地下に眠るダイヤモンド   作:ニャンニャンコポン

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言い回し一緒になっちゃう病




出会い

 

「は? 訓練兵団?」

 

「おう、それ志願しといたから。春から行くぞ」

 

 この女はいつもそうだ。突然突拍子もないことを言いだしては困らせる。

 

「……おい、何勝手な事してんだよ。俺がいつ訓練兵になりたいと言った」

 

「寝言で言ってたのが聞こえてな。可哀想だから夢を叶えてやったんだ。ありがたく思え」

 

「そんなわけねぇだろ。面白くない冗談言いやがって。辞退してくる」

 

 髪を乱雑に掻きむしり、アスカはユミルを睨み付けた。いつものたまり場である裏路地から出ようと、木箱から腰を浮かした。

 

「辞退するのはいいが、お前、どこで手続きするか知ってるのか?」

 

 ー確かに

 

 アスカの動きはそこで止まってしまう。地上に出てすぐユミルに会ってしまった事で、この地上世界のほぼ全てをユミルに行ってもらった。戸籍の偽造から住処から何から何まで。

 

「…………」

 

 アスカは黙り込んでしまった。

 

「ま、知らないだろうな」

 

「クソが」

 

「別にいいだろ。それともなんだ、やりたい事でもあるのか?」

 

「……ねぇけどよ。なんたって兵士なんか」

 

「盗む手間が省ける。タダ飯を食らえる。後は……まぁ、色々だ」

 

 歯切れの悪いユミルの言葉。普段なら行動に何かしらの理由があるはずだが、それを言語化していない。何かしらの理由があるのだろうか。アスカは考える。

 

「行きたい理由があるんだろ。それを言えよ」

 

「……なんだ、お見通しかよ」

 

「それ次第によっちゃ、考えてやってもいい」

 

 なんと言うべきかを考えるように二三回首をかしげたあと、ゆっくりと口を開いた。

 

「会ってみたい奴がいるんだ」

 

「……あ?」

 

 何かしらを盗むだとかそういった大きな計画かと考えていたアスカは、大層シンプルな理由に目を丸くする。

 

「異性的にってわけじゃないさ。私にも色々事情があるんだ」

 

「意外だな。お前にもそういった感情があるのか」

 

「見るからに乙女な私だぞ。当たり前だろ」

 

「……お得意の冗談だな」

 

「いいから、お前も行くんだよ。戸籍ももう出しちまったからな」

 

「お前だけが行くのなら理解はできる。だがなんで俺まで道連れなんだ」

 

 そう。アスカが言いたいことはそこであった。行くのなら勝手に一人で行ってくれ。なんで俺までついていかなくちゃいけないんだ、と。

 

「契約しただろ」

 

「あの契約の詳細を俺は伝えられていない」

 

「聞いてこない方が悪いよな」

 

「理不尽すぎるだろ」

 

「じゃあお前、何かやりたい事あるのかよ」

 

「……無いな」

 

 とにかくごみ溜で這いずり回るようなあの生活から抜け出したくて、ずっとそれを目標にして生きてきた。しかしその目標を達成した今、宙ぶらりんで生きているような状態になっているのは事実だった。

 

「なら悪い話じゃ無いはずだ。なんでも、卒団する時成績上位10名は憲兵団への志願が認められるらしい」

 

「憲兵団? 死んでもゴメンだ。人を見下すことに生き甲斐を見出すような人間にだけは、俺はならない」

 

「……そうか。お前は嫌いだったな、憲兵」

 

 たまに地下に降りてくる憲兵に”挨拶”を受けていたアスカは、憲兵にいい印象を全くと言っていいほど持っていない。地上に上がった時にも憲兵と接触したが、憲兵団全体を通して腐っている事に変わりは無いと知った。地上か地下かなんて事に大した差異は無いのだ。

 

「憲兵団が嫌なら、駐屯兵団はどうだ?」

 

「駐屯兵団? 何をする兵団なんだよ」

 

「……さぁな。私も詳しくは知らない」

 

 アスカとユミルは現在、ウォール・シーナに面するストヘス区に滞在している。ここには主に憲兵が在中しているため、駐屯兵が訪れることは滅多に無かった。故にユミルは兵団の存在は知っていても、その中身までは知らない。

