「あれは一体……」
「少なくとも味方というわけではなさそうだね」
アビドス対策委員会は目の前の存在に困惑していた。
巨大な蛇型の機械、それから巻き起こされる砂嵐はカイザーの兵達を容易く飲み込んでいく。
一見こちらに味方してくれているようにも見えるが、近くにいる人物を無差別に攻撃しているようにも見える。
少なくとも、出現の際にカイザーもアビドスもまとめて吹き飛ばしたことからも後者側の可能性のほうが高いだろう。
カイザーも少しの間は蛇型の機械と交戦していたが、カイザー理事ご自慢の改造されたゴリアテは既に唯のガラクタと化し、兵士も既に半数以上が砂に飲まれている。
やがてカイザーは尻尾を巻いて逃げていく。
しかし、蛇型の機械は撤退していくカイザーを追うことはしない。
その顔は――アビドスへと向いた。
「……次は私達ってことだね」
「どうするのよ……私達だけで勝てるの?」
「勝てない相手だとしても、やるしかありません」
『そうですね……ホシノ先輩の居場所までもうあまり離れてない場所までは来ています。仮にここで撤退出来たとしても、恐らく身動きが取れないホシノ先輩が危険に晒されてしまう可能性もあります』
アヤネの言う通りだった。
目の前の敵は周りを無差別に攻撃する敵だ。
ホシノの場所まではあと少し、ここでこいつを野放しにすればホシノの命が危ういかもしれない。
ホシノを助けるまでは撤退は許されないのだ。
そして、ホシノを先に助けに行くこともリスクとなる。
何故なら、この敵を無視してホシノを助けに行くとなった場合に追いかけられてしまえば、ホシノの居場所にこの巨大な敵を連れて行くことになってしまう。
その巨大な見た目から逃げるのは恐らく難しい。
だからこそ、こいつをなんとかしなくてはいけない。
「……先生、シルを連れてホシノ先輩を助けに行って」
「シロコちゃん?」
だからこそ、シロコは一つの決断をした。
シルと先生をホシノ救出に向かわせ、残りで時間稼ぎをする、それが最善なのだと。
『……確かに、それが一番可能性が高いのかもしれません』
アヤネもシロコの判断に頷いた。
シロコは本能的に分かっていたのだ。
でも、ホシノが来れば少しでも可能性は上がる。
どちらにせよ、ホシノさえ助けられれば倒さずに逃げたとしてもアビドスの勝利となる。
だからこそ、敵わない相手を前に二手に分かれて片方は時間稼ぎ、片方は救出、それが目的達成の一番の可能性なのだ。
そんなシロコの考えをアヤネも汲み取った。
「でも……」
「安心して、シル。先生の指揮がなくても時間稼ぎくらいやってみせる」
「シロコちゃんの言う通りです。私達はこんなところで倒れるわけにはいきませんから」
「だから、ちゃっちゃとホシノ先輩を連れ戻してきて!」
既にシロコ、ノノミ、セリカ、アヤネは覚悟を決めた目をしていた。
シロコ以外の皆も既に理解している。
先生の指揮もホシノも無しでこいつ相手に戦うことが厳しいことなぞ。
それでも皆が無事に帰れる可能性を選ぶ覚悟は既に整っていた。
先生も、それが生徒の選んだことだからと引き受けるつもりでいる。
あとはシルだけだ。
シルは、今までアビドスに守られながら過ごしてきた。
確かに、ホシノやシロコとの訓練を重ね、実戦も重ねて戦う力はつけてきている。
それでも、シルにとって今までの環境は失敗しても仲間がカバーしてくれるという安心感の中での戦いばかり。
今回は、自分が先生を守りながら進まないといけない。
時間稼ぎする要因を減らせばそれだけ生存率が激減するのも理解している。
失敗すれば大好きな人を失うことになる。
―――失敗することが、怖い
瞬間、シルは頭を撫でられ、心に温もりが出来上がる。
「……先生?」
「皆の強さはシルならよく知ってるはずだよ。絶対、大丈夫」
