全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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※観覧注意
かもしれない

8話で「シルを休ませてからアビドスに向かう」を選択したルート
8話から分岐になるので、見たい方のルートを読んでください


9-B.救

「セリカちゃんが?」

「はい……柴関ラーメンにも学校いないようでしたし……もしかして帰りに襲われたんじゃ……」

 

 アヤネの話だと、セリカは昨日から帰った様子はないようだった。柴関ラーメンの大将からは店が閉まる少し前くらいにちゃんと帰ったらしいが、セリカの姿は学校にも家にもない。いつもの通学路にも気配すらなく、柴関ラーメンから家までの通勤ルートらしき道には、恐らく戦車のものであろう砲撃の跡があったという。

 アビドスは、砂嵐の影響もあり今では殆ど住む人がいない自治区である。故に、他の自治区と比べても、この前のカタカタヘルメット団も含め不良が多い。住む場所に困る不良は当然、自分で住む場所を探さないといけない。そんな中アビドスという場所は、廃墟であろうが砂にまみれた家であろうが、雨風が凌げる拠点になることは変わらない。不良にとっては拠点として選べる選択がたくさんある場所なのだ。人がほとんど居ないという関係上、衣と食は自分達で何とかしないといけない。そういう意味ではブラックマーケットやその周辺のほうが良いようにも見えるが、ブラックマーケットは詐欺やら争いも絶えない場所である為に、静かな場所が好きな人間にとってはこちらのほうが絶好のスポットだろう。食べるところだって、柴関ラーメンを含めて全くないというわけでもない。

 ともあれ、現在の状況とアビドスの治安を考えれば、セリカは何者かに襲撃され、そのまま拉致されたと考えるほうが妥当だろう。もしかすると、またもカタカタヘルメット団の仕業なのかもしれない。少し前までの襲撃や、反撃としてヘルメット団の拠点を撃破した件のことを考えればありえない話ではない。

 

「わかった、でも……」

「……ホシノ先輩?」

 

 今すぐにでもセリカを探し出し、助けに行きたいところだが、一つだけ懸念点がある。当然、シルのことだ。現在進行系で苦しんでいる彼女を放っておくわけにはいかない。

 

「シルちゃんが……さ、凄い高熱で倒れてるんだよねぇ〜……」

「え、シルちゃんが?」

「だから、ちょっと落ち着かせてから合流するね〜」

「わかりました。セリカちゃんのことは先生にも伝えてるので、場所の特定はこちらでやっていつでも出れるように準備しておきます」

「うん、お願いね、アヤネちゃん」

 

 そうしてホシノは電話を切った。

 セリカのことは当然助けなければいけない。でも、ほんとに風邪かどうか分からない状態の、苦しんでいるシルを放って行くわけにもいかない。

 だから、シルを優先することにした。優秀な後輩達を、信じることにした。後輩達には先生もついている。大人を信用しているわけではないが、過ごした時間は多くないもののあの先生の能力は疑っていない。最悪、自分がいなくてもセリカをきっと助け出してくれる。だから、ある程度落ち着くまでシルに寄り添うことにした。

 ホシノは携帯を机の上に置いてシルに目を向ける。

 相変わらず目を覚まさず、苦しそうにしている。ホシノは不安に駆られながらシルの手をきゅっと握る。また、いなくなってしまうのではないか。かつての先輩のように、自分を置いて行ってしまうのではないか、そんな考えがホシノの頭をよぎっていた。

 

 ふと、一つのことが気になった。

 シルが普段ずっと身につけている黒い箱、それが薄く紫色の光を発していたのだ。

 射撃場での件以降一度も反応を示さなかった黒い箱、それが今反応を示している。それが一体なにを意味しているのか。射撃場の時に比べて光自体は弱いがそれにより何が起こっているのかが分からない。射撃場のときは規格外の威力を持つ銃が出てきた。状況からして、恐らく強くなりたいというシルの願いに呼応して引き起こされたのだと考えられる。そうだとすれば、今回は? タイミングを考えればセリカの件と関係していることも考えられる。しかし、何が引き金になったのかも、射撃場での時のことと関連性が分からない。結局、この箱については何も分からないということしか分からなかった。今のホシノにできることは、シルが出来るだけ苦しまないように寄り添ってあげることだけだった。

