昭和のいつか。どこかにある街。 季節は冬。
佐藤優子と飯田奈美。
河野涼子の傀儡と化した二人。
二人の姿がブレて消えたかと思うと、すぐ横で衝突音。
次に浮遊感。
「吸血鬼の嬢ちゃん、愛する彼氏を自分の手で殺めでもしたら……後で後悔するぜ」
仁科亜矢子が佐藤優子を止めていた。
「まつろわぬ民って硬いんだね」
飯田は本田紗代子さんが弾き飛ばしていた。
猫パワー恐るべし。
俺はと言えば柚木に抱えらたまま空中だ。
目にも止まらぬ格闘が始まる。
瑛子と王戸ちゃんは倒れたまま。
「柚木! あれどうにか出来ないか?」
「すみません。私はあの方面には全く無力です」
もしかしてデアソードなら?
「仁科! 本田さん! 俺が一太刀当てられるように頼みます! 柚木、俺を降ろしてくれ」
「危険です」
「やらなきゃ同士討ちだ」
「……仕方ないです」
四人が早送り映像のように組み合っては離れてを繰り返している。
デアソードを握る手に力と想いをありったけ込めると、強く光が増した!
「そらよ!」
仁科亜矢子が佐藤優子を組み伏せたと同時に彼女の脇腹へ。
デアソードが触れた瞬間に痙攣し、眠るようにおとなしくなった。
よし! いける!
「ちょっと! こっち手伝って!」
本田さんは飯田の槍のように変化した腕と打ち合ってた。
近寄ろうとした俺の鼻先をそれが通り過ぎる。
あぶねえ!
何かが飛んできた。
飯田はそれを払う。
石か?!
次には数十個が飛んでくる。
その隙に俺は飯田の脛あたりめがけてスライディング。
カウンターで蹴られる、痛え!
が、デアソードを当てる!
飛ばされ、痛む腹を押さえて見れば、飯田も倒れたところだった。
やった!
また
「瑛子! 王戸ちゃん!」
柚木が色々診ている。
「さっきは原始的ではありますが、投石が功を奏して良かったです。黒瀬さんには輸血が必要ですね、血液型は……ふむB型。先輩は?」
「俺AB型……」
「私はB型だよ」
「では本田先輩、ほんの少しだけ血液を分けてください」
本田紗代子の腕の傷。そこへ柚木が手を触れると傷がみるみる癒えていく。
「あれ? 血は採らないの?」
「サンプルはいただきました。あとは私の体内で培養します」
「へぇー。便利だね、君は」
「それと皆さん、後ろを向いていてください」
「なんでだよ?」
仁科がつっかかる。
「乙女の秘密です」
あ、前にもあったな。
「仁科、本田さん、ちょっと」
二人に声をかけその場から距離を取る。
「先にあそこで演奏してる奴らを止めましょう。あれも術の一部。さっきからそれをさせまいと妨害ばかりされてますね」
「いいよ。いい加減うるさいし」
「仁科、空間に穴を開けるのってまた出来る?」
「あと一回がやっとだ。ここ、かなり面倒くさいぜ」
「合図したら頼む。本田さんはドラムのやつを。俺と仁科はアンプの電源を落とす。コンセント引っこ抜くだけだ」
「あいよ」
「わかった」
三人でゆっくりと距離を詰めていく。
『感情警察』の面々は目を瞑ったまま、ひたすら演奏中だ。
ステージまであと少し。
「がっ」
頭を殴られたような痛み。
全身にのしかかる見えない力。
意識は暗転する。
ここは……どこだ。
お、そうそう教室だ。
今日から二年になったんだ。
「おー◯◯、また同じか」
酒巻と同じクラスかー。
「◯◯君、おはよ」
「おはよ飯田。すまん、数学のノート見せてくれ」
「いいよ」
数学は保健室に行くに限る。
ん? 飯田、机をくっつけてどうした?
