【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.55 有事への備えと幻術

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。

 

 もうなんて言ったらいいかわからない。

 トーマスさんと佐藤優子の動きが速すぎて、目で捉えられない。

 一瞬姿が見えたと思ったら、すぐに見えなくなる。それが数度繰り返された後、佐藤優子がトーマスさんに押さえつけられていた。

 

「優子ちゃん、動きは良くなったかな」

 

 疲れ切って喋れなくなってる佐藤さん。そんな姿初めて見た。

 

「柚木。今の二人がどう動いたか見えたか?」

「先輩、私の肉体は普通の女子高生ですよ? 見えるわけありません」

 

 見えてない仲間がいて安心した。

 

「飯田は?」

「私は見えてはないけど、音と匂いである程度なら……」

 

 目はあまり良くないんだったな。

 

「瑛子は?」

「ある程度は。二人の気配は追えるけど、全部は見えてないよ」

「ちなみに王戸ちゃんは?」

「はっきりと見えました。トーマスさんも佐藤先輩もすごいです」

「ねぇ? 私には訊いてくれないの?」

「……山田先輩は?」

「見えてるよ。洗練された動きは流石だね」

 

 イタチである王戸ちゃんが見えてたんだ。狐の山田さんが見えないわけはないから、質問を省いたら強要されたよ。

 

 次は飯田奈美。

 これまた早すぎてほぼ見えない。

 時折り、殴り合う硬質な音が響くだけ。

 飯田は例の西洋甲冑風の姿だ。

 終わると飯田は膝をつき、肩で息をしている。

 そんな彼女の姿も初めて見た。

 

「流石だね。目に頼らないせいか、動きが精密だよ。格闘戦は君が一歩リードって感じかな」

 

 立ってるのもやっとな感じの飯田と対照的にトーマスさんには全く疲れは見えない。

 

 続く王戸ちゃんは幻術を混ぜて手合わせしていた。しかしトーマスさんには通用しなかったようだ。

 王戸ちゃんが床に突っ伏して終わった。

 

「君はすごく速いね。私もヒヤッとしたよ」

 

 とてもそうは見えないが、王戸ちゃんは少し善戦したらしい。

 

 柚木はエミリと融合し、さらに静止衛星とコンビを組んでの手合わせになった。

 辛うじて動きが見える。

 

 どちらかというと防御が得意な感じか。

 静止衛星からたまに青白い光線が発射される。命中してるらしいが、トーマスさんの動きに変化はない。

 柚木は尻餅をついて終了した。顔色が悪い。

 

「それのレーザーは厄介だなぁ。避けられないし、手加減された威力じゃなかったら危なかったね」

 

 見るとトーマスさんの服に数箇所、焼け焦げた跡がある。あの速さで動くトーマスさんに命中させるのはすごいと思う。

 

 山田みさえ先輩。

 途中、トーマスさんの動きが鈍くなる。つまり俺の目でも捉えられる程度になったのだ。

 が、首を掴まれ床に押さえつけられた山田先輩。

 

「幻術はすごいよ。私も大抵のものには抵抗できる自信があったんだが」

 

 山田みさお先輩。

 こっちは格闘戦のように見えた、最初は。

 またトーマスさんの動きがおかしくなる。

 そして二人の動きが止まった。

 じっと睨み合う二人。

 

 みさお先輩が仰向けに倒れて終了した。

 

「君の幻術もすごいなぁ。初めてだよ、動きを止められたのは」

 

 笑顔のトーマスさん。この人、化け物なんてもんじゃないよ。

 

 次の瑛子はすごかった。

 トーマスさんが動けなくなってる。

 瑛子も立ったまま。

 俺にはさっぱりわからないが、何かの力を使ってるのだろう。

 するとトーマスさんの姿がブレたと思ったら、次には瑛子の背後に立つ。

 

「ははは。流石だね。神威が今より強くなれば僕は何もできなくなるよ」

 

 瑛子、お前すごいんだな。

 次は俺か。

 一瞬でやられる自信がある。

 俺、ただの人間なんだぜ?

