全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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一ヶ月も更新してなかった……だと……


3.ホシノの家で

「ふーん、洞窟の中で……ねぇ? それでここまで来たんだ? いやぁ、大変だったねぇ〜」

 

 ゆるっとした雰囲気で、それでも警戒は崩さないようにホシノはシルに語りかける。

 

 場所はホシノの家。

 とりあえずは保護という形で家に泊めることとなったが、シルと名乗ったこの少女について知る必要がある。

 アビドスにとって害となるか否か、もし害となるような存在であるならば……ここまでの道中シルと話した限りではその心配は杞憂なものなのかもしれない。

 この少女に対する現在の印象は純粋な元気な子。天然なところもあるかな、ヘルメット団に襲われてた時の感じを見れば。

 少女が目覚めたという洞窟について、アビドスにそんな洞窟があるなんて話は聞いたことがない。

 確かに、アビドスにはそういう洞窟らしきものだったり廃墟となった遺跡なんかは存在する。

 自分も昔はアビドスの借金返済のために先輩とそういったところに宝探しに行ったこともある。でも、それらの場所のどこかにこんな少女が眠っていたなんて、それを匂わせるような場所ですら記憶にない。

 シルの見た目は銀髪の混じった長い黒髪で紫色の瞳、頭部の左側には星形のピンが付いていて、顔立ちは幼く身長も自分より低く、ぱっと見で140もないくらいではないだろうか?

 そんな幼い彼女が嘘をつけるようにも見えないし、彼女のことをまだそこまで知らないとはいえ嘘がつけるような性格だとも考えづらい。

 寧ろ眩しいくらいに純粋で天然で、セリカレベルに騙されやすそうで放っておけないオーラが出ている。

 そして、彼女は洞窟で目覚めるより前の記憶はないらしい。

 

 ――思い返されるのは大切なアビドスの仲間、砂狼シロコとの出会い。

 アビドス自治区の中でボロい服を身に纏い、行く宛もない彼女を拾った日のこと。彼女も、自分の名前以外のことは覚えていなかった。

 シロコと何かしらの関係があるのか、はたまた全くの無関係なのか。

 手掛かりとなりそうなものと言えば彼女の首に下げられている黒く四角い物。それは黒色でありながら宝石のように惹き込まれるような輝きを放ちながらも、その輝きはどこか怪しくもある。それがホシノの警戒心を高める要因の一つともなっていた。

 そして、もう一つの手掛かりは―――

 

「きゅ?」

「お〜よしよし、かわいいねぇ〜」

「きゅ〜♪」

「でしょでしょ〜? シプルちゃんは私の大切なお友達なんだ〜♪」

 

 スライムのようなプルプルとした、でも餅のようなモチモチとした弾力のあるその生物の肌に触れ、くりくりっとしたその目を見つめる。

 シプルと呼ばれた謎の生物。紫色の小さくてまんまるとしたその姿は見ていて不思議と癒やされる。

 聞く話によればこの子はシルが目覚めたときからずっと一緒にいるらしい。

 こうやって触れ合ってる感じは唯の小動物、人懐っこい子犬と触れ合ってるような感覚すらある。

 引っかかっているのはこの動物の存在を知らないということ。

 何度記憶を辿ってもこんな見た目の動物、見たことも聞いたこともない。と言ってもアビドスは基本砂漠地帯、動物自体多くないので基本的には本で読んだ知識がほとんど、魚ならともかく動物にそこまで博識というわけでもないのでもしかすればアビドスの外には他にもいるのかもしれないと、ホシノは一人考えていた。

 

「でも……」

 

 シルとシプルの仲睦まじい姿を見ながらホシノは考える。

 例えこの子達に隠された秘密が何であろうと、このまま放ってはおけない。先程のヘルメット団に対する反応から見てこのまま一人で行かせたら大変なことが起こってしまう可能性が高いのは想像に難くない。もしかしたら悪い大人に騙されてかつての先輩のように……

 そこまで考えてホシノは慌てて首を振った。最悪の展開を想像しようとしてしまったと、心を落ち着かせようと大きく息を吐いた。

 アビドスの後輩達がそうなってしまわないようにと守ることを選んだのだから、自分のやるべきことは決まっている。

 彼女が害のない人間であるならば、アビドスに迎え入れて……

 

「…ちゃん……ホシノちゃん?」

「え……?」

 

 自らの名前を呼ばれ慌てて顔を上げるとシルとシプルが心配そうな顔でこちらを見つめていた。

 

「大丈夫……?」

「うへ、大丈夫大丈夫〜♪ ちょ〜っと考え事してただけだよ〜♪」

「そっか♪」

 

 シルはほっとした表情で胸に手を当てる。

 うん、きっとこの子なら大丈夫。明日、アビドスに連れて行こう。

 そう心の中で決めて立ち上がる。

 

「シルちゃん、お腹空いてない? ご飯にしよっか〜」

「うん!」

 

 ホシノはいつものゆるっとした表情と声に戻しシルに話しかける。そして、シルもそれに元気よく答えた。

 

 数分後、机の上には大きなお皿に盛り付けられたカレーが並べられる。

 カレーといってもホシノは料理ができるわけでもないのでレトルトなのだが、シルは気にすることなく目を輝かせながら手を合わせていただきます、と言いスプーンを手にとってカレーを一口。

 

「おいし〜♪」

 

 シルは温かいカレーを味わいながら輝かしい笑顔を見せた。それを見たホシノも頬を綻ばせる。

 シルの隣ではシプルが同じように美味しそうな反応を示しながらカレーを食べていた。

 初めて見る生き物なのもあってシプルが何を食べられるのか全くと言っていいほどに分からなかったが、意外となんでも食べられるようだ。

 

「シルちゃん、よかったら明日は一緒にアビドス高校に行かない〜?」

「あびどす?」

 

 唐突なホシノの提案にシルは首を傾げる。

 

「そうそう、アビドス。私達の学校だよ〜」

「学校! うん、いく!」

「じゃ、決まりだね〜」

 

 学校という言葉に目を輝かせてホシノについていくことを選んだシル。その表情はまるで初めて学校というものに行く子供のようにすら見えてしまう。その反応が記憶を失っているが故のものなのか、それとも本当に学校に行ったことがないからなのか、その真実は誰にもわからない。

 ただ一つ、ホシノにわかることはこの天然で元気いっぱいで危なっかしくて、でも一緒にいるとどこか暖かくなれるこの少女のことを守ってあげないといけないということ。

 どうして会ったばかりの子にここまでの感情を持っているのか、ホシノ自身にもわからない。でも、わからなくてもいい。

 ホシノはその視線を壁に立て掛けられた盾に向ける。

 自分がこの子を守らないといけないと、手離してはいけないと感じたのだから、その直感を信じる。そう、心の中で決意を固めた。

 

「さて、今日はもう遅いし、寝よっか〜」

「うん!」

 

 ホシノは自分のベッドをシルに使うように言い、自らはソファの上に。

 こうして二人は一夜を明かした。




執筆してるのが仕事中だけという悲しき事件
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