「……うん!」
シルは先生の言葉、皆の顔を見て強く頷いた。
先生の言う通り、皆の強さをシルはよく知っている。
だからこそ、ここまでみんなで乗り越えてこられた。
だから、今日もきっと乗り越えられる。
みんなも、その為に自分達に託してくれたのだ。
だからシルも皆を信じた。
信じて、ホシノを助けに行く覚悟を決めた。
「みんな、頑張ってね!」
「シルちゃんも、頑張ってくださいね!」
お互いが、お互いの言葉に強く頷いた。
そして、互いが互いを信じ動き出す。
シルと先生はホシノを助けに、その他のアビドス対策委員会は時間稼ぎの為に。
「この先には、行かせない!」
「……どうして、こうなっちゃったんだろう」
暗い部屋の中で、ホシノは一人後悔していた。
両手足は縛られ、身動きは取れない。取ろうという気にもなれない。
もう、ホシノはアビドスを退学してしまったのだから。
「……また、大人に裏切られた」
思い浮かぶ黒服、カイザー理事の顔。
ホシノはまた失敗を犯してしまった。
借金の利子を引き上げられ、絶望的な状況。
黒服の提案に乗れば、状況は好転…………まではしなくとも少しはマシになると思っていた。
だからこそ、自分を犠牲にアビドスを守れる可能性を信じた。
その結果がどうだ?
ホシノがいなくなり、カイザー理事は強行手段としてアビドスを襲撃した。
その理由はホシノがいなくなったことで正式な生徒会の人間が完全にいなくなったから。
アビドスを守っていた生徒会が本当の意味でなくなってしまったからだ。
ホシノの選択は事態を好転させるどころか、悪化させてしまったのだ。
それらのことを、黒服から知らされた。
残念なことに、襲撃の様子は途中までしか見てなく、この場所に幽閉されてからはなにも知らされていない。
今頃、みんなどうしているだろうか?
先生の指揮であの状況は乗り越えられたのだろうか?
みんなまだ希望を持ってカイザーと戦ってくれているだろうか?
……それとも
最悪の光景がホシノの頭に浮かび上がる。
既に、その光景がホシノの頭から離れなくなっている。
ふと、かつての先輩と過ごした日々を思い出す。
かつて、自分とユメ先輩のたった二人でアビドスを守ろうと過ごしてきた日々を。
ユメ先輩と喧嘩して、それからユメ先輩が疾走して―――独りでユメ先輩を探し続け、『ヘイローの壊れたユメ先輩』を見つけた日のことを。
あれから、ホシノは独りでアビドスを守り続けた。
そんな中で、ノノミにシロコにアヤネにセリカ、そしてシルと後輩が増えていった。
いつだかホシノは心に、心の中で生きるユメ先輩に誓った。
もう誰も失わないと。
いつしかユメ先輩と話した、いつかホシノにも後輩が出来たら、皆を守れて頼りにされるような先輩に、皆と協力して共に進めるような先輩に、うへ〜って笑顔で皆と接することが出来るような先輩になって欲しいというユメ先輩の願い。
そんな先輩になりますと誓い、今のホシノになった。
でも、結局自分は誰も守れなかったんだ。
「……ごめん、みんな…………ごめんなさい、ユメ先輩」
その瞬間、部屋の扉が爆発とともに吹き飛び、部屋に光が指す。
「シルは爆弾も使えたんだね」
「えへん! シロコちゃんに教えてもらったんだよ!」
ホシノの目に映ったのは、もう目にすることのないと思っていた人物達だった。
「……先生……シルちゃん」
「迎えに来たよ、ホシノちゃん!」
先生も優しくこくりと頷いて返す。
シルはホシノを見て急いで拘束を解いていく。
「どうして……ここに……」
「僕が先生だから。そして、アビドスの皆がこれを選んだから、かな」
先生の言葉にホシノは少しだけホッとした。
まだ、アビドスは無事なんだと、その確認ができただけでも安心できる。
