地下に眠るダイヤモンド   作:ニャンニャンコポン

25 / 27
第57回壁外調査

 

 

 

 

 夜明け前の空気は冷たかった。

 

 吐いた息が白くなる。

 

 調査兵団本部の中庭には既に多くの兵士が集まっていた。

 

 馬の鼻息。

 

 装備の金属音。

 

 交わされる短い会話。

 

 誰もが出発準備に追われている。

 

 第五十七回壁外調査。

 

 調査兵団に入団してから初めての壁外だった。

 

 アスカは馬具を確認する。

 

 締め具合。

 

 革紐。

 

 鐙。

 

 問題ない。

 

 予備馬も落ち着いている。

 

 視線を横へ向ける。

 

 ハンジ班の面々もそれぞれ準備を進めていた。

 

 ケイジは黙々と装備を確認し、アーベルは馬の脚を見ている。

 

 ニファはいつも通り明るく誰かと話していた。

 

 その様子を見ていると、少しだけ肩の力が抜けた。

 

 自分だけじゃない。

 

 皆ここにいる。

 

 そう思えた。

 

「眠れたか?」

 

 声を掛けてきたのはケイジだった。

 

「それなりに」

 

「なら十分だ」

 

 短い返事。

 

 だが嫌な感じはしない。

 

「緊張してるか」

 

「まぁ」

 

 否定はしない。

 

 する理由もない。

 

 壁外だ。

 

 恐怖が無い訳がない。

 

 ケイジは少しだけ笑った。

 

「最初は皆そんなもんだ」

 

「ケイジさんもですか」

 

「当たり前だ」

 

 即答だった。

 

 アスカは少し意外に思う。

 

 ケイジは調査兵団の古参だ。

 

 何度も壁外へ出ている。

 

 そんな人間ですら恐怖を感じるのか。

 

「怖いと人間は視野が狭くなる。だから逆だ。周囲を見る。地形を見る。味方を見る。考える。そうしてる内に少しは落ち着く」

 

 ケイジは手綱を軽く引いた。

 

「地下街でも似たような事してただろ」

 

 思わず笑う。

 

 確かにそうだった。

 

 危険な場所。

 

 逃げ道。

 

 怪しい人間。

 

 周囲を見なければ生き残れない。

 

 だから自然と身に付いた。

 

「覚えておきます」

 

「おう」

 

 その時だった。

 

 鐘の音が響く。

 

 集合の合図。

 

 兵士達が一斉に動き始める。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

 アスカは馬へ跨った。

 

 

 

 巨大な門の前。

 

 調査兵団は既に整列を終えていた。

 

 朝日が壁の上を照らし始めている。

 

 静かだった。

 

 誰も騒がない。

 

 皆前を見ている。

 

「団長、まもなくです。壁付近の巨人はあらかた遠ざけました! 開門三十秒前!」

 

 駐屯兵が報告する。

 

 エルヴィンは静かに頷いた。

 

 空気が変わる。

 

 緊張。

 

 期待。

 

 不安。

 

 様々な感情が混ざり合っていた。

 

 アスカは周囲を見渡す。

 

 104期の姿もあった。

 

 ジャン。

 

 コニー。

 

 サシャ。

 

 ライナー。

 

 ベルトルト。

 

 クリスタ。

 

 ユミル。

 

 アルミン。

 

 ミカサ。

 

 そしてエレン。

 

 だがエレンは同期達の中にはいない。

 

 左奥。

 

 リヴァイ班の中心にいた。

 

 リヴァイ。

 

 ペトラ。

 

 エルド。

 

 グンタ。

 

 オルオ。

 

 彼らに囲まれている。

 

 当然だった。

 

 今のエレンは人類の切り札だ。

 

「諸君!」

 

 馬上から声が響く。

 

 ダリウスだった。

 

 兵士達の視線が集まる。

 

「これより人類は再び前進する! お前達の訓練の成果を見せてくれ!」

 

「「「「「おおおおおっ!!」」」」」

 

 雄叫びが上がる。

 

 アスカは右手を上げるだけだった。

 

 叫びはしない。

 

 だが胸の奥は熱い。

 

 それで十分だった。

 

 その時。

 

 前へ進み出た男がいる。

 

 エルヴィン・スミス。

 

 調査兵団団長。

 

 誰も喋らない。

 

 ただ耳を傾ける。

 

「諸君。本日の壁外調査において犠牲者は出るだろう。だが我々が歩みを止めれば人類に未来は無い」

 

 朝日が昇る。

 

