【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.67 日常への回帰

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。

 

 あれから一週間。

 一応だが、事態は終息したと思う。

 

 異次元の神エレボスを撃退したものの、分身である向日葵(ひまわり)人間によって多数の犠牲者を出した。防げなかった。

 

 そして次々に起こった騒ぎで忘れそうになっていたが、あの地下でエレボスにデアソードを突き刺していた時、俺の腹にぶつかり後ろの方へ飛んでいった何か。

 

 あの時俺は、エレボスが柚木の武装監視衛星の真似をして弾丸か砲弾みたいなものを撃ったんだと思ってた。

 

 冷静に考えてみると、それならあの程度の威力のわけがない。それに近くにいた飯田も柚木もあれを見ていないそうだ。

 今になってあれが何なのかすごく気になっている。

 

 未だアンネさんの意識が回復していなくて、トーマスさんが付きっきりで看病している。

 

 そして俺は国家権力の本気を見た。

 新聞やテレビは一切この街で起こったことに触れなかった。全くのゼロ。

 あれだけの騒ぎになったのに。  

 

 俺たちが公安委員会の嘱託という立場は継続。

 何かことが起きれば、警察の協力を得られるとのこと。もう何も起きてほしくないけどな。

 

 三学期が始まって早々に欠席した俺だが、そこは何か手を回されていたようで特に何も言われなかった。

 両親は戻ってない。むしろ、家に帰ってこない方が安全な気がする。

 

 引っ越していく人、引っ越してくる人が増え続けている。前者は住民、後者は吸血鬼の人だったり、イタチだったり、狐だったり。本田さんによると、猫の人も増えたそうだ。

 

 あんなことがあったんだ、生活に支障がなければ引っ越すのは当然だと思う。説明としては過激派の仕業と発表されてる。

 

 過激派が銀行や警察署を時限爆弾で爆破したり、与党本部に手製のロケット弾を撃ち込んだ事件も記憶に新しいので、それで押し通すらしい。

 

 俺たちの高校もさらに生徒が減った。俺のクラスも空席の方が多い。

 

 そして今日、転校生が来た。

 転校生イコール普通の人間ではないってことだ。

 

「山本由紀子と言います。よろしくお願いします」

 

 これまたえらく可愛らしい女子だ。

 酒巻が興奮してる。おい仁科亜矢子が見てるぞ!

 

 その仁科だが、あれ以来俺に対して近寄ることはない。教室では常に飯田が睨みつけてるし。飯田の怖い顔に見慣れてないので、俺までビビってる。

 

 あの夜、俺を誘導しようとしたことは周囲で共有した。柚木もかなり怒ってた。

 

「人の心理の隙をついて思いのままにしようというやり方、私は嫌いです」

 

 その柚木だが、監視衛星の増産に入ったそうだ。

 武力だけでいえば、この街は多分世界最強だろう。

 

「ICBMですか? 二百基が一度に来ても撃墜余裕です」とは柚木の弁。恐ろしい。

 

 瑛子と同じ謎空間にある家に住んでいた王戸ちゃん。母娘でうちの近所に越してきた。

 

「よっよろしくお願いします!」

「よろしく。ご近所さんだな」

「はっはい! 常に◯◯様をお守りできます!」

「その様付けはやめよう。マジで」

「……はい。気をつけます」

 

 で、今俺は何してるかと言うと佐藤優子の家にお邪魔してる。

 

 お母さんと向かい合って話を聞いてる最中だ。

 

「私たち夫婦にはひとり娘がいたんです。でも十年前に病気で……」

 

 俺は黙って聞く。

 

「それで三年前、優子さんを紹介されて。娘が生き返ったようでした。よく似ているんですよ。夫も私も喜んで快諾しました」

 

 だからどことなく似てるのか、お母さん。

 

「優子さんは吸血鬼だから死ぬってことはありません。私たちがこの世を去るまでずっと娘でいてほしいとお願いして、優子さんも引き受けてくれたんです。ええ、年数が経ったらどこかに引っ越して」

 

 吸血鬼を養子にする人はそんな事情を抱えている人が多いらしい。

 

「ですから物騒なことがあっても、◯◯さん達が守ってくださるでしょう? だから心配はしていませんし、引っ越しもしません」

「僕が守られてる方ですよ。いつも優子さんには助けられています」

 

 実際その通りだし。

 

「いえいえ。今年の春から優子さんは◯◯さんの話をよくするようになりまして。私たちもお友達が出来たんだなって、それはもう喜んでいたんです」

「きょ、恐縮です」

 

 落ち着かない。

 

「どうか優子さんとずっとお友達でいてくださいね?」

「はい。僕はそのつもりです」 

 

 お土産にお母さんの手づくりクッキーを渡され、佐藤家を後にする。

 すぐ近くに佐藤優子がいた。

 

「何で同席しないの?」

「お母さんと君が一対一で話した方がいいと思って」

「……それもそうか」

「私の見た目ってこうでしょう? 一人暮らしするのに少し無理があるから、昔から養子制度を利用してるのよ」

 

 だよな。今時なら、例えば親元から離れて高校に通う設定も使えそうだけど、女子となると滅多にいないし。

 

「私のこと知った上で愛情を注いでくれる佐藤夫妻には感謝しかないの」

「うん。すごくそれは伝わったよ」

「たとえ娘さんの代役としてもね。完璧とは言えなくても、ちゃんと役割は全うするつもり。以前の家では腫れ物扱いだったし、余計に、ね」

 

 そうか。

 歓迎してくれる人ばかりじゃないのか。 

 

「良い時代になったわ。小さな子どもが死ぬことはかなり少なくなったし、命の心配をそこまでしなくていいし、食べ物の心配をしなくてもいい。だからね、お母さんやお父さんに不安な気持ちにさせる河野涼子、そしてエレボスは許せなかったのよ」

「アンネさんが心配だね」

「あの子は多分大丈夫。そんな気がするわ」

「佐藤さんが言うなら安心できる」

「家まで送るわ」

 

 瞬間移動で自宅前だ。

 真っ暗だけど。

 

「瑛子ちゃんが通い妻してるんじゃない?」

「それは断ったよ。親はOK出してるけど、いくら何でも同棲の真似事はあかんでしょ」

 

 俺の理性は崩壊寸前なんだよ。

 

「ふふっ。私も通い妻しちゃおうかな」

「それもダメ。不純異性交遊はお断りです」

「冗談よ。じゃおやすみ」

「また明日!」

 

 ……ヤバいぞ。

 これってもしかしなくてもラブコメ時空じゃねぇか!  

 確かに俺の本音としては彼女を作りたいが、俺が望んでるのは今のような状況じゃない。

 

 悶々としたまま俺はテレビを見ながらリビングで寝落ちした。

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