全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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先生がーでるぞー

この作品の主役はあくまでシルちゃんです


7.シャーレの先生

「アヤネちゃん、セリカちゃん、おっはよ〜!」

「おはようございます、シルちゃん」

「おはよう、シルちゃん。ホシノ先輩はまた寝てるの?」

「うん、屋上でぐっすりしてるよ!」

「あはは……相変わらずですね……」

 

 登校してきたアヤネとセリカにシルは元気のいい挨拶をする。

 基本的に、アビドスに最初に来るのはシルとホシノの二人。ホシノが夜に定期的にパトロールをしてるのもあり、そのまま早くに登校することが多い。そして、学校に着いた二人は大体、ホシノは屋上や何処かの部屋で眠り、シルは元気いっぱいに部屋の掃除だったりをする、それがいつの間にかルーティンとなっていた。

 ホシノのパトロールのことはアビドスのメンバーには隠されていることだが、たった一人、シルだけはそのことを知っていた。それは、ホシノと同じ家に住んでいるから……以前に、そもそも最初の出会いがホシノのパトロール中の出来事であるので、その時点で隠す必要性はなくなっていたのだ。その代わりに、ホシノはシルにパトロールのことは他のみんなには隠すように言い、シルはそれを素直に守っている。故に、このことはホシノとシルの二人だけの秘密となっていた。

 ノノミもいつものように登校してきて、後はシロコが来ればいつも通りアビドス対策委員会が揃う。そして、教室の扉を開けてシロコが入ってくる。

 

「ん、おはよう」

「おはよう、シロコせんぱ…………って、その人誰!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐったりとしている大人の男性を担いで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もしかして……」

 

 ぐったりとしている大人はぴくりとも動く気配がない。その様子を見たアヤネとセリカはその表情に焦りが見え始める。

 

「シロコ先輩、とうとうやっちゃったんですか!?」

「いや、まだ、バレなければ大丈夫よ! どこか埋めれるところを作って……!」

「ん、まだ死んでない……行き倒れてるの連れてきただけ。ここに用があるみたい」

 

 早とちりする二人に困り顔を見せながらも説明するシロコの言葉に他のメンバーは首を傾げる。

 

「来客の予定なんてありましたっけ……?」

 

 ふと、大人の男性は力なく顔を上げる。

 

「あはは……初めまして、シャーレの先生です……」

「シャーレの先生……って、えぇ!?」

 

 アヤネの驚く声が教室に響き渡った。

 

 


 

「ぷはっ、生き返った〜」

「だ、大丈夫ですか?」

「うん、お陰で大丈夫だよ」

 

 とりあえず大人の男性を座らせ、水を飲ませると、その表情に生気が戻ってくる。

 大人の男性は椅子から立ち上がり、改めて自己紹介を始めた。

 

「改めて、シャーレの先生の天川心星(あまかわ しんせい)です。よろしくね」

「シャーレということは、支援要請が受理されたってことでいいんですよね?」

「うん、その認識で問題ないよ。物資とかは近いうちに輸送されるから、もう少し時間がかかるけどね」

「わたし、ホシノちゃんを呼んでくるね!」

 

 シルは元気いっぱいにそう言って教室を飛び出していった。

 

「元気いっぱいだね」

「はい、あの元気さにはいつも救われてます。あの子は夢星シルちゃんです。私と同じアビドスの1年生……あ、私は奥空アヤネっていいます」

 

 元気いっぱいな様子のシルを微笑ましそうにアヤネと先生が見る。そして、アヤネの紹介から、それぞれの自己紹介が始まる。十六夜ノノミ、黒見セリカ、砂狼シロコ、そしてシルが呼びに行った小鳥遊ホシノ、先生はその名前を忘れないように脳内に記憶した。

 一通り自己紹介が終わり、ホシノが来るのを待っていると、突如外から激しい銃声が響いてきた。

 