 エルヴィンの背を照らす。

 

「胸を張れ。顔を上げろ。諸君らの命には意味がある」

 

 誰も目を逸らさない。

 

 そして。

 

 エルヴィンは拳を胸へ当てた。

 

「これが本物の敬礼だ!! 心臓を捧げよ!!」

 

「「「「「心臓を捧げよ!!」」」」」

 

 轟くような声が響いた。

 

 アスカも拳を胸へ当てる。

 

 心臓の鼓動が速い。

 

 恐怖か。

 

 興奮か。

 

 自分でも分からなかった。

 

 だが。

 

 確かにここにいる。

 

 調査兵団の一員として。

 

 その時。

 

「開門始め!」

 

 駐屯兵の号令が響く。

 

 鎖が軋む音。

 

 巨大な門がゆっくりと持ち上がっていく。

 

 隙間から朝の風が吹き込んできた。

 

 冷たい。

 

 だが不思議と嫌ではない。

 

 門が上がる。

 

 さらに上がる。

 

 やがて馬が通れる高さになる。

 

「進めーッ!!」

 

 エルヴィンの号令が轟いた。

 

 先頭の馬が駆け出す。

 

 エルヴィンだ。

 

 蹄が石畳を叩く。

 

 続いてミケ。

 

 さらに兵士達。

 

「第57回壁外調査を開始する!! 前進せよーッ!!」

 

 自由の翼が翻る。

 

 調査兵団は壁の外へ飛び出した。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 旧市街地へ飛び込む。

 

 放棄された建物が並んでいた。

 

 崩れた壁。

 

 割れた窓。

 

 人の気配は無い。

 

 かつて誰かが暮らしていた場所。

 

 だが今は違う。

 

 巨人の領域だった。

 

 馬群は止まらない。

 

 速度を維持したまま石畳を駆け抜ける。

 

 建物の間を風が吹き抜けた。

 

 その時。

 

「右前方!」

 

 怒号が響く。

 

 反射的に視線を向ける。

 

 巨人。

 

 二体。

 

 建物の陰から姿を現した。

 

 だが隊列は乱れない。

 

「処理する!」

 

 援護班が飛んだ。

 

 ワイヤー射出。

 

 ガス噴射。

 

 兵士達が一気に加速する。

 

 巨人の頭上を越え、うなじへ回り込む。

 

 鋼刃が閃いた。

 

 蒸気。

 

 巨体が崩れる。

 

 もう一体も同じだった。

 

 数秒。

 

 それだけで終わる。

 

 アスカは思わず目を細めた。

 

 速い。

 

 訓練兵団の教官達とも違う。

 

 104期の上位陣とも違う。

 

 無駄が無い。

 

 長年戦い続けた兵士達の動きだった。

 

「隊列を死守しろ!」

 

 援護班員の怒号が響く。

 

 調査兵団は前進を続ける。

 

 立体機動装置を使う者はいない。

 

 馬を走らせる。

 

 ただそれだけだ。

 

 巨人を倒す事ではなく。

 

 陣形を維持する事。

 

 それが今の最優先だった。

 

 旧市街地は思ったより短かった。

 

 建物が減る。

 

 視界が広がる。

 

 そして。

 

 最後の一角を抜けた瞬間だった。

 

「……」

 

 アスカは息を呑んだ。

 

 広い。

 

 ただ広かった。

 

 草原。

 

 丘陵。

 

 森。

 

 空。

 

 どこまでも続いている。

 

 壁の中とは違う。

 

 地下街とはもっと違う。

 

 遮る物が何も無かった。

 

 風が吹く。

 

 草が波のように揺れる。

 

 遠くで鳥が飛んでいる。

 

 それだけなのに。

 

 目を離せなかった。

 

 壁は後方にある。

 

 振り返れば見える。

 

 だが。

 

 以前ほど大きくは感じない。

 

 世界が広過ぎるからだ。

 

「これが……壁外か」

 

 誰に聞かせる訳でもなく呟く。

 

 馬は走り続ける。

 

 しばらくの間。

 

 調査兵団はそのまま隊列を維持して進んだ。

 

 誰も無駄話はしない。

 

 ただ前を見ている。

 

 やがて。

 

 先頭を走るエルヴィンが左腕を横へ伸ばした。

 

 合図。

 

 全兵士が理解する。

 

「長距離索敵陣形、展開!!」

 

 号令が響いた。

 

 隊列が変化する。

 

 中央。

 

 左右。

 

 前列。

 

 後列。

 