「黒服と話をつけてきた。ホシノの退学はまだ適応されていないよ」
「だから、一緒に帰ろ!」
あぁ、やはり。先生は……先生だけは、信頼してもいい大人なんだと、ホシノはそう思った。
拘束は解かれ、差し出されるシルの手をホシノは優しく取る。
「今、皆はホシノを助けるために戦ってくれてる」
「……そっか。うへ、それじゃ、帰る前に一仕事と行きますか〜」
「おー!」
ホシノはシルから自らのショットガンと盾を受け取る。
愛銃の整備は毎日欠かさずしている。
動作には問題はない。
すぐに準備を整え、立ち上がると通信が入って来た。
『先生、様子はどうですか?』
「こっちは無事ホシノを見つけたよ」
『よかったです……それなら、急いで戻ってください! シロコ先輩達と通信が取れないんです!』
「……わかった、急いで向かうよ」
「……っ…………シロコ先輩、ノノミ先輩無事!?」
舞い上がる砂、吹き荒れる砂塵、蛇型の機械から起こされる砂嵐に飲まれ視界の先は砂ばかり。
埋もれた身体を砂から出し、口の中に入った砂を吐き出す。
当たりどころが良かったのかいち早く起き上がったセリカはシロコとノノミを探す。
「ん、私は大丈夫」
「私も、まだ戦えます」
少しすると、セリカと同じようにシロコとノノミが砂の中から出てくる。
幸い、三人ともまだ戦える程度のダメージで収まっている。
「アヤネちゃん、シルちゃんと先生はまだなの?」
インカムに語りかけても返事はない。
返ってくるのはノイズ音だけ。
「アヤネちゃん!! アヤネちゃん!? まさか……壊れた!?」
「私も繋がりません……」
「ん、私も」
三人ともアヤネに通信で話しかけるも、どれも反応はなかった。
通信障害か、はたまた先程の砂嵐の衝撃で壊れてしまったのか。
どちらにせよ、アヤネとの通信は取れなくなってしまった。
あとどれだけ耐えればいいのか、わからなくなってしまった。
「い、いつになったら来るのよ……」
三人は、先生とシルがホシノを連れ帰ってくることを信じてここまでずっと時間稼ぎをしていた。
蛇型の機械に攻撃を重ね、先生とシルのもとに行かないように戦い続けた。
三人はここまで戦い続けてきたこともあり疲労は蓄積、そもそもがカイザーとの戦いをくぐり抜けてきた後でのこの戦いであるので万全とはいえない状態での開戦、ダメージも蓄積し戦えると言っても限界は近かった。
対して、蛇型の機械の方は傷はつけているものの、まだまだ余裕で戦う力は残っているようだった。
戦況は絶望的、それでももうすぐ先生達が合流してくれると信じて戦うしかない。
吹き荒れる砂塵で視界の悪い中、蛇型の機械から何かの発射音が聞こえてきた。
「きゃっ……!!」
「ノノミ先輩!!!」
次の瞬間、大きな爆発音と共にノノミが吹き飛ばされる。
蛇型の機械から発射される複数のミサイル、疲労とダメージにより動きが鈍くなっているノノミでは避けることが出来なかった。
倒れるノノミにセリカが駆け寄る。
そこを狙ったかのように蛇型の機械は口を大きく開け、その中に光が収束されていく。
この光を、この機械を知る者は『アツィルトの光』と呼んでいる。
その威力は改造されたゴリアテすらも塵にしてしまう程。
シルの銃もゴリアテを容易に破壊したが、この光は軽く見積もってもそれを超えるだろう。
そんな攻撃を受けてしまえばひとたまりもない。
しかし、そんな絶大な光を前に、満身創痍の状態で避けられるはずもなかった。
セリカとノノミは光に飲み込まれ、辺りに凄まじい衝撃波が襲いかかる。
少し時間が経ち、シロコは目覚める。
衝撃波によって吹き飛ばされただけのシロコは傷だらけであってもまだ無事だった。
「セリカは……ノノミは……?」
光に飲み込まれたセリカとノノミはどうなっただろうか?