 

「後は調査兵団くらいか。調査兵団は壁の外に出て巨人と戦う兵団だ。巷では狂人や自殺願望者の集まりだって言われてる」

 

「壁外……か」

 

「……なんだ、気になるか?」

 

「気にならないと言えば、嘘になるかもな」

 

「最悪、お前が行かなくても私だけで行く。どうする? 最後はアスカ、お前が決めろ」

 

「……」

 

 太陽を見ることが出来ない地下街で過ごした12年間。閉じ込められていると錯覚していたが、それはただの勘違いだったらしいと気がついた時には、言い様も無い高揚感に駆られたのを今でも覚えている。

 だが地上にも壁があり、その先を見ることは出来ない。調査兵団に入らなければ。

 

 ー見てみたい

 

 人生で二回目の願望だった。

 

「俺も行く。しばらくの目的が決まったからな」

 

「……そうかい。なら決まりだな」

 

 良い顔だ。ユミルはそう思った。

 初めて会った時の、檻に捉えられた獣はもういない。獣は檻から飛び出し、その地を走り出した。

 

「具体的に訓練兵団ってのは何をするとこなんだ?」

 

「さぁな。私も知らん」

 

「……んだよそれ」

 

 新たなる未知への欲求。

 ユミルに軽口を叩きながらも、どこかそこに飛び込んでみたいと思わせるナニカがある。そうアスカは思った。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「オイ貴様!」

 

「ハッ!!」

 

 深く剃りこまれた坊主頭が太陽を反射している。キース教官の目の前の男は、右手を強く握り左胸に当てる。

 

「貴様は何者だ!!」

 

「シガンシナ区出身、アルミン・アルレルトです!」

 

「そうか、バカみてぇな名前だな! 親がつけたのか!」

 

「祖父がつけてくれました!」

 

「アルレルト! 貴様は何しにここへ来た!」

 

「人類の勝利の役に立つためです!!」

 

「それは素晴らしいな! 貴様は巨人の餌になってもらおう!」

 

 個性的な激励をアルミンに送ったキース教官。そのまま頭を掴む。

 

「3列目後ろを向け!」

 

 力を加えて手を捻る。意図を理解したアルミンは回れ右をして後ろを向いた。

 

「貴様は何者だ!」

 

「ハッ! トロスト区出身、トーマス・ワグナーです」

 

「声が小さい!」

 

「ハッ! トロスト区出身! トーマス・ワグナーです!!」

 

 次の標的はアルミンの後ろの男に移った。短く髪を切りそろえた男は、教官に脅えながらも声を大にして答える。

 

「聞こえん! 家畜小屋で練習してこい! 次!」

 

 トーマスは後ろを向く。次は自分の番だと察した後ろの女の顔は、心做しか少し青ざめている。

 

「貴様は何者だ!」

 

「ハッ! トロスト区出身! ミーナ・カロライナです!」

 

「違うぞ! 貴様は豚小屋出身家畜以下だ!」

 

「ハッ!! 自分は家畜以下であります!」

 

 個性的な通過儀礼を横目に、アスカはあくびが出そうなのを堪える。

 

 ーこの通過儀礼を俺達はやる必要がないってアイツは言ってたが、本当だろうな。

 

 2年前の超大型巨人襲来によって、ウォール・マリアは破壊され、それによってウォール・マリア内の人々はウォール・ローゼ以降への退却を余儀なくされた。その時あまりに避難民が多かったためか、戸籍資料は大雑把なものが増えてしまっていた。ユミルはそこに目を付けた。自身とアスカの戸籍資料を改ざんし、シガンシナ区から少し南に離れたクオク村出身として提出。当然巨人は襲来しており、2人は巨人から命からがら逃げてきた事になっている。

 

「次!」

 

 キース教官はアスカやユミル、その他巨人の被害にあって今ここにいる志願兵の横を通り過ぎ、反対側の列へと向かった。

 

 ー毎度毎度、どこから情報を拾ってきてたんだアイツは

 

 教官の通過儀礼は続く。

 

