全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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コノツミハ、ワタシガセオウ


2.私の名前は

ぺたり、ぺたりと少女は薄暗い道を歩いていく。

 扉の先は同じような石の道。しかし、道を進むにつれてその道の形は綺麗な四角から徐々に荒くなっていく。砂も増えてきた。例えるなら、遺跡の道が徐々に洞窟へと変わっていくような感じ。

 足を通して砂のザラザラとした感触が伝わってくる。それは心地よくもあれば擽ったくも感じられる。

 

 暫く薄暗い道を歩いていると次第に明かりが見えてくる。明かりに近づいていくにつれて少女の視界は眩い光に埋め尽くされていった。

 眩しい世界に目が慣れてくると、少女の視界に広がったのは一面空色と黄色の世界。

 透き通るような空、白い雲、輝く太陽、太陽の光を映すかのようにキラキラと光る一面の砂漠。

 

「外に、出れたんだ……! すごく綺麗だね、シプルちゃん♪」

「きゅ!」

 

 砂漠以外は生きている者なら誰しもが当たり前に見るであろう世界、そんな世界ですら少女にとっては新鮮な世界だった。それは記憶を失っているが故なのか。

 少女はその透き通る世界に一歩、足を踏み入れた。その瞬間――

 

 

 

――ドクンッ

 

 

 

「っ!? え、なに……?」

 

 不思議な感覚が少女の胸に襲いかかった。心臓が大きく鼓動を鳴らすような感覚。しかし、ほんの一瞬のことだったがために少女は少し首を傾げながらも気のせいかとこの感覚について気にしないことにした。

 そして、また一歩外へ足を踏み出す。

 

 

 

 

―――コノサキハ、アブナイヨ―――

 

 

 

 

 

 

 


 

A「外に出る」

 

B「言葉に従う」

 


 

A.

 

 その言葉は、外の世界に魅入られた少女の耳には届かなかった。

 先程の不思議な感覚すらも忘れてしまうほど、外の世界を、この透き通る世界をもっと見たいという感情が少女の中を埋め尽くしていた。

 

「いこう、シプルちゃん!」

「きゅっ!!!」

 

 少女の呼びかけに元気よくシプルは答えた。そして、二人はそのまま洞窟を後に外の世界を歩き進めていった。

 少女に向けたであろう言葉は虚空へと消え、それ以降、その言葉が少女に送られることはなかった。

 

 

 

 一歩、一歩と砂漠の道を少女とその相棒(シプル)は歩き進めていた。さらさらとした砂の感触が少女の足を通して伝わる。

 洞窟を出てから役一時間、変わらない砂漠の景色、それでも外の世界が新鮮だった彼女にとって同じ景色だろうと楽しめるものだった。

 しかし、問題は別にあった。

 

「お腹すいたー! 喉渇いたー!」

「きゅー! きゅー!」

 

 目覚めてから数時間、何も口にしていない少女は空腹と喉の渇きを感じていた。そしてその感情は謎の場所で眠っていた少女が、記憶のない少女がれっきとした一人の人間であることを証明する証でもあった。

 少女はまだ叫ぶ気力がある程には元気があるようだ。それでも、それがどこまで続くかは時間の問題。どれだけ歩いてもオアシスは見つからず、その景色が変わることもない。

 シプルと出会う前の幼さがまだ残っているのか、それとも元々の彼女の性格故なのか、その状況にいながらも少女は危機感を持っていなかった。

 それよりも、もっと外の世界を、透き通る世界を見たいという気持ちのほうが強かった。

 それでも、人として抗うことの出来ない食欲が少女から消えることはなかった。

 

 

 

「あっ!!!」

 

 外の世界に出てきて二時間が経とうとしていた頃、とあるものが少女の目に入る。

 

「町だよ、シプルちゃん!」

「きゅっ!」

 

 そう、少女の目に入ったのは一つの町。少女にとっては洞窟を出てから始めての砂漠以外の景色だった。

 

「行ってみよう!」

「きゅー!」

 

 空腹で少しずつ薄れてきていた少女の元気もすっかりと復活していた。

 あの町には何があるんだろう? 

 あの町でどんな出会いがあるのだろう?

