あなたは輝石の魔術師である。
元より星見の民の出身で初歩的な魔術は修めていたが、褪せ人として狭間の地に舞い戻ってから出会った恩師、魔女セレンに教えを乞い今では一端*1の輝石魔術師であると自負している。
そんなあなたはセレン師匠の弟子として何度か頼み事をされることがあった。きっかけは伝説的魔術師、源流の魔術師アズールと偶然出会い、その二つ名の由来であり彼がレアルカリアの魔術学院を追放された理由でもある禁忌の魔術を教わったことだった。
『彗星アズール』。当時のあなたではとても扱えない高度な魔術。自分なんかにこんなものを託されても、と困り果てたあなたはセレン師匠にそのことを相談した。
するとセレン師匠は己の身の上を打ち明けてくれた。自身が禁忌とされている源流の魔術を探究し、学院を追放された異端の魔女であることを。そして追放された今でもなお、源流という真の輝石魔術を追い求めていることを。
セレン師匠は怯えている様に見えた。おそらくは、あなたに弟子としてそれなりの情を抱いてくれていたのだろう。そんなあなたが師匠を禁忌に手を出さんとする悍ましい魔女として見限るのではないかと恐れていたのではないだろうか。だからこそ、あなたがセレン師匠と共に禁忌の道を歩むことを決めた際に見せた安堵はあなたの記憶に鮮明に残っている。
『嬉しいよ。知己を得たのは、いつぶりだろうか。……やはり師がよかったのだな』
そう冗談めかして言ったセレン師匠を、あなたは弟子の立場でありながら守りたいと思った。
そして叶うことならこの愛おしい師匠と共に、源流の魔術に到達したいと。
2人目の源流魔術師ルーサットとの邂逅、そして彼の源流魔術を得た。
異端の魔女として封印されていたセレン師匠の本当の体から魔術師の魂である源輝石を抜き取り、新しい体を用意した。
セレン師匠は言った。これで学院に戻ることができる。源流を禁忌としたカーリア王家を廃し、真摯な探究としての輝石魔術を取り戻せると!
あなたは彼女の喜びぶりが自分ごとのように嬉しかった。
いや、実際自分ごとだったのだろう。あなたもまた師匠と同じように源流を志す魔術師なのだから。
そしてあなたは今、レアルカリアの魔術学院、その大書庫にいる。
あなたはセレン師匠を手にかけようと忍び込んだ魔女狩りジェーレンを彼女と共に撃退した。
かつて師匠を拒んだ学院は、今や彼女のものである。荘厳な大書庫の灯りが、源流の時代を祝福しているとさえ感じられる。
「ああ、我が弟子よ。またお前に助けられてしまったな。だが、見よ。カーリアの女王はもういない。アズール、ルーサット両師の体を迎え、学院は源流を極めるのだ」
セレン師匠とあなたはこれからの明るい未来を夢想する。
残念なことにあなたは褪せ人であり、エルデの王になるという使命がある。できることならそんな使命なんて投げ出して師匠のものとなった学院に残りたいが、そうもいかない。
だからあなたは心の中で理由づけをした。セレン師匠が安心して源流を探究できるように、再びカーリアの悪夢が訪れないように、自分が王となり学院を直接保護するのだ。そしてできることなら、自分も政務を円卓の誰かに押し付けて師匠と源流を極めるのだ、と。
そんなあなたの思案は、突然訪れた不躾な足音に止められた。
「む、学院の誰かが文句でも言いに来たか? カーリアに絆された学徒がまだいるなら不穏因子となるか……」
セレン師匠はそう言っているが、あなたの戦士としての経験が違うと叫んでいた。
これは学院の者の足音ではない。硬い金属音、甲冑を纏った騎士の足音だ。学院に雇われているカッコウ騎士? 違う。あの野蛮人はこんな澄んだ歩き方をしない。
そう、この気配はまるで、月のような……。
そして来訪者が大書庫の門を開く。
蒼銀の甲冑。ところどころに輝石が埋め込まれていて魔術の気配もする。
あなたはその鎧を知っている。あなたが大ルーンを求めて学院を攻略した際、この大書庫の前で満月の女王を守っていた騎士のそれによく似ている。
「カーリア騎士……!?」
セレン師匠の驚きの声は、あなたの気づきとまったく同じであった。
カーリア王家の女王レナラが心を閉ざして離散したカーリア騎士団。剣のみならず魔術も扱い、20人足らずで他地域の騎士団に肩を並べた精鋭たち。その1人がここにいた。
「塊の魔女、セレンとその弟子とお見受けする」
「……そうだ、時代遅れの月騎士よ。主を置いて離散した身でありながら今更学院に何の用だ?」
「耳が痛いな、それは。だが俺はかつて女王と約束を交わした。塊の魔女よ、かつて仲間が狩れなかった貴女が、再び源流を求めるのであれば、俺は貴女を斬らなければならない。どうか今ここで、源流は諦めると誓ってくれ」
「それは出来ない相談だ。私たちはお前たちが貶めた今の魔術ではなく、真の輝石魔術を求めている」
その言葉と共にセレン師匠は杖を構えた。魔女狩りジェーレンのように、源流の時代を阻む者を排除するために。
あなたも杖と盾を持ち、師匠を守るために前に出た。あなたの思考はとうに冷徹なものに切り替わっている。狭間の地に戻ってから数えきれないほどの修羅場を潜ってきた。目の前の敵を屠る、そのために全神経を研ぎ澄ませるのだ。
「……そうか、残念だ」
目の前の敵もまた鞘から剣を抜いた。もう戦闘は避けられないし、避けるつもりもない。
ただ師匠のために、あなたは見知らぬ騎士を殺す。それを異常と思う感性の人間なんて狂い果てた狭間の地にはいない。
「カーリア騎士筆頭、ネオ。女王との約束に従い、源流の堰となろう。いざ!」
戦いの火蓋が切られた。