昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。
◼️十四時五分
工業地帯を一周した結果、十二人を拘束。
駆けつけた警察官に引き渡す。
パトカーは他県の県警で警察官が『応援です』と言っていた。
「瑛子、腹ペコでふらふらなんだ」
朝から何も食べてないのに気付く。
「私の家で食べようよ」
「いや時間が惜しい。何か買って食べよう」
「……うん」
「手料理を食べてもらいたかったんだね?瑛子ちゃん」
「あー全部片付いたら、な?」
「ハンバーガーショップがおすすめだよ」
「じゃそこで」
今この時も奴らが次から次へと悪さしている。
そう思うと落ち着いてはいられない。
一瞬で移動する。
「佐藤さんには聞いたけど、俺たちがこうやって突然現れても周りの人には気づかれないんだよな?」
「そうだよ。認識されないようになってるの」
「便利だよな、ほんと」
ハンバーガーショップはガラガラだった。
「やほ! 店長〜久しぶり!」
「おや山田さん! いらっしゃい」
「私さ、去年までここでバイトしてたんだ」
みさえさんが可愛い店員さんをやってる姿が目に浮かぶ。似合ってる。
俺たちは注文を済ませ、奥の席へ移動する。
「あとどれぐらい残ってるんだ、やつら」
「キリがないよね〜」
「瑛子、トーマスさん達は見えるのか?」
「うん。アンネさんがいる家を取り囲んでゆっくり近づいてる。色々妨害を受けて……排除してるよ」
「排除って」
「お兄ちゃん、魂を抜かれたら……その人はもう死んでるの。だから迷わないでね」
瑛子はそう言うと目を伏せる。
「わかった。生きてるように見えても、人間じゃないと割り切る」
「◯◯君の年じゃ辛いだろうけど、彼らが悪さする前に◯◯君が止める。つまり救うと思えばいいんだよ」
そういう考え方もあったか。
みさえさんがいつもと違って大人びて見える。
さすがおばあ、長い年月を生きてきた人だな。
「んんー? 今チラっと変なこと思わなかった?」
佐藤優子といい、アンネさんといいどうしてこの人たちは鋭いんだ!
「いえ! 年上のお姉さまはさすがだな、と」
「にゃはは。君は嘘がつけないねぇ。それとね。そんなに落ち込むことはないよ。徳川の治世になる前もこんな感じだったから」
「え? 安土桃山時代とかですか?」
「その前から。どこにでも魑魅魍魎がたくさんいて色んな悪さしてたんだぁ」
「そうなんですか」
「人も
「……ですね」
「だから人も神様も大変だったんだから」
乱世は人心を乱す。
乱れた人心は世を乱す。
負の連鎖がずっと続く。
そうか。奴らはそのきっかけを作ろうとしてるんじゃないか。
「暮らしやすい時もあればそうでない時もある。なら暮らしやすくなるようにすればいいんだよ」
叶わないな。
わかっちゃいたが、俺はまだまだガキだ。
不意に瑛子がある方向を見つめ、険しい顔になる。
「どした?」
「トーマスさん達の様子が変なの」
「まさか、救出に」
「ううん。それはできたみたいだけど……」
「行こう」
◼️十四時四十五分
住宅街へ移動した俺達が見たのは、高速で動く影が二つ。
あちこちの家に穴をあけたり、屋根を吹き飛ばしながら、争っている。
見えなくてもわかった。
トーマスさんとアンネさんだ。
二人が争ってる。
「アンネさんの魂は抜かれてない。何かされたと思う」
「トーマスさんの方がずっと強いんじゃ?」
「アンネさんは自分が傷つくのを気にせずに戦ってる」
「他の吸血鬼の人が手を出せないのはそのためか」
「そこで私の出番です」
「わ! 柚木か」
柚木がいつもの姿で現れた。
「エミリと融合してないのか」
「彼女は突貫で作業して今へばってます。その成果があれですよ」
指さす方を見たら野球のボールっぽいものが浮かんでる。武装監視衛星か!
「壊されたのが相当悔しかったみたいで、エミリがどうしてもと言うんで」
……思えば午前中、警察署にいなかったな。
「それでどうするの?」
佐藤優子だ。
「アンネさんに麻酔弾を撃ち込みます。佐藤先輩、身体構造は人間と変わりませんよね?」
「ほぼ同じよ」
「では」
静かに空気が震える音。
片方の動きがおかしくなり、段々と遅くなる。
はっきり見えるぐらい遅くなる。
アンネさんだ。
トーマスさんが抱きかかえ、警察署の方へ向かって消えた。
「柚木さんだったか? 助かった。礼を言うよ」
トーマスさんと一緒にいた男達が寄ってきた。
そして柚木に頭を下げる。
「どういたしまして。お役に立てたなら何よりです」
彼らも姿を消す。
「佐藤さん、アンネさんが心配なら……」
「いいのよ。あの子も守られるだけの存在じゃないから。あの子が望むのはやつらの殲滅」
この二人、長い付き合いだろうしな。お互い何を考えてるかわかる間柄ってわけだ。
「今からこれが上空から監視し、見つけたら処理します。皆さんは魂を抜かれた人達をお願いします。見分けがつかないので」
「わかった。助かるよ柚木」
「エミリが回復したら次を作り始める予定です。全部で五機。水星の人たちが下さった資材だとそれが限界で……」
「いや充分だろ」
「そう言ってもらうと気が楽になりました」
一機で第七艦隊とやり合えそうだ。
あ。
そうか。
俺たちってベトナム戦争時のアメリカ軍と同じだ。
彼らが苦戦したのは『誰がベトコンで誰がベトコンではないベトナム人か? それが判別出来にくい』ということだった。
落ち着いて考えろ。
どうすればいい?
◼️十五時二十五分