まだ生きていると信じたい。
でも、砂塵により視界は悪くその確認は叶わない。
生きてたとしても、このままではどちらにせよ全滅だ。
「もっと……力があれば……」
もっと力があればこんなことにはならなかったのに。
もっと力があれば、この強大な敵が相手でも戦えたかもしれない。
もっと力があれば、みんなを守れたかもしれない。
もっと力があれば――
―――ホシノがこんな選択をしなくて済んだかもしれない
「私が……弱かったから……」
恐らく、先生とシル、ホシノはこちらに戻ってきているだろう。
でも、そうなればこいつはどうする?
ここで三人とも倒れて、ホシノ一人でシルと先生を守りきれるのか?
守りきれて、帰れたとして、もしシロコとセリカとノノミがいなくなっていたら。
そんなことは考えたくもない。
でも、そんな状況が目の前にある。
時間を稼ぐなんて大口を叩いた結果がこれだ。
こんなことになるなら、もっと別の手段を考えるべきだった。
先生なら、もっといい方法をきっと考えられた。
自分にもっと頭があれば、もっと確実な方向を考えられたかもしれない。
でも、全てはもう遅い。
「せめて……ホシノ先輩は……シルは……先生は……」
自分がこのまま死ぬのだとしても、残された人だけでも助けたい。
そう、強く願った。
たった一瞬だけだとしても。
この命が尽き果てようとも。
みんなを守る力が欲しい。
―――力が欲しい?―――
シロコの耳に声が届く。
幻聴かと思いながらも、閉じかけた瞳を開くと、紫色に輝く謎の球体が浮かんでいた。
今の声はこの球体から聞こえたのだろうか?
―――力が欲しい? シロコちゃん?―――
再び、声が聞こえた。
やはり、この球体から聞こえているようだった。
この球体の正体が何なのか、シロコにはわからない。
それでも、既にそんなことはシロコにとってどうでもよかった。
今はただ――
「力が……欲しい、あいつを……倒せる力を……アビドスを……守れる力を……」
シロコは願った。
アビドスを守るために、最強の力を。
―――わかった。じゃあ、力をあげるね―――
その瞬間、紫色の光は激しくなり、世界を埋めていった。
『もうすぐ目的の地点に到着します!』
「お願い、間に合って……!」
先生とホシノは砂漠を走りながらシロコ達の元へと向かっていた。
シルはここまでの戦いで疲れたのかホシノを助けた後に眠ってしまい、駆けつけたアヤネに預けている。
時刻は夜明け、既に日が昇り始めていい頃だが、空は不気味なほどに暗く曇り、淀んでいる。
まるで、不吉な予感が現実になっているのだと体現しているかのように。
「あれは……」
「シロコ……ちゃん……?」
目的の場所に辿り着くとそこには一人の人間が立ち尽くしていた。
いつもと違い灰色で、長い髪。
黒いドレスのような服を身に纏い、虚ろな目でこちらに目を向ける。
そして、その近くには巨大なガラクタが幾つも転がっていた。
シロコ達と戦っていた蛇型の機械だった物だ。
様子も雰囲気も違いすぎて本当に本物なのかと疑いたくなる程。
しかし、そのもふもふな狼耳に十字の髪留め、そして何よりホシノが渡してから肌身離さず持っていた水色のマフラー。
細々とした部分がその人物を『砂狼シロコ』なのだと証明していた。
そして、黒く歪み崩れかけたヘイロー。
唯一その形を認識できる先生は、崩れかけて変色していても、間違いなくそれはシロコのものだと認識した。
「……ホシノ先輩、先生」
シロコは、ホシノ達の無事な姿を見てその評定は少しだけ柔らかくなる。
しかし、その虚ろな目には未だに闇だけを映している。
「シロコちゃん……どうしたの、その姿……? セリカちゃんと、ノノミちゃんは……?」
「二人は……死んだよ」
「え……?」
その言葉を聞いてホシノは力なくその場にへたり込んだ。
冗談だと思いたかった。
でも、この激しい戦いの跡と、何処を探しても姿が見当たらない様子からして本当のことなのだろう。
「そん……な……」
結局、間に合わなかったのだ。
ホシノの選択は結局取り返しのつかない選択だったのだ。
先生とシルが助けに来てくれた時、まだやり直せるのだと、少しだけ光が見えた気がした。
でも、ホシノを助けに来て、戦って、その結果がこれだ。
ホシノを助けに来た皆を責めることなんてできない。
きっと、他の人がホシノと同じ選択をした時、ホシノは皆と同じように助けに行こうとするから。
それなら、責めるべきは何だ?
