全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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とある企画により書くことになった作品です
サブなので投稿頻度は低いかもしれませんがご了承ください


アビドス編
1.目覚め


 少女は目覚める。

 目覚めると言っても見えるものは黒一色、ぼんやりと意識だけが起きた感じ。自らの居場所が暗闇の中なのか、それとも自分が目を閉じているだけなのかはわからない。

 ほんの少し意識が覚醒すると、少女はその身体に温もりを感じた。何か、温かい世界にぷかぷかと浮かんでいるような、そんな感覚。

 しかし、少女の意識が覚醒したのはそこまでだった。ぼんやりとし続ける意識の中で温もりの正体を把握することは不可能だった。

 仮に、このまま完全に目覚めたとしても、この温もりの正体をその視界に収めたとしても、幼い少女にはそれを言語化する能力は持ち合わせていなかった。『ぷかぷかしてふわふわしてぬくぬくなばしょ』と表現するのが限界だろう。

 

 

 

――……む………………りか……………とも…………すでに………な――

 

 

 

 ぼんやりとした意識が続く中、少女の耳に何かが聞こえてきた。

 これは、人の声だろうか。しかし、ぼんやりした意識のままではこれが人の声と認識できても何を喋っているのかまでは判別できない。そもそも、何を喋っているのかわかったところで、幼い少女の知能ではその言葉の意味を理解できるのかどうかも怪しい。

 

 

 

――…………まだなにか…………じゅつし……………やいている………………………めにみ…………そんざい……………………かくされ……………いうこと――

 

 

 

 少し声が大きくなったような感覚がする。少女の居場所に近づいているのだろうか。

 しかし、それを確認する手段も知識も少女は持ち合わせていなかった。

 

 

 

――………………かちは…………あいにくとその…………また…………ここに……………じゃの……ひいろ………………――

 

 

 

 少しずつ、声が遠のいていく。ここから離れていくのだろうか。

 それと同時にぼんやりとした意識にも限界が来る。

 

(ね……むい……)

 

 唐突に襲いかかる絶大な眠気に幼い少女が耐えられるはずもなく、そのまま意識を手放していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、少女には何も分からなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声の正体も、自分が置かれている状況も

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも自分が何者(だれ)なのかも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 次に少女が目を覚ますと、そこは薄暗い静寂な部屋の中。辺りを見渡せば部屋の様子が分かる。しかし、部屋にある一切の物を少女は知らない。幼い少女の頭では『しかくいものがある』『ピカピカしたいしがある』『むずかしそうなほんがある』くらいのことしか分からないかった。

 

 その次に自分のいる場所を見てみた。

 少女の眠っていた場所は丸い円盤の上。その円盤が何なのか、そもそも意味のないものなのか少女は当然知らない。

 いつしか、ぼんやりと意識を感じていた頃の『ぷかぷかしてふわふわしてぬくぬく』した感覚は嘘だったかのように消え去っていた。

 

 円盤から降りると、床石の冷たい感覚が足を通して伝わってくる。

 

「ここ……どこ……?」

 

 薄暗い部屋、静かな部屋、誰もいない部屋、どこかも分からない場所。幼い少女を不安にさせる要素は多くあった。

 

「きゅぅ……きゅぅ……Zzz」

「ひゅぃ!?」

 

 ほんの少し、部屋の中を歩くと今までの静寂を破るかのように何かの鳴き声が少女の耳に入ってきた。唐突に聞こえた声に少女は驚きを隠せない。

 その鳴き声は人のものではない。かといって、犬や猫等の少女の知る限りの動物の鳴き声でもない。

 少女は引き寄せられるようにその鳴き声の聞こえる方角へと向かう。

 

「どあ……?」

 

 鳴き声の聞こえる方角に近づくと、扉があった。少女は一切躊躇うことなく扉を開けた。

 扉を開けた先にはまたもや『むずかしそうなほん』がたくさん。壁に『ちいさい紙』が張り付けてあったり、『キラキラしたもの』がたくさんあったり、床は『ちゃぷちゃぷ』していたり。そんな部屋に足を踏み入れると、『ちゃぷちゃぷ』が足に触れ、心地の良い冷たさが足に伝わってくる。

 入った部屋を進んでいくにつれて鳴き声も少しずつはっきり聞こえるようになってきた。

 見る限り景色のほとんど変わらない部屋を進んでいくと、やがて行き止まりまで辿り着いた。

 行き止まりには、『しかくいはこ』の『ふかふかなやつ』、その上に『まるいなにか』があった。

 

「ねんね……?」

 

 鳴き声はその『まるいなにか』から聞こえてくる。

 少女は、壁に手をついて少しずつ『まるいなにか』に近づいていく。その瞬間――

 

……カチリ

「ひゃっ……!」

 

 何か、スイッチを押したような、そんな音が聞こえてくると同時に少女の視界を眩い光で埋め尽くした。

 その目が光に慣れてくると、その存在を示すかのように外の光が『まるいなにか』を照らしていた。

 『まるいなにか』は規則正しく寝息を立てているようにも見える。その様子を少女は幼いなりの表現で表した。

 『まるいなにか』は言葉通りまんまるな姿をしている。紫色で、よく見れば目や口のようなものも見える。ほっぺらしき部位には黄色い星の模様がついている。

 少女の知らない動物。幼い少女にはその動物が得体の知れない生き物だなんて思考は存在しない。ただただ、その存在に惹かれていた。

 

