【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.6 三人目 一年下の黒瀬瑛子 後編

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は春の終わり。

 

 まるで噴水のように溢れ出る昔の記憶。 

 うちの家から五歩の距離にある空き家。

 そこにある日、母娘が引っ越してきた。

 

 俺の母親は何かとその母子家庭を気にかけ、何かと世話を焼いていた。その関係で、母娘はよくお礼を持参がてら遊びに来ていたわけだ。

 

 女の子は俺より少し年下。舌足らずで自分のことを瑛子と発音出来ず“べこ”って言ってた。

 

 俺にすごく懐いて、どこ行くにも『おにいちゃん』とついてきた。俺も妹が出来たような気がして、よく一緒に遊んだりしていたもんだ。

 

 秘密基地ごっこに付き合わせたり、ザリガニとるために一緒に用水路へ入ったり。

 

 だけどいつの間にかいなくなったんだよな。その家は空き家になって俺も忘れていたわけだが。

 

「思い出してくれた? お兄ちゃんが熱心に信仰してくれたから私は受肉出来たのに」

「信仰? 俺は無宗教なんだけど。受肉って……何?」

「覚えてないの? お兄ちゃんはいつも供物を捧げてくれて、祈りも捧げ続けてくれた」

「いやだから……何のこと?」

 

 ……ん?

 あ! あれか!

 近所にわりと仲の良い女子がいたんだ。

 その子、ちょっと面白い一面があった。

 裏山へセミ採りに二人して行った時だ。

 彼女は『ちょっと待って』と立ち止まり、道端にある大きな岩の裂け目に飴を放り込む。

 その後手を合わせてる。祈るように。

 変に思った俺は訊いてみた。

 

「それ何してるの?」

「ここに神様がいるからお祈りしてるの」

 

 変なこと言う子だなと思ったけど、その行為が面白く俺もそれに付き合うことにした。

 お菓子を放り込み、そして手を合わせて祈る。

 時には『生け贄じゃあ〜』ってカマキリやカミキリムシを投げ込んでた。

 近所では俺とその子の仲良しぶりが話題になってたらしい。ほんと田舎の人間は暇なんだ。

 その女子が引っ越していなくなった後も俺は一人でそれを続けた。バカだよなぁ小学生って。

 時期的にはべこ母娘が引っ越してくる前である。

 

 すると何か?

 

「えっと、そんで君は何なん?」

「小さな社や神社に祀られている神と呼ばれるものの末席。お兄ちゃんと縁を強めたくて……。あの頃は毎日が幸せだった」

 

 俺はチビ神様と一緒に遊んでたのか……。

 

「でも今はそこまで力はないから人として在るのが精一杯。あの後、保護者役の女の都合で離れ離れになったけど、こうしてまた縁を結べた」

「縁……」

「だからそこにいるまつろわぬ者、さっさと出ていきなさい」

「ちょっと黒瀬は落ち着こうか」

「瑛子と呼んで」

「じゃあ瑛子、飯田を邪険にしすぎ」

「そこの女、まつろわぬ者が何を信仰しているか知ってるの? お兄ちゃん」

「いや知らん。ちなみに日本国憲法で信教の自由は認められてるぞ?」

 

 社会で習うことだぞ。国民の基本的権利だ。

 

「それは人の話。その女は人じゃない」

「税金払って法律守ってるから日本国民ではあるかな」

「お兄ちゃん! なぜその女を庇うの」

 

 黒瀬瑛子が俺に迫る。こうして見ると確かに綺麗な顔立ちだ、小さい頃は鼻水垂らしてたのにな。

 

「なんだかんだいって飯田とは付き合い長いから。君も落ち着こう」

「◯◯君、また後で」

 

 飯田は足早に保健室を出て行った。

 

「大事な話をしてたんだけどな」

 

 後ろから黒瀬瑛子に抱きしめられた。おいおい。

 

「これからはずっと一緒」

「……まぁ大きくなったな、べこちゃん」

「あの血吸い女とも仲良くしないで」

 

 やっぱ知ってたか。そりゃ曲がりなりにも神様だもんな。

 

「うーん、仲良くってわけじゃないけど。ちょっとくっつき過ぎ。そろそろ三時限が終わるぞ」

「わかった」

 

 女子の香りがふわりと。これはこれでええなぁなどと思ってたら、黒瀬瑛子は『また部活でね』と言ったかと思うと姿が消えた。

 な、なんだ? テレポートしたのか?

 

「あらあら三角関係、面白〜い」

「佐藤さん、あんたのそれもテレポート?」

 

 この人(吸血鬼)、かなり態度がくだけてきたよな。

 

「違うわよ。テレビの見過ぎじゃないの?」

「おおお、オカルト本人に言われたよ……」

「オカルトじゃないわ。私達はれっきとしたこの星に住む生き物よ?」 

「そうなんだ……黒瀬瑛子は」

「この国に限らず、人はああいう存在を神として祀るわよね? そのうちのひとつ」 

「やっぱりおばあちゃんは……」

 

『何でも知ってるよな』と言いかけたら、口をその白く細い指に塞がれ、そして首筋に唇。不思議な快感が全身に伝わる。

 

「蚊が、人を、刺す、時に、だ、唾液を注入、するけど、同じ、かな……?」

 

 ティッシュで口を拭った佐藤優子は笑いながら

 

「違うわよ」

 

 と言いつついきなりキスしてきた。柔らかい。

 

「いつも美味しい血液をいただいてるから、ちょっとしたお礼」

 

 な、な、な、キ、キスされたーっ!!

 慌てふためく俺と対照的に薄く笑って余裕の態度な佐藤優子。

 

 姿が消えた。あれってテレポートじゃなきゃ何なんだろう。

 それにしても今の状況って……客観的に状況だけ見たら俺ってモテモテのウハウハだ。

 俺の苦手なラブコメマンガそのまんまじゃないか。

 

 酒巻が知ったら嫉妬に狂って殴られるかもしれない。

 だが問題は、俺を除いて人間がいないこと。

 

 四時限目の授業なんてどうでもよくなり、そのまま保健室で過ごした。担任に職員室へ呼ばれ怒られることになるとも知らずに。

 

 ああ彼女が欲しい。

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