「……この反応、カタカタヘルメット団です!」

「また!? 何度も何度もしつこいわね!!」

 

 セリカの言う通り、カタカタヘルメット団からの襲撃は今回が初めてではない。既に何回も同じようにアビドスを襲撃しに来ては返り討ちにしている。お陰様でアビドスの物資はどんどんと消耗され、このままだと尽きていってしまう状態であった。それは相手も同じ条件の筈であるのだが、威嚇で弾を消費している辺り、まだ余裕があるようにも見える。一体、どこでそれだけの物資を手に入れているというのだろうか。

 

「みんな〜! ホシノちゃんを連れてきたよ!」

「うへ、またカタカタヘルメット団? おちおち眠れもしないじゃないか〜」

「ほら、ホシノ先輩ちゃんとして! アビドスを守らなきゃ!」

 

 欠伸しながら教室に入るホシノにセリカはそう言って盾とショットガンを手渡す。

 

「んじゃ、ちょっくら相手しようかね〜」

「先生が来てくださったので、資源については気にしないで大丈夫です」

「先生? ……ふーん」

「よろしくね」

 

 ホシノは眠そうな表情から一変、少し真剣な顔つきで先生を見る。これが、シャーレの先生。支援要請の話は知ってはいたが、ホシノはこのシャーレの先生を……いや、大人という存在を信用していなかった。それは、アビドスに存在する莫大な借金そのものの原因が大人にあるからである。大人に騙され、膨れ上がっていく借金、つまりは大人のせいでアビドスは苦しめられている。ホシノにとってはその他にも理由はあるが、とにかく大人という存在は信用のできない存在、もしシャーレの先生がアビドスに危害を加えるようなら、後輩達を傷つけるようなことがあったら容赦はしないと考えていた。

 

「じゃあ、指揮は僕がやろうか」

「先生が指揮をですか……? あ、はい、ではよろしくお願いします」

 

 アヤネは少し困惑しながらも承諾した。シャーレの先生は戦闘の指揮までできるのかと。

 実のところ、シャーレに支援要請は出したが、シャーレの先生がどの範囲まで支援してくれるのか、どれだけのことが出来るのかまでは把握していなかった。

 サンクトゥムタワーの制御権を取り返し、不良達の暴走を治めたことによるその噂はアビドスにまでも届いてきていた。だからこそ、シャーレという部活の存在やその役割も知り、少しでも現状の解決に繋がればと支援要請を送った。それにしても、物資の供給だけでなく戦闘の指揮までとは、シャーレの先生はアヤネの思った以上に多くのことが出来るようだった。

 

 それから間もなく、カタカタヘルメット団との戦闘が始まった。

 その結果は当然アビドス側の勝利。しかし、その内容はいつもとは雲泥の差であった。いつもの襲撃戦と比べて、効率的な敵の処理、被弾の少なさ、仲間との連携のしやすさ、多くの場面で先生のその指揮能力の高さは発揮された。

 

「うへ、今回もなんとかなったねぇ〜」

「はい、先生の指揮のおかげでいつもより消耗も少なくて済みました」

「先生ってすごい!」

「僕は少しサポートしただけ、頑張ったのはみんなだよ」

 

 撤退していったヘルメット団が見えなくなると、それぞれ教室へと戻っていく。

 教室内で戦闘の疲れを癒しながら言葉を交わす。先生の細かい能力はこれから分かっていくことだろう。しかし、指揮能力が高いことは今回の件で分かった。そして、支援要請を聞いてここまで来てくれたことや、顔を合わせて間もない状態でもこうして積極的にサポートしてくれるあたり生徒のことを考えてくれているのだと、アヤネやシロコ等、一部の生徒は既に先生を認め始めていた。

 

「でも、いつまで続くのでしょうか……」

「最近いっぱい来てくれるよね!」

「来てくれるって、友達じゃないんですから……」

 