 そんな気持ちが少女の心を高ぶらせていた。

 

「よーし、シプルちゃん。どっちが先に辿り着けるか勝負だよ!」

「きゅ!!!」

 

 少女からの挑戦状に望むところだと返すかのようにシプルは少女の肩から元気よく飛び降りる。

 そして少女は砂に一本の線を描き、スタートラインを作る。

 

「よーい、ドン! ……ってあわわ!!?」

「きゅっ!?」

 

 少女の合図に合わせてスタート、したその直後、見事にスタートダッシュを失敗した少女は砂に足を取られ転んでしまった。シプルも驚きながら心配そうに少女に駆け寄る。

 

「ぷはっ!! っはは、あはは♪」

 

 少女は転んだ体勢からそのまま転がり仰向けになって駆け寄ってきたシプルをその胸に抱き寄せ、大丈夫と伝えるように優しく撫でながら笑みをこぼして笑う。

 転んでしまったことによりかけっこでの対決は一瞬にして幕を閉じてしまったが、それよりも少女にとって、全身で砂の感触を感じながら友達とはしゃぐこの一時もまた、楽しいものであった。

 彼女の服は当然砂で汚れてしまっている。元々着ていたものが白のワンピースだったのでその汚れは尚更目立つだろう。

 しかし、少女はそんなことも気に留めない。今はこの楽しさを友達と分かち合うことで心が満たされていっている。

 

「一緒にゆっくり行こっか!」

「きゅ!」

 

 少女の提案にシプルは元気よく頷いた。

 少女は立ち上がり、シプルを頭の上に乗せてあげる。そして、町に向かって歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、誰もいないじゃん!!」

 

 少女は町に到着しては早速と探索を開始した。しかし、どこを探しても人は見つからない、食べ物や飲み物もない。あるのは、砂に埋もれ廃墟に成り果てた建物ばかりだった。

 

「うーん、ここには誰もいないのかな?」

 

 どの建物に入っても人の気配はない。昔住んでたのであろう形跡はあっても、現在進行系で住んでいると思えるような場所はない。

 廃墟を探索している中、ふと少女はあることに気づいた。

 

「ねぇ、シプルちゃん」

「きゅきゅ?」

「もしかしたら、人に会うかもしれないんだよね?」

 

 少女は、シプルを見つめながらそう問いかける。それに対してシプルは一頭身の身体を精一杯傾けて首を傾げているような反応で返す。

 少女はシプルを自分の掌に乗せ、対面するように持ち上げ、語りかける――

 

「――私にも、名前がいるよね?」

 

 少女には、名前がない。

 いや、名前がないというと少し語弊があるだろう。ずっと、思い出せないでいるのだ。

 目覚めてからここに来るまで、自らの好奇心に身を任せてきた。その間、自分の名前も、自分の過去も、欠片すら何一つ思い出すことはなかった。

 シプルには名前があって、自分にはない。そこに悲しみの感情は持たなかったが、人と関わるときに自分を呼ぶための名前がないと困るのではないか? 少女はそう考えた。

 

「名前、どうしよう……」

 

 少女は考える。自分のこれから名乗る名を。

 

 数分……数十分が経った。

 しかし、いい名前が思いつかず少女は頭を悩ませていた。

 

「シプルちゃん、私の名前、どんなのがいいかなぁ」

 

 廃墟の壁を背に座ってひたすらに考え続けるも、名付けなんてしたことのない少女にとって納得のいく名前を考えることは難しかった。

 

「うーん、うーん……」

「きゅっ♪ きゅっ♪」

 

 さらに数十分経つ。

 少女はひたすら考えるのにも少し疲れてきたのか、シプルを撫でたりつついたりして遊んでいた。

 

「いい名前ってなかなか思いつかないね」

 

 少女は腕の中にいるシプルを眺めながら語りかける。

 

「シプルちゃんはいい名前だよね。なんというか、シプルちゃんって感じがする」

 

 そんな感覚的な話ではあるが、少女にとってはシプルという名前は少女の友達にぴったりの名前だと、そう感じていた。

 

「ぁ……シプル……シプル…………か」

 

 ふと、思いついたかのように少女は自身の友達の名前を何度も声に出す。

 

「シプル…………し……る…………シル、なんてどう……かな?」

 

