「そういえばシルちゃんってさ、武器とか持ってなかったよね〜?」
「武器?」
唐突なホシノからの言葉にシルは首を傾げる。
ホシノはいつものゆるりとした雰囲気から僅かに真剣な表情に変えて話を続ける。
「この前みたいなわる〜い人達にまた襲われるかもしれないし、自分の身を守れる物くらい持っとかなきゃね〜」
「え、ホシノちゃん? どこにいくの?」
「まぁまぁ、とりあえず付いてきてね〜♪」
ホシノはシルの手を優しく握り、軽く引っ張るようにとある場所まで連れて行った。
「ここは?」
「射撃場だよ〜」
場所は変わって射撃場。
少し離れたところには試し撃ちするための的が並んでおり、シルの目の前の机にはハンドガンにライフルにショットガンと様々な銃がずらりと並べられていた。
これらの銃は元々は元アビドス生徒のものであったり、バイトの報酬で貰ったものだったり、ヘルメット団から回収したものだったり、その手に入れた経緯は様々。
大体の武器はアビドスの借金を返済するために売っ払ってしまっているのだが、もしものときの予備用であったり、シロコの件もあっていくらかは残すようにしている。
ちなみに借金の話はシルには既にしてあるのだが、その話を聞いた本人は「私も頑張るぞ〜!」と嫌がるどころか手伝う気満々だった。
「ちなみにシルちゃんって銃とか撃ったことある〜?」
「ない!」
「うへ……そっかぁ……」
銃を持ち歩くことが常識と化しているキヴォトスにおいて銃を持たない人間は極稀である。ましてや一度も銃を撃ったことない人間はさらに稀だろう。
銃弾が日常的に飛び交うキヴォトスにおいて武器を持たないことがどれほど危険なことか、考えるまでもない。
「ん〜まぁ、とりあえず撃ってみよっか」
「うん、わかった!」
ホシノの言葉にシルは元気に応え、手軽そうなハンドガンを手にとっては的の前に立つ。
人体の身体を模した的は実戦での銃撃において狙った場所に撃つためのもの。
シルの位置からの距離はさほど離れていない。ただ的に当てるだけなら普段銃をあまり使わない人間でも充分に可能だろう。
シルは目の前の的を見つめながら銃を構え狙いを定める。
そこでホシノは気づく。銃の持ち方が全然なっていないことに。そしてなにより、[銃の安全装置を解除していない]。
そんな状態で撃ったところで――
「あ、あれ?」
当然弾は出てこない。
安全装置は銃の暴発を防ぐためのもの。それが解除されていないのだから当然の結果である。
「あっ、そうか。安全装置!」
シルははっとしたかのように安全装置を解除して再び構えて撃つ。
今度はしっかりと弾丸が発射されるも、的には命中せず。
何発か撃ってみるが命中率は高くない。
それを見たホシノはシルが本当に銃を撃ったことがないのだと確信した。
安全装置の存在を知っているなら銃の知識は多少あるようには感じられる。それでも、銃の持ち方がぎこちなかったり、安全装置を外し忘れたり、その言葉を裏付ける要素が次々と出てくる。
そもそも、安全装置を外し忘れるなんてこと自体普通に考えてあり得ないことなのだ。
医療に携わる者だったり、基本的に戦場に出ない連邦生徒会だったり、銃を持っていても使う機会がほとんどない人間は一定数いる。そんな人間であってもそんなミスは犯さない。
そんなやらかしをするような人間なんて相当な間抜けか全くと言っていい程銃に触れていない人間くらいのものだ。
その後スナイパーライフル、マシンガン、アサルトライフルと試してみるが命中率は低く、持ち方もそれっぽくはあるがどれもぎこちないものだった。それならと命中率をあまり気にしなくてもいいショットガンも試してみるも、反動に負けてしまうのでこれもあまり良くない。
「うーん……」
ホシノは悩む。
現状武器の適正はどれも良いとは言えない。それも全て初めて触る武器だからというのも一つの要因かもしれないが、少なくとも反動の大きい武器はやめたほうがいいだろう。
