カーリア騎士筆頭の追憶   作:はやてだわきち

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6 魔術教授セルブス(本物)(若い頃)

 辺境の小村からやってきた田舎者たちが魔術探究の最先端にやってきて、どんな扱いを受けるかは想像に難くない。カーリア村の老人たちがレアルカリアの魔術師を『星を忘れて魔術に傾倒する俗物』と嫌悪するのと同じ様に、()()『埃を被ったペテン師の子』や『空を見上げるしか娯楽のない田舎者』と散々な扱いを受けることになった。

 俺は、である。つまりカーリア村からやってきたもうひとりはそうではないということで……。

 

 

 

「おやおや、誰かと思えばレナラ殿の腰巾着ではないか。今日はレナラ殿と一緒ではないのかね?」

 

 基礎的な輝石魔術に関する蔵書を山程抱えて階段を登っていると、上の方から若々しいが厭味ったらしい男の声がした。

 学院に来てからというもの嫌というほど聞いた声だ。

 

「セルブス……またお前か」

 

 俺と然程変わらない年頃のこいつは、学院で生まれ学院で育った生粋の都会っ子である。

 生まれた時から魔術と共にあり、故に辺境の村からやってきた俺を田舎者と舐め腐って突っかかってくる。出会った初日にレナラの満月をその身で受けてレナラにちょっかいかけるのは止めたようだが、その分俺にうざ絡みしてくる面倒くさいやつだ。

 

「田舎者は会話すら出来ないのかね。私はレナラ殿と一緒ではないのかね、と聞いたのだが?」

「レナラはカロロスの教室だよ。『輝石の彗星』についてアズール師に質問があるんだとさ」

「なんと、未だ輝石頭も被っていないというのにアズール師に面会を乞おうなど……レナラ殿は身の程という言葉を知らないらしい」

「輝石頭をもらってないのはお前も一緒だろうが……」

 

 こうして嫌味を言われるくらいなら全然構わないのだが、セルブスの真の面倒くささは他にある。たぶん次の言葉がそうだ。

 

「ところで、きみはレナラ殿の好物とか……知らないのかね?」

 

 ほら来た。

 レナラの満月を全身で受けて変な扉を開いたのかどうなのかは知らんが、こいつはどうやらレナラに惚れているらしい。それでレナラの情報を抜き取ろうと俺の顔を見る度にこの調子だ。

 

「そりゃまあ、知ってるけど……俺が教えてやる義理もないし」

「なっ、田舎者が思い上がりおって……!」

 

 お前が想いを寄せているらしいレナラもその田舎出身なんですけどそれについてはどうお考えですか、なんて言うとさらに面倒なことになるのはもうわかりきっている。

 口からあふれ出そうなあれやこれをなんとか堪えて、俺はさっさとセルブスを撒いた。こういうのは関わらないのが一番だ。

 

 

 

 しかしセルブスとの付き合いは、思っていた以上に長いものになった。

 田舎者、レナラの腰巾着扱いを受けながらも俺は懸命に魔術を探求し、一歩一歩学徒たちの隔意を取り払っていった。それはレナラと比べれば牛の歩みと大差ないものだったかもしれないが、17歳になった俺は双賢の教室に学ぶことを許されたのだった。

 そしてなんの冗談か、セルブスもまた双賢の輝石頭を拝領することになっていた。

 

 

 

「まさかきみも選ばれし双賢の教室に通うことになるとはね。田舎者とはいえ、少しは見るところがあったようだ」

「うるさいセルブス。てか俺を田舎者扱いしてくれるのもうお前くらいだよ」

「当然だとも。いくら探求を重ねようと田舎者は田舎者なのだからね。私のような生まれながらの魔術の申し子とは違うのだよ」

 

 なんというか、セルブスとは気づけば腐れ縁のような関係になってしまっていた。態度はムカつくし、レナラに色目使うのは気持ち悪いったらありゃしないが、なんだかんだで悪いやつではなかったのだ。難しい魔術があれば一緒に頭を抱えたし、互いの独自探求にもそれなりに口出ししたりした。

 

