【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.7 陸上部の加藤弥生

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初夏。

 

「ブルマー最高ぅ」

「さよか」

 

 今日も俺と酒巻は昼休憩時間に教室の窓から中庭を眺めている。体育の授業が雨のため体育館に変更、よくあること。

 そこへ急ぐ女子達を酒巻はロックオン。ブルマーに集中している。俺も嫌いじゃないよ。

 

「陸上部に黒瀬瑛子が入ったよな?」

「入ったよ」

「可愛いよなぁ。ついつい目で追っちゃうわ」

「あの子、何やってるの?」

「◯◯……お前同じ陸上部なのに知らんのか?」

「練習には出てないし。知らんがな」 

「黒瀬はハードル跳んで走り高跳びもしているな」

「そうなんだ」

「陸上部は女子が多くて羨ましい」

「ならお前、うちに掛け持ちで入部しろよ。確か禁止はされてなかったろ?出来たよな?」

「出来るさ。残念ながらサッカー部だけでいいわ。練習きついんだぜ?」

「まぁ見てたからわかる」

 

 俺たち陸上部は体育祭への参加は出来ない。短距離走を始めリレーなど『走る競技』はサッカー部の奴らが上位を独占だ。八百メートル走なんて周回遅れを出すほど速い。

 

「練習の後『お疲れ様です』って言って黒瀬瑛子がタオル差し出してくれたら、それだけで天国行けるのになぁ」

 

 黒瀬瑛子よ、喜べ。信者が増えてるぞ。

 

「黒瀬と仲良くなりたいなら、まずはお供物だな。お菓子でいいぞ」

「何だそりゃ?」

「崇め奉るのだ。貰って嫌がる女子はいないだろう?」

「まあな」

 

「アホだな」

 

 悪友そのニである井田が呆れ顔。多分東大間違いなしと噂される学年一の秀才でもある。

 

「かっこつけるなよ。なぁ◯◯」

「それには賛成だ。男は種の繁栄を義務付けられた哀しい生き物だ」

「またわけわからんことを……」

 

「◯◯君、ちょっといい?」

 

 同じ陸上部の加藤弥生。隣のクラス。

 

「今日ね、部の方に顔出すようにって、先生が」

「何の用だね?」

「もう! 部員だから当然でしょ!」

「へいへい了解。行くよ」

「必ず来てね!」

 

 去っていく加藤弥生の後ろ姿を眺めていたら

 

「加藤ってさ、結構人気あるんだぜ」

 

 と、酒巻が言うと井田も続けて

 

「俺、中学一年の時にあいつのクラスまで見に行ったわ。『すげー可愛い子がいる』と聞いてな」

 

 と宣う。あのコアラっ子、意外と人気者。

 

「知らんかったわ。なにその加藤人気」

「◯◯、お前部活の時に加藤に欲情するなよ?」

「するかよ。断じてない。絶対ない」

「言い切ったか」

「逆にお前らに訊くぞ? コアラ知ってるか?」

「知ってるわ。バカにしてんのか?」

「コアラは可愛いと思うか?」

「まあ……可愛いと思う」

「俺も」

「そのコアラに恋をするか?」

「はあん? どうしてそうなる?」

「俺が加藤弥生を見て感じてるのはそういうこと」

 

 しばらく二人は黙った後、

 

「……◯◯、それ酷くないか?」

「加藤をコアラ扱いか」

「いや待て。どうしてそうなる? あのな、可愛らしいとは思っても、恋愛対象じゃねぇってことだよ」

「わかったようなわからんような」

「相変わらずよくわからん例えをするよな」

 

「なになに〜? 弥生のこと?」

 

 あ、加藤の仲が良い女子が話に入ってきた。

 

「酒巻と井田が加藤を好きだってさ」

「え〜? ほんと?」

「酒巻君と井田君がねぇ」

 

 他の女子も話に加わったタイミングで俺は撤退。

 

「おい◯◯! いい加減なこと言うな」

「井田は加藤を見に行ったぐらいファンらしいぞ」 

「え〜井田君、そうだったんだぁ」

 

 昼休憩が終わる前に、図書室へ行っておこうと教室を出たところで佐藤優子がいた。彼女はまたしても微笑みとともに、小さく手を振る。だからやめろ。やめてください。

 

「あいつ、また佐藤に手を振ってるぜ」   

 

 女子達の矛先を俺に向けようと逆のことを言う井田。

 

「いや、あれは俺に振ってるんだよ」

 

 よし! がんばれ酒巻。その主張で井田を黙らせろ。

 

 小走りに図書室へ向かい、SF小説の棚の前へ。

 俺はどうやら文字を読むのが人より早いらしい。最近わかったことである。

 隣の席の飯田奈美に『五十分あれば標準的な文庫本なら一冊読める』と話したところ、すごく驚かれた。

 

「◯◯君、それ無理だよ」

「スピード優先の斜め読みもいいとこで、じっくり読むわけじゃないぞ?」

「それでも普通はそんなに速く読めないって」

 

 その後酒巻や井田、何人かに訊いたが全員同じような反応された。遅いよりずっと良いことだから気にはしない。だろ?