武器が決まったら最低限自分の身を守れるように戦い方は教える予定ではあるが、もし戦闘向きじゃないという結論に至った場合はアヤネと一緒に後方支援に回ってもらうのがいいかなとホシノは少し前の出来事を思い出しながら考えた。
数日前、対策委員会は指名手配犯の確保に乗り出していた。理由は当然、借金返済の為の資金稼ぎ。今回の相手は中々に手強く、アビドス側も多少被弾してしまった。
そこで怪我人の手当てを手伝うと乗り出したのがシルだった。シルの手当てはぎこちない動きではありながらも的確なものだった。どの薬が一番最適なのか、道具の使い方や治療の手順まで完璧な治療を実践して見せた。当の本人はこれでいて手当てするのが初めてだと言ってるのが不思議ではあるが、ぎこちない動きだったり、まるで料理初心者がレシピを見ながら料理をするかのように手順を読み上げながら治療する姿、そこだけを見れば信憑性のある言葉である。だが、実際手順書なんてものは一切読んでないし、それでいて完璧に処置を行うものだから些かそれで初めてというのには無理がある。
だが、ホシノは初心者でも無理はないと今までのシルを見て考えている。それはホシノがシルに対して抱いてる印象であり疑問に思っている部分から起因される。
ホシノからのシルへの印象は『純粋無垢で優しくて放っておけない子』、そして『幼いながらも博識な少女』。
一つ目は言わずもがな、問題は二つ目。
文字だけ見れば唯の天才少女、そのどこに疑問があるのかというと、[その全てにおいて経験がないということ]。
それが顕著に出たのが料理だったりする。
現在、シルには帰る家がないのでホシノの家で預かることとなっている。その時に一度見たことがある。
そのときの結果は散々。焼き加減の調整を失敗して焦がしてしまったり生焼けになってしまったり、初心者がしてしまいがちな失敗をしていた。それでも、レシピを見ずとも作り方はしっかりと把握していた。
つまり、一言で表して多くの事柄に対して『経験はないけど知識はある』状態なのだ。料理についても、手当てについても……そして銃についても。更にはそれが記憶を失っている状態での話なのだ。そんなことがあり得るのか、そう思わずにはいられなかった。それも、記憶が戻れば……若しくはシルのことをもっと知れば分かってくるのか、ホシノの中に疑問が増えていくばかりだが、シルを放っておくわけにもいかないので思考の渦に飲まれる前に考えを戻すことにした。
「シルちゃ…………シルちゃん?」
ひとまず、これから少しずつ戦い方を教えていって、その結果次第でどんな役割にさせるかを考える、その方針でいこうとホシノはシルに向き直り声をかけようとして詰まる。
「どうやったら当てられるかな……ショットガンだと私が吹き飛ばされる……ハンドガンで……範囲を広く……」
シルは考え込むように、独り言を呟いていた。
シルの中にある戦いの参考資料となるのはホシノと出会ったあの瞬間だけ。その一瞬とも言えるホシノの姿を頭に思い浮かべる。
遠距離からの正確なハンドガンでの射撃、そこから一瞬で距離を詰めショットガンで一撃、そんな戦いができるようになりたい、シルはそう願った。ホシノのように強くなれれば、もっとホシノの役に立てる、そう考えたシルはこの的には当てられるにはどうしたらいいかを考えていた。
ショットガンのような広範囲の射撃であれば当てられる、でもショットガンは自らが反動に耐えられないので使えない。それならば、ハンドガンで広範囲の射撃が出来るようになればいい。
シルの中でイメージと願いが一つの形となっていく。瞬間、シルの首に下げられた黒い箱が僅かに開き、紫色の光を放つ。
今まで一度たりとも反応を示すことも開くこともなかった箱の急な動きにホシノは目を見開いた。