 まあ態度はムカつくので、口論になることも少なくなかったが。

 それを見て微笑ましいなんて思う神経の図太さをレナラは持っていた。

 

「ふたりとも、相変わらず仲がいいわね」

「……失礼。レナラ殿、それは誰と誰を指しているのかね? まさか私とこの田舎者の仲が良いなど……そんなことあるわけかいではないか」

「そうだそうだ。百万歩譲っても同じ教室ってだけの知り合いだ」

「もうネオ、そんなこと言うんじゃないわよ。友達は大切になさい。セルブスさん、こんな兄貴分でよければ仲良くしてやってくださいね。それじゃ私はルーサット師に呼び出されてるから」

 

 去っていくレナラを見つめるセルブス。輝石頭越しでは表情を読めないが、なんとなく落ち込んでそうなのが雰囲気で伝わってきた。

 

「……どした」

「私はまだ、友人の友人でしかないのだな、と思っただけだよ」

「なんつーか、どんまい」

 

 

 

 この時レナラは14歳。当時の俺はセルブスをロリコン野郎と思っていたが……俺が言えたことではないか。

 レナラは順調に魔術師としての才能を開花させていった。源流の二大魔術師に目をかけられ、彗星と流星、両方の魔術を高度に修めるだけではなく、独自の満月の魔術は人々を魅了し、レナラは学院の中心人物になっていく。

 そうなれば気の早い中年たちが、レナラの血族に夢を見るようになり、下世話な噂話も広がっていった。

 

 要は、レナラと結婚するのは俺かセルブスかという話が学院の話題をかっさらった。

 冗談みたいだろう? でも本当の話なんだ。レナラは誰にでも平等に接する上に英雄の器だった。そんなレナラの側にいる男とその悪友。瞬く間に気が早いにも程がある浮かれた話題が学院中に広まった時期もあったんだよ。

 

 結局、あのラダゴンとレナラが結婚する頃には忘れられた一過性の話題ではあったが、セルブスだけでなく俺もまた、心のどこかでその噂話を嬉しく感じている節があった……かもしれない。

 いつ想いを自覚したのかはもう覚えていない。カーリア王家の樹立と共に俺は騎士となり、その想いに永遠の蓋をすると誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネオ、少し頼まれごとをしてくれるかしら」

 

 俺が双賢の輝石頭を拝領して少し経ったある日のこと、藪から棒にレナラがそんなことを言ってきた。

 正直生意気な妹分にパシられるのは慣れたことだったので話も聞かずに快諾したのだが、今回のお願いは規模が違った。

 

「亜人女王と友誼を結びに行くことになったから護衛をお願い。学院周辺の安全確保、ってことで教授たちから頼まれちゃって」

「友誼って……亜人と?」

 

 殲滅の間違いではなく?

 俺がそう思うのも自然なことである。一般的に亜人とは野蛮で凶暴で、身の程知らずな連中だ。人間との約束なんてすぐ忘れて襲ってくる。それと友誼を結ぶなんて悪い冗談にしか思えなかった。

 それに使者がレナラなのも、亜人を殲滅する気にしか思えなかった。レナラは英雄と持て囃されるような実力派魔術師だ。

 

「友誼よ。教授たちはできないと思ってるみたいだけど」

「いや、普通にできないだろ」

「確かにそうね。でも私、いつかイジーさんたちトロルも学院に招きたいと思ってるの。亜人とトロルは全然別だって、カーリア村のみんなはわかってるけど学院のみんなはそうじゃない。だからここらでひとつ、実績を作りたいところなの」

「あー……なるほど? 学院の認める異種族のハードルを下げるために無理を通したいと。……いやでも亜人は無理だろ。こっちが相当下手に出ないと会話にもならないんじゃないか?」

 

 せめて結晶人とか人が強く出た混種がいいんじゃないか、と俺が言おうとするのに被せてレナラは言う。常人の発想を飛び越えた、英雄の判断を。

 

「だから私、杖を持っていかないことにするわ。使者が武装してたら怖がらせちゃうでしょう? その分こっそり護衛、お願いね」

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