 

 デアソードに力を込め、光を帯びさせる。

 両手で持ち、腰は低く、前傾姿勢。

 

 目では追えない。なら気配を読むしかない。

 読んだところで俺の動きじゃ反応出来ないけど。

 

 来るのがわかればいいんだ。

 集中する。

 

 た、だめだ。

 何か感じたと思ったのと同時に拘束されてる。

 わかってはいたが、全く反応出来ない。

 

「君は自分ができることをやろうとしてるのがいいね。あと物怖じしてないのが素晴らしいよ」

「いえ、トーマスさんにビビってますよ……」

 

 冷や汗が止まらない。

 これが永き時を生きてきた吸血鬼の迫力。

 

「はははっ。普通なら気を失うレベルの威圧を放ったんだよ。それにも耐えた胆力は自慢していい」

「はあ……」

 

 デアソードのおかげだと思うけどな。

 そしてアンネさんと同じように、デアソードのことを『なぜイタリア語と英語?』と突っ込まれる。勘弁してください。日本人ですから、俺。

 

 前からわかってたが、改めて俺が一番戦力外という事実が突きつけられた。何かあったら一番に俺が狙われるだろう。

 加えて『目障りな起点』らしいからな。

 

 敵は俺を狙う。つまり敵の狙いがはっきりしているなら、味方も対処しやすいってことだ。

 

「それぞれの動きや能力を互いに確認できたと思う。それを活かして連携を意識してほしいかな。

 すぐにすぐは無理なのはわかっている。けど各個撃破されるなんて最悪の事態は避けなきゃならないのは皆わかるはずだ」

 

 こうしてミーティングは終わる。

 

 トーマスさん、アンネさん、警察の人たちは機械類を片付けると帰っていった。

 エミリは常連客から呼び出しがあり、急いで店の方へ行く。

 

「瑛子、すまんが横になりたい」

「いいよ」

 

 体育館風な床板が畳に変わる。

 俺はくたくただったのでごろ寝させてもらう。

 

「にゃはー! ちゃぶ台と座布団が出てきたよー」

 

 みさえ先輩は大はしゃぎ。

 

「お茶、美味しいです」

 

 王戸ちゃん、瑛子と趣味合いそう。

 

「このお饅頭、すごく美味しいです」

 

 柚木もか。

 

「佐藤さん、トーマスさんって吸血鬼トップクラスの人だよな?」

「そうよ。前、鈴木留美子の時に来た人たちがいたでしょう?」

 

 背の高い金髪女性と髭の似合う初老の男性。

 

「あの人達三人は別格。そうね、アメリカ辺りが大量破壊兵器使わなければ、良い勝負ができるわよ」

 

 凄まじいな。

 しかもトーマスさん、剣を使ってなくてあの強さか。

 

「にゃはは! 君は可愛いねぇ」

「やっやめてください」

 

 山田みさえ先輩が王戸ちゃんを撫でくりまわしてる。王戸ちゃん、狐を怖がってたもんなぁ。

 

「山田先輩、王戸ちゃんをいじめないでくださいよ」

「にゃ! 心外だなぁ。私は愛でてるだけなのに。それにみさえと呼んでほしいな」

「王戸ちゃんはみさえさんが怖いんですって」

「ええー! こんな愛らしい私が?」

 

 いや、イタチからすれば狐が怖いのは普通だろう。

 

「あと……狐なのに『にゃ』はどうかと思うんですが」

「何それ?」

「いや、イメージとしては『コン』を語尾につけるとか?」

「にゃはははは! そんな狐はいないよぅ。ひひひひ。『コン』って」

 

 笑い転げる山田先輩。所作も猫っぽいよな。見えていけないものが見えそうになってますよ。

 

「◯◯、気にしたら負けだぞ。みさえは昔からこうなんだ」

 

 みさお先輩の呆れた顔。

 狐のイメージが完全に崩れ去った。

 

「飯田先輩の戦闘フォーム、私も採用させてもらいます」

「あ、うん。どうぞ?」

 水星から来たエミリの肉体は飯田の遺伝子を取り込んでる。

 柚木としてそれは当然だろう。

 

「あの西洋甲冑みたいな姿はかっこいいもんな」

「え? か、かっこいい?」

「◯◯君はわかってるねぇ! 私も同意見だよ」

 

 山田先輩がそう言うと、飯田の西洋甲冑姿に変わる。

 

「化けた?!」

「そりゃあ狐だもの。得意だよー」

 

 葉っぱを咥えてドロンじゃないんだ。期待してたわけじゃないけど。

 

「みさお先輩も?」

「簡単なことだ」

 

 いうが早いかそこにはトーマスさんがいた。

 声まで完璧!

