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見た目の割に胃の中にブラックホールを飼っているかの如く大食いなレキと学食に行った事で、先二の五万円はあえなくお無くなりになられてしまった。
小銭までしっかり残さず無くなった辺り、容赦の無さというものを垣間見た気がする。
一応、
そんな彼は、教室に戻って同級生の峰理子と共に他愛もない雑談を交わしていた。
峰理子。探偵科のAランク武偵であり、キンジや武藤と共に一年の頃からの付き合いがある同級生である。
「まさか一日で札が全部無くなるとは……アイツの胃袋はどうなってるんだ…? そしてあそこまで食って尚も体型が変化しないって何? バグか何かなのかアイツは」
「ちょいちょい、センくん。女の子にそりゃ可哀想だよ〜」
「いーや可哀想じゃないね。誰が思っても当たり前の事だ。学食のメニューの半分平らげたんだぞ? なのに腹すら膨れんのはおかしいだろ」
「五万円で足りるもんなの、それ?」
「何とかな」
食券機の半分を制覇するとか並大抵の事ではない。しかもそれが女子ならば尚更だ。
一年の頃からレキと関わってきた先二だからこそ断言する。アレの胃袋は異常であると。さながら星の戦士、どっかのピンクボールそのものである。
五万円で足りたのは奇跡だった。先二は疲れた様に、だらりと肩から力を抜いて椅子に凭れ掛かった。
「1年の頃も店奢って財布が空になったんだぞ。それでも体型が変わらんのは異常だろ。あんだけ食えばちょっとは丸くなるか、女の魅力に栄養が行くだろ普通。ちっとも成長しとらんぞ」
「センくんって意外とズバッと言うよね。むっつりっぽさそうなのに」
傭兵なんてやっていても、男は男。雑賀衆の棟梁のお陰で取り戻した感情には、勿論男としての
とは言え、本人の目の前では言える訳もない。確実に狙撃されるか暴力を振られるかどっちかである。
「そうう話を振られれば幾らでも話すさ。俺も男だからな。ただし武偵高以外でなら、だ。不名誉を噂で流されるのは御免被る」
「寧ろ狙ってくる子が増えるんじゃない? センくん、結構人気あるよ?」
「俺がか? それはまた…世も末というものだな。俺みたいなのに需要を見出すのか。俺なんぞに需要を見出すくらいならキンジか不知火にしておけ。碌な事にならんぞ」
「それはぁ―――センくんが傭兵だから?」
くふっ、と含みある様に理子は笑う。
だが、先二は「そうそう」と、あっさりとそれを流して鞄から取り出した抹茶ラテを明けて呷る。それが不満だったのか、理子はぶーと不貞腐れた。
「センくんつまんなーい。全然驚かないじゃん」
「お前の事だから、そりゃ調べてるだろうと思ってな。自分が調べられた事くらいとっくに調査済みだとも。伊達に武偵と傭兵を兼業してないぞ、理子」
「うひゃー、流石は雑賀衆の御子孫様!」
「くるしゅうない。飴をやろう」
「やったー! あむあむ、センくんってノリ良いよねー。あとお菓子沢山持ってる!」
「糖分補給は大事だからな。蒲焼さん太郎もあるぞ、俺の好物だから」
「センくん駄菓子屋なりなよ。多分人気出るよ」
「傭兵と武偵を辞めたなら、それもアリかもな。抹茶ラテ要るか?」
「ほしいー!」
『見ろ、また雑賀が餌付けしてるぞ』
『理子ちゃんと駄菓子を食べるだと…!? 羨ましいぞ雑賀!』
『でも、あそこに割って入るのは無理があるよね……』
『分かる。雑賀独特の距離感と雰囲気だよな。二人の世界って訳じゃないんだけど、なんか踏み込めない感じ』