 

 暫くシルの看病を続けていると。ようやく、容態は少し安定してきたようだった。ホシノとしてはまだ心配は残るが、いい加減セリカを助けるために動かなくてはいけない。アヤネ達は恐らくホシノが到着するまで待っているだろう。

 犯人の目的は分からない。犯人が誰であるかも確定はしていない。確定はしていないが、現状可能性が一番高いカタカタヘルメットだと仮定すれば、セリカをすぐにどうこうするとは考えにくいだろう。彼女達の目的はアビドスを占拠すること。だとすれば、セリカと引き換えにアビドスを手に入れる、なんてことも考えそうだ。カタカタヘルメット団以外の別の人間の仕業であればその限りではない。どちらにせよ、余りのんびりもしていられない。

 

「シルちゃん、セリカちゃんを助けたらすぐに戻ってくるからね」

 

 ホシノは未だに眠っているシルに優しい声で語りかけては家を出る。

 

 

 

 

「あ、ホシノ先輩、お待ちしてました。セリカちゃんの場所は特定出来てます。すぐに出発しますか?」

「うん、行こう。みんな」

「わかりました。セリカちゃんの居場所なんですが―――」

 

 

 


 

 ガタガタと揺れる車内。暗い荷台に拘束され眠る少女が一人。

 アビドスのみんなと先生が柴関ラーメンから帰った後、セリカは店じまいの時間まで働いていた。

 後片付けをしている途中で大将から帰っていいと言われて暗い中帰っていると、その途中でカタカタヘルメット団からの襲撃を受けてしまった。

 待ち伏せされていたようで、大勢に囲まれた中での戦闘。多勢に無勢、バイトの疲労もあり、さらには戦車まで持ち出されてしまってはセリカ一人では勝ち目はほぼないに等しかった。そのままセリカは気絶させられ、荷台に押し込まれて何処かに連れ去られているようだった。

 

「ぅ……ここは……? トラックの……荷台……?」

 

 目を覚ましたセリカは暗闇の中辺りを見渡す。周囲のものはあまり見えなかったが、布の隙間から光が差し込んでいる。恐らく、そこから外の様子は確認できそうだった。しかし、両手足を縛られているセリカではそこまでの確認は難しかった。少しの間拘束を解こうと藻掻くも、固く縛られているのか拘束が緩む気配すらなく、セリカは拘束を外すことを諦めてしまった。

 少しぼーっとした意識の中、現状を整理する。

 

「ぁ……そっか……私、ヘルメット団に襲われて……」

 

 そして、その答えは冷静に自分の記憶を辿っているとすぐに見つかった。自分は、ヘルメット団からの襲撃を受け、返り討ちにしようとするも戦車の砲撃によりやられてしまったのだと。そして、そのままヘルメット団に捕まり、何処かに連れて行かれているのだと。

 辺りは暗くどこに居るのかは分からない。しかし、エンジンの音にこの揺れる感覚、自分が拘束されたまま車に乗せられていることは容易に想像できた。

 

「私……ここまでなのかな……」

 

 それらを理解したセリカは既に諦めモードへと入りかけていた。

 拘束はいくら藻掻いても解ける気配はない。仮に、解けたとしても現在位置が分からないのだ。そんな中で水も食料もない中自分一人の力だけでアビドスまで戻れる自信なんて当然なかった。つまりはこのまま大人しくしているしかなかった。

 自分はどうされてしまうのだろう。そんな不安がセリカの中に募る。諦めモードといっても、生きることを諦めている訳では無い。故に、恐怖も不安も消えない。

 

「このまま……他のみんなみたいにアビドスを捨てたって思われちゃうのかな……そんなの、やだよ……」

 

 頭に思い浮かぶのはアビドスの現状に耐えきれず去っていった人達。その人達と同じようにアビドスを諦めていなくなったなんて、大好きなみんなに思われるのは嫌だった。そんな最悪な未来への不安にこの後カタカタヘルメットに何をされるのか分からない恐怖、それらがセリカの心をどんどんと蝕んでいった。

