短めです
____目障りだ
少年の頭上にはいつも鬱陶しい灯りがあった。
地上にある太陽とは違い、人工的な光。昼夜という概念さえないこの世界において、唯一の光となる。
ここは地下街。ウォール・シーナの中に存在する遊興街である。もともとは巨人の侵入から身を守るために人類が作った避難場所だったが、時が経つにつれて本来の目的が忘れ去られてしまい、現在はあらゆる犯罪や悪事の温床となってしまった危険地帯として知られている。そして陽の光が入らないこともあり、体に支障をきたす者も多々。その中でも足を悪くする者が後を絶たない。食糧も自力で育てることは出来ず、地上から取り寄せるしか術は無い。財力や力のある者が全てを手に入れ、そこに取り入らない者、弱い者は淘汰されていく。
小さな頃の記憶は特に無い。特に無いと言っても、覚えていない訳では無い。ただ思い出したくないだけだ。焦げ付いた人体の匂い。木の匂い。人を信用することが出来なくなった。一緒に盗みを働いた奴に裏切られる。嵌められる。何かを擦り付けられる。小さな身体が壁に叩きつけられ、詰られ、殴られ、斬られ、数多の傷を負った。
毎日を必死に生きて、生きて、生きていた。
☆☆☆
獲物の扱い方は、嫌でも身についた。自分の身を守る為。強者とされる者から搾取されない為。
いつしか少年は
「この……バケモノめ!」
「バケモノか。俺の目にはお前らの方が
「こ、こっちに来るな!」
「行かなきゃ、お前の喉をかっ切れないだろ?」
飢えた獣の瞳からは、決して逃げることは出来ない。怯える男の目の前にしゃがみこむ。男の喉に冷たく、そして鋭利な感触が伝わる。
「命だけは……命だけは勘弁してくれ! そ、そうだ! 俺達のボスにお前を紹介してやる! 俺たちの組織に入れてやるよ! な? 悪くない話だろ!?」
命の危機に晒されると、人の本性が現れる。組織の事なんて微塵も考えちゃいない。全ては今、この状況下をいかに乗りきるかだけを考えた、浅い話。
「どいつもこいつもそうだ。自分の事しか考えない奴ばかりで」
「そ、そりゃそうさ! 地下街の連中はみんなそういう人間だからな」
「喋っていいなんて一言でも俺が言ったか?」
「ぐっ……」
力を入れる。鋭利なナイフが喉の筋肉を少し裂く。血が滲みだし、首を伝ってシャツに染み込む。
「まぁアンタの言う事は合ってるよ。みーんな自分の事で精一杯さ。かくいう俺も、自分の事しか考えてないしな」
力を入れる。血飛沫が溢れ出し、少年の頬に付く。
「俺は誰も信用しない。俺が信用するのは、俺だけだ」
そのままナイフを動かす。男は呻き声を出す暇もなく、地面に倒れる。ポケットに入っていた財布を自身の麻袋に詰めて、その場を後にした。