「貴様は何者だ!」

 

「トロスト区出身、ジャン・キルシュタインです!」

 

「何しにここに来た!」

 

「……憲兵団に入って、内地で暮らすためです」

 

 憲兵団というワードに反応して、アスカは視線を向けた。縦長な骨格で頭の横や後ろは刈り上げている、(自分で言うのもなんだが)見るからに悪人面であった。

 

 ー憲兵団、ね。

 

 観察するようにアスカは視線を向けたまま、2人のやり取りを見ていた。

 

「そうか。貴様は内地に行きたいのか」

 

 どこかジャンを嘲笑するように、教官は吐き捨てる。

 

「は、はい」

 

 素直な発言が認められたと勘違いしたのか、ジャンは破顔する。瞬間、キース教官が頭突きをお見舞してみせた。

 

「いっ……つ……!」

 

 突然の痛みに耐えられなかったのだろう。ジャンは地面に蹲ってしまう。

 

「誰が座っていいと言った! こんな所でへこたれる者が、憲兵団になどなれるものか!」

 

 呻き声を上げながらまだ蹲っているジャン。次にキース教官は、隣の男へと向かう。

 

「貴様は何者だ! 何しにここに来た!」

 

「ウォール・ローゼ南区ジエナ町出身! マルコ・ボットです! 憲兵団に入り、王にこの身を捧げるために来ました!」

 

 ー同じ憲兵団志望でもこうも違うか。

 

 よく響く爽やかな声は、聞く者に不快感を感じさせることは全くなく、スっと耳の中に入ってくるように感じた。

 

「そうか。それは結構な事だ、目指すといい」

 

 しかしキース教官は違った。またしても嘲笑するように少し笑った後、一転。険しい顔つきでマルコの目と鼻の先まで近づく。

 

「だが、王は貴様なんぞ欲しくない。次!」

 

 あまりの迫力にやられたのか、マルコは教官が離れた後もしばらく敬礼をしたままだった。

 

「貴様は何者だ!」

 

「コニー・スプリンガー! ウォール・ローゼ南区、ラガコ村出身です!」

 

 強く握りしめた左手を胸に当て、コニーは自分の名前と出身を叫ぶ。教官は両手でコニーの頭を抑え、あろうことか宙に持上げた。

 

「逆だコニー・スプリンガー。最初に教えたはずだ。この敬礼は、公に心臓を捧げる決意を示すモノだと。貴様の心臓は右にあるのか!?」

 

「が……あ……」

 

 力を入れている親指が目尻にくい込み、コニーの顔が全体的に上へと持ち上げられる。周囲の志願兵達はただ目の前を見ていることしか出来ない。そんな中、教官は違和感を感じとる。周辺視野で捉えた何かに。確かにそれは動いた。まるで、この通過儀礼中に何かを食べるように口元へ運び、それを齧りとっていた。教官はその者へと視線を動かす。いや、自身で動かしたわけではない。動かされたのだ。視線の先にいるその女の行動に。

 女は努めてバレないようにと視線は前に固定し、それでいて口は忙しなく動いていた。

 

「……オイ貴様」

 

 掴んでいたコニーの頭を離す。痛みで気が遠くなっていたコニーは、そのまま地面に突っ伏してしまう。

 

「何をやっている」

 

 辺りが静かになったことに確かな違和感を感じながらも、食い意地からか手の中にあるものを食べ続けている。更に続けてもう一口食べようかという所。

 

「貴様だ貴様に言っているんだ! 何者なんだ貴様は!!」

 

 目の前に広がる彫り深い教官の顔に驚きながらも、女は口の中のものを素早く咀嚼し飲み込む。手の中にあるものを握りしめながら、左胸に当てる。

 

「ウォール・ローゼ南区ダウパー村出身、サシャ・ブラウスです!」

 

「サシャ・ブラウス、貴様が右手に持っているものはなんだ?」

 

「蒸かした芋です! 調理場にちょうど頃合いのものがあったので、つい」

 

「貴様盗んだのか。なぜだ、なぜ今芋を食べ出した」

 

「冷めてしまっては元も子も無いので、今食べるべきだと判断しました」

 

