【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.52 決意と迷い道

 昭和のいつか。どこかにある高校。 季節は冬。

 

 三学期が始まった。

 俺たちの教室──商業高校のグランドにある仮設校舎──は増えた空席が目立ち始めてる。

 これは学校全体、間借りしている商業高校も同様だ。

 

 最初の鈴木留美子による校舎沈下事件以降、そして全校集会での集団ヒステリーが決定打となって、引越していく家が増えたのだ。

 

 うちの高校は進学校。どう贔屓目に見ても環境は良くない。親としては当然だろう。

 

 放課後。

 いつものようにグランド見ながら酒巻とだべりタイム。

 

「◯◯、冬休みは何してた?」

「何も。ダラダラ過ごしたぞ」

「そうか。俺はナンパを頑張ってみたぞ」

「……お前、そんな奴だったか?」

「そんな奴ってどんな奴だよ。四月が来れば三年生だぞ? 彼女無しってのはな」

「あーそうか。俺も彼女が欲しい……」

 

 小声になる酒巻。

 

「お前には飯田と黒瀬ちゃんがいるだろう?」

「何回も言わせるな。そんな対象じゃねぇよ」

 

 物分かり悪い奴である。

 

「どこが不満なんだ? 飯田はボインだし黒瀬ちゃんはお前のこと慕ってるし。二人とも可愛いじゃねぇか」

「飯田は小学校からずっと一緒だ。加藤弥生と同じだよ。今になって恋愛感情を持てると思うか?」

「贅沢な奴だな、お前」

「贅沢とかじゃねぇよ。それにな。瑛子は鼻垂らしたガキンチョの頃から知ってるんだ。よくて妹、親戚の子みたいなもんだから」

「それ黒瀬ちゃんが聞いたら泣くぞ」

「そういう酒巻はナンパの成果あったのかよ」

「聞いて驚けよ。転校生の仁科とな、三年の本田さんの連絡先は聞けた」

「ブフォッ」

「なんだ? その反応」

 

 よりによってあの二人か!

 一人は中身悪魔で一人は……化け猫? 本田さんってノリは良さそうだから、もしかしたら可能性ありそうだが、仁科は明らかに酒巻を揶揄うつもりだろ。

 

「別に何でもない。仁科だけはやめとけ。あれ、本性はとんでもないぞ」

「なんでお前が知ってるんだ」

「ちょっとな。本田さんはまぁいいんじゃないか?」

「知ってるのか?」

「冬休みにちょっと」

 

 酒巻と本田さん。 

 二人仲良く歩いてる姿が浮かぶ。

 あ、お似合いかも。酒巻頑張れよ。

 

 部活に行った酒巻と別れ、俺は佐藤優子を探す。   

 学校があんなことになって以来、弓道部も活動休止中だ。商業には弓道部がない。

 

 自転車置き場の近くで見つけ、俺は駆け寄る。

 

「あら珍しい。◯◯君から来るなんて」

「あのさ、アンネさんに確認してほしいことがあるんだけど」

「どこかに移動できない?」

「いいわよ」

 

 目の前の景色が変わる。

 彼女の家の前だ。

 

「えーここ?」

「あら、嫌なの?」

「一人で行くとお母さんに誤解されそうで」

「それはないわ」

「……まぁそういうことなら」

 

 佐藤優子の部屋は相変わらず飾り気がない。

 俺はすぐに本題に入る。

 

「考えすぎかもしれないけどさ、河野涼子が二回目もここで儀式やったのって、何か理由があると思ったんだ」

「君は鋭いね。アンネに聞いたのよ。鈴木留美子達が空間を歪めた影響は今も残っていて、ここは穴を開けやすい」

 

 いきなり答えが出た。

 

「じゃ、またやるとか?」

「それはわからないけどね。引越しが多いでしょう?代わりに同族が越してきてる」

「え?」

「それだけじゃなく、国の退魔機関に属する人達も」

「なんと!」

「厳重に警戒してるところだから、彼女がどうでるかはわからないわ」

「相当な準備をしてくるとか?」

「二度失敗してるから、もっと念入りにするでしょうね」

「地下校舎って今どうなってるの?」

「外は警察官が見張ってるけど、地下には国から派遣された専門家が詰めてるのよ」

 

 この街が平和になるのはいつの日だ。

 俺のささやかな願い。『彼女作ってデートする日』は来るのだろうか。

 

「もう犠牲が出るのはごめんだ。いや、善人ぶるのはやめ。俺の知ってる人達が犠牲になるのは止めたい」

「地球を守るとか言わないのね」

「いやそれは無理。俺はただの高校生だよ?」

 

 俺は特撮番組のヒーローじゃない。

 