おい近いぞ。
「◯◯君にノート見せるのに、この方がいいかと思って」
「あー確かに」
俺の腕を取り、頭を預けてくる飯田。甘えん坊め。
「◯◯君、寝坊して朝ごはんまだなの。いい?」
「佐藤さんまたかよ。へいへい。いいよ」
彼女の唇が俺の首筋に。
この瞬間がたまらない。身も心も溶けていく。
「ご馳走様」
すぐに顔をぐるりと横へ回される。
「お兄ちゃん、朝のキスがまだよ」
「は? 何言ってんだ……あ、そうだったな。今朝は慌ててたもんな」
「んっ」
いつもの習慣。
担任が入ってきた。
河野涼子先生だ。
「はいはい静かに! もう二年生でしょ」
ざわついてた教室は一瞬で静かになり、河野先生が出欠を取り始める。
「◯◯君……あ、君かぁ。鈴木留美子を殺したのは」
「え?」
「外、見てごらん」
促されるまま廊下へ。
手すりの向こう、中庭に鈴木留美子が横たわっていた。
身長は、車四台分以上はありそうな巨人だ。
一糸纏わぬ姿。
左乳房の下あたりから血が流れ出て、中庭を赤黒く染めている。
鈴木留美子は目を開けると、上半身を起こす。
「◯◯君に心臓貫かれて痛かったなぁ」
口からも、目からも血が流れている。
そうだ。
俺が殺した。
「ねぇ」
巨大な手のひらが迫る。それは
動けない俺を包み込むと乳房の方へ持っていき、
「心臓こんなになっちゃった」
もう片方の手を傷口に突っ込んだかと思うと、心臓を取り出した。
冷蔵庫よりもでかい心臓。
動いていない。
やがてそれは青銅色へ変わる。
さらに。
端から緑青のように変色し、黒い粉となって形を失った。
「地球に住みたかったなぁ」
微笑む鈴木留美子。
黒い塊になり、崩れ落ちていった。
「◯◯君が殺したのよね?」
いつの間にか横に立つ河野先生。
「俺……が、とどめを刺しました」
「じゃあ彼女達も?」
「えっ?」
河野先生が後ろを示す。
振り返るとそこに、倒れている佐藤優子、飯田奈美、黒瀬瑛子。
「君が殺したんだよ。何もせずおとなしくしてなかったばかりに」
三人へ駆け寄る。
佐藤優子の脈をとる……冷たい手首に脈動は無かった。
飯田奈美の胸に耳を当てる。心臓の鼓動がない。
黒瀬瑛子の鼻へ手を近づける。息をしてない上に顔が土気色だ。
「!!!」
「どう? 君が殺した感想は?」
「こっ、殺してない」
「そう? 非力な君を庇って彼女達は死んだんだよ?」
「……」
「君が殺したことになるでしょう?」
そうか。
俺か。
俺が。
「だからね、ここで私と一緒にずっと懺悔しようよ。君の罪をさ、償わないと」
空を見上げる。
どんよりと垂れ込めた黒い雲。
鈴木留美子の赤黒い血で満たされた大地。
「俺は……」
涙がとめどなく溢れて河野先生に縋り付く。
先生は優しく俺の頭を撫でながら、「素直な子は好きよ」と優しく言ってくれた。
河野先生はなんて優しいんだ。
俺は先生がいればいいよ。
殺してしまった子達のことを忘れずに、ここで暮らしていく。
「先輩、私が登場してないのが大いに不満ではありますが」
光が差し込んできた。
その光はやがて人の形をとる。
見知らぬ女子がそこにいた。
「悪魔さんに手助けしてもらいましたよ。なかなか悪趣味なことをしますね、姫巫女ナラバス」
「この世界では河野涼子よ」
「先輩、ほら起きてください」
「な、お前は誰だ?」
「もう! お忘れですか? あなたの可愛い後輩、柚木由香里です」
「し、知らない」
「ご丁寧に記憶まで弄って。随分な念の入れようですね」
もうひとつ差し込む光。
それもまた人の形をとる。
またも知らない女子だ。
「お兄ちゃん!」
「だ、誰?」
「黒瀬さん、先輩は記憶を弄られてます」
「姑息ね」
後から現れた女子の身体が光る。
眩しい。
「厄介ね」
河野先生が対抗するように手を上げようとして
「おっとさせねぇぜ?」
その手を掴むのはこれまた知らない女子。男みたいな口調だ。
ううん?
河野涼子が先生?
それっておかしくないか?
あ、柚木と瑛子? それに……仁科亜矢子?
「柚木! 瑛子!」
「抜けましたね。先輩、起きてください」