それは、自分勝手にアビドスから離れ、この結果を招き入れたホシノ自身に他ならないだろう。
シロコはホシノに近づき、自らのマフラーをホシノの首に巻いた。
「シロコ……ちゃん……?」
気温が低いわけではない。
寧ろ、これから暑くなっていく時期だろう。
それでも、これで冷え切った心は少しでも暖まるかもしれないと、シロコは考えたのだろう。
そしてそのままシロコは何処かへと歩みを進めていく。
「シロコちゃん……何処に行くの……? アビドスは……そっちじゃ……」
「全てを、壊しに行く」
「……えっ?」
冷え切った声で呟くシロコを前にホシノと先生は言葉を失っていた。
それは、シロコが絶対に言うはずのない言葉だったから。
でも、ホシノはすぐに立ち上がった。
先輩として、後輩が間違えようとしているのを見逃してはいけない。
これ以上、失うわけにはいかない。
「駄目だよ……シロコちゃん。そんなこと……」
「うん、戻っておいで」
シロコは、歩みを止めない。
「すぐに帰ってくる。カイザーを、アビドス以外の全てを壊したら、帰ってくるよ」
その言葉を聞いた瞬間、ホシノは駆け出した。
暴走しようとしている後輩を止めようと。
「くっ……!」
突きつけた銃は一瞬にして弾かれた。
シロコの銃によって。
続け様にシロコの銃撃がホシノを襲う。
ホシノは即時に盾を展開し、銃撃を防ぐ。しかし、その威力は普段のシロコとは比にならないほどに高い。
そのアサルトライフルから放たれる銃弾一発一発が盾を伝って腕を痺れさせてくる。
次の瞬間――
シロコはホシノの真横にまで移動していた。
そして、ホシノは軽々と蹴り飛ばされてしまった。
盾という壁もなく、直撃した蹴りは容易にホシノの身体を吹き飛ばし、何度も砂の上を転がり、やがて止まる。
決して、油断していたわけではない。
いや、相手が大切な後輩だからというのは僅かにでもあったのかもしれない。
それでも、それを抜きにしてもホシノはシロコの圧倒的な速度を追いきれなかったのだ。
「ごほっ……かは…………くっ……」
あまりの痛みにホシノは咳き込んでしまう。
「今の私は昔とは違う。ホシノ先輩じゃあ……いや、アビドスやゲヘナの風紀委員を全員まとめて相手したって私には勝てないよ」
先生は少し考え、切り札を取り出した。
大人のカード、自らの命を削り奇跡を呼び寄せる代物。
正直、先生は躊躇っていた。
この切り札を生徒相手に使いたくなかったのだ。
しかし、世界を滅ぼそうとする生徒を前に、止める手段はこれしかない。
今ここで切らなければ、全てが手遅れになってしまう。
だが、その希望も一瞬にして潰えることになる。
先生が大人のカードを起動する前にシロコの銃弾が大人のカードを破壊したのだ。
「……シロコ……」
「それは、いらない。私が全てを終わらせて、皆を守る。もちろん、先生のことも。だから、それはいらない」
先生にとっての切り札もなくなってしまった。
もう、打つ手はない。
シロコは振り返って再び歩みを進める。
彼女の歩みを止められる者はもういない。
先生も、ホシノも、シルも、誰一人として彼女を止められない。
「まっ……て……シロコ……ちゃ……」
やがて、シロコの姿は闇の中に消えていった。
シロコテラーEnd
この世界線でのシロコテラーは色彩に触れて反転した訳ではないので、原作シロコテラーみたいな救いはありません。
色彩の嚮導者が存在することもありませんし、先生がどんな選択を取ったとしても、この滅びを避けることはできません。
何故なら、この契約はシロコの『ビナーを倒せる力が欲しい』『アビドスを守りたい』という願いを叶えただけに過ぎませんから。