【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.5 三人目 一年下の黒瀬瑛子 中編

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は春の終わり。

 

 俺が高校生活に期待したのは“彼女を作ること”。

 詳しくは省くが一年生の時、それは叶ったかに見えて……ダメだった。

 その出来事が原因で女子に対しては臆病になった俺。

 それに色々と揺さぶられたから、少々のことには動じなくなった。あれより酷い目に遭うなんてそうそうないだろうさ。

 

 それでも不思議なのは佐藤優子のこと。現実に吸血鬼が、しかも隣のクラスに存在していた。

 とんでもないことなんだが、俺は当たり前のように受け入れてる。

 意識のどこかで『おかしいだろう?』とは思いはするが、それだけだ。

 

 飯田姉妹についてもそうだ。SFジュブナイル小説や伝奇物語じゃあるまいし、日本史や生物学がひっくり返りそうな存在が身近にいた事実。

 

 俺はここまで世の中に対して投げやりになっているのだろうか。

 

 いつものように数学をサボり、保健室でそんなとりとめもない考えごとをしていたら、飯田奈美が入ってきた。

 

「おお健康優良児が珍しいな」

「……◯◯君と話がしたくて。教室じゃちょっと……」

「ここでか?」

「あの日ちゃんと伝えられなかったから」

「妹は来ないよな?」

「うん」

 

 好意を寄せられてると知ってから、気持ち飯田が可愛く見えるから困る。俺はスレンダーな子が好みなんだぞ。

 

「◯◯君はさ、誰に対しても同じように接するでしょう?」

「?」

「小学校の時からそうだった。クラスで皆から避けられてた子がいたでしょ?」

「あぁ……あの子か」

 

 ブスとか簡単に括れない容貌の女子がいた。面と向かって『ブス』って言えないから、一部の男子はニヤニヤしながら『あいつはさ』『すげえよな』と内緒話をする対象。

 

 俺は別に聖人を気取るわけじゃないが、身体的特徴なんて本人の責任はゼロ。遺伝的なことだろう? って主義。

 

 本人に非がないことをあーだこーだ言っても仕方ない。だからその子にも普通に話しかけてたし、むしろ揶揄ったりもした。

 

「あの頃から、◯◯君は公平な人なんだって思ってた」

「うーん、そんなに皆は態度変えるもんか?」

「違うよ全然。ほとんどの人はそう」

 

 そう言えば飯田には面白いエピソードがあったのを思い出す。

 クラスの女子曰く『学年で一番ハンサム』ってやつがいた。

 確かに美男。そしてスポーツマン。ただそいつは人を見下すタイプの人間で、俺は苦手だった。

 で、そのハンサム君がヘラヘラしながら飯田の席へ来た。

 

「飯田、俺のことどう思う? 好き?」

 

 飯田奈美の隣で固まる俺。

 世の中そんなことを自信満々に言えるやつがいることに驚いた。

 凄いぞこいつ。尊敬しないが。

 

「……何言ってるの? 頭、大丈夫?」

 

 飯田の鮮やかなカウンターが決まった!

 またも俺は驚いた。

 彼女がそんなきつめのことを冷たい声音で言うってことに。

 

 飯田にこんなこと言われたら……間違いなくへこんで三日は寝込む。

 

 ハンサム君、何とも言えない表情になって逃げるようにその場を去り、以降『ハンサム君自爆事件』として語り継がれることになる。

 

「俺だってさ、気に入らない奴いるし、そいつにはそれなりの態度とるけどな?」

「それとは違うよ。◯◯君はどんな人も公平に見てる。だから私は◯◯君なら、私のような存在も受け入れてくれるかもって幻想を持ち始めたの」

 

 そう言って飯田は俯く。意外なとこを褒められ俺は少し動揺する。

 

「飯田、ちょっと訊いていいか?」

「何?」

「あー君らは同族で結ばれるもんじゃないの?」

「私達は数が少ないから……」

「どれぐらい?」

「ここの市には十人。みな親族」

「えーっと、市の人口が約五十万人だから……」

「私達は数が少ないの、すごく。近親相姦まではないけど、かなり血が濃くなってることに危機感があるの」

「それで俺?」

「遺伝的には問題なくて。でもそれが理由じゃない。私は◯◯君が……いいなって」

 

 飯田が真っ赤になってる。重い話だぞ。

 俺は教科書の先読み、というか配布された時点で全部読む習慣があって、生物の教科書も例外ではない。

 

 近縁同士で繁殖していくと色々と不都合があるのも知っている。

 だからほとんどの宗教で近親相姦を禁じてるのだ。

 

「ごめん。◯◯君からしたら人間ですらない私なんて嫌だよね?でも気持ちだけは伝えておきたかったの」

「……そうか」

「去年のことは知ってる。けど前にも言ったけど◯◯君は恋をしていなかった。だから何とも思ってなかったけど、最近佐藤優子さんの匂いが◯◯君からするから……」

 

『香り』から『匂い』へ表現が変わった。

 

「その嗅覚があるなら、俺が佐藤優子に惚れてるわけじゃないのも分かるやん」

「……うん。すごく不思議だった。なんでだろうって。性行為をしたみたいに濃厚な移り香がしてたから」

 

 そこまでわかるのか! 犯罪捜査に役立つぞ。おい。

 

「私のお兄ちゃんから離れなさい、まつろわぬ者」

 

 !

 いつの間にか黒瀬瑛子がそこにいた。

 いや待て。

 ドアが開く音しなかったぞ。

 

「誰?」

 

 飯田が少し険しい顔になる。

 

「黒瀬瑛子って一年だが……お兄ちゃん?」

 

 俺は生まれてから今まで一人っ子だ。

 

「やっぱり忘れてる。小さい頃によく遊んでくれたでしょう? 私、“べこ”よ」

 

 べこ?

 小さい頃?

 

 あっ!

 裏の家にいたべこちゃんか?!

 母親同士が仲良くて、俺が小学校三年ぐらいまで遊んでたな、朧げだけど。自分のことを『べこ』って言ってた女の子。

 

「思い出してくれた? お兄ちゃん。その女がまつろわぬ者って知ってるの?」

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