 アヤネは苦笑いを残しながらいつもの調子のシルを見る。

 シルは、どんな状況であれこの調子が崩れることはない。アビドスがどんな状況に陥ったとしても、素直で、天然で、元気な姿を見せてくれる。今のように、度重なるカタカタヘルメット団による襲撃による消耗戦、削られていく体力や精神や物資。そんな状態でもシルの様子はいつも通り、そんなシルの姿はアビドスにとっての心の支えともなっていた。

 

「んじゃ、おじさんからここで提案〜」

「うそ、ホシノ先輩が!?」

「失礼な〜、おじさんだってやるときはちゃんとやるよ〜」

 

 セリカが信じられないような目でホシノを見る。

 普段のホシノは基本的にゆるりとしており、セリカがこんな反応を堂々としていられる程に距離感を縮められるような雰囲気となった。それは、過去のホシノからすれば近寄り難い雰囲気はなくなり接しやすい先輩になれたと言う意味では良いが、逆に言えばだらけてて偶にふざけてる先輩とも言えてしまう。それも、セリカのこの反応が証明していたことだった。

 

「んでね、今は相手も戦闘の後で消耗してる、それに対しこっちは先生のお陰で消耗は抑えられてるし、物資も余裕ができた。だからさ、今のうちに攻め込んで本陣を叩いちゃうのはどうかなってさ〜?」

「い、今ですか?」

 

 現状、先ほどのようにカタカタヘルメット団が襲撃してきては返り討ちにし、数日後にはまた同じように襲撃しに来るなんてサイクルが続いている。何処からそんな余裕がある程の物資が沸いてきているのかは分からないがその狙いは恐らく、襲撃を重ねこちらの物資が尽きたところを物量で叩く、そういうことだろう。実際、先生が来なければ相手の計画通りになっていた可能性は高い。唯の不良グループにどうしてそこまでの資源があるのかは今考えても仕方ないだろう。裏に誰かがいるのかもしれないし、こちらの精神攻撃も兼ねて強がっているだけなのか。

 アビドスを占領しようと、その理由はなんとなく予想できる。不良グループは基本的に学園に適応出来ずに飛び出して来た生徒だったり、なにか事情があって学園にいられなくなった生徒だったり、そもそも学園に入ることすらできなかった生徒だったり、そんな生徒の集まりなので基本的に特定の居場所を持たない。そうなれば、自分達の居場所は自分達で作るか、不良や裏の人間が蔓延るブラックマーケットに住み着くくらいしかないだろう。ただ、当然ブラックマーケットは安全じゃない。他の不良グループとのトラブル、闇金に詐欺、様々なリスクが考えられる。そんな状況下にいる不良達がアビドスの現状を見て、攻め落とせば自分達の物にできると考えてもおかしくはない。返り討ちにされる度に不良達に取っても軽くはない損害が出るようなこの襲撃を何度も続けるようなまさに博打とも言える行動を取らないといけないほどなのかは疑問ではあるが。

 結論、色々な推測は出来るが、それは全て推測でしかない。現状やるべきなのはこの現状をどう解決するか。そして、解決するには余裕が出来た内にこちらから攻め込むのが手っ取り早く確実である。

 

「先生はどう思う〜?」

「うん、いいんじゃないかな。このままジリ貧になるよりは確実だと思うよ」

「んじゃ、先生からのお墨付きも貰ったしいこっか〜」

 

 アビドスはカタカタヘルメット団以外にも砂の問題だったり借金の問題だったり、多くの問題を抱えている。こういう問題は早々に解決しておきたかった。故に、この提案に反対する者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 そして、カタカタヘルメット団の前哨基地までの約30kmという道のりを進み、アビドス対策委員会は先生の指揮の元、襲撃を行った。作戦は見事に成功、カタカタヘルメット団はその場を放り出し退却、対してこちら側の損害はほとんどない。まさに大勝利と言える結果に終わった。

 