『だからこそ安心出来るんだけどね。攻略出来そうで全然そういうの感じないから』
『雑賀先二はギャルゲーのヒロインだった……?』
「おいおい、冗談が過ぎるぞー。何故とは言わんが次に依頼を受けたら半径2km以内に気を付けるんだな」
「それお前の
東京武偵高狙撃科において天才とされた先二とレキの
その範囲内であれば、例えどんな獲物であろうと決して外す事はない。それが無機物であってもだ。
「大丈夫大丈夫、武偵法は破らないから。要は物理的に殺さなきゃ良いんだろ? 手足の一つや二つ無くても死にはせんさ、人間だもの」
「名言みたいに言っても誤魔化せねぇよ!? 冗談だろ? 冗談だよな!?」
「はっはっはっ」
「笑って誤魔化そうとすんな!?」
「理子分かっちゃった、これ冗談じゃない! センくん本気だよこれ!」
「さて、どうかな。それは外に出た時にのみ分かるというものだ」
ぶー、ぶー、と鳴った携帯の画面を見て席から立ち、急用が入ったと先二はバッグを背負った。
「キーくんから?」
「それと神崎だな。どうやら猫探しに手間取っているらしい」
「あー、キーくん単位ヤバいもんねー。でもなんでアリアまで?」
「一時的なパートナーだとさ。ちなみに俺も雇用された。武偵殺し逮捕に協力しなさいってな」
「ふーん。でも、武偵殺しって逮捕されたんじゃないのー?」
「神崎の勘曰く、本物の武偵殺しではないらしい。俺としても、あの武偵殺しがそう簡単に捕まるとは思えん。チープでシャープでクレバーな相手だ、きっと何処かに潜んでいるだろうさ」
武偵高に通う前から、武偵殺しの名は聞いた事があった。だがそれとは別で、幼少期から戦場に身を沈めてきたからこそ分かるものが彼にはある。
傭兵としての感覚。様々な相手と戦い、殺してきたからこそ分かるもの。
用意周到で、何処か執念の様な何かを感じさせる作戦だと、先二は武偵殺しに対してそんな人物像を抱いていた。
だからこそ、武偵殺しがそんなあっさりと捕まるとは思えなかったのだ。
「ふーん……」
「正直な話、仲間として是非とも欲しい人材だ。沈黙にも爆弾使いは数少ないからな。武偵殺しの様な人材が仲間だったなら嬉しい所だが」
武偵として、武偵殺しを許す事は出来ない。友人の兄を殺した相手なのだから。
しかし、傭兵としてならば武偵殺しの様な人材は欲しくて仕方ない。戦場において彼、或いは彼女の様な爆弾使いは貴重で優秀な人材だ。犯罪者として放っておくには惜しい。
「えー、センくんそれ本気? キーくんが聞いたら殴られるよー?」
「だろうな。だから言ってくれるなよ? それに、あくまで傭兵としての意見だ。雇われはしたものの、今は武偵だ。逮捕で手を抜く事はないさ」
契約は絶対だ。傭兵としてのマナー、
傭兵として雇われ、しかし武偵としての振る舞いを要求されている以上、殺しは無し。武偵として相手を殺す事なく、生かしたまま逮捕して法的な処罰を受けさせなければならない。
武偵として、犯罪者を逮捕する為に手加減はしない。元バディの大切な肉親を奪った相手に対して掛ける情けはないのだ。
だが、やはり傭兵としては思う所があるのだろう。先二は惜しい様な顔をした。
「とは言っても、やはり一度くらい話してみたくはあるがな」
「センくんは武偵殺しにお熱って事ー? くふふっ、武偵としてダメダメだねー!」
「違いない」
武偵として失格だと言いながらも、面白い様に笑う理子。それに釣られて、先二もくつくつと笑った。
「じゃあな、理子。ゲームの話はまた今度しよう、是非オススメの話を頼むよ」
「りょーかいっ!」
それから暫くして―――武偵殺しは動き出す。