オレサマメシアンマルカジリ   作:森の翁

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【追憶】後編

 初めてフェンリルに変身した日、俺はその日のうちに百人のメシアンを食らった。

 

 待ち伏せ、奇襲、己にできるありとあらゆる方法でメシアンたちを殺し、食らい尽くした。

 

 そうしているうちに、俺の噂はメシアンどもの間で有名になり、大規模な討伐隊が組まれたりもした。

 

 俺はその悉くを塵殺し、やがて己が人としての名を思い出せないことに気がついた。

 

「俺の...名前、名前は■、あれ?」

 

 口に出しているはずなのに、俺の耳はそれを認識できない。

 

 いや、そもそも口に出せていたかも怪しい、俺はそれを思い出せないのだから。

 

 そのうち俺は、人の姿であることをやめフェンリルの姿であり続けた。

 

 だが、■との約束だけは忘れたくないという想いだけが、俺を人として繋ぎ止めていた。

 

「■、■?何処にいるんだ?」

 

 次第に、妹の■が死んだことさえ思い出せなくなって、霊視ニキに出会う頃には■との約束だけしか覚えなくて、自分が人間であることすら忘れかけてた。

 

 だけど、霊視ニキに出会って...他の同胞たちにあって、俺はようやく自分が人間であることを思い出せたんだ。

 

 でも、もう妹の名前さえ思い出せないんだ。

 

 あの子との約束も忘れてしまいそうで、どうしようもなく気が狂いそうになる...!

 

 俺は、俺はどうすれば良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが丸かじりニキの記憶」

 

「そっか、君はずっと苦しみ続けていたんだね...丸かじりニキ」

 

 記憶の扉が開かれたことにより、丸かじりニキは深い眠りについていた。

 

 よほど思い出したくない記憶だったのであろう、己の殻の中に閉じ籠ってしまったのだ。

 

 だが、記憶の潮流にはまだ先がある。

 

「もっと過去に遡らなければいけないね、まだ丸かじりニキの名前がわかってない」

 

「だが大丈夫なのか?これ以上丸かじりニキの記憶を開いてしまったら、丸かじりニキはもう」

 

「それでもやらなければならない、ここまできてしまった以上最後までやりきらないと、なにより...そうしないと丸かじりニキが救われない」

 

「...ッ!」

 

 記憶の潮流の中で丸かじりニキは言った。

 

 もう家族のことすら思い出せなくなっていると。

 

「これ以上記憶が失われれば、丸かじりニキは完全に悪魔に堕ちてしまう、そうなれば...僕たちにとって未曾有の脅威となりうる、僕だってそうなるのは避けたいんだ...彼だって僕たちの同胞なんだから、できれば助けてあげたい」

 

「俺もそうだ...丸かじりニキを引き取ることになった時、本当の息子ができたみたいで嬉しかったんだ...少しずつだが俺に心を開いてくれたのが堪らなく嬉しかった!だからこそ絶対にこの子を助けたい!」

 

「もう一度、丸かじりニキの記憶の潮流に潜ろう、今度こそ彼の名前を取り戻すんだ」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹が生まれた時のことは、朧気だが覚えている。

 

 懐かしいな、俺に妹ができるんだと大喜びして、家族皆で名前を考えたんだ。

 

 でも、もうそれすら思い出せない。

 

 あの子との約束すら...もう。

 

『そんなことはない』

 

 えっ?

 

『お前は覚えているはず、それだけは捨てられないと、ずっと忘れないように頑張ってきたはずだ』

 

 そうだ...俺は、あの子との約束だけは忘れたくなくて、どうにか自分を保とうとして、だからメシアンたちを食らって力をつけた。

 

 崩れ行く己の存在を繋ぎ止めるために。

 

 何故忘れていた?何故こんな大切なことを忘れていたんだ?

 

「お兄ちゃん」

 

 ■、お前なのか?

 

「大丈夫、お兄ちゃんは凄いんだから!」

 

 待て!待ってくれ■!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだ■?」

 

 とある家の縁側で本を読みながらお茶を飲む少年と、その少年に話しかける1人の少女。

 

 失われた情景、俺が取り戻したかったもの。

 

「ねぇお兄ちゃん、この先どんなことがあっても、お兄ちゃんは優しいお兄ちゃんのままでいてね」

 

「どうしたんだ茜?」

 

 茜、そう茜だ...穏やかな子に育つように、実りある人生が送れるようにと、家族皆で考えた名前だ。

 

「昨日の夜ね凄く怖い夢を見たの、お兄ちゃんが怖い化物になって、皆を食べちゃう夢」

 

「なんだよそれ」

 

「それでね、最後は自分が誰かもわからなくなって、私の声も届かなくなって消えちゃうの」

 

 あぁ、皮肉なことに、今の俺は妹の見た夢の通りになっている。

 

「でもね、私はお兄ちゃんなら絶対そうならないって信じてる」

 

「どうしてだい?」

 

「だって、お兄ちゃんは誰よりも優しいから!」

 

 ...!

 

「そうか...そうだな、じゃあ約束するよ、この先どんなことがあっても、俺は優しさを忘れずに、茜の知っているお兄ちゃんのままでいるよ」

 

「ほんと!?嬉しい!ありがとう"繋"お兄ちゃん!」

  

 思い出した。

 

 そうだ...俺の名は『繋』

 

 多くの人と手を繋げるように、沢山の人と繋がれるようにと、父さんと母さんが考えてくれた名前。

 

 ようやく...思い出せた。

 

 ありがとう...ショタオジ、霊視ニキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶の潮流が引いてゆく、幾つもの記憶が瞬いては消えてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ニキ!丸かじりニキ!!!」

 

「良かった、目が覚めたようだね」

 

 ここは...

 

『霊視ニキ、ショタオジ』

 

「どうだ?名前は取り戻せたのか!」

 

「落ち着きなよ霊視ニキ、見てたでしょう?丸かじりニキが全てを思い出すところを」

 

 あぁ、全て思い出した。

 

『俺の名前は"繋"、多くの人と繋がれるようにと願われて生まれてきた』

 

 茜、俺は全部思い出したよ

 

「そして、妹との約束を果たすために生きる1人の人間だ!」

 

 俺は、お前との約束を守るよ...だから見守っていてくれ、ちょっと遅くなるかもしれないけど、必ず迎えにいくから。




・繋
丸かじりニキの本当の名前、多くの人と手を繋げるように、沢山の人と繋がれるようにとつけられた名前、今は妹との約束のために生きることを決めた。

・茜
丸かじりニキの妹、丸かじりニキの目の前で天使に殺され、彼のトラウマになったが、彼女との約束のおかげで丸かじりニキが名を取り戻すことができた。

どうも皆さん、再びのアンケートです。今回のアンケートですが、この先の展開に大きく関わるものになります。内容ですが、私としてはこの先かなり暗い展開を想定しており、何人かオリキャラを死亡させる予定があったのですが、作者仲間と相談した結果、まず読者の皆様の意見を聞くべきというアドバイスを受けましたので今回のアンケートを取るに至りました。どうか皆様のご意見をお聞かせください。

  • 暗い展開(オリキャラ死亡あり)
  • 明るめの展開(オリキャラ死亡なし)
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