【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.54 ポケベルと能力試験

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。

 

「あー暇になったー」

 

 酒巻がグランドを眺めながら嘆く。

 街から引っ越していく生徒は後を絶たず、サッカー部は十三人にまで減り、しばらく休止となった。

 

「お前ん家は引っ越せないよな」

「お客さんがいる限りな」

 

 酒巻の家は電器店。簡単には引っ越せない。俺の両親は楽天家なので引っ越しという選択肢は無いが。

 

「クラスもまとめられるし」

「五百人切ったらしいぜ。半分だ」

「可愛い女子が減ってしまう」

「そういえば仁科と本田さん、その後どうなった?」

「仁科とはデートしてるぞ」

 

 そっちか!

 

「……どうなんだ」

「彼女可愛いよな。お嬢様って感じ」

 

 中身は悪魔だけどな。あいつ、性別は男だと思うが。

 

「噂をすれば」

「酒巻君、一緒に帰ろう?」

 

 仁科亜矢子の登場だ。こうやってみたら普通の美少女って感じなのに。

 

「おう。◯◯、また明日な」

 

 仁科は酒巻から見えない角度で、何ともいやらしい笑顔を俺に向ける。

 俺は『酒巻に何かしたら許さん』と視線で警告する。

 

「大丈夫だと思う。仁科さんから悪意の匂いはしないから」

 

 飯田が言うなら大丈夫そうか。

 

「バスケ部はどうなんだ」

「あ、うん。私含めて七人になったからうちも活動休止に……」

「運動部は全滅だな」

 

 もうすぐ三年生は部活を引退する時期。そうなると更に減る。

 

「今日のミーティングは六時からだよね?」

「そうだよ。半端に時間余るな、ヤマサキにでも寄るか」

「わ、私もいいかな?」

「もちろん」

 

 飯田とヤマサキに行くなんて初めてのこと。もう取り繕っても仕方ない。彼女も対策チームのメンバーだ。

 

「親御さんは反対とかしないのか」

「ううん。◯◯君に協力することに喜んでる。国との駆け引きが色々あるみたい」

 

 彼女らもまた、少数種族としての立場としがらみがあるからか。

 

「他県に住む人達にも呼びかけて、河野涼子の捜索、この街の警備をするって父さんが言ってたよ。国からも打診があったみたい」

「そうなるか。そうだよな。あれが来たら国どころか地球が滅びる」

 

 生き物がいなくなり、あの触手野郎と奴の手下だけが支配する地球。想像しただけで寒気がする。

 

「仲良いこった」

 

 仁科亜矢子!

 

「酒巻と一緒に下校したんじゃなかったのか」 

「今頃、お嬢様仁科亜矢子と楽しくおしゃべりしてるぜ?」

 

 こいつも幻術か。

 

「お前、酒巻に何かしたら許さないぞ」

「心配すんなって。俺様は人間、女子高生の恋愛ごっこを楽しんでるんだよ」

「……お前、性別は男だよな」

「かーっ!バカ言うな。男が女の身体に入って楽しめると思うか?俺様は女だよ」

「なぬっ?!」

「くくく。なんだぁ?お前も……◯◯君も、私に興味がおありですか?」

 

 逆にぶりっ子する仁科がとことん気持ち悪い。

 

「そんなもんないから!恋愛ってどっちが良い悪いはないから、お前が悪どいことしなきゃ何も言わないよ」

「途中で飽きちまって舞台をメチャクチャにする同族もたまにはいる。だがな大抵は大人しく天寿を全うするまで演じるものなんだぜ?」

 

 新しい情報か?

 

「訊くが、本来の仁科の魂はどうなってる?」

「あ?途中参加は好みじゃねぇから。この子は死産だったのさ。その方が楽に身体に入れるしな」

 

 途中からじゃなかったのか!

 

「乳飲み子を演じるのは苦労したが、そのおかげで人間の人生をフルコース楽しめてる」

 

 口角を上げて笑う仁科亜矢子。邪悪な笑みだ。

 

「それがお前らの娯楽ってわけか」

「そうだ。はるか昔は機械で仮想現実を作って、その中で楽しんでたらしいんだがな。リアルに異文化圏を体験出来る今じゃ想像もできねぇ」

 

 仮想現実……そんな映画があった気がする。

 

「もうひとついいか?」

「今日は気分がいい。いくらでも答えてやるぜ」

「お前の同族、黒羽女だがあの強さはどれぐらいのレベルなんだ?」

「あーお前らで例えると、ここの高校に空手部があるだろう?県大会優勝クラスあたりだ」

「それって……」

「素人ではない。が、プロってわけでもない」

 

 あれでか……悪魔手強すぎるだろ。

 

「心配するなよ。消息を絶った同族はこの辺にはいねぇ。もう手駒にされることはない」

「それは信じてやる。もしも。もしもだ。同じようなことがあれば、お前が黙ってないだろう?」

「当然だ。そのためにここらでフラフラしてるんだからな。それと同族が漏らしたノウハウを知ってる河野涼子は仕留めておきたいが。それはお前さん達がやる。そうだろう?」

「そうだ。息の根を断つ。そうせんと安心して暮らせないからな」

「頼むぜ……◯◯君達が手こずるようなら、私はいつでも手伝うからっ」

 