 狐の変化術、凄すぎる。

 

 そして怪我の処理について確認。

 

「佐藤さんは止血と?」

「鎮静ね。それと造血も促す」 

「自分が受けた傷もそれで大丈夫と」

「大量に出血するような深い傷は無理ね。痛みはごまかせるけど」  

「柚木のは?」

「前にも言いました通り、損傷を受けた部位周辺の細胞を胚芽細胞っぽく変えて修復します。他の人にも注入は可能です。今はエミリがいますから、容量にも余裕ありますね」

「もしもの時は瑛子、頼むよ」

「任せて。私に癒せないものはないから」

 

 救護班三名。頼もしい。

 

「それと瑛子、集合地点はここでいいかな?」

「うん。ここが一番好都合でしょ?」

 

 あとは。

 

「みさえさん、みさおさん、幻術って実際どんなもんなんです?」

「お? 興味あるの? いいよ!」

「はあ。景色が変わりましたね」

 

 一瞬で俺は桜並木のある公園みたいな場所にいた。

 風が吹いたかと思うと、桜の花びらが一枚、頬に張り付く。

 

「これはまた綺麗な桜ですねぇ」

「◯◯君の本音も語っちゃおうよ」

「いいですよ?」

「君の周りに可愛い女の子が何人もいるけどさぁ、正直なところ……どの子が好きなの?」

「ああ、その話ですか。彼女が欲しいのは事実ですがね、今のところはどうにも」

「えー?」

「例えば、佐藤さんね。見た目なんかモロ好みなんですよ、俺。着物が似合いそうで落ち着いてるところとか、所作がどこか優雅な感じとか。でも佐藤さんと付き合ってる自分が想像出来ないんです。全然」

 

 自分とは釣り合わないって感覚かな。

 

「飯田はですね、小学校の時から身近にいたんで恋愛対象って感じではなかったんですよ。好意を寄せられてるって知ってからは、まぁ苦手なボインもあまり気にならなくなったというか。段々と可愛く思えてきちゃって」

 

「瑛子は、ガキの頃知ってるから美人さんに成長したっていっても、その気にはなりにくいもんです。年下だし。でもたまにね、神々しい姿見ると……こうグッとくるんですがね」

 

 すらすらと心の内を語る俺。

 

「にゃっ!!」

 

 みさえさんの頭にみさおさんの手刀が決まっていた。

 

「みさえ、悪趣味だぞ」

 

 みさおさんが怖い。

 

「んん?」

 

 佐藤優子の頬がほんのり赤い。

 飯田は俯いてて、顔は真っ赤だ。

 瑛子は怒ってるような笑ってるような顔。

 

 なんで……って、俺今何言った!?

 

 ニヤけてる柚木。

 王戸ちゃんも顔が赤いぞ。

 

「まっまさか! あ、いや! 今のは」

「今日はこれで帰るね」

 

 佐藤優子は姿を消し、飯田も帰ってしまった。

 

「今のが幻術……」

「◯◯、お前は普通の人間だ。ある程度、そこの神によって防御されているが、悪意のない幻術にはあまり効果がないようでな……。ま、気にするな。俺も男だ、気持ちはわかる」

 

 みさおさんが慰めてくれる。

 

「ちょっと! みさえさん! 何してくれてるんですか!」

「にゃは! ちょっとね! 気になったから!」

 

 そう言って消えてしまった。

 みさおさんは「みさえにはちゃんと説教しておく」と続いて消えた。

 

 その後、俺は瑛子、柚木によって夜遅くまで査問会に付き合わされることになった。

 

 ああこんな思いをしなくていいように彼女が欲しい。

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