも、目からも血が流れている。

 そうだ。

 俺が殺した。

 

「ねぇ」

 

 巨大な手のひらが迫る。それは

 動けない俺を包み込むと乳房の方へ持っていき、

 

「心臓こんなになっちゃった」

 

 もう片方の手を傷口に突っ込んだかと思うと、心臓を取り出した。

 冷蔵庫よりもでかい心臓。

 動いていない。

 やがてそれは青銅色へ変わる。

 さらに。

 端から緑青のように変色し、黒い粉となって形を失った。

 

「地球に住みたかったなぁ」

 

 微笑む鈴木留美子。

 黒い塊になり、崩れ落ちていった。

 

「◯◯君が殺したのよね?」

 

 いつの間にか横に立つ河野先生。

 

「俺……が、とどめを刺しました」

「じゃあ彼女達も?」

「えっ?」

 

 河野先生が後ろを示す。

 振り返るとそこに、倒れている佐藤優子、飯田奈美、黒瀬瑛子。

 

「君が殺したんだよ。何もせずおとなしくしてなかったばかりに」

 

 三人へ駆け寄る。

 佐藤優子の脈をとる……冷たい手首に脈動は無かった。

 飯田奈美の胸に耳を当てる。心臓の鼓動がない。

 黒瀬瑛子の鼻へ手を近づける。息をしてない上に顔が土気色だ。

 

「!!!」

「どう? 君が殺した感想は?」

「こっ、殺してない」

「そう? 非力な君を庇って彼女達は死んだんだよ?」

「……」

「君が殺したことになるでしょう?」

 

 そうか。

 俺か。

 俺が。

 

「だからね、ここで私と一緒にずっと懺悔しようよ。君の罪をさ、償わないと」

 

 空を見上げる。

 どんよりと垂れ込めた黒い雲。

 鈴木留美子の赤黒い血で満たされた大地。

 

「俺は……」

 

 涙がとめどなく溢れて河野先生に縋り付く。

 先生は優しく俺の頭を撫でながら、「素直な子は好きよ」と優しく言ってくれた。

 

 河野先生はなんて優しいんだ。

 俺は先生がいればいいよ。

 殺してしまった子達のことを忘れずに、ここで暮らしていく。

 

 

「先輩、私が登場してないのが大いに不満ではありますが」

 

 光が差し込んできた。

 その光はやがて人の形をとる。

 見知らぬ女子がそこにいた。

 

「悪魔さんに手助けしてもらいましたよ。なかなか悪趣味なことをしますね、姫巫女ナラバス」

「この世界では河野涼子よ」

「先輩、ほら起きてください」

「な、お前は誰だ?」

「もう! お忘れですか? あなたの可愛い後輩、柚木由香里です」

「し、知らない」

「ご丁寧に記憶まで弄って。随分な念の入れようですね」

 

 もうひとつ差し込む光。

 それもまた人の形をとる。

 またも知らない女子だ。

 

 

「お兄ちゃん!」

「だ、誰?」

「黒瀬さん、先輩は記憶を弄られてます」

「姑息ね」

 

 後から現れた女子の身体が光る。

 眩しい。

 

「厄介ね」

 

 河野先生が対抗するように手を上げようとして

 

「おっとさせねぇぜ?」

 

 その手を掴むのはこれまた知らない女子。男みたいな口調だ。

 

 ううん?

 河野涼子が先生?

 それっておかしくないか?

 あ、柚木と瑛子? それに……仁科亜矢子?

 

「柚木! 瑛子!」

「抜けましたね。先輩、起きてください」

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