 兵士達がそれぞれの持ち場へ散っていく。

 

 巨大な陣形が草原へ広がった。

 

 アスカも手綱を引く。

 

 進路を変える。

 

 右翼初列。

 

 自分の配置だ。

 

 最外周ではない。

 

 だが本隊からは遠い。

 

 右翼最外周班がさらに外側へ広がっていく。

 

 四人一組。

 

 横撃への対応を担う兵士達だ。

 

 その内側。

 

 アスカは単独で走る。

 

 後ろには予備馬。

 

 生存者の回収や馬を失った兵士のために用意された馬だ。

 

 しばらく走る。

 

 気付けば。

 

 本隊はかなり遠くなっていた。

 

 中央三列。

 

 エルヴィンの姿は小さい。

 

 さらに後方。

 

 エレンのいる中央後列も豆粒のようだった。

 

 遠い。

 

 本当に遠い。

 

 何かあってもすぐ助けは来ない。

 

 胸の奥がざわつく。

 

 恐怖。

 

 それは消えない。

 

 だが。

 

 アスカは周囲へ目を向けた。

 

 右。

 

 左。

 

 前方。

 

 後方。

 

 丘。

 

 木々。

 

 草原。

 

 視界を確認する。

 

 地形を把握する。

 

 逃げ道を考える。

 

 味方の位置を見る。

 

 ケイジの言葉を思い出した。

 

 怖い時ほど周囲を見る。

 

 その通りだった。

 

 考えている方が落ち着く。

 

 何も考えず恐怖に呑まれるよりずっと良い。

 

 風が吹く。

 

 馬が走る。

 

 壁外は静かだった。

 

 巨人もいない。

 

 空だけが広い。

 

 時間の感覚が曖昧になる。

 

 十分か。

 

 三十分か。

 

 それとも一時間か。

 

 分からない。

 

 だが。

 

 少しずつ壁外の空気に慣れてきている自分がいた。

 

 恐怖はある。

 

 それでも視線は止まらない。

 

 観察する。

 

 考える。

 

 理解する。

 

 地下街で生きる時もそうだった。

 

 訓練兵団でもそうだった。

 

 環境が変わる度に周囲を見て。

 

 状況を理解して。

 

 生き残る方法を探してきた。

 

 だから今回も同じだ。

 

 壁外だからといって変わらない。

 

 その時だった。

 

 遠く。

 

 右翼最外周で赤煙弾が上がる。

 

 巨人発見。

 

 反射的に目を向ける。

 

 赤い煙は高く空へ伸びていた。

 

 そして。

 

 少し後方で同じ色の煙が上がる。

 

 情報が伝達されている。

 

 訓練通りだった。

 

 長距離索敵陣形は機能している。

 

 アスカは小さく息を吐いた。

 

 問題ない。

 

 今のところは。

 

 全て順調だった。

 

 

 

 

 

 

 

 赤煙弾はやがて見えなくなった。

 

 発見された巨人は進路から外れたのだろう。

 

 本隊が進路を変える様子もない。

 

 大きな問題ではなかったらしい。

 

 アスカは再び周囲へ意識を向ける。

 

 草原。

 

 丘。

 

 木々。

 

 風向き。

 

 地形。

 

 異常なし。

 

 馬も落ち着いている。

 

 予備馬も問題ない。

 

 そのまま索敵を続けた。

 

 壁外は静かだった。

 

 風が吹く。

 

 草が揺れる。

 

 蹄が大地を叩く。

 

 その繰り返し。

 

 恐怖は消えていない。

 

 だが最初ほどではない。

 

 やるべき事が分かっているからだ。

 

 周囲を見る。

 

 地形を見る。

 

 味方を見る。

 

 考える。

 

 気付けば自然とそうしていた。

 

 その時。

 

 遠くで馬が嘶いた。

 

 鋭い鳴き声。

 

 反射的に顔を向ける。

 

 右翼最外周。

 

 かなり遠い。

 

 だが見えた。

 

 巨人だ。

 

 二体。

 

 最外周班の進路上にいる。

 

 班も気付いていた。

 

 隊形を変える。

 

 回避するつもりらしい。

 

 判断は正しい。

 

 だが。

 

 一体が進路を変えた。

 

 班を追うように。

 

「奇行種か」

 

 アスカは目を細める。

 

 距離が縮まる。

 

 班も速度を上げる。

 

 だが速い。

 

 異様なほどに。

 

 一人の兵士が立体機動装置を起動した。

 

 ワイヤー射出。

 