 

「本が好きね」

 

 またしても佐藤優子のテレポートだ。

 

「そうだよ……って何故に体操服?」

「さっき酒巻君と『ブルマー最高』って話してたでしょ? サービスよ」

「サービスって……」

 

 口調とは裏腹に視線は、まず程よく形の良い胸、そのまま白い太ももへ吸い寄せられる。……悔しい。哀しき男の本能だ。

 

「あら嬉しい」

「いやいやいや。本を選ぶの邪魔しないでもらえるとありがたいです」

「あらたまっちゃってどうしたの?」

「今更だけどさ、俺が今まで一番怖かったのって吸血鬼映画なんだよ! だからちょっと怖いの。ほんとに」

「ふふっ。本当に今更ね?」

 

 他にもホラー映画と言えば様々なモンスター映画があるが、吸血鬼伯爵がターゲットの名を呼びながら真っ赤な目と鋭い牙で迫ってくるのが一番怖かった……あれをテレビのロードショーで見た夜はなかなか寝付けなかった。夢に見たこともある。

 

 半分本音で半分は冗談だが、案外佐藤に逆らえないのはそれもあるかもなと思う。彼女には怖さがないけどな。

 

「よし、これに決定」

 

 海外SFとしては有名な作品だ。

 振り向くと佐藤優子は制服姿に戻っていた。

 

「それ手品?!」

「あなたから見ればそうかもね」

「じゃ教室戻るから」

 

 意味ありげに微笑み小さく手を振る佐藤優子に、俺はやっぱり逆らわないようにしようと図書室を出た。

 

 放課後。渋々陸上部の部室へと足を運ぶ。要件は八月に開催される県の大会に出場、或いは退部を選べという魔女裁判(俺の心証)だったのだ。

 

 俺は渋々了承。種目は砲丸投げだ。本当はハードルなんだが、俺程度のタイムだと箸にも棒にもかからないので、可能性のある方を選んだ。

 

「ほっ」

「◯◯君は細いのによく投げられるねー」

「砲丸投げに体重はそんなに関係ないぞ、多分」

「何キロ?」

「五十二キロだ」

「男子はやっぱそれぐらいあるんだねぇ」

「加藤弥生よ、お前は何をしてる? 帝国に尽くすのを忘れたか?」

 

 例のアニメのセリフ。

 

「何それ?」

 

 こいつは観てないらしい。チッ。

 その隣では黒瀬瑛子が走り高跳びをしてる。いかん。図書室で佐藤優子に呪いをかけられたみたいだ。女子の太ももを見てしまう呪いを。

 

「黒瀬さん可愛いでしょう?」

「その近所のおばちゃん丸出しはやめろ」

「ひどーい」

「酒巻や井田は騒いでるけどな。俺は無関係」

「へぇ。興味ないんだ」

「お前らはさぁ……。そんなことよりSF読めや」

「読書はするけどその手のは読まないかな」

「女子はこれだからな」 

 

「加藤先輩、片付け手伝ってもらっていいですか?」

 

 黒瀬瑛子がやってきた。何となく気まずい。

 

「いいよ。◯◯君、久しぶりに部活来たんだから帰りにヤマサキ寄ろうよ」

 

 ヤマサキはびっくりするような値段でタコ焼きを売っていることで有名な店だ。今の季節ならソフトクリームやかき氷もあり、学校帰りの中学生、高校生で賑わう。

 

「いいよ」

「じゃ後でね」

 

 俺を見る黒瀬の視線を交わし、最後の一投を済ませる。

 

 その後ヤマサキへ。店内に入ると加藤、それに黒瀬がいた。『話が違うぞ』と加藤を見る。笑う加藤。

 

「黒瀬さんがね、一緒にって」

「さよか」

 

 子どもの頃さ、可愛がってた小ちゃい子が成長して綺麗になってて、しかも何やら謎の存在になっていたら気まずいものだろう?