「お疲れ様です、皆さん」

「おつかれ〜!」

「アヤネちゃんにシルちゃんもお疲れ様です〜♪」

「えぇ、二人ともいつも通り完璧なサポートだったわ!」

「えっへへ〜♪」

 

 セリカに褒められて純粋な笑顔で喜ぶシル。シルの頭の上ではシプルがまるで自分のことのように嬉しそうに飛び跳ねていた。その純粋で輝かしい二人の姿に誰もが癒されていた。

 

「ともあれ、これで借金返済に力を入れられるわね!」

「……借金?」

「え? ……あっ!」

 

 ついつい口走ってしまったセリカの言葉に先生は引っかかりを覚えた。その先生の反応にセリカはしまったと言わんばかりに口を押さえる。セリカにとってこの支援要請は最近活発的にアビドスを襲撃してくるカタカタヘルメット団を何とかすることと、枯渇してきた物資の支援、この二つを目的とするものだと考えていた。つまり、借金に関しての支援は必要としていない、否、自分達だけで何とかしないといけない問題だからこそ助けは求めないと考えていた。だからこそ彼女は借金のことは先生に話すつもりはなかった。

 しかし、それに対して――

 

「ま、別にいいんじゃない?」

「……え?」

「別に犯罪を犯したわけじゃないし、話すだけ話してみてもいいんじゃない?」

「ん、先生なら信用できる」

「うん、先生ならきっと助けてくれるよ!」

 

 ホシノの言葉にシロコとシルは頷く。その様子を見ていた先生も、詳しい事情をまだ聞いていないにも関わらず、力になると優しく頷いた。

 シロコとシルは既に先生のことを信用していた。他のメンバーも先生に対して粗方良い印象を持っていた。ホシノに限ってはまだ見極めの段階で、今後の行動次第で本当に信用に値するか、決めようと考えていた。それでもやはり、アヤネの手紙を読んですぐに駆けつけてくれたことや、詳細な内容を知らずともヘルメット団の撃退にまで進んで協力してくれたことから他の大人とは違うことは感じていた。今までの大人は騙そうとしてくるか、アビドスの惨状を知ってすぐに諦めて去っていくかのほぼ2択、それに比べての先生のこの対応なのだから当然と言えば当然であった。だからこそ、本当に信用できる大人なのか試してみてもいいのではないかと。それは、セリカも本当はわかっていた。それでも――

 

「さっき来たばかりの、部外者じゃん」

 

 この大人は、アビドスの人間ですらない、何の事情も、自分達がどれだけ苦しんだかも知らない大人だ。

 

「今まで、大人が話を聞いてくれたことなんてあった?」

 

 いいや、なかった。アビドスのこの惨状を見た時点で、知った時点でみんな話も聞かずに去っていってしまった。アビドスに住んでいた大人だってみんな諦めてアビドスを捨てていった。だから、この大人だってどうせ同じだ。そして何より――

 

「今まで、私達だけで頑張ってきたじゃん!」

 

 頼れる大人がいなかったからこそ、この学校は自分達だけでずっと守ってきた。それは、自分やアヤネがアビドスに入る前からそうだったなんて話だってある。

 だからこそ、今更そこに部外者の大人が入り込んでくることに納得がいかなかった。

 だからと言って、この状況をひっくり返せるような良い手段があるのかとホシノに問われれば当然思いつくはずもない。冷静に考えれば、利子を返すだけで精一杯の現状、頼ってみるしかないというのはわかっていた。それでもやっぱり――

 

「私は……絶対認めない!!」

 

 そう言ってセリカは教室を飛び出した。ノノミはセリカの様子を見てくるとセリカの後を追って教室を出ていった。

 

「セリカちゃん……」

「きゅぅ……」

 

 いつも笑顔の絶えないシルと、その腕の中にいるシプルもこの時はセリカのことを心配して出ていった先に目線を向けていた。

 

 




ちなみにセリカちゃん、シルちゃんにはデレてます
仲間と認めれば素直になることも増えてそう
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