「……いや、分からないな。なぜ貴様は芋を食べた?」

 

「……? それは何故人は芋を食べるのか、という話でしょうか?」

 

 ー嘘だろコイツ

 

 断言出来る。この場にいた全員がそう思ったはずだ。無論、キース教官も含めて。

 突然、サシャは手元にある芋を両手で割る。だが幸か不幸か、芋は綺麗に半分には割れなかった。8対2といったところだろうか。舌打ちをした後、教官に2の方を差し出す。

 

「半分、どうぞ」

 

「……半、分?」

 

 明らかに半分ではない。誤魔化すようにサシャは下手くそな愛想笑いをしてみせた。口元に食べカスを付けながら。

 

 ー……来てよかったかもな

 

 なにかの訓練を受けた後でも、自身の為になる知識をつけた後でもなく、今そう思った。

 やはり、地上は面白い。アスカはそう思った。

 

 ちなみにその日からサシャは芋女と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 数少ない自身の荷物を兵舎に入れた後、志願兵から見事訓練兵となった彼らは食堂へと集まっていた。どこから来ただの、出身はどこだのとそこら中で言い合っており、活気に溢れている。

 

「パンとスープ、毎日これが食えるとはな。考えられない」

 

「改名するか? 芋男に」

 

「死んでもゴメンだ」

 

 その集団から少し離れた所で、ユミルとアスカは座っていた。最初はここにも沢山人がいたのだが、あまりに2人が無愛想なのと、向かい側の卓でシガンシナ区に巨人が襲来した時の事で盛り上がっており、そこに人が集中したためである。主に前者の割合が多いだろうが、2人と同じ卓にいるのは、金髪の少女1人のみになっていた。

 

「……」

 

「もっと食べ物に感謝して食え。お前の悪い癖だ」

 

「育ちが悪いもんでな。作法なんかは何も知らん」

 

「それは俺も同じだ。作法なんてものは関係ない。大事なのは気持ちだと思う」

 

「はいはい。気をつけるよ」

 

 ユミルが全く自分の方を見ていないことに気が付きながら、アスカは会話を続けていた。ユミルはずっと、同じ卓にいる金髪の女を見ていたのだ。

 女は余っていたパンと水袋を隠し持ち、卓から離れた。ユミルが卓を離れようと席を立つ頃には、アスカはもうパンとスープを食べ終わっていた。少し驚いたように目を見開くユミル。

 

「……なんだよ。アイツなんだろ? 早く行くぞ」

 

「……チッ」

 

「なんで舌打ちなんだよ。おいちょっと待て、置いていくな」

 

 なにかに苛立つように舌打ちをして、ユミルはその場を後にする。食器を返さなければならないため、少し遅れてアスカもそのあとを追った。

 

 食堂から出て裏に行くと、ユミルがお目当ての金髪の少女といるのが見えた。アスカは2人に近づく。

 

「置いていくなよユミル」

 

「悪かったよ」

 

「で、何これ。どういう状況?」

 

 近づいていく途中気がついた。金髪の少女の膝の上には芋女が眠っている。

 

「えっと」

 

 金髪の少女はアスカに向けて事の顛末を話し始めた。

 

「この子きっとお腹すいてると思って。それでこっそりパンと水を持ってきたの」

 

「なるほど」

 

「アスカ、この芋女運ぶぞ。手伝え」

 

「はいはい」

 

 サシャを持ち上げて、自身の方に腹をかける。物干し竿に干されるタオルのように、2つにおられた体からは呻き声が聞こえる気がするが気にしない。

 

「苦しそうだけど、大丈夫かな」

 

「運んでやってるんだ。感謝してほしいね」

 

 女子の宿舎へと歩を進める。

 

「お前、名前は?」

 

「え?」

 

「名前だよ。お前の名前」

 

「あ、えっと、私の名前はクリスタ・レンズ。よろしくね、2人とも」

 

 ユミルが会いたがっていた奴の顔が見れたのはいいが、なぜコイツに会いたかったのか。見た目から真反対な2人を見ながら、アスカは胸の内の疑問がさらに膨れ上がっていくのを感じた。

 

 





クリスタとうじょーう
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