 

「俺、ソフトクリームな」

「私も」

「じゃ私もそれでお願いします」

「黒瀬さん、硬いよ。普通でいいよ」

「でも……」 

「少なくとも私と◯◯君はそんなの気にしてないから」

「そうだ」

「はい……」

 

 あの保健室で飯田に対して高圧的とも言える態度を見せた人物とは思えないな。女は怖い。

 

「そうそう◯◯君、コアラって誰のこと?」

「!」

 

 情報早いな女子!

 

「あーそれは、加藤はコアラみたいに可愛いってことだ」

「そんな風に私のこと見てたんだ?」

「可愛いのが不満か?」

「そうじゃなくて。もういいけど。ソフトクリームは奢りね?」

「納得いかんが、それでお前の機嫌が治るなら」

「◯◯先輩と加藤先輩は仲良いんですね?」

「んあー何のかんのこいつとは付き合いすごく長いからなー。びっくりすることに、小学校一年から中学三年、そして去年とずっと同じクラスという」

「今年初めてクラスが分かれちゃったね」

「そうなんですか。縁を感じますね」

「黒瀬、それは腐れ縁というんだ」

「だよねー。◯◯君にとって私はコアラだもんねー」

「根に持つなお前」

「うん、ずーっと持つよ。あ、これからヤマサキでは全部◯◯君の奢りね?」

「対価が見合わんぞ、それ」

「それぐらい当然だと思うけどなー」

「ふふふ、良き縁ですね、二人とも」

「「それは違うと思う」」

 

 解散後、コーラをラッパ飲みしながら帰宅すると、我が家の隣に見慣れないものがあるのに気がつき自転車を止める。

 

「こんなとこに祠ってあったかな」

「出来たんだよ、お兄ちゃん」

「おわぁ!」

 

 いつ間にか後ろに黒瀬瑛子。背後霊かよお前?

 

「ここに私がいるの。お兄ちゃんの近くだね」

「お、おう……」

 

 我が家の隣に突然できた小さな祠。

 

「夜に酒を飲みながら自転車に乗るのは感心しないよ」

「知ってるのか……」

「この町で起こることは見通せるから。特にお兄ちゃんのことは」

「スパイ衛星かっ!」

「見守りって言ってほしいな」

「さよか」

「あのまつろわぬ者の姉妹、姉の方は遠くで見てたよ。目障り」

「まーたその話か。別に悪さするわけじゃないから、そんなに目の敵にせんでも」

「お兄ちゃんに色目使ってるのが気にいらないの。あの血吸い女も」

「佐藤優子は俺のこと食糧として見てるだけだと思うがなぁ」

「そんなことない」

「だって吸血鬼と人間ってそういう関係だし」

「あの女もお兄ちゃんに色欲の目を向けてるよ」

「それはないって。向こうは何百年も生きてるおばあちゃん、いやお姉ちさんだぜ?」

「生きた年月は関係ないよ、お兄ちゃん。縁の強さだよ」

「そういう……もんなのか?」

 

 あの佐藤がそうだとはどうしても思えない。例えるならハツカネズミを人間が好きになるかってことだ。向こうからすりゃ俺はハツカネズミどころかセミ並の寿命だし。

 

「だからあれらとは仲良くしないで」

 

『そりゃ無理だよ』と言おうとした瞬間、抱きしめられる。気がつくと、俺たち二人は祠の後ろにある森の中にいた。いつの間にか、だ。

 

「お兄ちゃんは私が……」

 

 俺はそっと黒瀬の髪を撫でる。

 

「まぁ落ち着いてくれ」

 

 この子に力を与えたのは俺が過去にとった行動だ。こんなことになるとは思ってもみなかったが、無碍に出来ないよな。

 

「心配しなくてもな、俺は飯田とも佐藤とも付き合ったりとかないから。それは言っておく」

「本当?」

「それは絶対だ。飯田はまぁ付き合い長いけど、加藤と同じようなもんだし。佐藤に至っては猫とネズミの関係であっちは捕食者だから。その辺は気にしないように」

「……うん」

「俺の監視もほどほどにな。誰にでも見られたくないものってあるから」

「……」

 

 返事がないのは不安だ。

 

「じゃ、俺は帰るから」

「うん。また明日」

 

 他者から見れば『おーおーお熱いことですなー』と言われるシーンだが、実情は全然違う。ここまで異常なことになるとは思わなかった。

 

 

 ああ何も悩まないですむ彼女が欲しい。

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