 加速。

 

 うなじへ向かう。

 

 悪くない動きだった。

 

 だが。

 

 奇行種が振り返る。

 

 そして腕を伸ばした。

 

「っ!」

 

 兵士が回避する。

 

 紙一重。

 

 避け切った。

 

 そう見えた。

 

 しかし。

 

 巨人の指先が足首を掴む。

 

 勢いが止まる。

 

 身体が大きく振られた。

 

 ワイヤーが外れる。

 

 兵士が空中でもがく。

 

 次の瞬間。

 

 奇行種はその身体を口へ運んだ。

 

 絶叫。

 

 開かれる口。

 

 閉じられる顎。

 

 嫌な音が風に混じった。

 

 アスカは目を逸らさない。

 

 トロスト区で何度も見た。

 

 巨人は人を喰う。

 

 知っている。

 

 知っているからこそ見届ける。

 

 その直後だった。

 

 別の班員が飛ぶ。

 

 低い軌道。

 

 最短距離。

 

 うなじへ回り込む。

 

 鋼刃が振り抜かれた。

 

 蒸気。

 

 奇行種の身体が崩れる。

 

 さらにもう一人。

 

 残る一体も討伐。

 

 連携は鮮やかだった。

 

 さすが最外周を任される兵士達だ。

 

 生き残った班員はすぐ馬へ戻る。

 

 隊列が再編される。

 

 数十秒後には何事も無かったように走り始めていた。

 

 止まれない。

 

 壁外だからだ。

 

 アスカは小さく息を吐く。

 

 死んだ兵士の顔は見えなかった。

 

 名前も知らない。

 

 それでも。

 

 あの班員達は知っているはずだ。

 

 同じ班だったかもしれない。

 

 訓練を共にした仲間かもしれない。

 

 壁外を何度も生き延びた戦友かもしれない。

 

 それでも前へ進む。

 

 そうしなければ全員死ぬ。

 

 調査兵団とはそういう組織だった。

 

 風が吹く。

 

 草が揺れる。

 

 そして隊列は再び静寂を取り戻した。

 

 だからこそ。

 

 その後に訪れる異変が際立った。

 

 遠く。

 

 右翼後方で赤煙弾が上がる。

 

 一発。

 

 巨人発見。

 

 それ自体は珍しくない。

 

 だが。

 

 続いてもう一発。

 

 さらに一発。

 

 短時間で立て続けに上がる。

 

 アスカは眉をひそめた。

 

 多い。

 

 少しではない。

 

 明らかに多かった。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 赤煙弾は止まらなかった。

 

 一発。

 

 また一発。

 

 さらに一発。

 

 右翼後方の空へ赤い煙が立ち上る。

 

 アスカは目を細めた。

 

 多い。

 

 巨人の発見報告そのものは珍しくない。

 

 長距離索敵陣形はそのために存在している。

 

 だが。

 

 短時間で上がる数としては明らかに異常だった。

 

 しかも妙だ。

 

 最初は右翼後方。

 

 かなり離れた位置だった。

 

 それが。

 

 少し前。

 

 さらに前。

 

 また前。

 

 報告地点が移動している。

 

 まるで何かが右翼を縦断しているようだった。

 

「……何だ?」

 

 答えは出ない。

 

 巨人の群れか。

 

 あり得る。

 

 だが引っ掛かった。

 

 速度だ。

 

 報告の移動速度が速過ぎる。

 

 最外周班。

 

 その内側。

 

 さらにその内側。

 

 接触が連続している。

 

 そう考えるしかない。

 

 風が吹く。

 

 草原が波打つ。

 

 アスカは無意識に手綱を握り直した。

 

 胸の奥がざわつく。

 

 地下街で何度も感じた感覚だった。

 

 理由は分からない。

 

 だが無視してはいけない。

 

 そんな予感。

 

 その時だった。

 

 また赤煙弾。

 

 さらに赤煙弾。

 

 今度は近い。

 

 さっきまでより明らかに。

 

 右翼全体が騒がしくなり始めていた。

 

 周囲の兵士達も気付いている。

 

 何人かが後方へ顔を向けていた。

 

 馬も落ち着かない。

 

 耳を伏せる。

 

 鼻を鳴らす。

 

 空気が変わり始めていた。

 

 その時。

 

 遠くの地平線で何かが跳ねた。

 

 巨体。

 

 だが速い。

 

 異様なほどに。

 

 アスカは目を凝らす。

 

 まだ遠い。

 

 輪郭しか見えない。

 