「ふふ。その辺は大人ね」

「まーた子ども扱いして。でさ、俺も河野涼子対策チームってのがあるなら、入りたいんだよ」

「本気なの?」

「本気も本気。じっとしてられない。それに俺のこと目障りだって、あいつ言ってよね? だから良い釣り餌になれると思うんだ」

「黒瀬瑛子として受肉した、生まれて間がない神と縁を結んだのが始まりね」

 

 思い出す。一緒に風呂入ったこともあった。風呂上がりの俺の髪をタオルでせっせと拭いてくれる瑛子。

 

『あらあら瑛子ちゃんはまるで奥さんね』

 

 母親が微笑ましそうに見ていたな。

 

「この街を守護する神と縁を結んだ君は、やがて王戸さん、次に飯田さんとも縁を紡いでいくことになったの」

 

 全くの偶然てわけじゃないのか。袖擦り合うも多少の縁か。

 

「良縁ばかりじゃない。鈴木留美子との縁もそうよ」

 

 マジかー。

 

「私もね、初めてかな。身近にいる人の血が欲しいと思ったのは。長らく吸ってなかったのと、あまりに良い香りに、ね」

 

 少しはにかんだような顔してる。こんな表情は初めてだ。

 

「私達は政府と契約してるって言ったでしょう?保護の代償として仕事もする。私もね、人間の手に負えない事案への対処要員なのよ」

「アンネさんやトーマスさんと知り合いって時点で、そんな感じじゃないかなって思ってた」

「私の上司はトーマスさん。それをまとめるのは政府の組織。ただ君は普通の高校生だから、彼らが何と言うか」

 

 不意に声がする。

 

「それなら大丈夫。パパと鈴木留美子の現場にいた退魔師の人たちが熱心に推薦したから」

 

 アンネさんだ。

 

「ま、身分としては嘱託。まだ高校生だからね。警察のお偉いさん達にも話は通ってるから」

「なんて言うか……話が進むのが早いというか」

「前から話は進んでいたんだよ。けどね、こちらから声はかけられない。君の方から言ってくれたからすぐにまとまったわけ」

 

 そうか。俺にとってはありがたい話だ。

 俺を見つめる佐藤優子。

 このタイミングで俺は思い出す。

 

「もしかしてさ、佐藤さんは俺がガキの頃に会ってる?」

「どうかしらね」

「んー何となくだけど見覚えあるんだよなぁ」

「なになに〜? 今になってナンパしてんの?」

 

 アンネさん……ワイドショーの客席に座ってるおばちゃんですよ、その顔。

 

「んー確か、瑛子が用水路に落ちて、それを俺が上に引っ張り上げて……そんでザリガニに指を挟まれた瑛子がビービー泣き止まなくて……通りすがりのお姉さんが優しく家まで連れてってくれて……。瑛子も俺も風呂に入れてくれたんだけど。あれ、佐藤さんでは……?」

「さあ? 私は知らないわよ」

 

 うーん。すごく似てる気がするけど、俺の勘違いか。

 

「それでアンネさん、俺はこれからどうすれば?」

「特にないよ。何かあれば優子から伝わるようになるかな」

「そんなもんですか」

「そんなもんだよ。捜査とかはさ、大人の仕事だよ」

「わかりました。さて、あ!自転車置いてきてる。佐藤さん、自転車置き場へ送って!」

「正門閉まってない?」

「商業は遅い時間に閉まるからまだ間に合うはず。じゃアンネさん、また!」

「またね〜」

 

 目の前がすっかり暗くなった自転車置き場に変わる。

 

「じゃ佐藤さん、対策チームの先輩としてよろしく」

「本当はもっと長い名前だけどね」

「はぁやっぱり」

 

 物々しい漢字の羅列みたいなんだろうな。

 

 彼女は姿を消し、俺は自転車を家に向かって走らせる。

 もう怪物に襲われて悲鳴をあげるだけの役から、一矢報いる役になったんだ。

 河野涼子、いや姫巫女ナラバスめ。お前の企みに家族や知り合いを巻き込ませないぞ、と考えるとペダルを踏む足にも力が入る。

 今日は特に寒い。

 途中自販機で缶の紅茶を買う。これはブランデーが一パーセント入ってる俺のお気に入りだ。

 

 産業道路の交差点を家がある方向へ曲がると景色が一変した。

 道沿いにある住宅街、街灯が見えなくなり、暗い森の中へ出た。こんなとこ街中にないんだけど。

 引き返そうと振り向くと、産業道路は跡形もなく、ずっと森が続いているだけ。

 

 ずっと向こうにぼんやりと明かりが見えた。

 とりあえずそこを目指す。

 

 王戸ちゃんの家に行った時に似てるから、そう危ないやつでもないだろうと安心してる。

 

 さて何が出てくるか。

 

 こんな時『◯◯君のことが心配だよ』と腕にしがみついてくる彼女が欲しい。

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