箱から放たれた光はシルの右手に収束されて形を成していく。やがて光は消え、シルの右手に紫に輝く一つのマグナムが現れた。
シルはその感触を確かめながら銃を的に向け、引き金を引いた。
引き金を引いた瞬間、マグナムの輝きは更に増し、とてつもなく大きな銃声を響かせながら高威力の弾丸を撃ち放った。
「っ……シルちゃん!!!」
シルはその威力の反動に耐えきれず後ろに吹き飛ばされる。それは銃による反動と呼ぶには大きすぎる、まるで何かに勢い良く突き飛ばされたように弾き飛ばされ、身体は宙に浮き、そのまま壁に叩きつけられた。
一瞬のことで反応が遅れたホシノはシルに駆け寄る。
ホシノからすれば、何が起こったのか理解できなかった。
急にシルの持つ箱が光り出したかと思えば、その手にどこからともなくマグナムが出現し、シルがその引き金を引いた瞬間、シルの身体が大きく弾き飛ばされたのだ。
どうして今まで一度も反応しなかった箱が反応したのか、あの銃は一体どこから現れたのか、疑問に思う部分は多くも、今はそれよりもシルの身体が一番、ホシノはシルの調子を見ながら応急手当てをしていく。
手首や腕、その他諸々痛めた様子はないので、壁に衝突した影響で背中を打った程度で済んでいるようだ。
ホシノは安心したように一息つきながら銃弾の放たれたその先に目線を向ける。
「な……これって……」
その銃弾がもたらした結果にホシノは再び目を見開くことになった。
なんと、シルのマグナムから放たれた銃弾はマグナムと呼ぶには巨大すぎる穴を人型の的にあけ、最早的とは呼べない姿に変えてしまっていた。それどころか、的の後ろの壁すらも大きく破壊し、穴をあけていた。
とりあえずホシノは現状を整理してみることにした。
どうしてシルの持つ黒い箱がどうして反応を示したのか。
状況からして、あの時はシルはどうやったら的に弾が当てられるようになるか、独り言の内容からそれを必死に考えていたことは簡単に推察できる。それからだ、箱が急に光りだしたのは。そして、その悩みに応えるように銃が突如現れた……反動はとてつもなかったが。
そこから導き出される答えは、『あの箱はシルの悩み、もしくは願いに反応し、それを叶える力がある』というところだろう。
それが真実であるのかどうかは証明できない。もしかすれば全く別の力なのかもしれないし、当たっていたとしてそれが全てとも限らない。そんな規格外な力が存在すること自体、こうして目の当たりにしなければ到底信じられないだろう。
だが、そうでなければ今起こった出来事を説明できない。
なにもない所から銃が現れたことも、その小さな銃からこれ程の凄まじい破壊力の弾丸が放たれたことも。
そんな箱が何故存在しているのだろうか?
何故そんなものをシルが持っているのか?
思えば、シルはこの箱を肌見放さず常に持っていた。仕事の時も、寝る時も、お風呂に入る時ですら。
シル本人はこの箱のことは知らず、ただ自らの宝物なのだと言っていた。記憶はなくとも、その思い出や重要さは本能的に覚えているというのだろうか?
「いたたぁ……」
「一応応急処置はしたけど後で保健室行こっか〜」
「うん……あ、えへへ、やったよホシノちゃん♪」
壁に打ち付けた背中を痛そうにしながらも元気そうなシルの姿を見たホシノは改めて安心する。
シルは、大きく穴のあいた的を見ては嬉しそうに目を輝かせてホシノに無邪気な笑顔を向ける。その表情を見たホシノは苦笑いを浮かべる。
「うへ……とりあえず今後あの銃使うの禁止ね〜」
「えっ……」
書いてる途中でシルの手に現れた銃がアリスの光の剣とどっちが攻撃力高いかどうしようって考えてました。
中々の難題ではありますが、ハンドガンとかマグナムから『光よ!!』って出来ると考えればそれだけでヤバさが伝わりますね。
でも今のシルでは絶対に勇者にはなれませんね。
色的には闇属性かもしれません。