 それは、大好きな少女の友達の名前からとった名前。少女にとって、今まで考えたどの名前よりもしっくりと来た名前。

 

「きゅーん!!」

 

 シプルもぴょんぴょんと少女の周りを跳ね回る。

 シプルの言葉は相変わらず少女にはわからない。しかし、その様子を見た少女はシプルが何を伝えたいのかなんとなく理解した。

 

いい名前だね――と。

 

 

 

 自分の名前を決めた少女はご機嫌な様子で探索を再開していた。

 自分に名前が出来たことももちろんだが、少女にとっては何より大好きな友達に褒められたこと、大好きな友達との繋がりを感じられること、これら全てが少女にとって嬉しいことだった。

 相変わらず探索しても廃墟にはなにもなく、人の気配もない。それでも少女は探索を楽しんでいた。

 

――だって、大好きな友達と一緒なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、辺りはだんだんと暗くなってきていた。夜が近づいている合図だ。

 入ってきた場所からかなり歩いてきたようにも感じられる。

 

「――い……おい……!」

 

 ここまでの探索で人と出会うことは出来なかったが、運良く食料と水は僅かだが入手することができた。

 ただ、このまま探索を続けるのは危ない、少女はそう考えていた。誰かに教えてもらったものか、それとも自分で学んだのか、夜の外は危険だと少女は認識していた。

 

「……い、聞こえてねぇのか!!! お前だよ!! 黒髪のチビ!!!」

「え?」

 

 ふと誰かの声が聞こえて少女は振り返る。

 

「やっと聞こえたか……ってそれはあたしらの……てめぇ、姑息な真似してくれるじゃねぇか!!」

「チビだからって容赦しないからな?」

 

 振り返った少女の視線の先にはヘルメットを被った二人の人間。

 何やら怒っている様子だったが、少女には初めて自分以外の人間と出会えた喜びの方が強く自らの身に危険が近づいていることに気づいていなかった。

 

「やっと人に会えた!! えへへ、はじめまして!! 私は……ってきゃ!?」

 

 勢い良く目の前の人間に近づいて挨拶をするも少女はすぐに突き飛ばされ尻もちをついてしまった。

 

「近づいてくんじゃねぇよ!! お前今の状況分かってねぇのか!?」

「無駄だよ。こういうのは痛い目見ないと分かんないからな」

 

 幸い少女に怪我はないようだ。しかし、状況は良くなかった。

 少女を突き飛ばした二人の手にあるのは銃、それが少女に向けられている。自らに向けられているものが何なのか、流石に少女も理解している。

 そのとき、初めて少女は自らに危険が近づいてきていることを自覚した。

 しかし、少女にはこの状況をどうすればいいのかわからなかった。

 銃は持っていない、戦い方もわからない、となればあと残された選択肢は逃げること。しかし、少女は突き飛ばされ尻もちをついてしまった、すぐ目の前には自らに銃を向ける二人の人間、逃げ始めるには遅かった。

 

「ぐぁっ!!」

「なんだ……うぎゃ!!」

 

 どうすれば……と頭を悩ませる少女の耳に大きな銃声が二発と誰かのうめき声が響いてきた。

 

「君、大丈夫〜?」

 

 状況についていけずきょとんとしている少女に誰かが話しかける。

 声のした方に目を向けると、そこには大きな盾とショットガンを持った桃色の長い髪の人が少女に向かって手を差し伸べていた。

 少女は迷うことなくその手を掴んで起き上がった。

 

「うへ、凄い汚れちゃってるねぇ〜。君、どこからきたの〜? 家族は〜?」

「うーん、わかんない! 何も覚えてないから!」

「何も覚えてない……記憶がないってこと? んー……、これ、もしかしてシロコちゃんと同じパターン……? 名前は言える?」

「名前? 私の名前はね、シルって言うんだよ! この子はシプルちゃん!」

 

 頬をかきながら困った様子の桃色の髪の人からの質問に少女―――シルは元気よく答えた。

 

「シルちゃんとシプルちゃんっていうんだね、私は小鳥遊ホシノ。もう遅くなるし、よかったら今日はうちに泊まっていかない? ここは危ないからさ〜」

「いいの? いく!!」

「きゅ!!」

「よ〜し、じゃあれっつご〜♪」

「ご〜!」

「きゅー!」

 

 シルはホシノとの出会いに喜びながらその後をついていった。




B.

