まずあなたは遺灰を取り出し霊呼びの鈴を鳴らした。
召喚されるのは見慣れた霊クラゲクララの霊体だ。ある程度高い耐久と毒液の攻撃で、優秀な囮になってくれる。
そして次に、あなたは冷静に敵を観察する。余裕か誇りか警戒かは知らないが、こういった手合は距離をゆっくりと詰めてくるものだ。ネオと名乗ったこの騎士もまた、抜剣してゆっくりと歩いてきている。
まず一目見てわかるその巨体。女王レナラ程ではないが大きな体躯をしている。褪せ人と戦う時のように怯ませやすい技でハメ殺すことは出来ないだろう。怯まないものと思ってトロルを相手にするように戦うといいと判断できる。
次に武器を見る。右手は見慣れない直剣、左手はカーリアの騎士盾のようだ。魔力属性に強いことが容易に見てとれる。
よって、あなたは『岩石弾』を選択した。狭間の地に来た始めの頃からお世話になっている、物理属性の魔術だ。
地面から3つの岩が召喚され、3つともが勢いよく騎士に命中した。それなりのダメージを与えられているのではないだろうか。
ならば後は騎士の行動に注意しながら『岩石弾』を引き撃ちするだけだ。ヘイトはクララが取ってくれているし、セレン師匠の輝石魔術も効きは悪いもののある程度のダメージになっていると感じる。
魔力属性が効きづらいのは面倒だが、大した敵ではないな。あなたはそう判断する。
しかしそれは早計だった。カーリア騎士ともあろうものが、近接攻撃しかしてこないなんてことが有るだろうか。
クララに囮を任せて『岩石弾』を連発するあなたに、突然『ほうき星』が着弾した。最高位の魔力弾は衝撃波を伴い、あなたを吹き飛ばす。
「油断したな、褪せ人」
騎士が『カーリアの円陣』を伴ってあなたとの距離を詰めてくる。
どうやらあの直剣、かつて戦った親衛騎士ローレッタの得物のように魔術の触媒になるようだ。あなたが祝福で整理する木箱の中にも、魔術の触媒になる武器はいくつか入っている。完全に油断していた。
あなたは思考を切り替え、騎士の剣技を左手の盾で受けながら、合間を見て『カーリアの速剣』で応戦することにした。
この魔術を使うなら強化が乗る『カーリアの輝石杖』に持ち替えたいところだが、残念ながら今は装備していない。今右手に持っている『カーリアの王笏』のまま戦うしかないようだ。
「その杖……レナラから奪ったか。薄汚い盗人め、まずはお前から始末するとしよう」
あなたは内心で舌打ちする。二本指の言葉のまま追憶から力を得てきたが、まさかこんなところで仇となるとは。
騎士のヘイトは完全にあなたに向いていて、クララとセレン師匠には見向きもしない。とはいえ『カーリアの王笏』は文句無しに最高の杖だ。それを手放すなんてありえないし、奪ったことを後悔するなんて以ての外だ。
あなたがもう少し褪せ人として心が戦士に近くあれば、杖をしまって『名刀月隠』を握っていただろう。あれはいい武器だ。魔術戦士のためにあると言っても過言ではない。
しかしあなたはセレン師匠と交わる中で魔術師に寄りすぎた。刀なんてカッコウのような野蛮人が持つものだと、無意味な偏見に染まってしまったのだ。
故にあなたは効きが悪いと知りながら『カーリアの速剣』に頼らざるを得ないのだ。
剣の物理攻撃は盾で受けながら、『ほうき星』『流星群』『カーリアの円陣』といった魔術はローリングで回避していく。マルギットのようなディレイもなく、攻撃が素直なので受け流すのはさほど難しくない。
しかしまあ、それぞれの系統の最高位魔術ばかり扱うものだ。その知力の高さと探究には感心するが、FPが心配になる。*1
なんて冗談を心の中で呟く程度にはあなたは余裕だった。先ほどは不意を突かれたが、今までくぐってきた修羅場に比べれば大したことはない。カーリアの武具は多くが『魔術師を騎士とする』ものだというし、この騎士もまた本懐は魔術師なのだろう。使う最高位魔術の数々がその証拠だ。
後はローレッタのようにオリジナルの魔術を編み出していないかに注意しながら少しずつ体力を削っていこう。あなたは未知の攻撃というものにめっぽう弱い。知らない攻撃を前にして祈りながらローリングを繰り返し、その甲斐なく死んだことが何回あるだろうか。*2
「……君たちは、自分が何に触れようとしているのかわかっているのか? 源流の悍ましさを正しく理解しているのか?」
「源流こそが輝石魔術の正統だ。それを禁じた魔術など衒学でしかない。お前たちカーリアこそ源流の何を知っているというのだ!」
あなたは初めて見るセレン師匠の激昂に共感する思いがあった。あなた本人はレアルカリアの学院で学んだことはないが、セレン師匠からカーリアの横暴は伝え聞いている。源流を理不尽に禁じたことも、師匠を塊の魔女と蔑み、なにをしたのかも。
杖を握る手に力がこもる。必ずこのカーリア騎士を廃し、源流を取り戻すのだ、と。
直剣【ネオの魔術剣】
カーリア王家の騎士筆頭に与えられた最上級の輝石剣
輝石の煌めきを宿した刃を持つ
魔術戦技が盛んになり衰退するかと思われた魔術剣は
この剣の持ち主の活躍と共に勢いを取り戻した
しかし魔術剣はあくまでも触媒になる武器であり
持ち主が優れた魔術師であることが求められる