地下に眠るダイヤモンド   作:ニャンニャンコポン

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主人公の名前決まりました。
名前だけで、私の一番好きなキャラが分かると思います。
全然ありえる名前だよね。多分。
あ、地下街の設定はあまりにも少ないんで適当に作ってます。
こんな感じだったよなーって。
違うところあったら教えてくれると助かります。これからちょくちょく出しますので。




楽園

 

 

無意識の内に目を細めていた。

 

 眩しい。

 

 人生で初めて、そう思った。

 

 青い空。

 

 流れる雲。

 

 そして、頭上から降り注ぐ太陽の光。

 

 地下街の人工灯とは違う。

 

 冷たくない。

 

 重くない。

 

 光を浴びる度、身体の奥へ何かが流れ込んでくるみたいだった。

 

「……」

 

 少年――アスカは空を見上げたまま立ち尽くす。

 

 地下街には空が無かった。

 

 あるのは湿った天井と、薄汚れた人工灯だけ。

 

 昼も夜も曖昧な世界。

 

 腐った空気。

 

 濁った水。

 

 欲に塗れた人間。

 

 それがアスカの知る世界だった。

 

 でも。

 

 今、目の前に広がっている景色は違う。

 

「お母さん、だっこ!」

 

「はいはい。……あら、また重くなった?」

 

「ほんと!? やったー!」

 

 笑い声。

 

 子供の声。

 

 道端では商人が客を呼び込み、並べられた装飾品を男女が楽しそうに眺めている。

 

「それ人気なんですよ」

 

「へぇ、綺麗……」

 

「最近は恋人同士で付ける人が多いですねぇ」

 

 地下街では見た事も無い光景だった。

 

 誰も怯えていない。

 

 誰も奪い合っていない。

 

 怒鳴り声も、悲鳴も無い。

 

 ただ、人が普通に生きている。

 

「……すげぇな」

 

 ぽつりと零れる。

 

 地下街で眠っていた頃には想像も出来なかった。

 

 こんな世界が、本当に存在していたなんて。

 

 アスカはゆっくり歩き出す。

 

 人の波。

 

 街の匂い。

 

 地上の空気。

 

 全部が新鮮だった。

 

 その時。

 

「おっと」

 

 前から来た人間へ肩がぶつかる。

 

 バランスを崩し、アスカはそのまま尻餅をついた。

 

「悪いな。大丈夫か?」

 

 低い声。

 

 顔を上げる。

 

 そこにいたのは、体格の良い男だった。

 

 小綺麗な服装。

 

 皺一つ無いシャツ。

 

 胸元には角の生えた馬の紋章。

 

「……憲兵」

 

 地下街でも見た事がある。

 

 地上の人間。

 

 金と権力を持った側。

 

「そうだ」

 

 男は苦笑しながら手を差し出してくる。

 

「すまなかったな」

 

「……」

 

 少しだけ迷い、アスカはその手を取った。

 

 力強い。

 

 地下街の連中とは違う手だった。

 

「……その格好、どうした?」

 

 憲兵が眉を寄せる。

 

「随分ボロボロだな」

 

 アスカは自分の服を見る。

 

 泥。

 

 血痕。

 

 薄汚れたサーマルシャツ。

 

 地下街では普通だった。

 

 でも、地上では違うらしい。

 

「服はこれしか持ってない」

 

 憲兵の顔から笑みが少し消える。

 

「家は?」

 

「無い」

 

「……親は」

 

「知らねぇ」

 

 短く返す。

 

 少し沈黙が落ちた。

 

「……お前、どこから来た?」

 

 アスカは憲兵を見る。

 

 そして。

 

「地下街」

 

 そう答えた瞬間だった。

 

 男の顔が変わる。

 

 まるで汚物を見るみたいな目。

 

「……なるほどな」

 

 声色も変わっていた。

 

「どうりで汚ぇ訳だ」

 

 アスカは黙ったまま男を見る。

 

 地下街では何度も見た顔だった。

 

 見下す目。

 

 値踏みする目。

 

「ちゃんと金は払って上がってきたんだろうな?」

 

「……あぁ」

 

 嘘だった。

 

 地下街から上がる時、誰もアスカから金を取ろうとはしなかった。

 

 理由は簡単だ。

 

 地下街の連中は知っていた。

 

 アスカへ手を出せば、どうなるか。

 

「本当か?」

 