 その言葉が、少女の歩みを止めた。

「外は、危ないの?」





―――ソトハアブナイ、ダカラモドリナサイ―――





 一瞬、幻聴かとも思った少女だったが、一度なら幻聴で済ませることはできても、二度、はっきりと少女の耳にその声が届いている。最早これが幻聴とは言えない。しかし、その声ははっきりと聞こえているはずなのにどこかぼやけているようにも感じられる。
 言葉ははっきりとわかるのに、その声が男のものなのか女のものなのか、人間でないものなのかすらも判別できない。
 言葉の意味は理解できても、その意図が理解できない。どこから話しかけられているのかもわからない。どこから見られているのかもわからない。
 再び、理解できないことへの不安が、恐怖が少女に襲いかかる。
 ただ一つ、少女が理解したことはこの声に従わなければ取り返しのつかないことになってしまう。ただそれだけ。

「シプルちゃん、どうしよう……」

 どうして外に出たらいけないのか、外に出たら何が起こるのか、そもそもこの声を信じてもいいのか、その全てが少女には分からなかった。
 しかし、今の少女にそれらを考えている余裕はない。
 ただただ、その声に従わなくてはいけない、その思想がどんどんと頭の中を埋め尽くしていく。

「きゅっ!!!」
「シプルちゃん……?」

 シプルが少女の頭の上に登り少女に呼びかける。
 少女にシプルの言葉は分からない。それでも、その呼びかけは少女の耳に、心に大きく響いた。

「きゅ!きゅきゅきゅー、きゅ!!」
「私たち、ずっと一緒?」
「きゅ!」

 確かに少女はシプルの言葉は理解できない。しかし、この一瞬だけは何故かシプルの伝えたいことが少女には理解できたような気がする。



 何があっても、どんな選択をしたとしてもずっと一緒だ……と。



 言葉が分かるわけではない。それでも、シプルが少女のためになにかを頑張って伝えようとしてくれていること、擦り寄ってくれるその行動、その一つ一つから少女のことを友達として大切に思っていることが伝わってくる。
 そして少女も、シプルが何を話しているのか分からなくとも、何を伝えたいのか何となく分かるようになっていた。
 何故分かるようになったのか、言葉にはできない。それを明確な理由としてどうやって表せばいいのかはわからない。
 一つ、確かなものと言えば、少女が目覚め、シプルと出会ってからここまでの数時間、既に心が通じ合える程の友情がそこに芽生えていたことは確かなことだった。
 そして、シプルからのその言葉は孤独だった少女にとっては喜びでしかなかった。

「誰だかわからないけど、ありがとう。きっと、私のために言ってくれてるんだよね? わかった、言う事聞くよ。そうすれば、シプルちゃんともずっと一緒にいられるよね?」

 今の少女にとって外に出ることよりも、大好きな友達と一緒にいることのほうが大切だった。そんな状況で外に出るか、友達を選ぶか、その二つを天秤にかけてどちらを取るかと言われれば考えるまでもないだろう。
 少女はどこにいるのかもわからない謎の声の主に対して短く感謝の言葉を述べ、暗闇の洞窟(自分の居場所)へと姿を消していった。

 そして、少女はシプルと共にその洞窟の中で一生を過ごすこととなった。
 少女の名前も、真実も、その存在すらも世に出ることはなく、闇の中へ消えていった。






















 とある日、少女の消えた洞窟の中に一発の銃声が大きく鳴り響いた。その音も、人のいない場所にある洞窟の中では虚空の中へ消えていくのみだった。
 


 





























BADEND 「私の名前は、記憶と共に闇の中」






















この作品のルールはわかりましたか?
これはチュートリアルのようなものです
運命を分ける選択をするとき、その選択をするのは読者である貴方です
今回は本編と後書きでルートを分けましたが、今後は同じような選択肢が現れた場合、ルート別の話を作ります。つまり、貴方の選んだ選択によって運命が変わります。
正解のルートなのか、別のルートなのか、はたまた破局へ向かっていくのか。
選ばなかった選択は飛ばして貰って構いません。
もちろんもう片方の選択を見るのもありでしょう。
どんな読み方をするかはあなた次第です
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