 それでも普通ではない事だけは分かった。

 

 走っている。

 

 巨人が。

 

 まるで人間みたいに。

 

 無駄なく。

 

 一直線に。

 

 その後方。

 

 さらに左右。

 

 無数の巨人達が走っていた。

 

 通常種。

 

 奇行種。

 

 種類は違う。

 

 本来なら動きも違うはずだ。

 

 だが今は違う。

 

 皆同じ方向へ進んでいる。

 

 何かに引き寄せられるように。

 

「何だよ……あれ」

 

 思わず呟く。

 

 理解出来ない。

 

 そんな光景は見た事がなかった。

 

 そして。

 

 先頭を走る巨体との距離が縮まる。

 

 少しずつ。

 

 少しずつ。

 

 輪郭が鮮明になる。

 

 腕。

 

 脚。

 

 胴体。

 

 細い。

 

 異様なほど。

 

 筋肉が浮き出た身体。

 

 長い髪。

 

 人間に近い体型。

 

「……女?」

 

 思わず声が漏れた。

 

 見た事がない。

 

 知っている巨人のどれにも当てはまらない。

 

 通常種ではない。

 

 奇行種でもない。

 

 異質だった。

 

 それなのに。

 

 妙な説得力がある。

 

 走り方。

 

 視線。

 

 身体の使い方。

 

 全てに目的があるように見えた。

 

 だからこそ恐ろしい。

 

 何が目的だ。

 

 何を探している。

 

 何を狙っている。

 

 何一つ分からない。

 

 得体の知れないものがこちらへ向かって来る。

 

 その事実だけで十分だった。

 

 恐怖が背筋を這う。

 

 だが目は逸らさない。

 

 見る。

 

 考える。

 

 理解する。

 

 生き残るために。

 

 その時。

 

 女型の巨人が速度を上げた。

 

「っ……!」

 

 アスカの目が見開かれる。

 

 速い。

 

 今まででも十分異常だった。

 

 だが違う。

 

 さらに速い。

 

 巨人達を置き去りにしながら駆けている。

 

 獲物を見付けた肉食獣みたいに。

 

 一直線に。

 

 迷いなく。

 

 右翼へ向かって。

 

 そしてアスカは気付く。

 

 あれは偶然ではない。

 

 進路が重なった訳でもない。

 

 女型の巨人は。

 

 確実にこちらの方面へ向かって来ていた。

 

 喉が乾く。

 

 鼓動が速い。

 

 だが思考は止まらない。

 

 右翼を目指している。

 

 理由は分からない。

 

 だが目的はある。

 

 そうとしか思えない。

 

 次の瞬間。

 

 遠くで赤煙弾が上がった。

 

 一発。

 

 また一発。

 

 そして途切れる。

 

 消えた。

 

 接触したのだ。

 

 女型が。

 

 また誰かと。

 

 アスカは唇を噛む。

 

 知らない兵士かもしれない。

 

 名前も知らない。

 

 だが。

 

 誰かの仲間だ。

 

 誰かの戦友だ。

 

 それでも女型は止まらない。

 

 蒸気を纏いながら。

 

 草原を裂きながら。

 

 真っ直ぐこちらへ迫って来る。

 

 その姿から目が離せなかった。

 

 喉が乾く。

 

 鼓動が速い。

 

 だが思考は止まらない。

 

 右翼を目指している。

 

 理由は分からない。

 

 だが目的はある。

 

 そうとしか思えなかった。

 

 次の瞬間。

 

 遠くで赤煙弾が上がった。

 

 一発。

 

 また一発。

 

 そして途切れる。

 

 消えた。

 

 接触したのだ。

 

 女型が。

 

 また誰かと。

 

 アスカは唇を噛む。

 

 知らない兵士かもしれない。

 

 名前も知らない。

 

 だが。

 

 誰かの仲間だ。

 

 誰かの戦友だ。

 

 それでも女型は止まらない。

 

 蒸気を纏いながら。

 

 草原を裂きながら。

 

 真っ直ぐこちらへ迫って来る。

 

 その姿から目を離せなかった。

 

 得体の知れない存在。

 

 理解出来ない脅威。

 

 それが今。

 

 確実に自分達へ近付いている。

 

 風が吹く。

 

 草が揺れる。

 

 馬が不安げに鼻を鳴らした。

 

 アスカは静かに手綱を握り直す。

 

 目を逸らさない。

 

 恐怖からも。

 

 女型からも。

 

 生き残るために。

 

 理解するために。

 

 その巨人を見続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。