 憲兵が少し目を細める。

 

「誰に払った?」

 

「名前までは知らねぇ」

 

 再び嘘を吐く。

 

 憲兵は少し黙った。

 

 その後、辺りを見渡しながらアスカの背中を押す。

 

「……大声出すなよ」

 

 低い声だった。

 

「と言っても、お前みたいな地下のゴミを助ける奴なんていないがな」

 

 アスカは何も言わない。

 

「路地へ入れ」

 

 言われるまま、大通りから離れる。

 

 石畳。

 

 薄暗い路地。

 

 人の気配が消える。

 

 地下街に少し似ていた。

 

「そこで止まれ」

 

 アスカが足を止める。

 

 憲兵が近づいてくる。

 

「何でここまで来たか分かるよな?」

 

「……まぁな」

 

 その瞬間。

 

 憲兵の拳が振り抜かれる。

 

 躊躇の無い拳。

 

 顔面を狙った一撃。

 

 だが。

 

「――――ぁ?」

 

 違和感。

 

 拳が届かない。

 

 いや。

 

 届いていないんじゃない。

 

 無かった。

 

 男の手首から先が。

 

「っがァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 絶叫。

 

 血が噴き出す。

 

 アスカの手にはナイフが握られていた。

 

 いつ抜いたのかすら見えない。

 

「うるせぇよ」

 

 アスカが小さく眉を寄せる。

 

「人来るだろ」

 

 憲兵が後退る。

 

 顔面蒼白だった。

 

 何が起きたのか理解出来ていない。

 

「徴収ねぇ」

 

 アスカが近づく。

 

 ゆっくり。

 

 獲物を追い詰めるみたいに。

 

「いつからお前ら、自分が奪う側だと思ってた?」

 

 喉元へナイフを当てる。

 

 憲兵の呼吸が止まる。

 

「逆だろ」

 

 アスカは小さく笑った。

 

「地下の連中が俺から徴収しなかったのも、俺が奪う側だったからだ」

 

 地下街では、強い奴が全てを奪う。

 

 それだけだ。

 

「やっとあのクソみてぇな場所から出れたんだ」

 

 ナイフが少し沈む。

 

 皮膚が裂け、血が流れる。

 

「少しくらい自由にさせろよ」

 

 憲兵は声も出せなかった。

 

 恐怖で。

 

「……まぁいい」

 

 アスカが呟く。

 

「死人に口無しだ」

 

 喉を裂く。

 

 血が飛ぶ。

 

 男は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 

 路地へ血が広がっていく。

 

「……」

 

 アスカはナイフを軽く振り、血を払う。

 

 その時だった。

 

「おーおー。すげぇなアンタ」

 

 女の声。

 

 振り返る。

 

 黒髪の女が、路地入口へ寄り掛かっていた。

 

 肩まで伸びた髪。

 

 鋭い目。

 

 口元には笑み。

 

「……誰だよ」

 

「そりゃこっちの台詞だろ」

 

 女が笑う。

 

「憲兵バラして平然としてる奴なんて初めて見た」

 

 アスカは何も言わない。

 

 女は死体へ近づくと、躊躇なくポケットを漁り始めた。

 

「……何してんだ」

 

「金回収」

 

 当然みたいに返す。

 

「死体に持たせとく方が勿体無いだろ」

 

 慣れていた。

 

 地下街の人間だ。

 

 アスカはすぐ理解する。

 

「おい。それ俺のだ」

 

「はぁ?」

 

 女が顔を上げる。

 

「私が先に見つけたんだから私のだろ」

 

「殺したの俺だぞ」

 

「じゃあ半分な」

 

 即答だった。

 

 アスカは少しだけ呆れる。

 

 だが。

 

 嫌いじゃなかった。

 

 こういう図太さは。

 

「……名前は?」

 

「あ?」

 

「組むなら名前くらい知っときたい」

 

 女が笑う。

 

「話早ぇな」

 

 そして右手を差し出した。

 

「ユミル」

 

 アスカはその手を見る。

 

 少しだけ迷う。

 

 地下街では誰も信用しなかった。

 

 信用した奴から死ぬ。

 

 でも。

 

 一人で地上を歩くよりはマシかもしれない。

 

「……アスカ」

 

 差し出された手を握る。

 

 それが。

 

 アスカ・ラングレーが初めて、“誰か”と繋がった瞬間だった。

 

 





先にユミル登場
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