 

「助けてよ……ホシノ先輩、ノノミ先輩、シロコ先輩、アヤネちゃん…………シルちゃん……」

 

 セリカの頬を一筋の涙が伝う。その瞬間――

 

 

 

 

 

―――助けてほしい?―――

 

 

 

 

 

「っ……!! な、なに!?」

 

 セリカの前で紫色の光が眩しく輝いた。

 目が眩む中、暫く時間が経つとその光は徐々に消えていく。光が収まり目を開けると、そこには紫色の光を纏う球体が宙に浮かんでいた。

 

「さっきの声……もしかしてこれ……?」

 

 セリカはその光に吸い込まれるように球体を見ていると、再び声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

―――助けてほしい?―――

 

 

 

 

 

 それは明らかにカタカタヘルメット団のものではない。だからといってアビドスのみんなが助けに来てくれた訳でもなさそうだ。状況的にこの球体から聞こえてきていると考えるのが一番可能性があるだろう。

 

「どうして……」

 

 その言葉は、数々の理解できない事象に対する問いだった。この球体は何なのか? どうして助けようとしてくれているのか? 本当にこの状況をなんとかできるのか? そしてなにより、この球体のことも声も知らないはずなのに、どうして自分はこの声(・・・・・・・・・・)を知っていると感じて(・・・・・・・・・・)いるのだろうか?(・・・・・・・・)

 理解のできない多くの事象にセリカは混乱する。そこに、その声は更にセリカに語りかける。

 

 

 

 

 

―――助けてほしい?―――

 

 

 

 

 

 先程と全く同じ問い。明らかにセリカに問いかけている。そして、セリカはやはりこの声を知っている。セリカは、それらのことを聞きたかったが、既にそんな余裕は残されていない。一刻も早く脱出しないとカタカタヘルメット団に見つかってしまうだろう。アビドスのみんなはきっと自分がカタカタヘルメット団に拉致されたことを知らない。自分の力だけで脱出しても助かる可能性は限りなく低い。となれば、目の前で手を差し伸べてくれている存在に賭けてみるしかない。これが何なのかは後で考えればいい。

 

「うん、お願い……助けて……」

 

 

 

 

 

 

―――うん、分かった―――

 

 

 

 

 涙を溢れさせながら懇願するセリカにその存在は了解を返す。球体という見た目でありながら頷いているような雰囲気すらも感じられた。

 

 

 

 

 

―――じゃあ、セリカちゃんを助けてあげるね―――

 

 

 

 

 

 その瞬間、球体から紫色の眩い光が周囲を覆い尽くした。どうして自分の名前を知っているのか、そんなこともセリカは気にしない。ただただ、その不気味ながらも美しい光にセリカは目を奪われていた。

 次の瞬間―――

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 ピシッという音と共にセリカのヘイローにヒビが入った。

 

 

 

 

 セリカはもう逃げられない。

 

 

 

 

 逃げようとしても既に遅い。

 

 

 

 

 痛みを感じる訳でもなく、ただただヘイローのヒビが大きくなっていく。そして、最後には―――

 

 

 

 

 

 

 パリンッ、という音と共にセリカのヘイローは砕け散った。

 

 

 

 ヘイローが完全に砕け散った瞬間、セリカの目からは光が失われ、その身体は人形のように崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――助けてあげたよ、この残酷な世界から―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、トラックは銃声と共に横転する。そして、荷台の中に光が差し、そこに人影が現れる。

 

「助けに来ましたよ! セリカ…………ちゃん……?」

「セ……リカ…………そんな……」

 

 アビドスのみんなが到着した頃、そこにあったのはセリカの魂が入っていた空の器(ヘイローの壊れたセリカの姿)だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BADEND「救済、それは世界からの解放」




セリカちゃんは世界から解放されるという形で助けられました
これはハッピーエンドですね(?)
あの球体の正体は何なのでしょうね?
謎です。

ちゃんとした話、BADENDに続きはないのでこの先の展開は貴方の想像におまかせします。セリカという一つのピースが欠け落ちたアビドスの行方を、ね
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