 そう言って消えた。

 あの口調で女とは思わなかった。

 

「あの人はかなり強いと思う。身体にね、不思議な力を纏わせてるから」

「まぁ悪魔だしな。イメージしてたのと全然違ったけど」

 

 長い寿命なんだろう。別世界の人物を演じて楽しむ……さっぱりわからん。

 

 ヤマサキではたこ焼きを堪能する。主な客層の高校生が減ってるだろうから、俺はしばらく通うことにしよう。

 なくなったら困る。

 

「飯田とこんな風にヤマサキ来るのは初めてか。まさかこうなるとはな」

「……うん」

 

 あ、失言だ。意識すると落ち着かなくなったぞ、俺。誤魔化すためにもたこ焼きのおかわりを頼む。

 

 商業の生徒もちらほら来店する。部活が終わった頃か。

 

「じゃ行くか」

「うん」

 

 自宅隣、祠の横を通り過ぎるとすぐに瑛子の謎家に着く。

 どういうことだ?

 

「お兄ちゃん、お帰り」

「瑛子、これは?」

 

 瑛子の謎家はいつものような屋敷ではなく、体育館ぐらいの空間になっていた。

 端の方にテーブルと椅子、ホワイトボード等が置いてあり、既に全員集まっているようだ。

 

 アンネさん、トーマスさん、佐藤優子、王戸ちゃん、柚木由香里にエミリ、山田みさえ・みさお姉弟。

 また見知らぬ大人が数人いて、何やら機械を操作している。

 

「ちょっとした能力試験みたいなことするから、広くしてくれって。アンネさんが」

「能力試験……」

「◯◯君、今日はよろしくね!」

「は、はい」

 

 アンネさんは今日は大人びた雰囲気だ。実際おばあちゃんだしな。

 

「んー?何やら失礼なこと考えてる顔してるよ?」

「いえっ!何でもないです!」

「ははっ!アンネリーゼは乙女やからなぁ。◯◯君、その辺よろしゅうに頼むわ」

「トーマスさん!俺はいつでもそのつもりです」

「そうかそうか。じゃ皆、席に着いてくれ」

 

 トーマスさんの進行でミーティングが始まる。

 

 まずは組織図。

 俺達は公安委員会ってとこの嘱託になるそうだ。

 その上は総理大臣。全然ピンとこない。

 

 トーマスさんがまとめ役。

 

「河野涼子は姫巫女ナラバスを名乗ったそうだけど、我々は一貫して河野涼子と呼ぶ。名前はマーキングだからね。彼女が呼ぼうとしてるあれは『エレボス』とする。ギリシア神話の原初の幽冥を神格化したものだね」

 

 神話とかさっぱりわからない俺は頷くだけだ。

 

「◯◯君から以前提案があった各自の連携、これをここにいる全員で出来るようにしたい。もちろん個別で動く状況もあるだろう。だからこれを渡しておくよ」

 

 俺たちに配られる薄型ラジオみたいな機械。

 

「これはポケットベル、ポケベルといってね、プッシュホンからポケベルに数字のメッセージを送信出来るんだ」

 

 突然電子音が鳴る。

 見るとポケベルの液晶画面に数字が表示されていた。

 

「これはあくまでも緊急連絡用、一斉送信用として使う。メッセージ一覧はこれを覚えておいてくれ」

 

 渡された紙には数字とその意味が書かれていた。

 

「覚えやすいように、また間違えにくいようにゾロ目で統一したんだ」

 

 なるほど。複雑になればなるほどミスしやすいもんな。

 

「充電は日の出から日没ぐらいは持つ。家に帰ったら充電を忘れないように。これが充電器だ」

 

「◯◯君と飯田さんは我々のような移動が出来ないので、それぞれサポートとして、山田みさえさんと山田みさお君に頼むことにした」

「にゃはは。◯◯君、よろしくね〜」

「え?俺の担当がみさえさんですか?逆では?」

「え〜私じゃ嫌なのぉ?」

「例えば、風呂入ってる時に女子が来るのはちょっと……」

「にゃははは!照れてるの可愛いにゃ!心配ないよ。浴室に入ったりしないから」

 

 狐なのにその『にゃ』いいんですかね?疑問は膨らむ。

 

「まぁそういうことなら」

 

「次にね、各自の能力を見せてもらう。こちらの警察庁の人達は測定と記録のために来られてる」

 

 あ、警察の人たちだったのか。彼らは軽く頭を下げた。

 

「今までは後手にまわってたが、この街に私服で待機もしてすぐに対応出来る手筈だ。ポケベルへの発信も主に彼らが行う」

 

 俺も頭を下げておく。

 

「さて、優子ちゃんから始めようかな。私が相手をするよ」

 

 トーマスさんが?怖いな……。

 

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