昭和のいつか。どこかの街にある高校。季節は春。
「おい」
「何だよ」
「何だよじゃねぇよ。黒瀬、何でまだいるんだ」
「変なこと言うな。いちゃいけないのか」
「昨日お前、いかにもどこかへ行くみたいなこと言ってたじゃねぇか」
よく眠れないまま、それでも起こしに来た
『またこの街に来ることもあるかもしれん。その時にはまた会ってくれよ?さっきも言ったが、お前のことは友人だと思ってるから』
黒瀬は昨日俺にこう言ってたんだが。
「あー悪いな。予定外のことが見つかってな。もうしばらくはお前とクラスメイトだ」
「……何だよ、紛らわしい言い方しやがって」
黒瀬はどこか嬉しそうに笑うと
「寂しがってくれるのか」
と聞いてきた。
「そんなんじゃ……ねぇよ」
「隆晴……素直になろう?」
「ばっ! 翠(みどり)、変なこと言うなよ」
工藤
昨夜、黒瀬の戸籍上は妹である黒瀬瑛子が、
「黒瀬君、昨日はありがとう」
「俺の仕事だ。気にしなくていいよ」
「予定外のことって何だ?」
「山下は知らなくていいことだ。お前は工藤とイチャイチャしてりゃいい」
「なっ! なんつうこと言うんだよっ」
急に真顔になる黒瀬。
「真面目な話、そうしてくれ。巻き込んですまないが、お前と工藤には囮をやってもらう」
「囮?」
「工藤だけじゃなかったってこと。そいつらを炙り出す」
異界の神だったか?
そいつを召喚しようって奴らがまだいるのか。
「もちろんお前たち二人の安全は保証する」
「物騒なこと言うな……。本当に大丈夫なのか?」
「護衛をつけるから」
「護衛?」
ついと黒瀬が振り向いた先。
佐藤 優子と目があった。
吸血鬼だそうだな。
「彼女は頼りになる」
それはわかる。
昨日双眼鏡で見ていた限りじゃ、十人のクラスメイトをあっという間にのしていたし、目にも止まらぬ動きで翠(みどり)を拘束していたからな。
「いっそあちらさんを煽ってみようと思うんでな、放課後付き合え」
「どこへ?」
「タティだ」
地元にある県最大のショッピングモール。
それがタティだ。
「いいけど、なんか奢れよ」
「おう。任せとけ」
黒瀬よ。
俺は確かにお前の言う囮になるって了承したけどな?
あんなに恐ろしい目に遭うなんて思わなかったぞ。