「かわいい……」

 

 少女の手が少しずつ『まるいなにか』に伸びていく。

 そして――

 

「ひゃっ!?!?」

 

 少女の手が『まるいなにか』に触れた瞬間、大量の何かが頭の中に流れてきた。しかしそれは、痛いとか、怖いとか、そんな不快に感じるようなものではない。

 今までわからなかったものがわかるようになった感覚。しかし、自分が何者なのか、どうしてここにいるのかはわからないまま。目が覚める前のことは思い出せないし、自分の名前すらもわからない。

 自分に起こったことを表現するとすれば『頭が良くなったような気がする』と表現する他ないだろう。

 

「この子はいったい……?」

 

 少女の頭の中には疑問ばかりが浮かぶ。

 自らのわからなかったものが一瞬にしてわかるようになった不思議な感覚。その事象が引き起こったのがこの不思議な生物に触れた瞬間。たまたまと考えるにはあまりにもタイミングが良すぎた。

 

ジャラ……

 

 ふと、首元から鎖の音が聞こえてきた。

 少女はその視線を自らの首元に向ける。すると、いつの間にかその首には鎖に繋がれた黒い箱が下げられていた。黒い箱は、まるで黒い宝石のように太陽の光を反射し、輝いていた。

 先程までこんなものを自分は持っていたのだろうか? この箱の中身はなんだろうか?

 しかし、一瞬頭の中を埋め尽くした疑問は瞬時に消え去っていた。

 その箱を見た瞬間、その本能が『この箱は自分にとって宝物だ』と、『だから、肌見放さず持っていなければいけない』と、少女に語りかけたからだ。

 箱の中身は未だにわからないまま。それでも、これが自分にとって宝物だったことを思い出せたのなら、それでよかった。

 少女が黒い箱を眺めていると、その視界の端に何かが見えた。

 不思議な生物が眠っている箱の下、水溜りに反射して文字が見えた。

 

「si…………p……le……しぷる……? それが……君の名前?」

 

 少女は眠っている不思議な生物を優しく撫でながらそう語りかけてみた。

 取れかけてはいるが、不思議な生物の眠っている箱につけられていたプレートに書いてある文字、それがこの不思議な生物の名前なのではないかと少女は考えた。

 少女が不思議な生物を優しく撫でていると、不思議な生物はその小さな目を開き「きゅっ♪」と、嬉しそうな返事を返した。

 不思議な生物が何を言っているのか、少女には理解できないが、その嬉しそうな反応を少女は肯定と捉えた。

 

「じゃあ君はシプルちゃんだ♪」

「きゅっ♪ きゅっ♪」

 

 少女は笑顔を向けながらそう語りかけると、不思議な生物――シプルは、嬉しそうに飛び跳ねて、少女の肩に乗る。

 その行動に少女は少し驚いたものの、頬を擦り寄せてくるシプルに、擽ったそうに笑みが溢れた。そして、その甘えてくる姿に愛らしさをも感じていた。

 

「きゅっ!」

「シプルちゃん?」

 

 突如、シプルは少女の肩を降り、少女の来た道へと進んでいく――まるで「ついてこい」と言わんばかりに。

 

 

 

 

 

ぷちゃっ ぷちゃっ

 

 シプルは、まんまるな身体で足もないが故にその小さな身体でぴょんぴょんと飛び跳ねながら道を進む。その小さな身体が飛び跳ねるたびに、心地の良い音が静寂な部屋に響き渡る。

 シプルについていくとやがて元々少女がいた部屋にまで戻ってきた。そのまま歩みを止めないシプルの後をついていくと、やがて一つの扉の前に辿り着いた。

 

「この扉……あったっけ?」

 

 少女はここに来るまでの記憶を遡る。

 少女が目覚めた時、ここにこんな扉があっただろうか? しかし、その疑問が解決することはなかった。

 そもそも、何も分からなかった目覚めた時の少女と知識を得た今の少女では少女自身の状態が違う。

 シプルと出会う前のことを思い出そうとしても、その時自分がどんな行動を取ったのかは思い出せるのに、何を見たのか、何を感じたのかはぼんやりと霞がかかったかのようにはっきりとしない。

 きっと、最初からあったのだ。この扉は。それを自分が見落としただけ、忘れていただけ、少女はそう自分を納得させることにした。

 

「この先に行けばいいの?」

「きゅっ!!」

 

 少女の問いかけにシプルは頷くように元気に答える。そしてシプルは再び少女の肩の上に登った。

 

「うん、行こう」

 

 少女はゆっくりと扉を開け先に進んだ。

 




先に言っておきます、この作品エグい描写普通にやります。
エ駄死!!! みたいなのは苦手なのでかけないんですけど、タグにあるようにマルチエンディングを採用しているのでバッドエンドもたくさん書いていく予定なのです。
その時は一応前書きの時に警告文は入れておきますね。バッドエンドってことは平気で生徒がころころされることもありますから。
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