【完結】俺が通う高校は人外魔境だった   作:はるゆめ

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ep.70 夜の街で

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。

 

 瑛子はどこにでも出現することが出来るが、家の中に来たことはない。家の前や玄関前までだ。

 以前、俺の着替えやら何やらを母親から受け取ったことがあるが、多分玄関までだろう。

 

 だからこの神使に代わりとして世話させてるわけだ。ま、ありがたいけど。

 

 夜になって熱が少し下がったら、無性に外へ出たくなり、夜の散歩に出た。

 ああ。熱で火照った顔に冷たい空気が気持ち良い。

 

 自然と自販機のある方向に足が向かう。

 住宅街は真っ暗な家が多く、多分引っ越していく家の方が、引っ越してくる家より多いんだと実感。

 

 角を曲がったら酒屋があり、そこに自販機が数台置いてある。その一角だけ一際明るくなっていた。

 

 最初は熱。

 胸元が熱くなる。

 なんだこれ。

 爪。

 肉球。

 まるで猫の手。

 血だらけ。

 

 耳元で囁く誰か。

 

「心臓に防御。めんどうだね」

 

 声でわかる。

 山本由紀子だ。

 

 抜かれる腕。

 噴き出す血。

 

 デアソード!

 立っていられない。

 

 げふっ。

 口から血が溢れる。

 息が苦しい。

 

 願う。

 こいつをやらなきゃ。

 魂はいくらでもくれてやる。

 瑛子!

 あの力を寄越せ!

 わかるだろう!

 今寄越せ!

 あの力を今すぐ寄越せ!

 寄越せ!

 

 何かが入ってくる感覚。

 痛みが消えた。

 

 腕を振りかぶり、やたらゆっくり迫る山本由紀子。

 デアソードを正面に構え、こちらから体当たり。

 長い爪で顔を切られる代わりに、カウンターで山本由紀子の胸にデアソードを突き立てる。

 

 地面に叩きつけられた。

 視界が狭い。

 右目を抉られたようだ。

 

「がはっ」

 

 山本由紀子の背中からデアソードが生えている。

 

「オマエッ!!」

 

 首を絞められたような歪な声で俺を睨みつけるも、立っているのがやっとのようだ。

 俺は喋れない。

 ざまぁ見ろ!

 手の先、足の先から黒い粉となって崩れていく山本由紀子、いやエレボスの本体から切り離された一部。

 もう何も考えられない。

 寒い。

 でもやったぜ。

 俺……死ぬのかな。

 

───────────────

 

  昭和のいつか。それと平成。どこかにある街。季節は冬。

 

 一人の少年が死体で発見された。

 身元は地元高校に通う生徒である。

 顔面に擦過傷、胸部に大きな損傷があり、それによる失血死が死因。

 

 そばには四十三kgに及ぶ鉄粉が散乱していた。

 彼は原因不明の死者が相次いだこの街で、最後の死者となる。

 以降、この町は政府の指定により封鎖区域となり、住民はいなくなる。

 街の中心を通っていた国道は大きく迂回する形になり、この町へ通じる道は全て封鎖されたのだ。

 

 

 昭和が平成に変わった頃、この町由来の様々な噂──いわゆる都市伝説だ──が囁かれるようになる。

 どうにもオカルトじみているので大手のマスコミが取り上げることはなかったが、噂は周辺に住む人々の間で広がっていった。

 

 パソコンだけでなく、爆発的に普及したスマートフォンによるインターネットへの接続が増えた頃。動画の撮影、編集、ネットへのアップロードがお手軽に出来るようになったことにより、封鎖区域という珍しいこの場所に、多くの人々がカメラやスマートフォン片手に訪れるようになった。そこで撮影された多数の動画が様々なメディアへアップロードされることになり、人々の目に触れる。

 

 そのうちの一つを暇つぶしに眺めていた男。酒巻だ。

 封鎖区域になった街から隣町へ引っ越しをした後は地元大学を無事卒業。 

 中規模のメーカーへ入社した後は攻める営業スタイルで、営業部長にまでなったものの、上司の派閥争いに巻き込まれてしまう。

 

 万年営業部長と陰で言われつつも、部下の育成が評価され、定年まであと五年。

 二人の娘が嫁いだ後は、気分もすっかり隠居で部下の相談役みたいになっている。

 

 そんな酒巻の日課は、昼休憩時間に愛妻弁当を食べながら動画サイトを眺めること。

 今日も自前のノートパソコンで表示されたおすすめ動画を見ていると、出身の町名を見つけた。

 

 ずらっと並ぶのは都市伝説絡みのタイトルばかり。

 封鎖区域という特異性から色々な噂が作られたんだろう、そう思うと同時に懐かしさもこみ上げてきたのでクリックする、

 いくつか見ていくうちに、とある動画の途中で一時停止。パソコンのモニターをじっと見つめ、スクリーンショットを撮る。その画像を拡大した後、しばらくして静かに呟く。

 

「◯◯じゃないか。それに佐藤優子、黒瀬瑛子。どうしてあの頃のまんまなんだよ……」

 

「酒巻さん、何か言いました?」

「あ、すまないね、何でもないよ。ちょっとね、動画でさ、知り合いに似た顔を見つけたもんだから」

 

 思わずつぶやいたのが、酒巻と同じ愛妻弁当組の山下に聞こえたらしい。

 

「へぇ。ちょっといいです?」

 

 山下が酒巻のデスクまでやって来た。

 隠すことでもない、酒巻は正直に説明する。

 

「この男の子、高校の時さ、仲良かったやつにすごく似てるんだ。隣の女の子達も知ってる子にそっくり。他人の空似もここまでくると驚くよ」

「へぇ、そうなんですか。世の中には同じ顔の人間が三人はいるらしいですからね」

「そうそう。びっくりしたよ」

 

 この時、山下の表情が揺らいだことに酒巻は違和感を覚える。些細な変化も読み取るのが営業マンだ。

 しかしそれがどういう感情なのかはわからなかった。

 

 そして内心でここに写っている三人が間違いなく◯◯、佐藤優子、黒瀬瑛子ではないかと確信に近い思いが膨らんでくるのに戸惑う。

 

 

『◯◯、もしかしてお前は生きてるのか?』

 

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